憧れの世界でもう一度

五味

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12章 大仕事の後には

自宅になる場所

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オユキの方では、馬車の中。最低限の人員を残して、早々に人を送り出す。
門から中に入るにあたり、それぞれの報告は必要になるが、それは既にトモエに預けている。家の用意があるというのは聞いているが、当然相応の準備はいる。特に使用人達にとっては。
この後、諸々の疲れから休もうというのに、休む為の準備が無い場所に主人を案内する。その不手際は認めないとばかりに、必要だろうからとオユキが頼めば、いそいそと行動を始めたものだ。

「客間の用意を頼むのを忘れていましたね。」
「それこそ、抜かり無く。」

送り出してから、すっかり身内の認識が強い人物への用意を頼んでいなかったと、オユキが呟けばシェリアから実にあっさりと返ってくる。思い出したのは今も馬車に残るリオールの顔を見てからだが。
アイリスはアベルに連れられて、早速とばかりに手続きを進めるために傭兵ギルドに。カナリアについても同様で、公爵から預かった手紙を片手に、魔術ギルドに向かっている。その後、各々宿を引き払ってから、改めてとなるだろう。

「ありがとうございます。それからリオール様も、ご不便をおかけするかとも思いますが。」
「御心配りに感謝するのみです。それこそ、教会に直ぐに向かっても良いのですから。」

リオールはそういうが、巫女として預かった事柄、それであるため公式の仕事としてと言う事になった。どうにも最古の教会、そう呼ばれることもあり、勤めるためには色々と手間があるらしい。それを省くためと、概要としてはオユキもそう聞いている。

「しかし、私をお連れ頂けるのなら、それこそ巫女様が位を得られた彼の神の教会からも、そうも考えてしまいますが。」
「それについては、私からは何とも。」

正直、その辺りの論争はオユキとしても思い出したくない。最も少し落ち着けば、早速とばかりに方々に手紙を書かねばならないのだが。

「シェリアさん達には、申し訳ありませんが。」
「侍女としても務めますが、近衛ですから。体力については、どうぞご心配なく。」

使用人たちは、どうしてももう少し先に休んでもらう事になる。特に身の回りを頼む為に連れてきた者たちは。ただ、近衛については、旅の間も全く問題が無いと、そういった様子でもある。護衛役の第二騎士団から、出向している者達については、言うまでもない。新人らしき人物も、河沿いの町で一日休めば、まったく問題が無いと、そういった風であるのだから。

「オユキさん、手続きが終わりましたよ。」
「ありがとうございます、トモエさん。」

そうしてあれこれと馬車の中で話していれば、色々と終わったようでトモエが馬車に戻って来る。

「あの子たちは大丈夫そうでしたか。」
「今もアーサーさんが、色々と教えていますよ。」

公的な手続きなど初めてだから、そうなるのも仕方がないだろう。心苦しくはあるが、オユキからも色々と頼んでいることもある。本人たちは喜んで受けてくれたものだが。

「では、申し訳ありませんが、私たちは一足先に戻りましょうか。」
「狩猟者ギルドは、構いませんか。」
「イリアさんにお願いしていますから。」

結局のところ、トモエとオユキは未だに加護が薄い。そしてその結果として、体力が足りない。オユキにしても、既に歩き回るのは苦痛でしかなく、トモエもそこまで変わらない。側にリオールがいるため、まだ取り繕っているが、彼がいなければ、オユキの方は当たり前のように馬車の籠、そこに用意されている席にしっかりと体を預けていただろう。トモエの方でも、すでに鎧を外し、武器も安物を選んでいる。得物の重さ、それも軽くしたいと、そういった様子なのだから。
このあたりについては、オユキも既にトモエと話し合いもしたが、今となっては少年たちの方が体力がある。これも流派として、その欠点が出た部分だ。
無駄を徹底的に排する、その結果が加護という面で出ている。
体力を、動きが最小限で使わないようにと、常に努めるのだ。当然、そういった部分を認められることはない。しかし少年たちはやはりまだまだ無駄が多い。結果として、差があるように見えるそれを、がむしゃらに埋めようとする結果として、得られる結果の差が出る。

「しばらくは、ゆっくり出来ると良いのですけど。」
「トモエ様がそう望まれるのでしたら、そのように。どうぞ私共を存分にお使いください。」
「数日は、どうしても挨拶をしなければいけない所も多いですが。それが終われば、私としても数日はゆっくりと過ごしたいものですね。」

シェリアの心強い言葉に乗る形で、オユキも声をかける。流石に、その辺りは隠す気もない。トモエにしても、オユキにしても。はっきりと口に出したい程度には、疲労がたまっている。見知らぬ事、実に多くのそれに翻弄されながらも、どうにか舵を取った。その結果は喜ばしいこともあるが、それ以上に疲労がたまるという物だ。どちらも、事実積みあがる物でしかないのだから。
トモエも乗り込んだ馬車は、直ぐに目的地に着く。通りに面していないため、流石に門の側から見える場所では無かったが、馬車が止まり、促されるままに降りれば。

「これはまた、随分と。」
「期待が半分、実利が半分、その辺りでしょうか。」

馬車から降りた先には、何とも立派な屋敷が建っている。トモエの継いだ道場も、それが置けるだけの広さがある物ではあったが、それを数軒入れても余るだろうと、そういった空間が広がる中に、外観、誂えられた窓枠の個数を考えれば2階建て、そんな屋敷と言うよりも、それこそホテルやオフィスと言われても納得できる建物だ。
そして少し離れた所には4階建てだろうものもある。恐らく使用人向けの物とわかる程度には、差があるが。
外観の差もあるが、窓の間隔、大きさを考えれば、部屋の大きさも想像がつくため、そのようにオユキは判断しているだけだが。

「人手が、足りるのでしょうか。」

そして、大きな屋敷、加えて広々とした庭。縄が張られているのを見れば、一部は庭園、にせよという事なのだろうが、訓練に申し分ない空間もある。

「下級の使用人を、雇わなければいけませんね。」
「そもそも、この町で望めるものでしょうか。」

オユキの言葉に、トモエから至極もっともな意見が返ってくる。
そして、結論は簡単だ。そもそも、それが叶うなら、余所から連れて来ていない。知識と経験がいる者達だとは言え、この町では叶わない、その判断がされているのだから。

「業務を細分化、いえ、既にされているでしょうが、それを基に探すしかないでしょうね。」
「人口の移動は。」
「起きるでしょうが、それを抑える必要もあります。」

それこそ異邦と同じように、それもある程度起こるのだろうが、拠点を増やす、それが神から与えられた物であるなら維持ができる、維持するための人員は残さなければならない。
為政者はそれにある程度制限をかける物だろう。そこまで考えるが、オユキとしても、ふと思いつくこともある。

「いえ、それについては、もしかすると、そういった事もありますか。」

どちらにせよ、その辺りはミズキリを捕まえてからと、そういう事になるが。

「成程。今はともかく。」
「はい、シェリア様も、最低限、それで構いません。まずはお客様を優先に。」
「畏まりました。しかし、私も改めて中を確認しない事には。」
「それもそうですか。ゲラルドさんが迎えに出て来そうなものですが。」

こうして屋敷を眺めて話しているのも、それを待っているからだ。
自宅であるなら、誰憚ることなく入っても。それも事実なのだが、先導をするシェリアが足を止めている。

「はい、そうでなくともラズリアか、タルヤが待機しているかと思ったのですが。」

先にこちらの用意を頼んだ近衛二人もいる。そちらまでもというのは、どうにも考えにくい。そうであるなら、出来る事も決まっているという物だ。

「確認を頼むのと、同行を願うのと。護衛からは、どちらが。」
「第二の方々は、厩舎でしょうね、気配も遠いですから。屋敷の内部が探れないのは、恐らくそういった配慮なのでしょうが。」

シェリアには珍しく、オユキの質問に直ぐに答えず考えていることを口に出す。
どうにも、短い期間であったはずなのに、随分としっかりとしたものが誂えられているらしい。その辺りは、本当に流石としか言いようのないものだが。

「出迎えもしない使用人の不手際、その謝罪は後程。」
「いえ、明確に時間も伝えていません。整える事を頼んだ、その指示を優先しているのでしょう。」

どうやら、シェリアの判断も決まったらしい。かけられた言葉に、オユキが歩き出すシェリアについていく。オユキとしての予想は大きく二つ。そして、そうであったらと、そう願うものは可能性の低い一つ。そちらは、まず無いと分かっているものの、主人が寛ぐには不十分と、短い時間、その間に買い出しに走っているという事。
多方は、この家の来歴がどうであれ、トモエとオユキに改めて与えられた、初めての場だ。そして、口実になる物は実に多い。先に家に入ったものが確認できるのか、それは疑問だが。もしくは、確認できない部屋があるからこそ、問題が起こっているのか。
そして、シェリアが与えられたこれからは自宅、その扉が開けば、オユキからは見えないが、トモエは見る事が出来たのだろう。はっきりとしたため息が隣から聞こえる物だし、シェリアの動きが完全に固まるのもオユキから見て取れる。どうにも悪い方向であったらしいと、オユキも横から覗き込めば、そこには揃って途方に暮れた様子のゲラルド、そして玄関、その広間に鎮座する大きな箱。

「降臨祭で使う物でしょうね。」

中央より少し高い位置に、ひときわ大きな創造神の印。その下には見覚えのないものが。

「これは、お出迎えもせず申し訳ありません。」
「いえ、主人を迎えようにも、玄関がこうなっていれば難しいでしょうから。」

そして、どうにもできていないという事は、まずトモエとオユキが触れる必要があるのだろう。
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