憧れの世界でもう一度

五味

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15章 這いよるもの

報告を聞く

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「調査を頼まれましたか。」

オユキの方で進捗が得られ、カナリアから少々細かく。多分に感覚的な物が多く、そもそも得意によって方法論も異なるのでやむを得ないと、結論を先に置かれながらも説明を受けた。それに基づき、簡単により効率よく取り込むためにはどうするのか、そちらにある程度時間を使えば、待っていた相手が戻って来る。
生憎とカナリアとトモエが、タルヤと共に私室に手を加えるための話し合いを行うからと、アベルの話を聞いているのはオユキだけになっているが。

「ま、流石にな。嬢ちゃんの方には、流石にそういった人材がいない。」
「前回にしても、ミズキリが向かっていましたしそれはわかるのですが。」

アベルが、この町の傭兵の統括をそれなりの期間行ってきただろう人物が引き受けた。それを考えれば、何やら方策があるかもとも思うのだが、オユキの動かせる、許可は勿論求めるとして、そう言った人員向きの仕事でないように感じられる。そもそも、今回メイに向けて貸し出す予定があるのは、騎士達だ。事前の調査、計画に基づいて作戦行動を行う者達。その相手に、頼むべきことなのかと。それこそ、前回と同じく、狩猟者ギルドの方で主導を行うと考えていたものだが。

「移動の手伝いだな。範囲の予測も現状ままならん。他の領地までは、流石に嬢ちゃんがやる事じゃないが。」
「ああ、そう言えば。メイ様が、代官として動かなければならない領地というのも。」
「とはいっても、リース伯に与えられる予定があった場所になる。此処と河沿い、鉱山の側、森を少し回り込んだ先に有る新しい町。町としてはこの四つだな。他に開拓拠点が10程あるが。」

オユキの執務室、王都で求めた地図にしても、そこまで細かい記載がされていない。それに、この周囲のどのあたりだろうかとオユキが視線を向ければ、アベルが許可を求めた上で、手早くそこに簡単な印を書き込む。

「よく覚えておいでですね。」
「流石にギルドも拠点には置かないからな。その辺りは近場の一番大きい所の管轄だ。」

地図に書き込まれた範囲。流石に国全域の地図ではなく、領都と始まりの町、それぞれを主体として用意を頼んだ地図だが、そこに話している間も明らかにそれ以外の拠点をアベルが置いていく。

「前回であれば、狩猟者ギルドで淀みでしたか。」
「今回についても、増加は確認されている。しかし。」
「初めての事であり、通常であるのか。その判断の指標も、まぁ確かに無いでしょう。」

アベルが地図に手を加える作業を終え、改めてオユキに視線を向けて来る。

「以前にも話したように、流石に年若く不慣れが過ぎる相手です。手を惜しむつもりはありません。」

騎士に対する指示、その裁量は流石にオユキにあるからとアベルの視線の意味は分かる。彼にしてもそれが必要だと、そう判断する事態ではあるのだし、ローレンツが同行に難色を示さなかった以上、実際に動く者達からの理解も得られる物だろう。

「しかし、私が預かった理由もあります。」
「優先順位だな。そればかりは仕方ない。」

では、判断しかねている理由が何かといえば、確かにある前提だ。

「河沿いの町、そこで必要だと判断する戦力の抽出をどうしても先に要請することになるでしょう。」
「今、ローレンツが行っている。」
「残った戦力については、最低限、この町の無事が叶えられれば良し。次点で他へ。それ以外は難しいでしょう。」
「まぁ、そうだろうな。向こうはやはり壁の外だ。どうする、お前とトモエで分かれるのか。」

言われてオユキはその案を少し考える。その選択肢も、今後を考えれば、始まりの町から、他へ流れを移すという発想の下で有れば、悪くは無いのだが。

「今回は無しでしょうね。私が戦場に立てません。汚染への対策手段が現状少ない為、メイ様の不安というのも分かりますが。」

その方法が見つかっていない。どうした所で襲い来る相手、魔物相手にそれが影響を及ぼしているかはわからないのだが、主犯、主導している者達への対処を行えば、寧ろ被害が広がるとそれが分かっているのだ。
それを抑え込めると分かっているのは、現状メイとオユキとトモエ。恐らくはアイリスも。この四人だけとなっている。道中、まったく気が付くこともなかったが、対処した結果として既に証明が得られている。

「王都での事を考えれば、それもあって急ぎましたか。いえ、王城には像を安置したわけですし。」
「まぁ、そうだな。おかげでかなり掃除が進んだとは聞いてる。」
「であれば、ミズキリやトラノスケさんに要所を頼むのが良いのでしょうが。」

前者は使徒であり、守りが堅いのは、アベルがそれを抜けなかった事実が示している。後者にしても、月と安息から直接守護を与えられている。

「どっちも知ってる身としては、頷きにくいんだがな。」
「河沿いの町を二人に頼むしかないでしょう。教会は今後水と癒しが出来ると分かっていますが、今は。」
「何とも優等生な判断で結構だ。」
「自分の手札として使いはしますが、借り物である事を忘れはしませんから。となると、メイ様の負担を軽減するためとなれば。」

ただ、前提として存在するもので固めてしまえば、今度は負担が慣れない相手に向かいすぎる。

「腹案にただ乗るのもとは思いますが、トモエさんと遠乗りに行きましょうか。布告はまだなのでしょう。」
「他に手が無い。すまないが。」
「ここでケチを付けられるわけにもいきませんからね。私も、メイ様も。」

此処で、何か大きな傷が生まれてしまえば。それこそ拠点の一つでも維持ができないといった事が生まれてしまえば。メイは統治者としての資質を容赦なく疑われることになる。彼女の身内だけならまだしも、そうでない相手も今はかなり多い。そうでなかったとして、報告の責務が存在するものが多い為、新年祭、恐らく追認を得るであろうその場で、責任の追及という題目の下で要らぬ雑音も増えるだろう。それについてはオユキとトモエも同じだ。教会の理解はある。しかし他もそうでは無い。王都の教会、異邦からの人物であり物を知らぬ者達、そこに閉じ込めて必要な事を学ばせろと、流石にそのままという訳ではないが纏めてしまえばそう言う主張をする相手というのも実に多くいたものだ。
この長閑な町に戻り、見慣れぬ顔からの挨拶を受ければ、やはり言外にそういった事を進めて来る相手も多い。この度の事の治め方、そこに不安の生む形としてしまえば、そう言った声も大きくなるのは間違いない。ただでさえ、始まりの町には戦と武技の名を冠する教会も無いのだから。

「アベルさんが、思いのほか私たちに配慮をして頂けるのも分かります。協力できる範囲であれば。」

アベル、継承権は持たぬとは言え王の兄、その令息であり他国、オユキとトモエが傾倒する道、その名を一部とはいえ頂いている国の公爵家、その令息でもある人物。だからこその、戦と武技その道に対する理解があり、配慮が得られているのだろう。それが分かるからこそ、オユキとしても彼がメイに対して配慮を求める様な、そう言った形で話を進めようとしている事が解れば、それに対して協力はしたいと考えはするのだ。

「まだ、屋敷を整えているような段階だからな。」
「そうなんですよね。」

独自の裁量権を振るうには、何処まで言っても用意が足りない。借り物でない人材など、今のオユキとトモエの手元にはいないのだ。極論、誰も彼もが己自身の主人であるため、そんな物は存在しないのだが。

「ただ、それを避けているようにも見えるんだがな。」
「今後は、どうなるものか分かりませんから。」

そこに存在するオユキの思惑、それに気が付いているとアベルから釘を刺されるがそれは、今はと流しておく。

「こちらから頼めば、どちらもまず断りはしないでしょう。そう言った意味では、狩猟者ギルド側から難色を示されそうなものですが。」
「それはそうだが、向こうもギルドだ。周囲に対しての対応も仕事だからな。」
「では、そちら向けにも一筆としましょう。」

ブルーノ、この町の狩猟者ギルドの長と顔を合わせたのは、狩猟祭以来となる。そちらも含めて、何やら非常に忙しそうだとそういった話は聞いている。とはいえ、随分と息の合った様子のミリアム、外見だけで言えば人にしか見えないが彼女を上に置くそぶりを見せる物も多く、過去の苦悩も知る言葉を放っていた当たり、相応に長命な種族と見える人物が、総合受付に立つ姿を診なくなったとそういった話を少年達から聞いてもいる。まさしく、これまでのブルーノの苦悩、そこで行い続けた試行錯誤の結果として彼を助ける人が多い証拠でもある。
だからこそ、そこに仕事が大量にといった流れが生まれもするのだが。

「アベルさんは、傭兵ギルドの方でも。」
「今後も考えて、今ルイスに任せるように話を進めていてな。正直間が悪かったとしか言えないが。」

では、アベルが本来籍を置いているギルド、そちらを動かす案が出てこないのはとオユキが話しを振れば、大きなため息が返ってくる。

「既存の方々は、ダンジョン向けに、そちらもまだ先かと。」
「マリーア公が既に動いているし、今回の切欠の嬢ちゃんがいるからな。此処で色々試せと言われていてな。」
「ルイスさんは、いよいよ傭兵以外の経歴もなく都合がいいのでしょうが。確かに、移行期間であれば。」
「協力しないわけじゃないが、やっぱ傭兵仕事だけのあいつだと、このあたりの手続きが難しくてな。俺らがいちいち口を出せば。」
「そちらにしても、時期尚早と判断する向きが強くなりますか。」

オユキからしてみれば、それもただの事実だとそう考えざるを得ない物だが。

「そういや、このあたりの事にはトモエも出張ってくるかと思ったのだが。」
「私がマナの感知で進捗があったので。」
「どこもかしこも、準備不足が目立つものだな。」
「実務など、往々にしてそのような物でしょうとも。」

仕事など往々にしてそのような物だ。オユキから言えるのはそれしかない。アベルからも苦笑いと共に、同意する向きがただ返ってくる。

「にしても、それで執務室もこの有様か。」

今はオユキの執務室、どうした所でマナを取り込みやすい形に変える等、さっきの今でできるはずもない。この部屋にしてもしっかりと存在感を否応なく主張する氷の柱が立てられている。今後を考えればと、難しい顔をされる筆頭が隠れる事もなく。
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