憧れの世界でもう一度

五味

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11章 花舞台

終幕

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衆人環視の中で巫女が刺殺される。そのような愉快な催しがあったため、場は少々賑やかな事になったらしい。目が覚め、身動ぎをすれば、側に控えていた神職の物から、その後の事をかなり濁した言葉でオユキは伝えられた。
用意された場の外に出れば、傷が治るとはいえ、あくまで問題が無い範囲。

「どれほど気を失っていましたか。」
「一時間ほどでしょうか。」
「それは、随分とご迷惑を。」
「いえ、場を整える、その言い訳もありましたから。」

首から太刀が抜かれた、そこまではオユキも覚えているが、そこから先はこうして目を覚ますまでの記憶が無い。あの状況であれば、それこそ固まった血が喉に残り、まともに言葉も出ないだろうに。
それについては、それこそ意識の無い間に手が入ったのだろう。

「トモエさんは。」
「今は別室で支度をされていますよ。」
「流石に、勝者の表彰、それに普段のままは許されませんでしたか。」

公爵家から、狩猟者として慣れた装い、それについて出された苦言は退けた物の。だからこそ、式典の場ではと言う事だろう。
オユキにしても、こうして目を覚まして起き上がれば、何やらしっかりと飾り立てられているようでもある。寝て皴に、その懸念もあるが、それこそそうならぬように配慮があったのだろう。
ただ、疲労は完全に抜けてはいない。相応に血を流してもいるのだ。それこそ、完全に回復するにはそれなりの時間もいるだろう。
回復の奇跡、それはかけられるものにも負担があるらしいのだから。

「では、早速動きましょうか。」
「もうしばらく、そのままお休みください。やはり場が荒れていますから、今はまだ鎮静の祈りが先に。」
「相応に流血などもありましたしね。」

ただ、休めるのならば有難いと、上体だけを起こして、改めてオユキは体に不調がないかを確かめる。話す分には問題はないが、額や、頬には痛みが残っているし、喉にしても触れれば痛みがある。
そして、疲労以外の体の重さもある。太刀が抜かれた以上、口から以上にそこから流れたのだから、仕方はあるまい。それにしても、今身につけている衣装も、替えはないはずだが。そちらも、手間をかけたらしい。
そんな事を考えているうちに、ノックの音が部屋に響く。そして案内されてはいってきたのは、見知った顔だ。ただ、振る舞いに関しては、稀にしか見ない物ではあるのだが。

「失礼する。場の浄化、それも間もなく終わると報告を受けた故、巫女オユキの支度について伺いに参った。」
「畏まりました。既に目を覚まされてはいますが、やはり疲労は残っておられる様子。」
「この後については。」
「はい、補助は願う事となりますが。」
「流石に、致命傷を負ったのだ。それはこちらも理解している。であるなら、心苦しくはあるが準備を願いたい。」
「畏まりました。」

初めて見る礼装姿のアベルが、こうして雑事を任されたらしい。オユキはそれではと立ち上がり、歩こうとするが、やはりふらつく。この後の式は基本として、添え物であるため支えの補助があれば問題はない。精々言葉をかける時、その時に注意すれば済む。

「ふむ。」

そして、そのオユキの様子にアベルが眉を顰める。

「不安は分かりますが、血が足りない、そう言った物ですから。」
「已むを得まい。すまないが、補助を。」

そして、アベルの背を追い、神職の肩を借りて歩く。どうにも、それだけの動作で息が上がる始末。回復までは、それなりの時間が必要になりそうだ。

「明後日には、祝祷もあるが。」
「それこそ明日の調子を見て、そうとしか。」
「神の名の下に行われた、それは理解の及ぶものではあるが。」
「トモエさんと、それは随分と久しぶりでしたから。」

日程の理解はオユキにもあるが。やはり羽目を外しすぎた。それこそお互いに。それについては、今日この後にでも色々と話し合う事になるだろう。
そもそもオユキとトモエの日程、変える予定に併せて色々と予定が詰まっているのだ。明日の夜は王城、離宮に招かれて晩餐に。そのまま客室に泊り、翌日は。そういう流れだ。
そして、その後は帰還の準備を行いながら、一度まとめて要望のあったものに対してとなっている。
あと六日。それがこの王都にオユキ達が残る時間だ。

そして、案内された先。開会の宣言が行われたその場には、既に人が並んでいる。オユキはこちらだが、参加者の内目覚ましい成果を見せた者、政治的な配慮だが、そちらと共に、アイリスは石舞台の上だ。
動作が多いそれについては、アイリスが引き取っている。オユキは、それこそ添え物として王の傍らに控える事になる。
石舞台の上は、トモエを先頭に、若い騎士が多く並び、あまり記憶に残っていない年少者なども。
これを政治の場、そうすることに難色はあったのだろうが、それを否定もできないのだろう。やむを得ない事ではあるが。
王が今大会の総括、神々への場の感謝、それを修辞たっぷりに述べるのを聞き流しながら、オユキとしてはこの後、巫女としての宣言、それに向けて改めて体を把握しながら、周囲に目を向ける。
ただ、祭り、それとして観戦に来た者達は構わない。それ以外、送り込んだもの達、栄誉を言祝ぐ場に残れなかった参加者たち、そもそも枠を得られなかった者たちに。勿論距離はあり、はっきりと見る事が出来ない物ではある。ただ、参加しただけの者たち、それとは異なる熱量がそこにあるのは見て取れる。観客は限られている、それを考えれば全体としては分からないが、つまるところ成果は芳しくない。
武を磨く事、それを望んでほしいのは、間口を広げるためには、失敗している。それこそ繰り返すしかない、別の手を講じなければいけないとはわかっているのだが。少なくとも、武、その道を求める者達の熱量、それを高められたことを良しとするしかないだろう。表層の目的は、確かにそれで、こうして果たされたのだから。
眼下では、王がそれぞれを誉めるのに合わせて、持祭が持つ盆の上からアイリスが順に取り上げながら、そこに並ぶ者たちに渡している。上から順では無く、下からとなっているのは文化の違いなのだろう。

「そして、栄えあるこの祭りにて、その確かな技を示したマリーア公爵家の狩猟者、トモエ。戦と武技、彼の神より確かに位を認められた二人を、一切傷を負うことなく下したその栄誉を称える物である。今後も一層励み、その技を存分に後に続くものに示すがよい。」
「彼の神の名のもとに。アイリスからトモエに。その確かな功績を称えて。」
「有難く。今後もより一層の精励を。」

そうして、一通り、今回の記念品の授与が終わればオユキの出番となる。言いたいこと、こうして改めて思うところなどもありはするが。今ここで語る言葉はあくまで巫女として。司祭と諮った上で決まったものだ。
そちら、本来の感想については、この後語る機会もある。
未だに重さは残る体ではあるが、椅子から引きはがすように立ち上がり、それを語る。
結果としては、政治の上ではマリーア公爵の一人勝ち。そして、これまで国の剣と盾であった者たち、それを下した身には、当然刺さる視線もある。
幾つかは真っ当な。しかしそうでは無いものも。逆恨み、それが起きるのは当然理解はしていたが、思ったよりも多い。それが己の向上に向けばいいが、そうでなければ。それこそ神の名のもとに裁きが下るだろう。
今この場には、戦と武技、それに並んで法と裁き、これまで目にしたことのない神像が置かれているのだ。

「どうぞ、此度の戦と武技、彼の神の言葉によく耳を傾けていただけますよう。我々はただ神の奇跡を受けるだけではありません。確かな感謝を返す、そうある物です。ならば彼の神は、武の道、その探究こそを求めるのだと、どうか今一度、それを改めて。」

そこまで言い切って、聖印を切る。どうにも、こういった式典、その流れの中ではその行為に明確な意味があるらしく、またも体から何かが抜ける感覚がする。
体の維持に気を張っていたため、それでどうにかなりはしないが、その場をさがり、椅子に座れば、大きく息が漏れる。視界の端、そこは既に暗くなり始めている。血だけではない。マナが扱えるなら、その為の器官が。そんな話を以前カナリアともしたが、確かにそれもあるようだ。
ただでさえ足りていないからだから、更にと、そうなるのだから。

「巫女様。」
「座っていれば、大丈夫です。」
「後一時間もあれば、退席できますので、どうか。」

今は巫女の宣言を受けて国王が改めて総括と、今後の展望を語っている。どうにもこういった話は修辞を多く入れるため、長くなるのは変わらない物であるらしい。
そんな事を思いながら、恐らくこのトモエとオユキの花舞台を喜ぶだろう少年たちに。年長としての矜持で、ただ身を整える事に専念して過ごす。
次回以降は多少の簡略化もあるだろう。そもそもオユキとアイリスの参加については分からないこともある。少年たちが始まりの町、その祭りの日程を基準とするように、今後はトモエとオユキもそうなるのであろう。そのついでに、公爵が整えた場で知らぬ相手と話すこともあるだろうし、トモエは試合を求められるだろう。
オユキにしても、生まれた子への祈り、魔物と戦う、その将来を望まれた子たちへ、その前途に祈りを捧げる事になるだろう。
その辺りは、以前と変わらないらしい。繁忙期、それが分かっているからこそ、その時期は諦めも、用意も整えられるのだから。
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