憧れの世界でもう一度

五味

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16章 隣国への道行き

会議という名のお茶会

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「ほう。以前試したものに比べれば、随分と。」

あれこれと話し込めば、当然喉が渇く。
オユキからの手土産としたものが、早速この場でも出されている。

「俺としちゃ、物足りなさもあるが。」
「アベルさんにとってはそうでしょうね。」

オユキとしても、アベルと同じ気持ちを味覚が変わらなければ、間違いなく持ったことだろう。
しかし、しっかりと変化があり、せっかく公爵の手配で持ち帰った物を焙煎し、挽いただけでは常の物とするにはかなり難しく感じられた。そこでアルノーとあれこれと手を加え、ようやく完成を見た物が今は基本的に使われている。

「アルノーさん用として、そちらの用意もあると思いますので。」
「ああ。異邦の区分じゃ、ほとんど同じでみたいだからな。カルヴァドスまで一緒に出してくれたが、流石に俺が昼間から飲むわけにもいかん。」

最初は、オユキのうろ覚えの知識から、愉快な量の砂糖を投入した。しかしそうしてしまえば、やはり何か違うとなり、細かい調整やどう扱うのか。食事の席には、必ずと言って言い程ついて回る飲み物でもあるため、より詳しいアルノーが細かい所を引き受けてくれた。その合間に、彼にしても、己の好むものの追及はやめる事もなかったが。

「カルヴァドス、ですか。こちらではあまり蒸留酒の類は。」
「少ないってだけで、あるぞ。」
「オユキさんには、まだ早いですから。」

ワインとエール位しか見なかったと、オユキがそう零せばトモエからきちんと目に入らぬようにしていたのだと。
そもそも、相応以上の経験を積んだ料理人、何となれば製菓でさえも得意ではないと言いながら行う相手だ。探さぬわけもない。そして、しっかりとそういった物を使う料理とて食卓には並んでいた。

「そう言えば、酒量は過ごせぬのであったか。となれば、さて。」
「公爵夫人を後見に頼むのが、いいんじゃないかとはおもうが。」

新年を祝う会、そのような物も当然予定されている。そして、そこではしっかりと出される飲み物もある。それこそ、配慮を見せる者もいるだろうが、それが弱い個所だとすれば、それを使って己の利を得ようとするものはどうした所でいる。酔いが回ると感じるよりも、その結果として早々に眠気を感じるが、それにしても問題がある。

「先々を考えれば、公爵夫人を常にともいかないでしょう。」
「まぁ、直近であるからな。」
「私が、都度奇跡を願いましょうか。」
「目立たぬならばとも思うが、いや、それも難しいか。」
「ええ。隣国についた後は、カナリアさんに主体としてお願いすることもありますから。」

魔国、知識と魔の神を崇める国。そこにたどり着いたときに、未だ公開されていない、誰かが既に得ている可能性は否定しないが、魔術文字と組み合わせを知るカナリア。それは、もう引く手数多では済まない騒ぎになるだろう。

「カナリアさんも、向こうに知己を得た方も居られるでしょうし。」

そもそも魔術師としての研鑽を、カナリアが何処で積んだかと言えば。それもあって、彼女の補佐をする人員が一人、それから個人的な護衛としてイリアが求められたこともある。色々と、それはもう色々と彼女の方でも予想があるらしい。

「私本人よりも、馬車を渡せるなら、そちらに興味を示すでしょうが。」
「それについては、まだ決まっておらんな。無論、魔国の陛下へ贈らせて頂く事は決まっておるのだが。」

では、魔術ギルドに実験用として供出するのかと言えば、まだそちらは議論中という事らしい。

「俺も流石に、その辺りは聞いてなかったが。何だってそんなに時間がかかってる。」
「門を魔国にまずはとする以上、それこそ他の奇跡は他国を優先するのが良いのではないかとな。」
「ああ。言われてみりゃ、それはそうなるか。」

ただでさえ、王太子妃を既に迎えている。そこで過剰に優先するそぶりを見せれば。順に回るのだと、そう説明した所で、まだ国交も始まったばかり。円熟した関係がそこには無く、難しさがそこに存在しているというものなのだろう。

「流石に、その辺りは私たちが口を差し挟むのは。」
「知らぬ以上は、そうであろうとも。」
「何度も要望としては、伝えさせて頂いていますが。」

そして、オユキからは改めて確認を。

「そちらについては、テトラポダから戻り、そこで確認を行うとして時間を作ればよいのだが。」
「一応、俺からも父上宛に手紙を出してはいるが。」

大前提として。こちらに対する配慮を省いたとして。
トモエとオユキの希望は、創造神を最後、その前に戦と武技だ。つまり、武国で立場を持つアベル、そちらに対して配慮を示す気は全くないと、その姿勢だけは崩していない。アイリスについては、知らぬ事であり、分かった以上は行うべきことを行うと、そう示す。旅程の確認を行った折に、どうした所で彼女の国許に向かうには武国の一部も通らねばならないのだが、素通りすると。神国の王族が公爵の立場を得ている国、それを後に回すという姿勢を一切崩しはしない。

「こう、急ぐ理由があるからと、神殿に寄らずにというのは。」
「その、トモエさん。そうなると、いよいよ先方にはそちらとの事は雑事だと、そう示すことに。」

本来の要は他にある。その道中にあるだけだから、そちらから取りに来いとしてしまえば、外聞が悪いどころの話ではない。

「そちらについては、我らの仕事でもある。得難い奇跡であり、その順序に本来であれば我らの意を差し挟む事こそがおかしな話ではあるのでな。」
「となると、試してはどうかと、そう言うものですか。」
「うむ。これについては、任せよとしか言えぬな。結論は誰もが分かっている。要は対外的な事をせねばと、それだけである。」

どうした所で、トモエとオユキがその意思を曲げるつもりがない。ならば、神々からは、それが正当とされると決まっている。だからこそ、意味のない議論を重ね、説得を試みた。しかし、そこに成果は得られなかった。そうするだけの時間を使わなければならないと、そう言う話だ。
いよいよそこに関わる者達にとっては、徒労と呼ぶしかない時間を過ごしてもらう事になるわけだ。そうした時間を過ごすこと自体が、説得に必要になるからこそではあるが。

「ま、それこそよくある話だ。」
「うむ。それこそ王兄殿下にお任せするしかない。」

なんにせよ、結論についてはそうなる。
そのために、王族がそちらの国に、勿論他にも理由はあるのだろうが、遇されているということもある。外交についてまでは、配慮はするが主体として動くつもりのないオユキとしては、掛けた手間の分は、補填をしなければ。それ以上の事は特にない。それが得意な物は、今は始まりの町で忙しくしている事ではあるのだ。

「そういや、他に要望はあるのか。」
「現状は、特にありませんね。いえ、次は流石に月と安息を考えていると、何度かお伝えさせて頂いていますが。」
「我も、理由は分かるのだがな。」

そして、公爵からは重たいため息が一つ。

「自国を優先するに否はない。また、我にしても彼の神より名を戴く家の一つでもある。」

手紙でのやり取りの中、オユキからそれを尋ねる事はしなかった。だが、疑問には思っていたのだ。自国を、それも何かと縁のある公爵が、優先しない理由は何であるのかと。魔国、王太子妃が生まれた国を優先すると決めたのは、それこそオユキであり、この国を支える者達からしてみれば、そちらにこそ何かあると考えていた。
国交が浅い事を考えれば、まぁ、何某かの配慮が常にいる、そう言った関係がようやくと、そう言った程度と考えていたのだが。

「その機会があるのであれば、王太子殿下と王太子妃様が何もしないという訳にはいかぬ。」
「ああ。」

放って置けぬ新しい王族。その守りの手を大いに借りている。良き信徒として、それ以外にも、我が子に対して与えられた物に親として。流石に何もなしとは出来ない。

「魔国に向かわれるよりは、困難がないかとは思いますが。」
「職分の問題であるな。陛下が国内をというのがこれまでであった故な。」
「それこそ、門が用意できて唐戸いうのは。」
「既に得た奇跡に対して、そうであるのに新たな物を使ってというのはな。」

そうして、話を聞けば、オユキにも理解が及ぶ。
他国には、既に話をして回っている。当然、それが必要だからではあるのだが、結果として対応すべき事柄が増えている。本来王太子が行うべき職務が。月と安息の神殿。近いとはいえ、始まりの町からは一月ほど、急げばさらに短くなるが、王都からはそれでも二月はかかる。そんな距離。時期によっては、それこそちょうど他国からの使者が大挙して訪れる、そんな時節に、対応すべき責任者が不在というのは、やはり色々難しいと、誰も彼もが頭を抱えているという事らしい。

「王太子殿下が国内を動くわけでもある。そうなると、あまり急ぐのも難しくてな。」
「始まりの町まで、門を使ってというのは。戻る道は、間違いなく使うでしょうし。」
「試しが終われば、陛下にまずは利用して貰わねばならぬ。」
「となると、魔国との調整次第となりますか。」

この世界には身分が、厳然として階級が存在する。ならば、言葉は悪いが人柱として教会の子供たちを使った後、次に使うのが誰でなければならないのか。そんなものは、決まっている。安全が確認されたのなら、この国の最高責任者となる。ただ、そこで始まりの町に、ふらりという訳にもいかない。そこまで暇な人物ではないのだ、当然のことながら。

「そうですね、それについては、まだやりようもありますから、私も向こうでそのように動きましょうか。」
「アベル。」
「ま、きっちりこっちで見ておくさ。」
「相も変わらず、信頼の無い事ですね。」

そうして、のんびりと話していればそれぞれのカップの中身も空くというものだ。なんで私を巻き込むのかと、それを聞かせるのかと、実に胡散臭いものを見る視線がカナリアから向けられているが、そんな事は決まっている。
知識と魔の国。それが関する通りであるならば、求めるものなど決まっている。そして、所有権はこの異邦の巫女が持っているとはいえ、暮らす場を決めている者達だ。餌として使い、食いついたところで、必要な話は相応の者の間でしかできぬと、そう纏めてしまえば良いと、それだけだ。

「ギルドというのは、隣国でも所属は。」
「うむ。変わらぬな。」

意図を確認しようと、端的にオユキが尋ねればすぐに返答がある。
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