憧れの世界でもう一度

五味

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17章 次なる旅は

旅の間も

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配慮のある旅路でもあり、これまでに比べて急いでいるわけでもない。
同行者たち、どうした所で護衛を頼んでいる多くの人員については、それぞれの町の許容量というものもあり、町のすぐそばで野営となっている。一応、オユキとトモエの同行者として扱われている者達は、壁の中でしっかりと休めているが。

「成程、ここまで差が出ましたか。」

そして、オユキにしても旅を満喫と、そうしてばかりはいられない。

「ただ、原因の特定までは。」
「それこそ、検討すべき項目を全て達成しなければならないでしょう。」

アルゼオ公爵の領都まであと一日、布告の手配も、迎え入れの準備もあるからと短めの移動であった日程。その時間を使って、オユキはカナリアから報告を受けている。
馬車に使う事が出来る新たな魔術、始まりの町で耐久試験は破壊という方向で大いに行ったが、移動、耐用限度については進んでいるわけもない。国王に献上するまでは、伏せるのだとそういった決まりもあったのだから。
始まりの町でならと、そう言う話もあるにはあったのだが、流石に外観として特に違いのない物が動き回っていては、内部に何かあると、そう喧伝するにも等しいからとそこまでは行わなかった。

「とはいう物の。」

しかし、検討すべき項目、直ぐに用意できるものが行えるのは先になる。

「カナリアさんと、他の方で、マナの保有量以外の差というのは。」
「習熟度、それは勿論あるかとは思います。」
「始まりの町で、回数を熟したそれ以外もあるでしょうし。」

異なる空間を繋げる。実際には他にも大いに働いている物だろうが、直ぐに思いつくものは異空と流離の神。その流れを受けての物となる。運ぶもの、その異名を持つ神性である以上、物流に大きく寄与する新たな魔術に関わっていないとは言えるはずもない。

「私たちの創造主様から、それ以外も見知った文字もありますが。」
「その辺りは、流石に専門という訳でもありません。しかし、文字毎であるのも事実ではあるかと。」
「確かに、理解を深めるのは文字から、ですか。」

報告の主体はカナリアでもあるが、勿論彼女が補佐を頼んでいるメリルも同席している。そして、此処で行われる会話を、オユキはアルゼオ公爵に聞かせる気もない。確かに、馬車に関する魔術文字は預けた。今後は、それこそ明日改めてと他の目れていることもあり、そこから先アルゼオ公爵領で独自に張って印していくものでもある。しかし、オユキが行っているのは分かち合う事だけであり、全てを手放すなど口にしていない。
マリーア公爵は領として、安息の加護を簡易的に得るための短杖、その生産があるため領としてのリソースは十分とは言えない。しかし、では何のためにオユキとトモエが、マリーア公爵麾下としての振る舞いを持ったまま隣国に行くのかという話もある。ファルコにしても、国王その人から今後の交流を考えての一手としてというのもあるが、王命となっているのは、マリーア公爵に対する配慮でもある。

「と、言いますか。戦と武技の神から与えられた功績で、こうした場が用意できることを考えれば。」
「確かに、神々としての基本的なもの、そのような見方もありそうなものですね。」

では、オユキとトモエの持つ手段の中で、望まぬ物との会話、二人の間では無い、それが他から聞こえぬようにと望むのであれば、何を使うのかと言われれば。戦と武技の神から与えられた功績を使ってとなる。本格的に使うのは、いよいよ初めてではある。これまで散々マナを使う予定が立て込んでおり、回復が追い付いていないとされていたため、カナリアの許可が下りなかったというのが最も大きい。今は季節もあり、回復も早くなっているからと、ようやく許可が下りたというものだ。

「なんにせよ、始まりの町に戻ってから、また検討すべき項目を書き出してとするしかないでしょう。」

そして、今現在話している事というのは、馬車に魔術をかけた使い手、それによる差異というのが既に分かっていることについてだ。カナリアの手によって用意されたオユキとトモエの馬車、それは揺れが拡張された空間にほとんど作用しない。しかし、メリルが用意した物、先代アルゼオ公爵の抱える魔術師が用意した物は、そうではない。また、魔石の消耗にしても顕著な差があると。

「魔術の習熟というのは、以前オユキさんが文字を得られると。」
「ええ。そうですね。しかし、今回については。」
「はい。広くとするために、触れる事が出来れば。勿論、最低限の閾値はありますが。」
「アイリスさんの物とは、また違うのですね。」
「あちらは、どう言えばいいのでしょう。やはり道具に対する姿勢というのを見られる、そのような物なのでしょうね。」

最も、他にわかりやすい理由もある。

「あちらは、個人が自動的に得られるわけですが、こちらは道具としての加工ですから。」
「納得のいくような、そうでもないような。」
「ええと、ですね。以前にもお話ししましたが、魔道具への加工というのはいよいよ学問で、魔術を使えない方でも可能なのです。」
「その、短杖、でしたか。」

以前にカナリアから、そのような説明を受けた物だが、割と身近なものに至っては、学問と言われてもいよいよ納得がいかない加工方法を散々に見たのだ。

「ええと、それについては魔術師を名乗る者が達成すべき試験でもありますから。その、魔道具としてという事であれば、私たちは魔術文字を直接刻みますが、彫金しても同じ効果は得られます。」
「おや、そうなのですか。」
「勿論、簡易的な方法と言いますか、相応に不利益も多い手段ですが。」

曰く、削った場所、そこに魔力が流れ込むことによって耐久力が下がる。他の、現在試験が終わっている金属の中では銀が確かに相性はいいのだが、それでも効率が落ちる等。

「そちらも検討項目に加えなければなりませんね。」
「それと、オユキ様。流石にカナリアや他の翼人種の方と違って、私たちでは。」
「それは、流石にそうでしょうとも。先ほどにも話題にあげましたが、彼の柱から明確な庇護を受けているか、その差もあります。」

勿論、メリルの、彼女が他にも向ける不安というのは、オユキにもわかる。

「マナの過多、こればかりはどうにもならないでしょうが、こうして明確にと言いますか、種族の特徴ともいえる物はあるわけですから。すみわけが出来る部分、それを探すのが良いでしょう。」

しかし、それに対してかけられる言葉というのは、あくまでその程度でしかない。

「オユキさんも魔術が使えるようになったわけですし。」
「いえ、今後を考えると、そちらに多くを使ってというのは。」

では、同じ種族として、少なくとも外見上は、共にと言われたとしてオユキはオユキで別の問題を抱えている。
そして、オユキの返しに直ぐに失言に気が付いたメリルが頭を下げる。

「謝罪の必要はありませんとも。それに、アイリスさんの見立てでは、何か他が混ざっているという事もありましたから。」
「その辺りは、発現形質に大きく依ると、そう言う話もありますが。」
「それは、どうなのでしょうか。」

メリルが言う言葉には、オユキとしても疑問を感じる。オユキにしろ、トモエにしろ。それこそ身の回りの礼では、セシリアという相手もいる。

「セシリアさんも、極短い間に種族由来の物を扱う術を得ましたし。」
「セシリアさんは、木精由来ですから。あちらは。」
「そう言えば、雄株がいないとか。ですが、そうであるなら。」
「木々と狩猟の神、その持祭でもありますし、そちら側から強化されているかもしれませんね。」
「オユキさん、話がだいぶ。」

すっかり脱線を始めた話を、トモエが引き戻す。研究者気質三人が揃って顔を合わせ、今後検討すべきことなど話し合えば、そこから派生するあちこちに興味がどうしても飛んで行く。

「そうでした。あまり時間を使うのも良くないですし。」
「まぁ、こうしている間にも、疲労は感じ始めていますからね。」

こうして、常とは全く違う空間、他と隔絶された場所を功績を経由しているとはいえ、奇跡として願っているのだ。相応に対価として支払うべきものがある。それにしても、カナリアとメリルに言わせれば破格どころではないという事だ。

「では、結論、という訳でもありませんが。」
「はい。記録しているところを見られるのは構いません。しかし、成果を求められた場合は、私の名前かマリーア公爵の名前を出してください。」
「そこまでしなくとも、そう思ってしまいますが。」
「いえ、カナリアさんでは、色々と難しいと思いますよ。」

何もオユキが慮っているのは、マリーア公爵ばかりという訳でもない。
ただ、当の本人は何の事だかわからないと、そう言った様子でもあるため。

「カナリアさん達の創造神、今となっては異空と流離の神。恐らく、その柱からわずかとはいえお力を借りているわけです。」

それを、安売りしたいのですかと。そうオユキが聞けば、覿面に表情が変わる。

「そんな事は。」
「ええ。望まぬというのであれば、やはりアルゼオ公爵には情報を伏せなければなりません。フスカ様との間で、カナリアさん達との種族の間に取り決めがあるのは、現状マリーア公爵様だけです。」

他との取引を求められるだけの素地は、当然ない。

「今回、陛下にカナリアさんから馬車を納めた事、彼の柱から力を借りる門について。それに対して、さて、何かマリーア公爵様から以外に、用意がありましたか。」

実際のところは、何を対価として差し出せば、そう言った思案もあるために身動きが取れていないという部分もあるが、そこはそれ。オユキとて、神々に習う。少年達にも、こういったやり口があると説明したことでもある。全てを離さずに、思考を誘導する、その程度の腹芸は当然。

「実際は、陛下もアルゼオ公爵も思いつかないので、マリーア公爵に任せているだけですが。」

行うべき相手は選ぶ。

「もう、驚かさないでくださいよ。」
「いえ、そうでは無い相手もいますから。今回同行している相手、その全てがアルゼオ公爵の手配という訳ではありませんよ。」
「それは、確かに。」
「後は、交渉先が増えると、それだけ時間が取られるので。」

そうしてオユキがため息交じりに言えば、王都で、始まりの町でどれだけの手紙に対応したかを知っているカナリアが、ただただ遠くを見てため息をつく。間違いなく、そう言った面倒を好む相手ではないのだ。彼女の出身である種族というのは。
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