憧れの世界でもう一度

五味

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16章 隣国への道行き

一纏め

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人口の多さ、参加者の多さ。果たして群衆の制御というのは、随分と長く研究されていたものだが、凡そ結論として暴走する前に。結論としては、確かそのような物であったか。そんな事を少し高い位置から眺めながら、オユキはついつい考えてしまう。そこで互いにどうこうと、僅かにこの機会にと良くない動きを見せる者達もいるが、そちらはいよいよ厳重な警備に阻まれている。

「収集は、つくと良いのですが。」
「それこそ騎士たちに任せて、強制するしか無かろう。」

その騎士達にしても、少しの時間で数名は既に始まりの町でも見た蛮族スタイルに落ち着いている。王都周辺、強力な魔物もいれば、種類も始まりの町に比べてやはり多い。輪をかけてと、そう言ってもいい有様だ。

「それにしても、己の目で見なければ信じられぬ、そのような事ばかりが起こるものだ。」
「それだけ、当たり前としていた、軽視していたという事でしょうとも。」
「耳の痛い話だな。」

この国の上位層が一堂に会している場だ。己の得た功績を称える相手に困る事など無いからと、見渡す限り、まさに狩猟祭というような有様だ。オユキとしては、効率のいいなどと評された場所が、度々こうなるのを見た者だと、随分と懐かしさを覚える。そこを独占しようと動こうとする者達、それに対しては明確な功績を得るにはどうすればよいのか。あまりにはっきりとした回答が存在している。
過去、製作者たちの苦渋の決断。そこにあった物。元々組み込まれた対応策というのは存在していたが、結局のところ遊戯に耽る者達から神々というシステムを動かすだけの者は終ぞ生まれなかったという事であるらしい。それについては当時のプレイヤーたちから、そのようなことまでシステムに組み込まれているなど考えもしないと、返ってくるものだろう。同時に、よくもそこまでと呆れと称賛の入り混じったものがしっかりと含まれることだろう。

「さて、後事は早々に任せるとしまして、私は為すべきを為しましょう。」

オユキの方でも、勿論やらねばならぬ事はまだ残っている。祈願祭、実際の内容は誓願になるが。
国王その人は、既に神々に伺いを立てているということもある。そちらに際して介入が無かったのは、その前提があってこそ。では、何故今はと言えばアイリスの仕事が終わるのと、オユキの方で切欠を用意するのを待っての事だろう。そのアイリスも、今ではすっかりと人仕事を終えて結界の中、あれやこれやと持ち込まれる物を存分に平らげている。ならば、まぁ、良いであろうと。事を起こせば、どうした所でオユキはこの場をさがる必要が出て来る。アイリスが残っていれば、言い訳も経つことではある。

「さて、皆様方。それぞれの事に忙しいとは思いますが、新しい祭り、そうであるならと、そう言うこともあるのです。」

オユキはどうした所で、こういった祭祀の中で目立つのは無理がある。

「私から、王太子殿下にお伺いしたいこともありますので。」

長い黒髪、確かにそれはこちらの国では大いに目立つ。しかしそれはある程度目が集まっていれば。こうして各々がそれぞれに動き回り、討伐した魔物がそのまま残った物を持ち歩きだしてしまえば、埋没するようなものでしかない。

「祈りを、誓いを新たに。その成就を見守ることを望むのであれば、改めて行うと良いでしょう。生憎と、誰彼構わずとはいきませんが。」

こちらの世界では、神々というのが人に近しい存在である。オユキはそう考えていた。
当然、かつての世界に比べてという事であれば、平均値ははるかに上回っているだろう。だが、それでもやはり遠いのだ。神々の奇跡は身近にある。教会が確かな、一国の王を超える様な権限を持っている。だが、それでも多くの人にとっては、やはり遠い。祭りが忘れられる。確かにあった奇跡の形が忘れられる。それほどに。確かな思いがそこにあれば、与えられるものがあるというのに。

「苦労を掛けるな。」
「いよいよ、それを否定するのも難しくなってきましたね。」

王太子とオユキ。それからマルタの三人しかいない場。空きは十分以上に存在している。

「では、王太子殿下。お尋ねしましょう。」

しかし、今となっては空いた空間が埋まる。
オユキは目立つのが難しい。それを叶えようと思えば、相応に剣呑な気配を放って見せる事も出来ない事は無いが、この場に似つかわしいものでもない。であるなら、どうするのか。回答はあまりにも簡単な物だ。先の嫌疑を晴らすための場、そこで行った事と、同じことをしてしまえば良い。
空いていた席は、今は6柱の神がそれぞれに。

「翌年には、譲位があるのだとすれば、ええ、さぞお忙しい事でしょう。」

家庭と仕事。それは、何処まで行っても相反するものになっている。極稀に、どちらも同じ場とすることができる者もいるが、ほとんどは違う。仕事の場と、家庭は距離がある。仕事に向かうという事は、家庭の場から離れる事を意味する。オユキがトモエとの時間を過ごす場所、そこが仕事場と近いという事を嫌うように、離されるのだ。

「簡単な事ではありません。私も、まぁしっかりと原因を担っていますが。」

難しい子供、それを抱えた上で。王太子妃も翌年には王妃だ。魔国との国交の形を模索するとなれば、彼女にしても多忙を極める。己の生国、そことの関係をどう構築するのか。自国を優先しながらも、そう言った計算があった上で置かれた人員として、何処までも難しいかじ取りを行わなければいけない。そのような状況でも、次代の王、そちらにも手が抜けない。王太子にしても、それこそ国内の事を、王の決定もあり一度全てひっくり返ったような有様になる国内をどうにかしなければならないのだ。五公の内三つは協力を望めるだろう。サクレタ公爵家は、既に引き返せる状況にない為、離反が確定している。漏れ聞く話を元に考えれば、そちらは周囲に向けて無理を行う事だろう。そして、神国に助けを求める者がどれだけ生まれる事だろうか。

「まぁ、難しい事ではある。」
「あら、諦めるのかしら。」
「それは断じて無い。」

華と恋の神が揶揄うように王太子に笑いかければ、神相手であろうと、そうだと分かる物であっても王太子の反応は強いものになる。

「難しい、ただそれだけで諦めてなる物か。その程度我が生まれてこれまで、どれだけあったか数えるのも面倒なほどだ。」

それは、言葉以上の物だろう。現国王の兄が他国の公爵に。王太子の妻は他国から。他との関係を優先しているようにしか見えず、ではなぜそうなったのか、それを考えればというものだ。それほどまでに汚染というものが深刻であり、それに対策をしなければならない国には人材を送り出し。神の敵と断じられるような相手の盾になる位置にある国に対しては、協力を惜しまぬという意味で。

「この場だからこそ、改めて宣言しようとも。我が妻は、少なくとも正室は今後も間違いなく変わらぬ。継承権という意味で、第二子が生まれて以降、資質を見た上で考える事もあるだろう。が、それでも我が長子であるものが現状第一位だ。」

それをこれまで言う事すらも出来なかったはずの人物が、改めて宣言を行い。そこにある確かな愛情を今後も変えぬと誓う。

「巫女様。」
「ええ。流石に堪えますね。」

先に戦と武技の神を降ろした時に、確かな違和感があった。
これまで、散々に行った事であり、そこではアイリス程の負担を感じる事もなかったというのにと。
要は、神がその姿を見せる相手の数、それに応じて負荷も変わる物であるらしい。誰の目にもわかりやすい、そのような形で奇跡を望めば、それに応じてと。何とも分かりやすい厳しさを示してくれるものだ。
前回にしても、今回にしても分かりやすい役割分担が行えていないというのも、実に大きく影響しているのだろう。アイリスも大仕事を終えたばかり。オユキにとっては予測はでないが、愉快な食欲を見る限り、向こうも枯渇一歩手前の状態であることには違いないだろう。

「数日後には、出立が。」
「お飾りとして座っておくか、代理を立てるというのが良いでしょうね。」

現状のオユキの身体能力というのは、実のところ非常に低い。
明確な目標を持ってしまっている。時間制限のある中で、トモエに追いつくのだと、超えるのだという目標が。その達成を考えたときに、オユキ自身が己の身体能力では難しいという思考が存在している。だから、オユキに与えられる加護はそちらに向かう。加護があるのであれば、マナが十分であるのならば、問題が無いという以上に動けるようにと。そして、日常の中でもある程度そちらを頼むことになるために、身体の、素の能力の強化という点で遅れが出る。急いては事を仕損じる、それが何処までも事実だと突き付けるように。

「後の事は、お任せしますね。」
「御身を任される、その信頼は必ず裏切りませんとも。」

既に王太子の宣誓、その言葉もオユキにはほとんど届いていない。神々の時間制限、それについてはオユキが意識を失ったところで進むだけを、きっちりと限界まで徴収されている。なので、切欠を作った人間は、もう退場しても問題が無い。後の事は、残った者達が存分にとするものだろう。トモエからも、存分に徴収される事でもあるのだから。

「では、まぁ。中座の言い訳なども任せる事となりますが。」

別の問題点とでも言えばいいのだろうか。季節が冬になったこともある。これまで感じていた、何処か重たい空気。呼吸だけで覚える様な胸焼け、そういった物が今はオユキから無くなっている。非常に過ごしやすい季節になっているのだ。暁を覚えずなどという言葉があるが、オユキにとってはまさに今の季節がそれでもある。ここまでの疲労、それを存分に癒せと言うかのように、眠気を覚える時間も長くなっているし、それに抗う事も難しい。
得意な属性、こちらでの名の由来が示すように、この季節はオユキにとっては非常に過ごしやすい。以前カナリアに頼んで部屋を整えて貰ったとはいえそれにも限界があったようではある。
常春の国だというのに、冬の厳しさを感じるほどではないというのに、オユキとしてはその辺り疑問に感じる者ではあるのだが。
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