憧れの世界でもう一度

五味

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15章 這いよるもの

何と呼ぶべきか

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罰を与えるべきものが、それはあまりに厳しすぎるのだとする説得、さて、それを何と呼ぶべきなのか。王都以来、二度目となるこの行為。前回はオユキはいよいよとりなす側ではあったが、今回はそうでは無い。判断を預ける事が出来る、伺うべき相手が離れているため今度ばかりは実にややこしい。
どういった結果になるにせよ、知らせるべきではない相手をアベルが教会に向かって連れ出した後。どうした所で存在する言葉の壁もあり、いないよりはましだとトモエも同行したため、オユキが決断を下すことになるのだが。

「流石に陛下の判断を仰がぬ事には。」

シェリアに伯父と呼ばれる相手だ。そちらからは、多少の不安も寄せられたがオユキが一度気が付き、そちらに目を向けて以降は完全に隠れてしまっている。

「アベル殿も同じ言葉を言われたでしょう。」
「それについては、私も庇うことくらいしかできませんが、しかし、ではこの場で任を解けと申されましても。」

責任者というのは、往々にしてそのためにいる。だからと言って、現状それが難しいというのも事実。任命責任の話をしようにも、そもそも借りている相手だ。

「確かに、側から外すことくらいは出来そうだとは思いますが。」
「巫女様が、正式に宣言をされれば。そもそも我らの誓いは。」
「それにしても、まぁ、守りたいものがいるのだと、その程度は分かりますから。」

直ぐに表情を隠したシェリアにしても。
何かと細かく仕事を頼んでいる相手。アイリスはそもそも他国の貴人、側に付けられたとして、まさに本分というものだ。タルヤはシェリアの補佐と、長く王家を守った戦力として。では、監督役が必要なシェリアはと言えば。他の者達と同じという事だ。
わざわざ確認する気もないが、シェリアの身内、ローレンツではない誰かが王太子妃に疑いの目を向けたのだろう。それを疑問に思いながらも、止めきれなかった。その辺りの流れだろうと、オユキとしても判断している。

「オユキ様のこれまでのなさりよう、それを見た上で己の都合を持ち出した者共です。もはや慈悲など。」
「こう、気安さを私が求めた結果でもありますから。とりあえず、現状では何をするつもりもありません。しかし、それを求めた者達は、川沿いの町には向かわせないとしておきましょう。」

現状オユキが得た奇跡、それを守るには、目を離すには不足があるものとして。ただ、そうなると他の問題として。

「ただ、ローレンツには向かってもらわねばならないのですよね。」
「アベル殿が動かせませんか。」
「直ぐに片を付ける訳にも行きませんから。」

指揮を間違いなくとれる人間は二人。配置したい場所も二カ所。ならば分けるしかない。他の場所については、あくまで善意として少々動かすと話は聞いているが、そちらはいよいよまた貸しに近い形式であり、現地での指揮はそれこそファルコが取れるところはファルコが、他はメイの下にいる人員でとなる。追加で明日明後日にはマリーア伯爵がこちらに来ることもある。戦力はやはり十分以上だ。そして、特に重きを置かなければいけない場所については、アベルが拾った少女の世話をしなければいけないため、この町から離すわけにもいかない。

「雑事も兼ねてとしますか。」
「マリーア伯爵ですな。」
「ええ、現地で迎え入れる用意、一先ずそこまでです。これ以上は過分だと私は判断しています。」

それが甘いと、そう言われるのであれば、オユキが責任を取らねばならない事だと。

「オユキ様。」
「一応、自覚は持っているのです。」

ただ、あくまで寄せられる所を寄せたとして、何処までもオユキの最後の判断基準はこれまでによるものだ。

「だから、まぁ、今後も人を選ぶでしょう。そして、それは何処まで行っても長く時間を使った相手、異邦から来て、こちらに基盤を持たぬ私たちですから、判断基準はそれだけですよ。」

アベルに向けた配慮にしても、それ以外にしても。それが許されぬ世界で生きてきた者達から見れば、随分と不安に感じるしかない物だろう。前の世界でも、当たり前のようにあったその環境。それが出来たのがミズキリであり、出来なかったのがオユキだ。だから自然と会社でそういった役割も生まれ、いよいよそう長くあったオユキには、その選択が難しい。

「人手が足りているわけではありません。ご存知のように持て余している財もあります。」

なので、最悪の場合についても、近しいものであれば、オユキとしては問題ない。

「ローレンツも、そこだけは遠慮のないように。」
「老骨に迄、お優しい事ですな。」
「年月で言えば、恐らく私の方が上ですよ。」

見た所60手前。オユキの方が見た目はともかく、長く生きている。何やらシェリアが驚いているのに、さて誰に伝えて誰に伝えていないのかと、そんな事も考えはする。なんにせよ、昨夜のうちにトモエと話、とにかく現状では事あるごとに疲れるのだと、そう言った問題意識は共有している。トモエはともかくとしても、オユキは疲労を隠すことができていない。苛立ちが表に出ているのだと、トモエにそれを制されるくらいには。
此処に至って、ケレスの言葉にしても、そう言った疲労が蓄積するような事を良くない癖として受け入れているだろうと、そう言った指摘の意味も込めてなのだと。オユキはトモエに言われて初めて気が付いた物だ。トモエにしてもいよいよではあるのだが、オユキにしても自分で考えるほど対人経験という意味では難しいものがあるのだと。対外的な交渉なども確かに多くこなしてきたが、互いに立場が先に立っての場面があまりに多く、細かいところはやはり他が担当する。社内の調整はと言えば、それこそオユキに変わって行うものも多かったし、初期の頃からの顔ぶれが、何処までもそばにいたのだ。
気安く、安心して頼める相手がいない場では、気を張って。その結果、すり減り、地金が。

「とにもかくにも、信頼できる相手は、側に必要だと思いました。」
「それは、そうでしょうな。」

ローレンツが実に深々と頷く。
戦闘を常としている人物なのだ。トモエやオユキが何処までの警戒を向けているのかは、そこまで共にいないとして、ある程度は伝わっているだろう。

「一応、シェリアさんには慣れてきてはいるのですが。」
「はい。それは私も重々。ただ、ここしばらくの忙しさもありましたから。」

休日の間、その少し前も含めて。なんだかんだと外出に付き合わせて、あれやこれやと時間を過ごす事が有った。そうした時間を長く持てば、やはり身内の意識が強くなり、徐々に気を許す部分が出て来る。しかし、いざ仕事が詰まってくると、そこに明確な役割が生まれていき、特に現状オユキの仕事場と周りにいる者達が切り離せないため、またそちらにと向かっていく。

「あの子供たちは、リース伯子女で本当に。」
「流石に、この町から完全にと、それを望まぬのは分かりますから。」

それ以外の選択肢が無いというのであれば、無理に連れ出してというのも選択するが、既にあの子供たちはそうでは無い。何となれば、ここですでに手を離したとして、後は自分たちで十分に歩いて行ける。手を引けば、より早く、他も案内ができるだけに過ぎない。

「と、言いますか。トモエさんは、領都の方を好んでいるんですよね。」

本人は口に出していないが、トモエはどうした所で始まりの町より、領都を好ましい場所と捉えている。そして、更に王都を。都会が好きかと聞かれれば、オユキもそれには首を振るし、トモエも違うと答える。以前は、始まりの町に帰ってきたと、そう感じるところがあると答えていたが、それこそ居を構えそこを整え始めれば、直ぐにそれも移る。だからこそ、一先ずここでとその話が出たときに、オユキが止めようともしたのだから。

「ほう。意外、という程でもありませんか。」
「私は、納得がいきますわ。オユキ様にも、そちらに興味を向けて欲しいと考えますが。」
「私とて、こだわりが無いかと言えば、そういう訳でもありません。」

トモエと比べてしまえば、確かに少ない。こちらで立場を持つ者達に比べれば、それこそ全くないと言っても良いほどの物になるだろうが。

「一応、トモエ様から伺ってはいます。しかし、なかなか難しく。」
「おや。」

そして、さしあたってオユキが求めているものを、トモエが既にシェリアに話しているらしい。

「その、オユキ様は書斎を求めるだろうと。」

最も、ものを書いたりするわけでは無い為、もっぱら書を嗜むばかりになる。ただ、シェリアの様子にローレンツがそれを訝しむ。

「どの家でもとは言わぬが、良くある部屋ではないか。」
「その、並べるべき書物が。」
「そうであったな。どうした所で、後に回しておるか。」

印刷技術というのは既に存在している。紙にしても質を選ばなければ、それこそ際限なく採取可能であるためオユキも仕事に際して全く問題なく利用することができる。だが、輸送の問題が何処までも大きい。電子書籍などあろうはずもない。書物というのは極限までコンパクトな形を持っているのだが、どうした所で重く場所を取る。他に運ぶべきものが多い中では、後に回さざるを得ない。
この町で取り扱っているものにしても、どうした所で数が少ない。そこかしこに印刷機がある訳でも無し、特にはやった物を、その時々好んでいた者が持ち帰り、並べられている。もしくは魔術師たちが知識を残すためにと書き置いている者しかない。後者については、そもそも基礎となる知識が全くないオユキでは、手も足も出はしないのだ。

「そちらについては、伯父さま。」
「そうですな、此度に対するものとして、さしたるものでもありませんが我が家の物を。」
「そちらについては、有難く。」
「しかし、それだけというのは。」

そして、オユキがそう言った物を好むのとは別に、トモエの方は小物を好んでいる。身に着ける宝飾品には全くと言って言い程興味を示しはしないが、部屋を飾ったりというのは喜んで行う。教会、領都の本教会もどこからともなく流れる水があったが、そちらよりも神殿に興味を示したように、アクアリウムを己の手で細かく世話をするほどには、そう言った細やかな物を好む性質だ。だからこそ、色々と不足が目立つこの町よりも、より水が身近にありガラス細工なども望める場所を好むというものだ。

「さて、話はそれましたが、皆の落ち度と、今回はそこに落とし込みます。各々としての反省は過剰とならぬように。実際の物についても、責任を取る必要があるものはいますが、それ以外は追求がないようにしますとも。」

そういった交渉であれば、オユキはまだやる気が起こるというものだ。
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