憧れの世界でもう一度

五味

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13章 千早振る神に臨むと謳いあげ

転ずるほどに

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「祭りとなると、降臨祭、かつての物を供えるとのことですし。」

オユキがすぐに思いつくのは、それこそ音楽と料理。大道芸というのもあるにはあるが、祭りの場に合うかどうかという問題もある。アイリスのものが有る以上賑やかであることに変わりは無いのだが、それでも方向性という物はあるのだから。演武としてみれば、それ自体が大道芸の一種のような物と捉えられることもある。

「四名も要りますか。」
「一つの町を支えるんだぞ。それだけの作業をお前は一人にやらせるつもりか。」
「料理はよくわかりませんし。」
「いや、公爵の屋敷でさえ、あの人数の調理とは以前に相応の人数いただろうが。」

アベルにそう言われたところで、そうであるならそうなのだろうと。そう言った納得しかオユキには無い。未だに少女達からは料理について要監督の扱いだ。何なら領都から加わった子供たちよりも料理という面でオユキは信頼されていない。そして本人の気質もあるため、今後の成長も推して知るべし、そのような物でしかないのだ。
現場の作業量、最低限の予測も出来ない身であっては、管理など出来る訳もない。

「トモエさんに任せましょうか。」
「ま、お前だとそれしかないだろうな。」
「小娘共に習ってただろ。」
「材料の切り方と、簡単な味付けくらいですかね。それも途中からはこれをと渡されましたし。」

オユキの返答には、アベルが頭を抱える。

「他に方法もない。人も足りていない以上、大いに助けになるだろうからな。」
「料理人は最低限しかいませんし、アイリスさんとあの子たちも考えればそれはそうですが。ミズキリ、魚介も増えたからとあなたの目的もあるのでしょう。」

輸送が難しい。どうしようもなくこの世界は地産地消。そこに新しい素材が増えたのだ。食を好む人物が、個人の目的を持っていない等とオユキも考えはしない。

「あのな、お前等。こっちの不都合を解消するついでに、お前らの利点を押し込むそのやりようはどうにかならんのか。」
「個人としての利益の追求など、当たり前の事でしょう。」

オユキとミズキリから異口同音に応えれば、為政者に連なる二人、実務も担当するその人物達は開いた口が塞がらないといった有様だが、そんな物だ。

「勿論譲歩もしますし、状況に合わせてとも思いますが。」

ただ、今回は両者ともに必要であると、アベルの言葉にしてもそれを示しているのだ。

「それこそ、そちらはお会いしてからとなるでしょう。来ることが決まっているのならば、変わる事も無いのでしょうから。では、ようやく本題ですね。ミズキリ、貴方の立てた悪辣な予定、その答え合わせを。」
「悪辣とは心外だがな。」
「犠牲を当然とする精神性、貴方だけでとなれば、当然それがあったのでしょう。」

これまでも、こちらに来てからも。あまりに明確な意見の相違がそこには横たわっている。そして、その中でも最たるものは一つある。予定以上の成果と言われたそれが。

「あなたの予定では、今回の生誕祭は行われませんでしたね。」
「ああ。」

オユキの確認に対して起きた出来事はあまりにわかりやすい。何が起こったかは確認できるものではないが、今はアベルがオユキの前に立ち、ミズキリに向けて腕を突きだしそこから動けずにいる。

「使徒、それに対する守りは勿論。」
「アベルさん、お気持ちは分かりますが、流れを考えて頂ければ。」

悪辣と、そうオユキも評価せざるを得ないが。手の入らなかった流れ、それを考えればどうなるかなど否が応でもわかる。そして、そこから生まれる結果にしても。
一つの命が無事に生まれた、それは喜ぶべきことだ。しかし結果として埋まったままになった毒があり、今後の難しさを残してもいる。

「だからこそ、王城に神像を二つですか。」
「かなりギリギリだったがな。代わりにお前とトモエに過剰な負担が向かった。」
「まぁ、カナリアさんの言葉を借りれば、万が一はあったようですし。」

元々の予定があった。それを前に進めたことを功績として、不足した部分を巫女二人に支払わせる形で、どうにか収めた。都合がいい、その辺りもかかっているのだろう。

「本来失われた命と、想定外の信仰ですか。」
「新人の育成、それに俺が乗ったからな。そこまでやって、どうにかだ。王都でもかなり大変だったろ。本来なら3年後だったんだからな。」
「王太子妃様は。」
「変わったな。」

相変わらずの友人に、オユキとしては乾いた笑い声しか出てこない。
そして、そこまで話せば見えない守り毎アベルがミズキリを持ち上げている。本当に想像以上の存在が身近にいる物だ。

「アベルさん、今はミズキリも露悪的に振舞っているだけですから。」
「信じたいものだがな。」
「本来であれば、そこまでして対応すべき相手がいたという事ですよ。」

ミズキリ、得難い友人ではある。口では悪辣という物の、仲が良い相手。ともに行動できるだけの共通した価値観は確かに存在する。その信頼は、十二分に。

「戦と武技の神による、敵味方の判別、それが無かったのであれば王城は今どうなっていましたか。」

新人の育成。主にトモエによる技という物の再評価。それが前倒しになった結果として得られたものが大いにある。そしてそれが無い状況、それを考えたときに最も効率のいい手段。実際に起きていないそれに対して立てる事が出来る策というのは、さて、どのような物だったのか。

「水と癒しの女神、その御言葉すらか。」
「ええ。本来の予定では、一年は私たちもこの町から離れないと、そうなっていたのでしょうから。私が私、トモエさんがトモエさんとしてこちらに来ていれば、確かにそうなっていたでしょう。」

移動、その決断を早々にできたのはこの入れ替わりも大いにある。元のままであれば、こちらに慣れていないトモエを慮ってオユキはすぐに旅とその判断をしていない。体力に問題が無いトモエが、そうでは無いオユキに対して配慮を見せた結果として、今回のように直ぐにとなっただけだ。
先をどちらが歩くのか、物理的な能力評価の結果がひっくり返ったため、判断が大きく変わっている。
いつぞやトモエとそれも面白いと話したそれが、ミズキリたちの立てた予定、それを大いに振り回している。

「もう少し、事前に相談しちゃくれないもんかね。」
「できればこちらとしてもやりようがあるんですが。」
「それで、お前らとの間にある言葉の問題か。」
「固有名詞を考えればスペイン語を口語としているのでしょうが、生憎私は使えませんから。」
「そう言えば、公文書と口語が異なることに、何か理由が。」

ついでとばかりに気になっていることをオユキは尋ねてみる。

「公文書は神々も使う言語に合わせているからな。」
「ラテン語やヘブライ語でなかったことを喜ぶべきでしょうね。」

それこそ魔術文字、神々から与えられるそれについては、どこの言語とも知れぬものだ。

「話は戻すが、お前が想像以上にお行儀良くてな。」
「私が、ですか。」

作法、こちらでのそれについては散々に注意されていることもあり、オユキもそれについては理解があるのだが。

「大概だぞ。こいつも、トモエも。」
「いえ、昔に比べれば。」
「いや、それは無いだろ。」

さて、そうして胡乱な視線に晒されればオユキとしても言いたい事が有ると、そう言った構えは作るものだが。

「今面倒見てる子供たち、あれがいなかったらどうしてた。」
「それは勿論。」

勿論、オユキにはそこから先を口にしない慎みという物が存在する。
突然言葉を切ったその振る舞いに、さらなる視線が寄せられるが。

「ええ、トモエさんと今のように楽しく暮らしていましたよ。」

恐らく、今頃は武国に向けてトモエとのんびりと移動をしていただろう。オユキの知る中で最も大きい闘技場があり、それにふさわしい規模の大会が毎月開かれるあの国に。そこでトモエが一先ずの満足を得れば良し。そうでないのであれば、観光を続けるだけだ。最大目標は決まっている。

「今のように移動はしても、居ついたりしてないだろう。」
「ええ、そうですね。」

それをわざわざ口に出すあたり、変更した予定に合わせてしっかりと鈴をつけておきたいとそう言う事でもあるらしいのだが。

「それもあって、この時期にですか。」
「一人は急遽だがな。」

トモエは食べる事を好んでいる。過去、この世界でこちらにしかない物を使って大いに人を楽しました相手が来るのであれば、それもまた大きな楽しみになるという物だ。
何事もなく、力もついたからそろそろここを離れようと、そう言い出す前。そう考えれば確かに都合のよすぎる時期だ。

「となると、製菓専門の方も来られるのですね。」
「お前はとことん興味を持たなかったが、話くらいは聞いただろ。」
「そうですね。ですがこの周りにあるものは、向こうにもあった物ばかりかと思っていましたが。」
「魔物の分布も変わる。水が混じれば新しく植物関係も増える下地ができるからな。」
「あの、そう言った報告は私にも速やかにしてもらわなくては。」
「いえ、本来は河川を引き込むのではなく湖が出来る予定で。」
「すでにある物よりも新しい物、そちらの方が負荷が大きいように思いますが。」

それこそ、あまりに大掛かりな計画と聞こえるとオユキが言えばミズキリからはため息が返ってくる。

「その奇跡の分が、御言葉の小箱にまずは変わったんだよ。」
「おや。」
「それこそ、本来ならここら一体を領地とするのは。」
「ああ。」

どうやら、本来はミズキリが始まりの町を起点として新しく異邦人向けの国を作る予定であったらしい。リース伯は新しくできる教会、そちらにとなったのだろう。

「お前らだけが分かってることも多いようだがな、改めて時系列に合わせてこっちにも本来の流れってのを利かせちゃもらえないもんかね。」
「それもそうですね。」

アベルから言われ、想像を元に気になる部分だけを話すというこれまでに慣れたやり取りを続けていたことにオユキは改めて気が付く。此処にはそれを知らせようと思った相手もいるのだ。分かりやすい失態ではある。
口に出していないだけで、本来の犠牲その範囲を考えれば、数えるほどの楽し時間を過ごした相手が失われていたことを思えば、オユキも冷静ではいられないのだと、改めてそう反省しながら。
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