憧れの世界でもう一度

五味

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14章 穏やかな日々

それぞれの仕事

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「で、メイのねーちゃんとケレスから、オユキとあんちゃんにそれぞれ返事をもらってきてほしいって言われてさ。」

格式ばった物では無く、お菓子を軽く並べての茶会の席。
シグルドから受け取った手紙を広げて、話を聞く。教会からの物は、既にセシリアから受け取っているがそちらはどのみち急いだところでという事もあり、後に回している。

「お話は分かりました。そうですね、ただどうした物でしょうか。」

色々と急ぎではない部分もあるが、早く返事が欲しい事としてオユキとトモエの去就という物が聞かれている。要は新しい仕組みを作るにしても、狩猟者という形ではなくなりよりダンジョンに向けたものだ。そこでやはり組織は分ける必要が将来を考えたときに存在する。そう言った物を整理していく中で、アイリスは他国の人間として、何処かのタイミングで同様の事をしなければならないが、それこそ彼女の国からの返事次第というところもある。
ただ、公爵麾下の二人については、その所属を今後どこに置くつもりなのかと。

「私としては、改めて王都で教会も交えてお話をさせて頂いてと考えていましたが。」
「あれ、でもオユキ教会に入るつもりはないみたいなことを。」
「ええ、あまり過度な仕事を求められても障りがありますから。ただ、今後の事も考えると一時的にでもそちらに身分を移す必要もありそうですから。」

どうした所で戦と武技の神のお気に入り、その事実からは外れる事がない。勿論身分として、後見として頼るのはマリーア公爵家である事に変わりはないが、仕事としての所属先は色々とその方が都合がよくなりそうなものではある。特に国外への移動を行った際に、同じ神を祀る教会があるのだが、他はそれぞれの国で独自性を持った組織となっていると、以前の離宮での話で想像もついている。

「そうですね、結論としては他国へ向かう、その際に最も良い形にとしか言えません。そして、それの回答ばかりは他国との交流に詳しい方を除いて行うのは不可能ですね。」
「ま、そうだろうな。」
「ケレスがオユキならそう応えるだろうから、生活の主体の場をって言ってたぞ。」
「ああ、それについては基本はここです。5年後、実際にはそれよりも短い期間ですが、周囲の国に門を配って回った後は分かりませんが。」

流石にそれだけの時間があれば、色々とここら一体の状況というのも変わっている。そして、その頃にはトモエの要望に沿った屋敷というのが、領都に用意されているだろう。つまるところ、現状のメイが求めている所というのは応えられない。たとえ領都に他の場所へ向かうためにあまりに便利な神の奇跡があるのだとしても。

「そうですね、皆さんが伝える訳ですから、公爵様に恩義があると。その一文を付け加えていただくのが良いでしょう。少なくとも、現状継続して行う必要がある使命、私たちの目的に沿った形としての間はこの町で羽を休めるでしょう。」
「あー、うん。そう伝えとく。」
「裏側と言いますか、それぞれにどう考えているかはやはりこの場で話す事ではありませんから。シグルド君がケレスさんやメイ様に私の返事として伝えた折に、聞けば教えていただけますよ。」

流石に、言葉の裏というのを読むは経験と相手に対する理解のどちらもがいる。少年達にはまだ早すぎる。

「なんとなくは聞いてるんだけどさ。ケレスの言ってることが、どうにもよくわかんなくてな。」
「ああ、リーアはあれこれと聞いているのだが。」
「ケレスさんの悪い癖ですね。ミズキリもそうなのですが。」

業務上と言えばいいのか、知識の幅と言えばいいのか。理解が早く、また知識もそれぞれに十分以上をため込んでいる。結果としてそれを知らない相手、そう言った素地がない相手に対してどう説明すればいいのか、そこの経験が不足しているのだ。アドリアーナについては、これまでを見ればその辺りに才覚を見せていたこともあり、ケレスがある程度譲歩したのであればついていけるだろうが。他の子達では難しい。
そもそも、それにしても現状の業務状況を考えればそこまで手間を避けないというのも勿論あるのだろうが。

「メイ様にしても忙しく、私たちと面識があり、色々と手間を省ける皆さんに頼みたいのでしょうが。」
「元々、その辺りも考えての事でしょうからね。」

トモエが笑いながらそう告げれば、子供たちとしては難しい顔だ。
自分達の能力以外の所を評価されて、それを考える子供たちではないが何やら考えるそぶりを見せている。

「不足は現状無いと思いますよ。」
「だといいんだがな。」

気軽な茶会の席、お菓子には流石にあまり手を伸ばしはしないため、軽食の類がいよいよ用意されてそれが配膳され始める。オユキにしても、以前よりは口に合うというだけであり、主体として口にしたいかと言われればやはり首を振るしかない。残った物は、それこそ持ち帰りに渡して、今も祭りの場を整えるために働いている相手にとすればよい。その辺りは、どうした所でオユキが書類業務が増えるからと大量の神を求めたこともあり、用意は十分以上にある。木箱に詰めてとはなるが、簡単な紙箱の用意の仕方はトモエが折り方を教えたこともあり、いよいよどうにでもなるという物だ。

「勿論、望まれている事、最終的な物から見たときに不足は当然あります。」

ただ、それはあくまで完成した時の話でしかない。

「正直私たちにしても色々と決まっていない事も多いですし、それは誰も変わりません。振り分けを決める者達がこの有様ですから、それを受けて動く皆さんが不足があるかと問われれば、それもまた違うのですよね。」
「まぁ、忙しそうにしてるよ。ファルコにしても、ダンジョンに視察に行かなきゃっていうけど、その前に書類を大量に作らなきゃって言ってたからな。」
「ええ、そうでしょうとも。特にファルコさんは他領の子女を招いてもいますから、そちらに向けた書簡も多いでしょうし。」

そして、偶の息抜きと出来たのが昨日の事であろう。
オユキから発生する、より大事になりやすいと言えばいいのか。神々に纏わる小尾はリヒャルトが引き取り公爵と諮らなければならない。しかしファルコの方でも、これまでダンジョンに携わってきた者達から順次聞き取りを行いながらもそれを纏め、求められた先に報告をしていかなければならない。
加えて、近づいてきている新年祭、そこで彼が行うべきことについても準備が進んでいる事だろう。王都で彼と学友、これまではあくまで訓練期間であり実務に堪えないとされた者達を纏め、狩りに出なければならない。それもあって、少女二人がどうにか時間を作ってトモエの下に足を運んでいることもある。
色々な政治力学の実際は公爵が対応しているのだろうが、それでも学友やその保護者所属の家に対してはファルコから根回しを行う必要がある。

「ファルコがなんか、夕食の時に良く愚痴ってるな。」
「ああ。」
「そうしたい気持ちも、まぁ私も良く分かりますよ。」

オユキとて、ファルコと状況はいよいよ変わらないのだから。
それにしても、気が付いていないという事も無いだろう。つまり、遠隔地との連絡手段というのが、この少年達にも開示されているらしい。話の振り方については、オユキから見れば前提が大きい為この場だけを見てどうと言えるものでもないが、まぁギリギリ及第点ではある。
返事が口頭だけという訳にもいかず、当然少年たちに話すための事ばかりではないからとシェリアに侍女として伝えられた身振りで用意を頼めば、直ぐに手紙の用意が整えられたため、オユキはそちらに向かいながらとなるが。

「どうした所でファルコ君も、ここまでの道中想像は付いていたでしょうが。」
「それな。ダンジョン向けの組織って聞いていたけど、ファルコと俺らが入ったの二回だけだし。」

オユキがあれこれと書き連ねている間は、基本的な会話はトモエと少年たちの間で。

「それはそうと、皆さんは移動の準備は。」
「流石に祭りと一緒だと色々難しくてさ。一応リーアがメイのねーちゃんと時々話してるけど。」
「ああ、水と癒しですから、持祭の位を受けたアドリアーナさんが代表になりますか。」
「いや、リオールのおっさんが基本はやるらしいけど。」
「まぁ、これ以上無い練習の機会ではあるでしょうね。」

リオールにしても、既に領都の教会に戻って済む話では既に無くなっているようだ。

「あー、うん。昨日のは久しぶりにあいつらも気分転換になったみたいだしな。」
「ならよかったのですが、その分も今忙しいでしょうからね。後で、お二人が食べなかった物は包みますから。」

アルノーであれば、それこそ別に用意していそうなものでもある。それをトモエからも事前に伝えてもいるのだから。最も、今の所彼と、用意された人員の大半は大量に運び込まれた肉の処理に忙しくしているとは聞いている。どうやらカリンは多少なりとも知識があるらしく、見ていられないからとそちらの手伝いに。ヴィルヘルミナは、教会で最終日でもあるため、ここしばらくの騒ぎを沈めるための祈りに駆り出されている。

「おー。ならみんな喜ぶか。」
「ええ、此処に出していない物もあります。皆さんで分けるには十分な量になるでしょう。」

そして、持ち帰った物を彼らがどうするかというのも分かっているため、余剰も当然存在する。

「それと、皆さんは最初に門を使う事になりますから。」
「そっちはケレスからなんか表を渡されてるな。」

トモエの言葉にシグルドがそう応えるが、それについてはオユキから確認が必要になる。

「それはミズキリの確認を経ていますか。」
「いや、それは聞いてないな。」
「でしたら、メイ様に頼んで、ミズキリの意見も求めるよう話しておいてください。」

あくまでケレスは実務、社内の業務に精通しているに過ぎない。対外的な折衝、それに必要とされる確認事項に不足があるかもしれない。そして、それについてオユキから言わないのは、立場の違いがある。メイに仕える者とそうでないもの、それ以上に使徒である相手というのが先に立ってはいるが。
勿論、それを少年たちに話すわけにもいかないが。

「ミズキリのおっさんかぁ。」
「おや、どうかしましたか。」

珍しく何やら苦い顔をするシグルドに、トモエが声をかける。

「なんか、苦手でさ。」
「まぁ、得意というのは少ないでしょうね。」

オユキからは、それ以外に言葉がない。
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