憧れの世界でもう一度

五味

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13章 千早振る神に臨むと謳いあげ

夏の暮

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「早かった、それよりも。」
「そうですね、急かした申し訳なさが勝ちますね。」

予定の変更もあり、確かに日程の消費もありはしたのだが。始まりの町に着いてから、僅か数日。後から来る荷物の一部、使用人、加えて護衛の追加人員といった物が用意された。
流石に王都から騎士がという事は無いが、その日程の詳細も、メイに聞いた物を正式な書状として伝えられる。

「トモエ様。」
「そうですね、流石に今夏に合わせるのも。」

運び込まれる荷物を、オユキとトモエは座ったまま確認していく。
今は調度の類が、目の前に置かれている。そして、その中のどれを早速使うのか、それをトモエが主体として選んでいるというところだ。異邦の物とはまた違い、こちらでは季節を司る神の色であったり、意匠であったり、明確な使い分けがある。それに対して、オユキが整える事を預けるとしたため、トモエが采配を振るわなければならない。

「入れ替えでしたら、何ほどのこともありませんが。」
「使ってみて、考える事も多いでしょう。であるなら、ある程度長く使う物を並べて頂くほうが。」
「それも、そうですね。」

借り受けている使用人にしても、一角の者であるらしく。それこそ数人で持たねばと思うようなものも、実に軽々と一人で持ち、運んでいる。

「ただ、そちらの緋色の敷物ですね、それは茶会に。」
「異邦の作法で行うものでしたか。畏まりました。」
「一通りは整いましたし、メイ様へ招待状を出さねばいけませんね。」
「流石に、それは私がやらなければならないでしょう。封を押すための印なども、恐らく届いているかと思いますが。」

オユキがそう考えをそのまま口にすれば、ではそちらを先にと、そう言った空気が流れだすためそれを止める。

「いえ、一先ずは家の内外を先に。客人を既に招いてもいますから。」
「そうですね。まずは。」

使用人たちにしても、まだ昨夜についたばかり。無理な移動の疲労もあって、今朝面通しを終えたばかり。互いに遠慮が存在するという物だ。特に、大枠でしか聞かされていない事も多いのだろうから。

「シェリアさん。客間への物としては。」
「休んで頂くという意味では、確かに使われない物ですが、オユキ様が。」
「それで、ですか。アイリスさんの物も含めて、という訳では無いのですね。」

どうした所で、やたらと戦と武技の神を示す意匠が多い。これまであまり使われている所見なかったそれについて、トモエが意見を求めれば、直ぐに答えが返ってくる。流石に異邦からの身で、求められる物の全てがわかるわけもなく、こうしてシェリアが側に。
本来であればゲラルドの役割でもあるのだが、使用人とのやり取りは彼の方が慣れているため、今は外にいる。次々と運び込まれる荷物、昨夜到着の折に見た愉快な行列。それを考えれば、今頃は辣腕を振るってくれているだろう。実に順調に、次々と荷物が運び込まれているのだから。

「おや。これは。」

次々と運び込まれる物の中で、トモエの眼を引くものが一つ。輸送が難しいだろうに、鏡のはめ込まれた化粧台が用意されていたらしい。

「リース伯の紋章が入っていますね。輸送の都合で少し汚れが有ります、私どもで改めて手入れを行わせて頂きます。」
「割らずに運ぶ、それだけでも難しかったでしょうから。このあたりのお礼については。」
「リース伯子女に、手紙を預けるしかありませんね。」
「直接のお礼は、領都をまた訪れるので、その時とするしかありませんか。」

そうしてあれこれと調度の検分が終われば、次は木箱が次々に運ばれてくる。それこそ小物であったり、衣装であったりと。勿論、シェリアと頼んだ衣装も含まれている。流石に一着だけではあるが。

「巫女としての装束は、どうした物でしょうか。」
「本来であれば、教会に預けるのですが。」
「移動が多いですし、その先で求められますからね。」

そして、箱から持ち上げられた衣装の一つ。それを前にして揃って頭を抱えてしまう。
戦と武技の神から与えられた衣装。それがしっかりと運ばれ来た。太刀は神殿にとなったため、衣装くらいは任せようと、教会で用意された衣装だけ持ち歩ていたのだが。

「必要になるかと言われれば、どうなのでしょうか。それこそ降臨祭の装いとしては、司教様にお尋ねしなければなりませんが。」
「公務としての物は、すでにありますからね。衣桁はこちらに使いましょうか。オユキさんの執務室に。」
「そう言えば、以前見た物も広げて飾ってありましたね。身分を示す物としては、間違いありませんし、良い案かと。」
「広げておくのは、障りもあるかと思いますが。」
「その辺りは、私どもが間違いなく。」

シェリアから、はっきりと問題ないから任せろと、そう言われたのであればオユキからはそれ以上があるわけもない。

「では、お願いします。しかし、そうなるとアイリスさんの物もあるでしょうが。」

ただ、オユキの物、その扱いが決まったのはいいが。そう考えてオユキがシェリアに意見を求めれば。

「客間に、ですか。いえ、やむを得ないと、そう言えますが。」

流石に、始まりの町にアイリス用の屋敷、その用意までは無い。そもそも人が足りていないのだ。アベルの家が預かると、そうなっているため、メイではどうにもできないというのもあるのだが。
そして当の本人はアベルに連れられ、傭兵ギルドで手続きを行っている。移動の疲れもあるからと、後に回していたが、今日は屋敷がどうしても騒々しくなり、部屋に手も入れるからちょうどいい機会ではある。

「アイリスさんとアベルさんにも、確認するしかありませんか。シェリアさん。」
「畏まりました、直ぐに。」

そうして側から離れ、広間の先、トモエとオユキでは聞こえない声量で少しのやり取りを行えば、直ぐに側にと戻って来る。使える相手が多いというのは、実に有難い事だと、その様子を見てオユキは改めて考える。
近衛、今はすっかり侍女として働いてもらっている残りの二人は、ラズリアがアイリスに同行し、タルヤは置くと決めた調度、それを使いそれぞれの部屋を整えてくれている。
また、カナリアにしても以前聞いた短杖で部屋を整え、追加で持ち込まれた魔道具の調整など、大いに手を借りている。半ば使用人のような扱いに、申し訳なさを覚えるものだが、本人からは実に快い返事が返ってきているため、すっかり甘えてしまっているのだが。

そうして、とにかくバタバタと荷物の確認を続けていけば、どうにか日が沈むころには片が付く。

「カナリアさんも、お手間をかけました。」
「いえいえ。対価も頂いてます。常の仕事、それと変わりませんから。」
「そう言って頂けると。」

食事の席、客人扱いの相手と揃って食事の席に着く。

「私の部屋は、客間とういうよりも、私の部屋、そのような感じだったけれど。」
「ええ、そればかりは。」

他国の人物であり、オユキと同じくらいを持った相手だ。本来であれば、それこそオユキとトモエが与えられた屋敷と同等の物が、アイリスにも用意されなければいけない。いや、それ以上の物が。
ただ、それをするには人が足りない、それに尽きる。

「うちの領地じゃないからな、流石に勝手が違う。補填は、こっちでしておくが。」
「まぁ、理屈は分かるし、構わないわよ。部族に戻っても、どうかしら、様式が違うから比べてどうというのも、難しいけれど。」
「そっちも石造りが多いんじゃなかったか。」
「一番大きな、というか集まると決めている地はここと似ているけれど。」

どうにも、国と言わず部族と枕を置くほどに、色々と同じ国と認識されている中でも差が大きいらしい。

「こちらで一先ずとはしていますが、何かあれば。」
「なら、気になったらまた言うわ。」
「カナリアさんも、あまり遠慮は無いようお願いしますね。」
「私は、どうしましょうか。魔術師ギルドの部屋からも、それなりに荷物が。」
「そちらについては、また日程の相談をお願いします。それと今回こちらに荷を運んだ馬車の籠ですね、そちらをまずは試しに使っても良いと。」

空になった物をどうするのかと思えば、公爵からの手紙には、そのように記載がされていた。当然すべてという訳にもいかず、いくつかは空で戻し、またいくつかは川沿いの町へ向ける事となっているが。

「では、早速とも思いますけど。」
「おや、小箱での実験は。」
「はい、今日少し試しましたが、問題なさそうです。」

先に小さなもので、試す。そう言っていたがと思えば、それもどうやら順調に終わったらしい。

「どの程度の損傷で、そちらはまだ試せていませんが。」
「ま、小箱をわざわざ壊すのもな。しかし、そうか。箱にも使えるか。」
「馬車に積むには、どうでしょうか。内部に作用するので、干渉が有りそうなんですよね。」
「なら、そっちも併せて試すのがいいな。場所は、どうするか。」

入れ子構造のように、際限なく、それは難しい物になりそうだという事らしい。ただ、それすらも実験が必要な物なのだろうが。

「庭は、お茶会の用意が。」
「まぁ、流石にそっちが優先だな。」
「傭兵ギルドの訓練所は、如何でしょうか。」
「いや、流石に此処にメイの嬢ちゃん招くなら、カナリアも参加しなきゃならんしな。」
「え。私もですか。」
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