549 / 1,235
16章 隣国への道行き
望まぬ仕事
しおりを挟む
領都について翌日。てっきり先日借りた屋敷かと思っていたが、今度は期間が短いこともあり公爵の屋敷でトモエとオユキは世話になる。トモエが鎧を送られた流れもあり、ファルコも興味を示した為、公爵の私財、その一部について改めて話を聞く時間が持てたりと、実に充実した時間を過ごせたものだ。
公爵本人にしても、直ぐに移動が控えているため、急ぎの仕事が無い事もあり、実にのんびりと。
「見覚えのある顔ですね。」
そして、それが終わればこうして月と安息から直々に言われた仕事を、オユキが行うという訳だ。
はっきりと気の進まぬ、そのような事を。
「相も変わらず、下賤の身が随分と不遜な事だ。」
「さて、事ここに至ってそのような振る舞い。気骨はあるのだと、そこだけは確かに評価できますが。」
覚えのある顔。以前教会で地に伏せながらも、何やら物を言い続けていた相手。
その人物が公爵家の庭先、手かせ足かせと、実にわかりやすい処置をされた上で引き立てられている。オユキの傍らにはカナリアが。そして、相手の少し後ろにはアベルが剣を抜いたうえで立っている。それこそ、この状況でここまでの悪態を付けるというのは才能だと、オユキとしては妙な感心をしてしまう。
トモエも参加を、そのような話もあるにはあったが、生憎と祈願祭の作法を覚えるためにと教会に向かう事になった。シグルドから、トモエに対して行うつもりだったと、そのような話があったと、教会から話が回ってきたのだ。では、その程度の我儘とも呼べないお願いに対して、快く引き受けた結果でもある。元々始まりの町では、オユキが主体として行いトモエは控えているだけのつもりであったのだが、二部構成になるのならトモエも勿論あれこれと確認がいる。
「改めて、貴方の主張を伺いましょう。先の出来事では、まぁ、聞き流していましたので。」
問答を行え、それだけを指示されているのだが、そもそも何についてかすらわかっていない。では、まずそれを行う為には最低限、相手の主張を理解せねばならない。
「ほう。寄生虫に使われるだけの木偶が、何を言うかと思えば。」
そして、そこから大いに目の前にいる人物の主張。恐らく彼に賛同する者達の、共通の思想というものが語られる。
「成程。」
「理解できたのなら、我にこそ頭を垂れるがよい売女。それからそこの木偶どもも。」
「いえ、理解したのは、現状あなたの語ったことです。そこに共感と言った物は、存在しえません。」
言葉も刃である。オユキには、その理解があり、振るう事を厭う事は無い。
問答という形式を果たせるかどうか、オユキの懸念は既にそれだけだ。それほど、目の前の相手の論理が破綻している。そもそも、前提が狂っている。
「さて、貴方は神々を寄生虫と呼びます。しかし、その枠の中に創造神様を含めているか否か、まずはそれを聞きましょう。」
「お前は、我の話を聞いていなかったのか。理解できるほどの頭すらないのか。」
「そう応えるのであれば、つまり含めているのでしょう。ならばあなたの言葉を使いましょう。」
生前の世界、そこのように認知されず、力を振るう事が無かったというならまだしも。そもそもオユキにしても、信じてなどいなかったが。
「創造神様、言葉通りこの世界をお造りになった神です。寄生虫、その定義に当てはまるのは、貴方も含めたこの世界に生きる全てです。」
余りに明確な造物主がいる。ならば己が世界の主だなどと、言えるはずもない。誰のものかと言われれば、無から作り出したその人物の者だ。これが加工したものであったり、そう言う話であれば、まだ他の原料の所有権に目を向ける事も出来るが。
「そんなものは、ただの自称ではないか。」
「ええ。そうですね。しかし明らかに我々の誰よりも優れた能力を持ち、それすら可能と思わせる相手でもあります。あなたの否定と、彼の神の自称。さて、どちらに説得力があるものでしょうか。」
そうして言葉を交わしながら、周囲をオユキは確認する。
予想はあった。何故オユキの仕事なのかと。そして、それは正しい事であるらしい。
こちらの世界に生きる者達、特に信心深い者達では、問答の余地が無いのだ。神の奇跡が身近に存在し、折に触れてそれこそ実に気軽に奇跡が振舞われるのだから。オユキにしても、必殺の一撃をトモエに叩き込まれ、目を覚ませば無かったことにはなっていたのだ。後遺症くらいはあったが。
「そうして、ただ唯々諾々とあの寄生虫共に従う貴様らが。」
「いえ、相応に口答えもこれまでしてきましたが。」
何となれば、激発して剣も向けたオユキが思わず言葉をこぼし、直ぐにそれを取り繕う。
「公爵様にしても、優先せよと言われた装飾を、もとより決めた相手にと贈りました。そして、それに対する咎めなどありません。」
そこで天秤にかけた相手が、同じ神だと語りはしないが。
「ただ命令され、それに従うだけではありません。勿論、信仰とは思想です。善悪の判断、それに影響を及ぼすことは当然あるでしょう。しかし、それにしても貴方がこうして生かされている、それを見るだけでも確かな自由があると、分かるでしょうに。」
神々が、正しく己の意に染まぬ全てを排する独裁者であるならば、そもそも、お前は何故生きているのか。オユキからの疑問に、相手の表情が消える。虚を突かれたとでも言うかのように、何を言われているかがわからないとでも言うかのように。
「自覚はありませんか。あなたは今、この町で暮らす者達にとっては、ただの罪人です。この場は、申し開きの場であり、酌量を与えるか、それを考慮する場なのです。」
「貴様は、我を誰だと。」
「繰り返しましょう。罪人です。それともあなたの言葉に合わせたほうがよろしいのでしょうか。」
そして、僅かな驚きから立ち直れば、ただただ怒りを向けてくる相手に対して。
「あなたは、害虫です。」
オユキにとっては、そのような存在でしかない。悪辣である、それにしても怪しさを覚える。ことこれに関しては、王都に向かったときに改めて確認をしなければならない。この世界が、世界として成立したのは、本当はいつであったのかを。そんな事を考えながらも、ただ率直に評した相手を見れば、口を数度開け閉めしているばかり。
「根底については、それ以上の論が無ければ次に移りましょう。何故あなたを敬う事がないのか、それについては、敬うべき能力を貴方が何一つ持っていないからでは無いでしょうか。」
トモエも、オユキも。初めてこちらに訪れたときに、何かと世話をしてくれた宿の少女。フラウにですら、敬意を払う。彼女は彼女の出来る事を行い、慣れぬオユキとトモエの事を気にかけてくれた。それを当然と出来る少女であり、勿論、誰にでもできる仕事であるのかもしれないが、それを行うのに面倒を感じる他の者達を助けていたのだ。ならば、敬意を払う。それがたとえ誰であろうと。しかし、この相手は。
「ええ、率直にお尋ねしますが。あなたは、何ができるのでしょうか。何をしたのでしょうか。」
これに対して、目の前にいる相手が返せるものなど二通りしかない。これまでを語るか、ここに至った事件を語るか。そのどちらにしても、評価することは出来ない。失敗しているのだから。過程を見る、それができる時間は既に過ぎ去っている。だから、賛同者がいるのだと誇らしげに語られたところで。
「さて、そのあなたに付き従うという人々、同じ考えを持つという方々。あなたを助けようと、僅かでもそのように動かれたのでしょうか。」
町を襲撃する、その企ては行われていた。少しでも、汚染を広げようと、今も蠢動している事であろう。色々と派手な事が有り、人々の心が神により傾いた結果、それももはやまともに行えてはいないと、そう聞いてはいるが。
「回答は、貴方から得るのは難しいでしょう。警備の担当者からは。」
「無い。」
「だそうです。それがあなたが持つ求心力、その現実です。」
舌鋒という刃で、ただただ相手を切り刻む。元々の予想通り、まともな問答に等なりはしない。論を戦わせるにしても、あまりに能力が足りていない。それも仕方ない事ではあるのだろう。所詮はこうして簡単に切り捨てられる相手だ。大本に近づけば、相応に長期の計画を立てているだろう相手であれば、もう少しまともな議論も成り立つのだろうが。以前、この領都で見た相手と変わらない。上辺だけを張り付けられたような思想でしかないのだ。まさに、論ずるに術がない、そのような物しか持っていない。
付随する、他の細かいこの人物の主張も同様に、ただオユキは切り捨てる。
木偶と呼ぶ、では、互いの行動を振り返り、どちらがそう呼ぶに相応しいのか。
神の加護を得るために、己の身を売る。そもそも労働に対して対価を払う。各々が出来る事を、それぞれがというのが社会という構造だと。
「これが、最後の疑問なのですが。」
そして、枝葉末節に至るまで相手の論を切り捨てていけば、この憐れな人物に重なる影がはっきりとオユキの目に映る。
「貴方は、確かにあなたの信じる者に尽くしたのでしょう。」
とにかく不快感を覚える、そんな色をでたらめに詰め込んだような、そんな物が。オユキが言葉を作り、ただそれを投げつける度に、トモエがただ醜悪と評した鳴き声ばかりを挙げている。
「その相手は、貴方に対して何か返してくれはしたのでしょうか。」
そんな事をするような存在ではないだろうと。ただ、誰かの足を引き、沼底に沈める事だけを望んでいる相手だ。見返りなど、用意できるはずもない。そんな余力があれば、ただ身内で食い合い、相争うだけ。かつての其処には、まぁなんと言えばいいのか、実に原始的な秩序というものもあるにはあったが。それこそ蟲毒の中、生き残りがというだけだ。少しのスリルを楽しみたい者達、その程度であれば可愛いものであったのだ。そう言った物たちは、まだそういった振る舞いを楽しんでいるだけであり、己を律することも実に徹底していた。そう言った物たちは、寧ろ市民権すら得ていたのだ。だから、そこからも、そう言った物たちからすらただ害悪とされた者達の集まりが、なにを返せるはずもない。
「思い当たるところは無いのでしょうね。汚染を広げ、信者が増えたところで、返せるものは無いでしょう。」
魔物を操るその技術は、伝えているらしい。ただ、それ以上は無い。行いに対して、奇跡を返さない。魔物を操る術にしても、それすらなければ、どうにもならないとまさに苦渋の決断なのだろう。
「ここまで、ですね。」
散々に切りつけた相手が、激昂からか倒れ伏したのをきっかけに、醜い色合いが離れ、逃げようとする。
「元凶を逃がすわけもないでしょうに。」
見えないと、そのように報告は受けていたが、今回はアベルの目にもはっきりと映っているらしい。
公爵本人にしても、直ぐに移動が控えているため、急ぎの仕事が無い事もあり、実にのんびりと。
「見覚えのある顔ですね。」
そして、それが終わればこうして月と安息から直々に言われた仕事を、オユキが行うという訳だ。
はっきりと気の進まぬ、そのような事を。
「相も変わらず、下賤の身が随分と不遜な事だ。」
「さて、事ここに至ってそのような振る舞い。気骨はあるのだと、そこだけは確かに評価できますが。」
覚えのある顔。以前教会で地に伏せながらも、何やら物を言い続けていた相手。
その人物が公爵家の庭先、手かせ足かせと、実にわかりやすい処置をされた上で引き立てられている。オユキの傍らにはカナリアが。そして、相手の少し後ろにはアベルが剣を抜いたうえで立っている。それこそ、この状況でここまでの悪態を付けるというのは才能だと、オユキとしては妙な感心をしてしまう。
トモエも参加を、そのような話もあるにはあったが、生憎と祈願祭の作法を覚えるためにと教会に向かう事になった。シグルドから、トモエに対して行うつもりだったと、そのような話があったと、教会から話が回ってきたのだ。では、その程度の我儘とも呼べないお願いに対して、快く引き受けた結果でもある。元々始まりの町では、オユキが主体として行いトモエは控えているだけのつもりであったのだが、二部構成になるのならトモエも勿論あれこれと確認がいる。
「改めて、貴方の主張を伺いましょう。先の出来事では、まぁ、聞き流していましたので。」
問答を行え、それだけを指示されているのだが、そもそも何についてかすらわかっていない。では、まずそれを行う為には最低限、相手の主張を理解せねばならない。
「ほう。寄生虫に使われるだけの木偶が、何を言うかと思えば。」
そして、そこから大いに目の前にいる人物の主張。恐らく彼に賛同する者達の、共通の思想というものが語られる。
「成程。」
「理解できたのなら、我にこそ頭を垂れるがよい売女。それからそこの木偶どもも。」
「いえ、理解したのは、現状あなたの語ったことです。そこに共感と言った物は、存在しえません。」
言葉も刃である。オユキには、その理解があり、振るう事を厭う事は無い。
問答という形式を果たせるかどうか、オユキの懸念は既にそれだけだ。それほど、目の前の相手の論理が破綻している。そもそも、前提が狂っている。
「さて、貴方は神々を寄生虫と呼びます。しかし、その枠の中に創造神様を含めているか否か、まずはそれを聞きましょう。」
「お前は、我の話を聞いていなかったのか。理解できるほどの頭すらないのか。」
「そう応えるのであれば、つまり含めているのでしょう。ならばあなたの言葉を使いましょう。」
生前の世界、そこのように認知されず、力を振るう事が無かったというならまだしも。そもそもオユキにしても、信じてなどいなかったが。
「創造神様、言葉通りこの世界をお造りになった神です。寄生虫、その定義に当てはまるのは、貴方も含めたこの世界に生きる全てです。」
余りに明確な造物主がいる。ならば己が世界の主だなどと、言えるはずもない。誰のものかと言われれば、無から作り出したその人物の者だ。これが加工したものであったり、そう言う話であれば、まだ他の原料の所有権に目を向ける事も出来るが。
「そんなものは、ただの自称ではないか。」
「ええ。そうですね。しかし明らかに我々の誰よりも優れた能力を持ち、それすら可能と思わせる相手でもあります。あなたの否定と、彼の神の自称。さて、どちらに説得力があるものでしょうか。」
そうして言葉を交わしながら、周囲をオユキは確認する。
予想はあった。何故オユキの仕事なのかと。そして、それは正しい事であるらしい。
こちらの世界に生きる者達、特に信心深い者達では、問答の余地が無いのだ。神の奇跡が身近に存在し、折に触れてそれこそ実に気軽に奇跡が振舞われるのだから。オユキにしても、必殺の一撃をトモエに叩き込まれ、目を覚ませば無かったことにはなっていたのだ。後遺症くらいはあったが。
「そうして、ただ唯々諾々とあの寄生虫共に従う貴様らが。」
「いえ、相応に口答えもこれまでしてきましたが。」
何となれば、激発して剣も向けたオユキが思わず言葉をこぼし、直ぐにそれを取り繕う。
「公爵様にしても、優先せよと言われた装飾を、もとより決めた相手にと贈りました。そして、それに対する咎めなどありません。」
そこで天秤にかけた相手が、同じ神だと語りはしないが。
「ただ命令され、それに従うだけではありません。勿論、信仰とは思想です。善悪の判断、それに影響を及ぼすことは当然あるでしょう。しかし、それにしても貴方がこうして生かされている、それを見るだけでも確かな自由があると、分かるでしょうに。」
神々が、正しく己の意に染まぬ全てを排する独裁者であるならば、そもそも、お前は何故生きているのか。オユキからの疑問に、相手の表情が消える。虚を突かれたとでも言うかのように、何を言われているかがわからないとでも言うかのように。
「自覚はありませんか。あなたは今、この町で暮らす者達にとっては、ただの罪人です。この場は、申し開きの場であり、酌量を与えるか、それを考慮する場なのです。」
「貴様は、我を誰だと。」
「繰り返しましょう。罪人です。それともあなたの言葉に合わせたほうがよろしいのでしょうか。」
そして、僅かな驚きから立ち直れば、ただただ怒りを向けてくる相手に対して。
「あなたは、害虫です。」
オユキにとっては、そのような存在でしかない。悪辣である、それにしても怪しさを覚える。ことこれに関しては、王都に向かったときに改めて確認をしなければならない。この世界が、世界として成立したのは、本当はいつであったのかを。そんな事を考えながらも、ただ率直に評した相手を見れば、口を数度開け閉めしているばかり。
「根底については、それ以上の論が無ければ次に移りましょう。何故あなたを敬う事がないのか、それについては、敬うべき能力を貴方が何一つ持っていないからでは無いでしょうか。」
トモエも、オユキも。初めてこちらに訪れたときに、何かと世話をしてくれた宿の少女。フラウにですら、敬意を払う。彼女は彼女の出来る事を行い、慣れぬオユキとトモエの事を気にかけてくれた。それを当然と出来る少女であり、勿論、誰にでもできる仕事であるのかもしれないが、それを行うのに面倒を感じる他の者達を助けていたのだ。ならば、敬意を払う。それがたとえ誰であろうと。しかし、この相手は。
「ええ、率直にお尋ねしますが。あなたは、何ができるのでしょうか。何をしたのでしょうか。」
これに対して、目の前にいる相手が返せるものなど二通りしかない。これまでを語るか、ここに至った事件を語るか。そのどちらにしても、評価することは出来ない。失敗しているのだから。過程を見る、それができる時間は既に過ぎ去っている。だから、賛同者がいるのだと誇らしげに語られたところで。
「さて、そのあなたに付き従うという人々、同じ考えを持つという方々。あなたを助けようと、僅かでもそのように動かれたのでしょうか。」
町を襲撃する、その企ては行われていた。少しでも、汚染を広げようと、今も蠢動している事であろう。色々と派手な事が有り、人々の心が神により傾いた結果、それももはやまともに行えてはいないと、そう聞いてはいるが。
「回答は、貴方から得るのは難しいでしょう。警備の担当者からは。」
「無い。」
「だそうです。それがあなたが持つ求心力、その現実です。」
舌鋒という刃で、ただただ相手を切り刻む。元々の予想通り、まともな問答に等なりはしない。論を戦わせるにしても、あまりに能力が足りていない。それも仕方ない事ではあるのだろう。所詮はこうして簡単に切り捨てられる相手だ。大本に近づけば、相応に長期の計画を立てているだろう相手であれば、もう少しまともな議論も成り立つのだろうが。以前、この領都で見た相手と変わらない。上辺だけを張り付けられたような思想でしかないのだ。まさに、論ずるに術がない、そのような物しか持っていない。
付随する、他の細かいこの人物の主張も同様に、ただオユキは切り捨てる。
木偶と呼ぶ、では、互いの行動を振り返り、どちらがそう呼ぶに相応しいのか。
神の加護を得るために、己の身を売る。そもそも労働に対して対価を払う。各々が出来る事を、それぞれがというのが社会という構造だと。
「これが、最後の疑問なのですが。」
そして、枝葉末節に至るまで相手の論を切り捨てていけば、この憐れな人物に重なる影がはっきりとオユキの目に映る。
「貴方は、確かにあなたの信じる者に尽くしたのでしょう。」
とにかく不快感を覚える、そんな色をでたらめに詰め込んだような、そんな物が。オユキが言葉を作り、ただそれを投げつける度に、トモエがただ醜悪と評した鳴き声ばかりを挙げている。
「その相手は、貴方に対して何か返してくれはしたのでしょうか。」
そんな事をするような存在ではないだろうと。ただ、誰かの足を引き、沼底に沈める事だけを望んでいる相手だ。見返りなど、用意できるはずもない。そんな余力があれば、ただ身内で食い合い、相争うだけ。かつての其処には、まぁなんと言えばいいのか、実に原始的な秩序というものもあるにはあったが。それこそ蟲毒の中、生き残りがというだけだ。少しのスリルを楽しみたい者達、その程度であれば可愛いものであったのだ。そう言った物たちは、まだそういった振る舞いを楽しんでいるだけであり、己を律することも実に徹底していた。そう言った物たちは、寧ろ市民権すら得ていたのだ。だから、そこからも、そう言った物たちからすらただ害悪とされた者達の集まりが、なにを返せるはずもない。
「思い当たるところは無いのでしょうね。汚染を広げ、信者が増えたところで、返せるものは無いでしょう。」
魔物を操るその技術は、伝えているらしい。ただ、それ以上は無い。行いに対して、奇跡を返さない。魔物を操る術にしても、それすらなければ、どうにもならないとまさに苦渋の決断なのだろう。
「ここまで、ですね。」
散々に切りつけた相手が、激昂からか倒れ伏したのをきっかけに、醜い色合いが離れ、逃げようとする。
「元凶を逃がすわけもないでしょうに。」
見えないと、そのように報告は受けていたが、今回はアベルの目にもはっきりと映っているらしい。
0
お気に入りに追加
456
あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw
かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます!
って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑)
フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。


称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる