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17章 次なる旅は
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「仕える先を変える気はないか。」
「ありません。」
オユキという人間にしては、実に珍しい対応として。婉曲的な事を言うでもなく、ただ即断で。
それ以外にも実にわかりやすい態度として、勧められている食事にも手を付ける素振りを見せない。あくまで口に運ぶものは、ナザレアかニーナが口に付けた上で、問題が無いとオユキの前に並べられた物だけ。実にわかりやすく、用意される物を信頼できぬと示して見せている。そして、前菜がようやく口を付けても良いと、そうなったときに現アルゼオ公爵からかけられた言葉にしても。
「さて、どうにも歓迎はして頂けないようです。残念ではありますが、明日にはとしましょうか。」
「ほう。我の許しなく補給もままならぬだろう。」
「折り込み済みです。」
相応の数の人員と、荷物がある。
「現在の旅程を変えれば、補給をせずとも。それが出来るだけの方々をお借りしていますから。」
そもそもではあるが、今回の事は神国として決定がなされている事だ。必要な人員の手配を、アルゼオ公爵に頼むことなどない。それこそ、のんびりと移動をという話になった、その決定を下してしまえば、アルゼオ公爵の拠点に等一度もよらずに事を運ぶことができる。一部を王都に取って返させ、必要な資材を香草としてしまえばいいだけの話だ。どうした所で、オユキとトモエだけという訳ではないが、こちらの騎士に比べて遥かに脆弱な同行者に配慮した速度しか出ない旅路。遠方との移動を前提としている相手は、相応の苦労だけで、実に平然と追いついてくるだろう。
「交渉相手という意味では、先代アルゼオ公、それで問題はありません。」
「我の領にその方が差し出したものもあろう。」
「契約の文面を、よく確認されましたか。お渡しした物の自由を認めています。私共として所有権の放棄を行っていません。」
オユキとしては、ああ成程。その程度の感想しか持てない相手だ。マリーア公爵に対して、先代アルゼオ公爵との交渉と言えばいいのか、時間を使う事を求めたとき、現公爵への配慮をと言われなかった理由がよくわかる。順序、身分、それを考えたときに、本来であれば許されないというのに。甘やかされていると、そう考える事も出来る物でもある。実際のところは、マリーア公爵の心遣いと理解は及ぶものだが。
「アルゼオ公爵が、私どもに対して思うところがある。それに理解は及びます。」
だからこそ、事前に先代公爵と時間を取った。
「しかし、因果を追求すればその先がどうなるのか。それを考えないというのは、頂けません。」
神々から直々に。オユキの行動の背景と言えばいいのか、今回の事と言えばいいのか。そこには、この世界を作った者達と、まぁ、オユキの顔見知りの考えというのがそこにはある。先代アルゼオ公爵がどうした所で飲まざるを得なかったものが。
「領を預かる者、そうでなければただ受けましょう。しかし、貴方がそれをするのは問題がある。私はそのように。」
ここでアルゼオ公爵本人がオユキに対して不満があると、それを表に出して得られる事など何一つない。これまで確かに存在した利益、権益、それが失われるという事は、既に決まっている。ならば、それ以外をどう得るか、争点はそこにしかない。オユキを、トモエに対して失われた物があると攻め立てたとして、そこからは何も生まれない。
「賢しらに。」
「では、私の予想、それを超える物をご用意いただけますか。」
「たかが子爵風情が。」
「では、話は終わりですね。ならばこの場にも意味は無いでしょう。」
信頼のできない食事。それをオユキにしても口に運びたいものではない。何となれば食事の場は楽しくと、殊更それを大事にする。それを害されてまで場を続けよう、オユキはそのようには考えない。過去、それこそ、どうにもならぬ場としてそのような物もあったが、比べても力関係が違う。
「子爵風情ではありますが、現在は神々より与えられた使命、それを果す身です。」
「何故だ。」
その憤りについては、確かに正当ではある。
「そればかりは、どう申し上げればよいのか。」
そして、過去オユキにしても何度となくあったのだ、そのような事は。
新しい商品を。新しい技術を。より良いものを。そうして散々に労力を積み上げていたはずが、その一歩先を行くものが突如として現れた事もある。数週間程度、しかし、何処までも大きな差で他が先に登録を。問題が無い、そのはずであったというのに、実際に作ってみれば想定外の事ばかり。
「不満は、理解できます。嘆きも、理解できます。しかし、統治を行う、指導者として立つ貴方には、飲み込めとしか、そうとしか言えないのです。」
過去、オユキがそうであったように。ミズキリに諭されて、どうにか方法を身に着けたように。
「貴方が私に不満をぶつける。その結果得られるものは、あなたの領民の不利益にしかなりません。」
「分かっている。」
「ならば、どうぞ自制を。」
「分かっているのだ、そのような事は。しかし、我が言わねば誰が言うのだ。父は既に承諾した。神々の決めた予定がある。しかし、それらは何処までも我らの領民に。」
そこまで行ったときに、机に握った拳を振り下ろした相手を、さて、粗暴と責める事が出来るのだろうか。
「ならば、今は気が付かぬその不利益。我の愛する民たちに代わり、失われる物を責める事こそが、領主としての仕事ではないのか。」
「やり方に問題が、そうとしか言えません。」
今後を考え、先代アルゼオ公爵はどうにもならぬと全てを飲み込んだ。そして、得られる利益の最大化を考えた。僅かでも損失を補填しようと。しかし、そうできる人間ばかりではない。あまりに突然に、色々と起こった。隣国との関係、それが今後大きく変わる。これまで唯一であった通商路にしても、それをどうにか保持し続けた努力も、そのために統治者としてかけた負担も。その全てが、これからは無意味となると言われて。
「他など、あるはずもなかろう。我が領民の怒り、嘆き。我はそれを貴様に確かに伝えるしか。」
「ですから、それを行う事で得られる結果、その判断が出来ていない事が問題なのです。」
オユキにしても、己を棚に上げてなどと言われればそれまでではあるのだが。誰かの不興を買う、それで得られるものなどそうそうない。それこそ稀にというものだ。
「正直に申し上げれば、アルゼオ公爵領、そちらに対する補填は考えています。先代は、それをご理解頂けたからこそ、早々に矛を収めてもいるのですが。」
そして、現在の所それは明文化されていない。
「やはり、理解が及んではいなかったか。オユキ殿、許されよ、こればかりは私の不徳の致すところ。」
そして、先代公爵がようやくという訳でもないが、重たいため息とともに会話に。
「今回オユキ殿から頂いた補填は、国内を失うからこそ、国外にも利用ができるものだ。」
「しかし、既に関係を持った領が。」
「それは、何処だ。今側におるのは我らとアベル殿だけ。他にどの領から人をオユキ殿が求めている。」
そう、空手形として。オユキから決めた事として。アルゼオ公爵領に渡したのは物流の手段だ。勿論、予測される事柄に対する抑止力として手元に残してはいるが、それにしても効果があるのは短い期間。
「王家主導となれば、我らだけでは。」
「細かな物流まで、いちいち陛下が見る事などできんよ。それでは何故領主を立てねばならんのかと、そう言う話だ。その方にしても、代官を使うであろう。それにしても、此処で話す事ではないのだがな。」
オユキだけではなく、王家から借りている人員もいる。そして、そう言った相手も含めて客人として遇する必要がある場で、身内だけで話すなどという事はやはり。
「どうした所で、忙しない。変革期、それ以外に呼びようもない。伝える事の叶わなかった私の不徳、それ以上ではないとも。マリーア公爵は、実によく統率をしている。」
オユキとトモエがいるからこそ。勿論実態は違うが、実際にそれを運んだ結果として。何となればマリーア公爵は己の領都の一角を失っている。そして、そこから派生する形で、統治能力に対する疑いという目を、大いに向けられた事だろう。オユキが何くれとなくマリーア公爵の利益を考え、振舞う理由というのはやはりそれが大きい。交渉の余地が無かったのか、とりなしはしなかったのか。その辺りを尋ねるでもなく。ただ決まったこととして、他の利益を存分に使うとあの公爵は早々に決めた。含むものがあるはずだというのに、オユキやトモエの目的に最大限の配慮も見せている。
今回アルゼオ公爵が行ったようなことにしても、マリーア公爵その人こそ行いたいに違いないというのに。
「どうぞ、その辺りは公爵家として。」
「それもそうだな。」
「此度の事は、ただ時間が無かった。その結果と私は考えましょう。」
ただ、今回のアルゼオ公爵のやるせなさは理解が出来る物として。先代アルゼオ公爵が、瑕疵を認めた事に対する譲歩として、今回の件、それはない物としようとオユキから。
「改めて、どうか考えられると良いでしょう。」
食事の最中。それも上位の相手に招かれたという状況でもある。それをオユキは中座すると決める。簡単に目線だけを向ければ、先代公爵夫人は頷いている。予測できていたことだ、そして、既に公爵本人ではなく先代からあまりに大きな手助けは得ている。だからこそ、簡単に相殺ができる材料として、今後、これを使って何かアルゼオ公爵への利益を思いついたときに、利用ができるように。しかし、それを汲み取るべき相手の目に、不満の色がさらに乗ってしまった事を思えば、オユキとしてはため息の一つも零したくなる。よくある話ではあるのだ。前任者と、現在の担当者が比べられるなどという事は。そして、違う人間であるからこそ、得意も異なる。しかし、相手の評価項目が変わらない等という事が。それらを纏めて飲み込んで。それに負荷を感じたとして、やるしかないのだと。
「一つだけ、お伺いしておきましょう。」
かつて、トモエがシグルドに言った事でもある。
「領民の為、そこに為政者としての矜持を認めましょう。しかし、貴方個人が感じる怒り、その言い訳ではありませんか。」
事ここに至って、オユキの交渉相手として、それは何処まで行っても現在家督を持つこの人物ではなく、先代へとなっている。それがこの人物にとって、不服を覚える事ではあると理解は出来る。そして、先の事がある、配慮の足りぬ言葉を振るうオユキを目撃していた者達は、ただ理解を示して立ち上がるオユキの先導を。
「ありません。」
オユキという人間にしては、実に珍しい対応として。婉曲的な事を言うでもなく、ただ即断で。
それ以外にも実にわかりやすい態度として、勧められている食事にも手を付ける素振りを見せない。あくまで口に運ぶものは、ナザレアかニーナが口に付けた上で、問題が無いとオユキの前に並べられた物だけ。実にわかりやすく、用意される物を信頼できぬと示して見せている。そして、前菜がようやく口を付けても良いと、そうなったときに現アルゼオ公爵からかけられた言葉にしても。
「さて、どうにも歓迎はして頂けないようです。残念ではありますが、明日にはとしましょうか。」
「ほう。我の許しなく補給もままならぬだろう。」
「折り込み済みです。」
相応の数の人員と、荷物がある。
「現在の旅程を変えれば、補給をせずとも。それが出来るだけの方々をお借りしていますから。」
そもそもではあるが、今回の事は神国として決定がなされている事だ。必要な人員の手配を、アルゼオ公爵に頼むことなどない。それこそ、のんびりと移動をという話になった、その決定を下してしまえば、アルゼオ公爵の拠点に等一度もよらずに事を運ぶことができる。一部を王都に取って返させ、必要な資材を香草としてしまえばいいだけの話だ。どうした所で、オユキとトモエだけという訳ではないが、こちらの騎士に比べて遥かに脆弱な同行者に配慮した速度しか出ない旅路。遠方との移動を前提としている相手は、相応の苦労だけで、実に平然と追いついてくるだろう。
「交渉相手という意味では、先代アルゼオ公、それで問題はありません。」
「我の領にその方が差し出したものもあろう。」
「契約の文面を、よく確認されましたか。お渡しした物の自由を認めています。私共として所有権の放棄を行っていません。」
オユキとしては、ああ成程。その程度の感想しか持てない相手だ。マリーア公爵に対して、先代アルゼオ公爵との交渉と言えばいいのか、時間を使う事を求めたとき、現公爵への配慮をと言われなかった理由がよくわかる。順序、身分、それを考えたときに、本来であれば許されないというのに。甘やかされていると、そう考える事も出来る物でもある。実際のところは、マリーア公爵の心遣いと理解は及ぶものだが。
「アルゼオ公爵が、私どもに対して思うところがある。それに理解は及びます。」
だからこそ、事前に先代公爵と時間を取った。
「しかし、因果を追求すればその先がどうなるのか。それを考えないというのは、頂けません。」
神々から直々に。オユキの行動の背景と言えばいいのか、今回の事と言えばいいのか。そこには、この世界を作った者達と、まぁ、オユキの顔見知りの考えというのがそこにはある。先代アルゼオ公爵がどうした所で飲まざるを得なかったものが。
「領を預かる者、そうでなければただ受けましょう。しかし、貴方がそれをするのは問題がある。私はそのように。」
ここでアルゼオ公爵本人がオユキに対して不満があると、それを表に出して得られる事など何一つない。これまで確かに存在した利益、権益、それが失われるという事は、既に決まっている。ならば、それ以外をどう得るか、争点はそこにしかない。オユキを、トモエに対して失われた物があると攻め立てたとして、そこからは何も生まれない。
「賢しらに。」
「では、私の予想、それを超える物をご用意いただけますか。」
「たかが子爵風情が。」
「では、話は終わりですね。ならばこの場にも意味は無いでしょう。」
信頼のできない食事。それをオユキにしても口に運びたいものではない。何となれば食事の場は楽しくと、殊更それを大事にする。それを害されてまで場を続けよう、オユキはそのようには考えない。過去、それこそ、どうにもならぬ場としてそのような物もあったが、比べても力関係が違う。
「子爵風情ではありますが、現在は神々より与えられた使命、それを果す身です。」
「何故だ。」
その憤りについては、確かに正当ではある。
「そればかりは、どう申し上げればよいのか。」
そして、過去オユキにしても何度となくあったのだ、そのような事は。
新しい商品を。新しい技術を。より良いものを。そうして散々に労力を積み上げていたはずが、その一歩先を行くものが突如として現れた事もある。数週間程度、しかし、何処までも大きな差で他が先に登録を。問題が無い、そのはずであったというのに、実際に作ってみれば想定外の事ばかり。
「不満は、理解できます。嘆きも、理解できます。しかし、統治を行う、指導者として立つ貴方には、飲み込めとしか、そうとしか言えないのです。」
過去、オユキがそうであったように。ミズキリに諭されて、どうにか方法を身に着けたように。
「貴方が私に不満をぶつける。その結果得られるものは、あなたの領民の不利益にしかなりません。」
「分かっている。」
「ならば、どうぞ自制を。」
「分かっているのだ、そのような事は。しかし、我が言わねば誰が言うのだ。父は既に承諾した。神々の決めた予定がある。しかし、それらは何処までも我らの領民に。」
そこまで行ったときに、机に握った拳を振り下ろした相手を、さて、粗暴と責める事が出来るのだろうか。
「ならば、今は気が付かぬその不利益。我の愛する民たちに代わり、失われる物を責める事こそが、領主としての仕事ではないのか。」
「やり方に問題が、そうとしか言えません。」
今後を考え、先代アルゼオ公爵はどうにもならぬと全てを飲み込んだ。そして、得られる利益の最大化を考えた。僅かでも損失を補填しようと。しかし、そうできる人間ばかりではない。あまりに突然に、色々と起こった。隣国との関係、それが今後大きく変わる。これまで唯一であった通商路にしても、それをどうにか保持し続けた努力も、そのために統治者としてかけた負担も。その全てが、これからは無意味となると言われて。
「他など、あるはずもなかろう。我が領民の怒り、嘆き。我はそれを貴様に確かに伝えるしか。」
「ですから、それを行う事で得られる結果、その判断が出来ていない事が問題なのです。」
オユキにしても、己を棚に上げてなどと言われればそれまでではあるのだが。誰かの不興を買う、それで得られるものなどそうそうない。それこそ稀にというものだ。
「正直に申し上げれば、アルゼオ公爵領、そちらに対する補填は考えています。先代は、それをご理解頂けたからこそ、早々に矛を収めてもいるのですが。」
そして、現在の所それは明文化されていない。
「やはり、理解が及んではいなかったか。オユキ殿、許されよ、こればかりは私の不徳の致すところ。」
そして、先代公爵がようやくという訳でもないが、重たいため息とともに会話に。
「今回オユキ殿から頂いた補填は、国内を失うからこそ、国外にも利用ができるものだ。」
「しかし、既に関係を持った領が。」
「それは、何処だ。今側におるのは我らとアベル殿だけ。他にどの領から人をオユキ殿が求めている。」
そう、空手形として。オユキから決めた事として。アルゼオ公爵領に渡したのは物流の手段だ。勿論、予測される事柄に対する抑止力として手元に残してはいるが、それにしても効果があるのは短い期間。
「王家主導となれば、我らだけでは。」
「細かな物流まで、いちいち陛下が見る事などできんよ。それでは何故領主を立てねばならんのかと、そう言う話だ。その方にしても、代官を使うであろう。それにしても、此処で話す事ではないのだがな。」
オユキだけではなく、王家から借りている人員もいる。そして、そう言った相手も含めて客人として遇する必要がある場で、身内だけで話すなどという事はやはり。
「どうした所で、忙しない。変革期、それ以外に呼びようもない。伝える事の叶わなかった私の不徳、それ以上ではないとも。マリーア公爵は、実によく統率をしている。」
オユキとトモエがいるからこそ。勿論実態は違うが、実際にそれを運んだ結果として。何となればマリーア公爵は己の領都の一角を失っている。そして、そこから派生する形で、統治能力に対する疑いという目を、大いに向けられた事だろう。オユキが何くれとなくマリーア公爵の利益を考え、振舞う理由というのはやはりそれが大きい。交渉の余地が無かったのか、とりなしはしなかったのか。その辺りを尋ねるでもなく。ただ決まったこととして、他の利益を存分に使うとあの公爵は早々に決めた。含むものがあるはずだというのに、オユキやトモエの目的に最大限の配慮も見せている。
今回アルゼオ公爵が行ったようなことにしても、マリーア公爵その人こそ行いたいに違いないというのに。
「どうぞ、その辺りは公爵家として。」
「それもそうだな。」
「此度の事は、ただ時間が無かった。その結果と私は考えましょう。」
ただ、今回のアルゼオ公爵のやるせなさは理解が出来る物として。先代アルゼオ公爵が、瑕疵を認めた事に対する譲歩として、今回の件、それはない物としようとオユキから。
「改めて、どうか考えられると良いでしょう。」
食事の最中。それも上位の相手に招かれたという状況でもある。それをオユキは中座すると決める。簡単に目線だけを向ければ、先代公爵夫人は頷いている。予測できていたことだ、そして、既に公爵本人ではなく先代からあまりに大きな手助けは得ている。だからこそ、簡単に相殺ができる材料として、今後、これを使って何かアルゼオ公爵への利益を思いついたときに、利用ができるように。しかし、それを汲み取るべき相手の目に、不満の色がさらに乗ってしまった事を思えば、オユキとしてはため息の一つも零したくなる。よくある話ではあるのだ。前任者と、現在の担当者が比べられるなどという事は。そして、違う人間であるからこそ、得意も異なる。しかし、相手の評価項目が変わらない等という事が。それらを纏めて飲み込んで。それに負荷を感じたとして、やるしかないのだと。
「一つだけ、お伺いしておきましょう。」
かつて、トモエがシグルドに言った事でもある。
「領民の為、そこに為政者としての矜持を認めましょう。しかし、貴方個人が感じる怒り、その言い訳ではありませんか。」
事ここに至って、オユキの交渉相手として、それは何処まで行っても現在家督を持つこの人物ではなく、先代へとなっている。それがこの人物にとって、不服を覚える事ではあると理解は出来る。そして、先の事がある、配慮の足りぬ言葉を振るうオユキを目撃していた者達は、ただ理解を示して立ち上がるオユキの先導を。
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