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17章 次なる旅は
馬車の旅
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「今日からは、先代アルゼオ公は別なのですね。」
宿場町で一夜を過ごした後、出発するときにオユキとトモエ、それから新たに付けられた近衛が馬車へと乗り込む。そして、そこに先代アルゼオ公爵もという事は無かった。
「試しに用意はされたでしょうから、そちらでしょう。」
「カナリアさん以外では、難しいものと考えていましたが。」
「そこは、それこそ先代とはいえ公爵、というところでしょうね。」
これまでに培った物を使って、叶えたか。もしくは、新しく生まれた交流、そちらにマリーア公爵を経由して頼んだのか。大まかに話が纏まって以降は、何やらふらりふらりというには、なかなかの速度ではあるが、上空から急にという事はままあった。そして、その中の誰かを上手く捕まえているかもしれない。種族として力を借りる、その話が纏まっていたところで、それこそ個人は別だ。実際にどうなっているかはいよいよ、オユキも分かる物ではない。
マリーア公爵は、その辺りしっかりと手勢を使って情報を集めている事だろう。
内々の話をしようにも、目立つ外見をしており、その移動手段は、何処までも遮蔽物の無い場所を主体としている。目の数が十分あれば、見落とすことも無いだろう。マリーア公爵の屋敷で、他の派閥の人員を抱えているように、聞かせられない話をするときは、それなりの場所を用意する必要があるように。マリーア公爵にしても、きっちりと人員を配置している事だろう。
「さて、改めまして。」
今回、アルゼオ公爵の求めている事というのは分かりやすい。
オユキとトモエ、こちらがマリーア公爵ばかりではなくアルゼオ公爵領にも。それと同様の事をアイリスにも。だからこそ、移動の時間だけに限らず、何かと理由を付けて、分ける事だろう。そして、それぞれに対して交渉を求めて来るだろう。アベルにしても、オユキとトモエがそのつもりが無い、現状難しい事を理解しているため、アイリスに対して国に対する配慮を求めるにも都合がいいと、それを受け入れる。
だからこそ、こうして、移動の間は基本的にトモエとオユキ、それから近衛が同じ馬車となる。それこそ目的地が近づいたり、危険地帯に差し掛かれば、配置はまた変わってくるものだろうが。
「その、過日は少々言葉を選ばなかったこともあり。」
「いいえ。」
今回護衛として預けられた近衛の一人、こちらはいよいよ王太子妃からとよくわかる。確かに信頼しているからこそ、己の生まれた国、そちらにもたらされる奇跡を確実にと。今度ばかりは確かな信頼がある、その前提の上で両者が納得しての事として。
「外から見て、直ぐに分かる。それがただ事実であったのでしょう。」
「見て判断したというよりも、状況からというものではありましたが。」
ニーナ・ローズ・プチクレール。かつての闘技大会では、アイリスの刃の前に斬り捨てられた人物であり。オユキが王太子妃だけを慮って発した言葉で、心を抉られた相手でもある。
「あの場には、やはり同様の想いを持たれていた方が多く居られたわけです。改めて、浅慮でした。」
「神々の前で、疑う余地のない場のご用意を頂けました。必要な流れ、そうであったのでしょう。」
「不要という訳ではない、その程度ではありましたから。」
「つまり、少ない機会を、そう言う事ですか。」
当時のオユキは、まぁ色々と利益となるものは運んだが、何処まで行っても突然現れた異邦人でしかない。そうして一度は遇するだけのものは色々あったが、所詮はそれだけ。あくまで一度で十分な物でしかない。実際に、それ以上と信じる者達が居たとして。
「流石に、私たちも忙しかったこともあり。」
「思うところが無かった、そうはやはり申し上げられません。しかし、終わってみれば、御身の言葉を考えれば、確かに他に無かったのでしょう。」
当時は、それはそれは忙しかったのだ。
王城に上がるには、当然かつての世界でもそうであったように、身に着けるべき振る舞いというものがある。それを振るい格式と呼んで軽んじる事は出来るのだが、用はそれを守ってきた人物、背景、その全てを軽んじるという事だ。過去とした、それを認めぬと声を上げたオユキとトモエが行っていい振る舞いではない。
だからこそ、他になすべきこと、討つべき手を必要とすることが多い中でも、どうにかこうにかこなしたのだ。年長者としての責務としてというのも、そこには大いにあったが。
「同じ状況であれば、同じことをしたでしょう。ですから、行為そのものではなく。貴女の誇りを傷付けた、そのことに謝罪を。」
「許す、というのもまた違うように思います。確かに私は王太子妃様の信頼を、当時得られていなかった。それがただ事実。ですから、得難い機会を与えて下さった、それにただ感謝を。
頂いたお心配り、以降は王太子妃様もきちんと休まれておられます。」
そうであるなら、まぁ、良かったのだろうと。トモエがその言葉に頷いているからと。
「ニーナ様はともかく。」
「お初にお目にかかります。」
そしてもう一人は、明らかに人ではないと分かる特徴を備えた相手。
「ナザレア・ガセラ・アラザンと申します。どうぞお見知りおきを。武力という意味では、足手まといでしかありませんが。」
「種族として、周辺の警戒をという事なのでしょう。危険地帯を抜ける事には違いないわけですから。」
「いえ、そちらよりも身の回りの事をと。」
今この状態にしても、言いたいことがあると。目が口ほどにものを言っている物だが、オユキはそれを聞かなかったことにする。流石に馬車に乗り込むまでは、あくまで公としての仕事ではあるため、きちんと仕事着を着込んでいたが、移動の間はそれでは疲れるからと今はすっかり楽な格好に。いつも通り、そう言えば聞こえは良いが、結局はこちらに来て散々に馴染んでいる長袖長ズボン。
「ニーナ様は、王太子妃様からと分かりますが。」
「はい、私は王妃様から。ニーナとは普段の職責も異なりますので、ご不便をおかけすることもあると思いますが。」
「手を借りられる、それだけで十分すぎるほどありがたい事です。」
能力という意味では、最高権力者と呼んでも良い人物からお墨付きを与えられているような人物だ。そんな人材を側仕えとして借りられる、実に有難い事ではある。これで入れ替えが無ければ言う事は無いのだが、そればかりは望みすぎというものだろう。既にオユキが今後について触れた事もある。それを望めば、誰も彼もが口をそろえて同じことを言うだろう。
「戦闘という意味ではともかく、目も耳も、私たちとは比べものにならないものが。」
「種族としての物ですから、自覚はあまり。同族であれば、誰でも出来る事ですし。」
人以外の特徴を持った生き物。その人物が思い当たるところが無いと、そのように言うものだが。アイリスにしてもそうであるように、種族ごとの特徴というのは間違いなく存在している。
かつて、プレイヤーが人しか選べなかった、何度死んでも問題が無い、そう言ったあまりに冗談じみた能力を与えられた事と釣り合う形として。
「お二方には、何かと。」
「前任者から、申し送り事項もありました。」
「そうですね。私としては、もう少し整えてからとしたい物でしたが。」
移動を急ぐわけでは無い。それは事実でもある。しかし、のんびりと移動するかと言われれば、そんなわけもない。先方の準備を待つ機関なども存在するが、それについてはある程度距離が近づかない事にはどうにもならない。さもなくば、意味もなく時間だけが過ぎるのだから。
「荷物の少ない方々なので、道々揃える様にと言われていますが。」
要は、オユキとトモエが使うための馬車、その内部にあれこれと荷物が詰め込まれることが無かった理由が、それであるらしい。この機会にあれこれとかって、身の回りの物、今後も間違いなく使う馬車の籠であり、王家が用意した物。その内部を整えよと。
「一応、衣装なども、今度ばかりはある程度。」
「オユキ様、如何に内部が広がったとはいえ、それでも馬車数台分でしかありません。」
「ええと。」
寝台を持ち込み、簡単に飲み物を楽しむ机を置いても、まだゆとりのあるほどの広さ、それが一角でしかない大きさの籠。それをしてたかがと言わんばかりのナザレアの言葉には、オユキがどうしてもたじろぐ。元々、クローゼットの一つもろくに埋まらぬ様な、そのような数でしかなかったのだと。
「あの、オユキさん。私が季節に合わせて入れ替えていただけですから。確かに、この馬車一つという程はありませんでしたが。」
「おや、そうなのですか。重ねる物が変わるだけかと。」
「それにしても、季節によって変わりますから。」
オユキの認識がそうであったとして、それはあくまでトモエが整えた結果でしかない。そもそも季節ごとに使うべき色も変わる。生地も違う。そう言った細かい所にはまったく頓着しなかったため、そういった一切はトモエが行っていた事でもある。
「それもあって、トモエ卿に任せる事に抵抗が無いのですか。」
「まぁ、そうですね。」
オユキが平然とトモエに着替えであったり、己の意服を任せる事に度々難色を示されてはいる。それこそ、オユキからしたら過去もそうであったから、その延長でしかない。挙句の果てには、慣れない衣類も多い為、どう身に着けるかもよく分からない。そして、トモエが知っているのであれば、まぁ構わないだろうと覚える気もない。トモエがそうしてオユキの世話を焼くことを楽しんでいる、それもある。
「なんにせよ、道中、時間はある程度あるわけですから。」
ナザレアの不満。それについてはマリーア公爵夫人からも、散々に言い含められている。
各町で、という程でもないが、主要な場所では補給などもあり相応に時間を取る。その間に、少しくらいはあれこれと用意しろと。今は別の馬車に、オユキよりも猶の事そういった事を厳しく言われたカレンが、それなりの財と共について来ていることもある。
そして、オユキとして分かりやすい、納得のしやすい理屈として、用意した予算を使い、アルゼオ公爵領に対しても、ある程度の影響力を確保して来いと、そう言った言外の圧力も。
マリーア公爵とアルゼオ公爵。この二つの家の間で、これから大いに政治闘争が始まるのだ。隣国との関係性、その着地点を巡って。
宿場町で一夜を過ごした後、出発するときにオユキとトモエ、それから新たに付けられた近衛が馬車へと乗り込む。そして、そこに先代アルゼオ公爵もという事は無かった。
「試しに用意はされたでしょうから、そちらでしょう。」
「カナリアさん以外では、難しいものと考えていましたが。」
「そこは、それこそ先代とはいえ公爵、というところでしょうね。」
これまでに培った物を使って、叶えたか。もしくは、新しく生まれた交流、そちらにマリーア公爵を経由して頼んだのか。大まかに話が纏まって以降は、何やらふらりふらりというには、なかなかの速度ではあるが、上空から急にという事はままあった。そして、その中の誰かを上手く捕まえているかもしれない。種族として力を借りる、その話が纏まっていたところで、それこそ個人は別だ。実際にどうなっているかはいよいよ、オユキも分かる物ではない。
マリーア公爵は、その辺りしっかりと手勢を使って情報を集めている事だろう。
内々の話をしようにも、目立つ外見をしており、その移動手段は、何処までも遮蔽物の無い場所を主体としている。目の数が十分あれば、見落とすことも無いだろう。マリーア公爵の屋敷で、他の派閥の人員を抱えているように、聞かせられない話をするときは、それなりの場所を用意する必要があるように。マリーア公爵にしても、きっちりと人員を配置している事だろう。
「さて、改めまして。」
今回、アルゼオ公爵の求めている事というのは分かりやすい。
オユキとトモエ、こちらがマリーア公爵ばかりではなくアルゼオ公爵領にも。それと同様の事をアイリスにも。だからこそ、移動の時間だけに限らず、何かと理由を付けて、分ける事だろう。そして、それぞれに対して交渉を求めて来るだろう。アベルにしても、オユキとトモエがそのつもりが無い、現状難しい事を理解しているため、アイリスに対して国に対する配慮を求めるにも都合がいいと、それを受け入れる。
だからこそ、こうして、移動の間は基本的にトモエとオユキ、それから近衛が同じ馬車となる。それこそ目的地が近づいたり、危険地帯に差し掛かれば、配置はまた変わってくるものだろうが。
「その、過日は少々言葉を選ばなかったこともあり。」
「いいえ。」
今回護衛として預けられた近衛の一人、こちらはいよいよ王太子妃からとよくわかる。確かに信頼しているからこそ、己の生まれた国、そちらにもたらされる奇跡を確実にと。今度ばかりは確かな信頼がある、その前提の上で両者が納得しての事として。
「外から見て、直ぐに分かる。それがただ事実であったのでしょう。」
「見て判断したというよりも、状況からというものではありましたが。」
ニーナ・ローズ・プチクレール。かつての闘技大会では、アイリスの刃の前に斬り捨てられた人物であり。オユキが王太子妃だけを慮って発した言葉で、心を抉られた相手でもある。
「あの場には、やはり同様の想いを持たれていた方が多く居られたわけです。改めて、浅慮でした。」
「神々の前で、疑う余地のない場のご用意を頂けました。必要な流れ、そうであったのでしょう。」
「不要という訳ではない、その程度ではありましたから。」
「つまり、少ない機会を、そう言う事ですか。」
当時のオユキは、まぁ色々と利益となるものは運んだが、何処まで行っても突然現れた異邦人でしかない。そうして一度は遇するだけのものは色々あったが、所詮はそれだけ。あくまで一度で十分な物でしかない。実際に、それ以上と信じる者達が居たとして。
「流石に、私たちも忙しかったこともあり。」
「思うところが無かった、そうはやはり申し上げられません。しかし、終わってみれば、御身の言葉を考えれば、確かに他に無かったのでしょう。」
当時は、それはそれは忙しかったのだ。
王城に上がるには、当然かつての世界でもそうであったように、身に着けるべき振る舞いというものがある。それを振るい格式と呼んで軽んじる事は出来るのだが、用はそれを守ってきた人物、背景、その全てを軽んじるという事だ。過去とした、それを認めぬと声を上げたオユキとトモエが行っていい振る舞いではない。
だからこそ、他になすべきこと、討つべき手を必要とすることが多い中でも、どうにかこうにかこなしたのだ。年長者としての責務としてというのも、そこには大いにあったが。
「同じ状況であれば、同じことをしたでしょう。ですから、行為そのものではなく。貴女の誇りを傷付けた、そのことに謝罪を。」
「許す、というのもまた違うように思います。確かに私は王太子妃様の信頼を、当時得られていなかった。それがただ事実。ですから、得難い機会を与えて下さった、それにただ感謝を。
頂いたお心配り、以降は王太子妃様もきちんと休まれておられます。」
そうであるなら、まぁ、良かったのだろうと。トモエがその言葉に頷いているからと。
「ニーナ様はともかく。」
「お初にお目にかかります。」
そしてもう一人は、明らかに人ではないと分かる特徴を備えた相手。
「ナザレア・ガセラ・アラザンと申します。どうぞお見知りおきを。武力という意味では、足手まといでしかありませんが。」
「種族として、周辺の警戒をという事なのでしょう。危険地帯を抜ける事には違いないわけですから。」
「いえ、そちらよりも身の回りの事をと。」
今この状態にしても、言いたいことがあると。目が口ほどにものを言っている物だが、オユキはそれを聞かなかったことにする。流石に馬車に乗り込むまでは、あくまで公としての仕事ではあるため、きちんと仕事着を着込んでいたが、移動の間はそれでは疲れるからと今はすっかり楽な格好に。いつも通り、そう言えば聞こえは良いが、結局はこちらに来て散々に馴染んでいる長袖長ズボン。
「ニーナ様は、王太子妃様からと分かりますが。」
「はい、私は王妃様から。ニーナとは普段の職責も異なりますので、ご不便をおかけすることもあると思いますが。」
「手を借りられる、それだけで十分すぎるほどありがたい事です。」
能力という意味では、最高権力者と呼んでも良い人物からお墨付きを与えられているような人物だ。そんな人材を側仕えとして借りられる、実に有難い事ではある。これで入れ替えが無ければ言う事は無いのだが、そればかりは望みすぎというものだろう。既にオユキが今後について触れた事もある。それを望めば、誰も彼もが口をそろえて同じことを言うだろう。
「戦闘という意味ではともかく、目も耳も、私たちとは比べものにならないものが。」
「種族としての物ですから、自覚はあまり。同族であれば、誰でも出来る事ですし。」
人以外の特徴を持った生き物。その人物が思い当たるところが無いと、そのように言うものだが。アイリスにしてもそうであるように、種族ごとの特徴というのは間違いなく存在している。
かつて、プレイヤーが人しか選べなかった、何度死んでも問題が無い、そう言ったあまりに冗談じみた能力を与えられた事と釣り合う形として。
「お二方には、何かと。」
「前任者から、申し送り事項もありました。」
「そうですね。私としては、もう少し整えてからとしたい物でしたが。」
移動を急ぐわけでは無い。それは事実でもある。しかし、のんびりと移動するかと言われれば、そんなわけもない。先方の準備を待つ機関なども存在するが、それについてはある程度距離が近づかない事にはどうにもならない。さもなくば、意味もなく時間だけが過ぎるのだから。
「荷物の少ない方々なので、道々揃える様にと言われていますが。」
要は、オユキとトモエが使うための馬車、その内部にあれこれと荷物が詰め込まれることが無かった理由が、それであるらしい。この機会にあれこれとかって、身の回りの物、今後も間違いなく使う馬車の籠であり、王家が用意した物。その内部を整えよと。
「一応、衣装なども、今度ばかりはある程度。」
「オユキ様、如何に内部が広がったとはいえ、それでも馬車数台分でしかありません。」
「ええと。」
寝台を持ち込み、簡単に飲み物を楽しむ机を置いても、まだゆとりのあるほどの広さ、それが一角でしかない大きさの籠。それをしてたかがと言わんばかりのナザレアの言葉には、オユキがどうしてもたじろぐ。元々、クローゼットの一つもろくに埋まらぬ様な、そのような数でしかなかったのだと。
「あの、オユキさん。私が季節に合わせて入れ替えていただけですから。確かに、この馬車一つという程はありませんでしたが。」
「おや、そうなのですか。重ねる物が変わるだけかと。」
「それにしても、季節によって変わりますから。」
オユキの認識がそうであったとして、それはあくまでトモエが整えた結果でしかない。そもそも季節ごとに使うべき色も変わる。生地も違う。そう言った細かい所にはまったく頓着しなかったため、そういった一切はトモエが行っていた事でもある。
「それもあって、トモエ卿に任せる事に抵抗が無いのですか。」
「まぁ、そうですね。」
オユキが平然とトモエに着替えであったり、己の意服を任せる事に度々難色を示されてはいる。それこそ、オユキからしたら過去もそうであったから、その延長でしかない。挙句の果てには、慣れない衣類も多い為、どう身に着けるかもよく分からない。そして、トモエが知っているのであれば、まぁ構わないだろうと覚える気もない。トモエがそうしてオユキの世話を焼くことを楽しんでいる、それもある。
「なんにせよ、道中、時間はある程度あるわけですから。」
ナザレアの不満。それについてはマリーア公爵夫人からも、散々に言い含められている。
各町で、という程でもないが、主要な場所では補給などもあり相応に時間を取る。その間に、少しくらいはあれこれと用意しろと。今は別の馬車に、オユキよりも猶の事そういった事を厳しく言われたカレンが、それなりの財と共について来ていることもある。
そして、オユキとして分かりやすい、納得のしやすい理屈として、用意した予算を使い、アルゼオ公爵領に対しても、ある程度の影響力を確保して来いと、そう言った言外の圧力も。
マリーア公爵とアルゼオ公爵。この二つの家の間で、これから大いに政治闘争が始まるのだ。隣国との関係性、その着地点を巡って。
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