憧れの世界でもう一度

五味

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14章 穏やかな日々

休みの終わりに

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前日は乗馬を楽しみ、その後は特別何事もなく一日を終えた。
オユキもせっかくだからと手綱はシェリアに預けてではあるが、少しの間馬に乗って牧草地を散歩したりと、らしい休日を楽しめた。誘った相手にしても、体力という面では確かに負担があったのだろうが、いい気分転換にはなったようで、戻る時には楽し気な足取りで各々帰路についた。

「明日からは、一先ず先送りにしていた手紙の返事が続きそうですね。」

そして、明けて翌日。
今日は屋敷の中で過ごすと、事前に話していたこともある。日々の事として、軽く体を動かす程度は当然行っているが、それが終わればこうしてトモエと向かい合って座って、ただのんびりとしている。
そして、その席ではトモエとオユキが休んでいる分、その負担が全て向かった二人も同席して、明日からの事を確認している。休日に仕事の確認というのもどうかと、そう思わないでもないが結局直ぐに仕事に戻るためには、準備がいる。以前の世界でも散々に不平を貯めた仕組みではあるのだが、それをこちらにも持ち込まなければならないのは、色々とこれまでの出来事の結果として裁量権を色々と持っている以上は仕方がない。

「私宛にも、既にいくらか届いていますから。オユキさんはより多いでしょうね。」
「そうでもありませんよ。」

トモエ宛の手紙というのは、実際個別の物が多く、それなりに量が多い。何処に居を構えるか、その情報も出回っているため、時期を見て一度相手をという物であったり、王都に来た時にはという誘いであったり。トモエに届いてはいるが、そのほとんどは公爵に任せる事になるが、確認だけはいる類。他にも、公爵から言われた相手に少し時間を使ったこともあり、そう言った相手から無事に領都に戻ったことや、お礼であったりと一般的な物が多い。
しかし、オユキの方は色々と扱いが難しい相手でもあり、基本的に取りまとめ役が他にいるため領で見た時にはさして多くない。返事にかかる手間を考えなければという物だ。

「一先ず、私はそうするとして。トモエさんが別館をとのことですが。」

二人ではあまりに過分な大きさの屋敷ではあるのだが、やはりそれが必要になると考えられている。屋敷の中は客間に使用人、そういった部屋も多く、それこそ各部屋を小さくすれば用意はできるがそうでは無い為、意外と収納できる場所がすくない。あれこれと贈り物が届いていることもあり、今は確認が終われば全てそのまま細かい物は箱に入れて一まとめに倉庫にしまってとなっている。
今後も移動が多く、一気に人がいなくなる屋敷でもあるため、長期的に見れば問題が無いとトモエは考えていたが、オユキとしては土地も余っているし、いよいよ使う予定の無いもの、どう使えばいいのか分からない物は常の場から別に置いておきたいと考えてしまう。そして、その意見には家財の管理者二人が直ぐに頷く。

「良い案かと。」
「はい。正直贈り物が今後も届くことを考えますと、現状では難しいですから。」

魔国とこの国の神殿、そこで門を置けばまた色々と頂き物が増える事は決まっている。

「その、それが叶うのでしたら一室に武具を飾りたいのですが。」
「でしたら、本邸にも用意がいるでしょうね。」
「そうなのですか。」

昨夜二人で話した時間では、別館、倉庫とそう言った展示用の物、その二つを考えようという話になったのだが。その案を話し始めたところで、カレンからすぐに制止がかかる。

「はい。オユキ様のナイフや衣装もありますし。」
「格の高い物は、身の回りに置かなければなりませんか。ああ、それで別館と倉庫が出来ればということですか。」

今はどうした所で場所が足りておらず、飾っておくべきものもまとめて荷物となっているだけだ。その整理を行い、併せて必要な物を改めて飾れるから二人も直ぐに頷いたのだろう。

「今後も考えれば、当面の間はここを本邸とはしますので。それと、先々の事を考えればお客様を案内する別館も用意しておきたいのですよね。他国の方を迎えなければならない、そう言った事もあるでしょうから。」
「流石にそこまでとなると、今では足りませんな。」
「いえ、門から近い事を良しとされないこともあるでしょう。」
「では、空いている所をいくつか譲って頂きましょう。」

どうした所で、今は壁沿い。客人を泊めるには、向いていない。神からの加護を疑うという訳でも無いが、なんだかんだと煩わしさが近いというのは、好む相手もいないだろう。町にはいる者達にしても、それを知っていれば無視して高位の相手を通り過ぎる。それに対して引け目を感じることもあるだろう。そう言った諸々の問題を避けるためには、やはりある程度奥まったところに用意がいる。

「そちらはそのように。追加での建築や、荷物の移動については、私たちがここを離れた後に、ゲラルド様が差配を。」
「畏まりました。それにしても、今それを話すという事は。」
「ええ。あの子たちが新年祭のこちらに戻ることを望むのも含めて、祈願祭でしたか、それが終われば直ぐにとのことです。」

昨日メイの方から、そう言った話がありましたと言われている。乗馬の合間、地面に敷いただけの敷物は嫌がるかと思えば、あっさりとメイもその上に腰を下ろしたものだ。それもあって以前屋外で用意した席に招いた時も、特に気兼ねが無かったのだろう。

「その、そもそも祈願祭というのは。」
「そう言えば、まだ伺っていませんでしたね。」

期間がやけに詰まっている、それこそ降臨祭の終わりから考えれば4週程しかない。かなり忙しない日程に感じる。

「祈願祭では、翌年の恩寵を神々に希います。降臨祭だけが日程に幅がありますが、こちらは一日だけです。」
「豊饒祭や新年祭、そちらと役割が同じと感じてしまいますが、そう言うこともありますか。」
「いえ、新年祭では新たな目標を掲示として得る者達も多く、私たちから願うのではなく、与えられることに感謝を捧げる祭りですから。」

その辺りはしっかりと文化風習の違いが息づいているらしい。
更に詳細を尋ねれば、新年祭はいよいよ国や領主、その拠点を管理するものが主体として行い、新しい一年の目標を宣言するというのが一番大きな部分であるらしい。そして、使命を与えられていた者達がそれを果たしたのであれば、それに対して神々から改めて加護があると。

「こう、終わると同時に、そのように考えていましたが。」
「神々がそれを行えるのは、あくまで一部の方相手だけですから。」

説明をしてくれていたカレンから、何とも言えない視線がオユキとトモエに向かう。

「それ故の神職の方々なのでしょうね。」
「成程、おおよそ分かりましたが、どちらも手伝いを頼まれていないのが気がかりですね。新年祭は凡そ理由は分かりますが。」

新年祭、そこでは顔を出すようにと言われているがそれだけだ。祈願祭にしても現状ロザリア司教からも何も言われていない。それこそ何かあれば、すっかりと教会で暮らしているリオール経由でも、少年たち経由でも。いくらでも話を振ってくることは出来る。休日と決め込んではいるが、何もそういった一切を断っているわけでもない。メイにしても機会があれば声をかけるそれはされているし、それを受け入れてもいる。
何となれば、突発的に巻き起こった新しい祭りにしても、参加したのだから。

「祈願祭は、どちらかと言えば各個人の物ですので。」
「いえ、巫女が聞いて届けると、そう言った印象が。」
「神像がありますから。」

どうやら、その辺りはいよいよ各々が祈願をという事であるらしい。過去にあったもの、それを考えればいよいよ年始のそれや、七夕などが近いのだろうか。

「となると、教会は忙しく、しかし他はそうでもないと言った物ですか。」
「オユキ様も今後正式に教会や神殿に身を移されれば、いくらか頼まれはするでしょうが。」
「戦と武技、それに対して祈願をするのであればという事ですか。こちらだと、もう少し機運が高まれば、何かあるでしょうか。」

今はまだ、武というほどの者達が育ってはいない。何かあるにしても、今後であろう。それこそ武門としての家があれば、そこから参加は求められそうなものではあるが。

「では、教会の子供たち、そちらに向けてとなるときに顔を出しましょうか。」

広く、今この町で暮らしている相手、その相手であれば特に戦と武技に何かを祈願するよりも、これまでの延長に向かうだろう。少々周囲の魔物は強化されているが、それでも最も弱いとされている丸兎が近隣を跳ねているのだ。その程度の魔物を相手に研鑽も何もあった物では無い。それこそ門から少し離れて鹿や森から僅かな数だが顔を覗かせるようになった熊辺りを狙うようになれば、己の研鑽により向かうかもしれないが。
ただ、既にそれをしている相手、面倒を見ている相手そこからの物くらいは聞き届けると決めておく。教会に祈願にくる相手が多いのであれば、それこそ別の時間にとするしかない物だろう。

「そうですね、ついでに私からも相談して、今回大量に得られた食肉の類も放出しましょうか。」

実際にどのような祭りか迄は未だに異邦からの身の二人が分かる物では無いが、人が教会に向かい、そこに流れがあるというなら。過去によく合った形として、その道の脇であれこれと振舞ってしまうのもいいだろう。いつか狩猟の対象に。そう願うのであればその結果が分かりやすい形であるというのも分かりやすいだろうからと。トモエがそんな思いから発言するが、今度はオユキの方で少々思案顔でもある。

「オユキさん。」
「ああ、いえ。良い案かとは思いますが。」

此処でふと気になるのは、シグルドが以前に口にしていた事。静かな祭りもあれば、喧騒が常である物もあると。
降臨祭は、確かに賑やかだったが、それは別が持ち込まれたから。狩猟祭はそもそも別枠。
そして、前者の祭りでは、実に慣れた様子で出店が並んでいた。それこそ異邦人たちが持ち込んだことであろうから、そちらが賑やかな物と、オユキはそう考えていたが。

「お二人が直ぐに止めないという事は、そうした振る舞いはよくあるのだろうなと。」
「ああ、成程。では、流石に場所は考えましょうか。」
「そうですね。それこそこの位置ですから、以前の溢れの時にあったように、門前でというのも良い選択肢でしょう。いえ、他ですと流れの邪魔にしかならないでしょうから。」
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