憧れの世界でもう一度

五味

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11章 花舞台

余韻は彼方に

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若人の前途の祝福、それを祈るのはまさに年老いた者の楽しみの一つだろう。膝を着いたまま顔を上げる事も出来ぬクララを、王妃が騎士として淑女を送れと申し付ければ、場は綺麗に幕を下ろすこととなる。
であれば、そのまま昨日からの流れに幕を引きたいものではあるのだが。其処はそれ。次の舞台、その手配をしなければならない者達がここにいるのだ。

「では、日程を改めて。」
「お互いに、損な役回りですね。」
「王家とはそのような物ですよ。案外と裏での仕事、それが多いものです。」

そうして、王妃が実に大きくため息をつく。ここに至るまでもそうではあったが。公の場、巫女として立つのなら、言葉遣いはあまり遜らぬようにと言われたこともあり、平時の物と変わらぬようにとオユキはしている。
互いに神から直接認められている。そして、統治者、王本人にはともかく、そうでない相手であるならという理屈であるらしいが。
実態としては、そちらに気を回しすぎれば、振る舞いがおかしくなるからだというところだが。

「日程、ですか。それについても結局のところは衣装と。」
「ええ、こちらの用意がいる事も多くなりますから。口上と祝祷の祈りは。」
「常の格好であれば、問題ないと。当日の物によっては、やはり障りがあるのでそちらでの練習は求めますが。」
「後は、そうですね。底の厚い靴は。」

言われて、改めて己を振り返り納得はする。どうしたところで背が低いのは事実だ。

「お子様を預かる時、ですか。」
「あの子は王太子、次代です。それが頭を下げる形になるのは。」

そう、王太子にしてもこちらの平均、オユキより頭二つは高い。それが抱えた子をオユキに渡すとなれば、屈まなければならぬ。

「踏み台、が良いかと。」

流石に厚底となると。習い覚えた者からあまりに外れる。そして、その差を解消するほどにとなれば、それは愉快な底上げになるのだから。

「ええ、あの子もそういでしょう。何なら膝を折っても構わない、そこまで言っていましたからね。」
「届けただけの身に、随分と過分な。」

気持ちはわかるが、そこまでとも思うものだ。そして、そこまで思わせるほどの物があったのかと思えば、猶の事。

「当日は、流石に転ぶわけにもいきません。それこそ前途を祝うものが躓く、その様子は。」
「ええ。確かに認められるものではありませんね。」

他国との交流、それが開いてそれほど時も立っていない。だというのに他国の王太子妃。人の世は人の物に。悪意を持って傷つける事は認められていないが、そうでないなら。
ままならぬことが、多いものだ。とかく人の世は。神にしてもそうだと知ったのは、ごく最近であるのだが。

「それと、表立ってとは出来ませんが、今色々と動いてくれている者たちに、僅かな贈り物を。出立の前に日を空けておくように。」
「ええ、あの子たちも喜ぶことでしょう。」
「ただ、手が減った後、その事を考えれば実に頭の痛い。」
「その、そればかりは、流石に。」

他の家も、似たような事をしている。その様子は見られるが、では今回ここに来ている、祭りの一時の為に来ている者たちが引き上げればどうなるか、そこまで責任は取れない。文字通り手が出せない。

「水、そちらについては。」
「幸い、と言えばいいのか、熱に浮かれた騎士達がちょうどよく。」
「であれば、その改善は見られそうですね。」
「しかし、誰も彼も、この王都からこぞって軍事物資を買い漁っていきますからね。」
「その補填は、それこそ。」

そう、その為のダンジョンでもある。そして先を求める騎士たちにとっては、実に都合が良い場所であろう。

「報告待ち、となります。しばらくは交代制で、各地に騎士を分けて派遣しますから。」
「おや、それを私に話しても。」
「あなた方の帰還、それには第二と近衛の一部が。前者は公爵の領に貸す部隊、後者は国法による巫女へのものです。」
「今いる方々が、そのままという事ですか。」

今にしても、かなりの人数がこの場を守っているものだが。そちらは王妃を守るものを含めてだ。オユキとアイリスには別途公爵の護衛と、近衛らしき相手。それが20に届かない、それほど配置されている。

「それから、あの子の事ですけど。一度会ってと。」
「ああ。ですが、色々あってのご出産、まだ疲労が残っているのではないかと。」
「それでも、そう望んでいるのです。祝祷の式、それに立って参加するのは難しい、そう言われているほどですが。」

王太子は、強い、そのように評していたが、今はかなり神経質になっているだろう。それこそ外部の人間、その接近を毛嫌いして、攻撃しても納得がいくほどに。

「それこそ、負担になるかもしれぬことを思えば。」

出産、その負荷で命を落とした、話にしか聞いたことがない相手がいる。そしてそこに生まれた嘆きの深さも。そうであるなら、負担であるなら、無理に礼をというのであれば。オユキはそれにすぐに応えられない。
未だ会ったこともない、そんな相手の事でもある。そうであるなら、今できる事は一つ。
側についている使用人に封書の用意を頼む。確実に届けられる相手は、目の前にいる。

「申し訳ございませんが、こちらは未だに。」
「今後も増えるでしょうから、なるべく早めに習うように。」

厳しい言葉は返ってくるが、つまり今は構わないと、そういう事でもある。直ぐに用意され、机に置かれたそれを使い、手早く手紙を書きあげる。その間、王妃は何を言うでもなく、実にのんびりと構えている。元来の使い方、それで顔色などは隠しているが、彼女とてかなり疲れているはずだ。そうしている間も、今後について思考は巡らせているのだろうが、温かいお茶と、夏の陽気。それを楽しむ時間は、ちょうどいい気分転換ではあるのだろうから。
そして、少しの時間で書き上げたそれを、そのまま王妃に。

「あまりに率直にすぎますが、あの子には、今はこのくらいが良いのでしょうね。」
「ええ、恐らくは。」

後は身の証となるものを。そう考えるものだが、手ごろなものなどそうそう持ち合わせていない。二つに一つ、どちらかだ。ただ、より明確なそれはあまりに武骨でもあり、この後の時間に必要でもある。ならばと、首から外したそれを、王妃から戻された手紙と一緒に便箋に放り込んで封をする。

「良いのですか。」
「望まぬ事であれば、手元に戻るとも聞いていますから。先ほど舞った華、その花弁が残っていればとも思いましたが。」

地に落ちた物、それを王太子妃にというのも、如何に神の奇跡としても具合が悪いだろうと思いはするが。

「おや。」

しかし、相変わらずの気安さが側にあるらしい。便箋には見知らぬ文様が。先ほどまでは、公爵家、その紋章だけであったはずだが、今は異なるものが現れている。
神像が二つ、つまり、安息が与えられるべきは、その数という事らしい。水と癒し、それが無いのは、そこにこそ忙しさがあるのだろう。そうするための何かを別に使っている。

「随分と気安い、そう思う物ではありますが。」
「ここまでというのは、歴史を預かる身としても聞き覚えはありませんよ。」
「異邦からこちらに渡る、その都合でつなげやすいと伺ています。」
「異邦からこちらに渡る、その道での事が有るから、でしたか。しかし。どちらにせよ稀です。異邦から来たもので神職、その位が与えられた物は、有史以来数えるほどです。」

まぁ、そこは流石に、いる物だろう。
ゲームの中でも、奇跡の使い手は、少ないとはいえいたのだから。オユキとしては、それこそそういった思考は許されぬ、遊んでいたもの達はそれを好むからこそ、そう言われた身だ。それこそ未練ではあるのだが。あまりそれについてはこの場で考えず、一先ず王妃に渡してしまう。

「あまり戦と武技、その巫女からの物とは言えないかもしれませんが。」
「それこそ神の配剤という物でしょう。誰から、それについてはまさに簡単に示せます。確かに、あの子に届けましょう。」

そこからも細かい確認であったりを続けることとなる。闘技大会、練習の場、王城であれば、その折に案内をする相手が誰になるのか、現在の採取体制、今後流用できるものか。
所々公爵が伏せているであろうことも、流れとして探られるため、気の置けない話し合いであることには変わりないのだが。公爵、メイ、そちらだけに話すべきことも、相談すべきことも多い。相応の回数をこなした結果。日々採取の量が増えている事などもあるのだ。一体いつの間に再生を、再度採取可能になったのか。そういった疑問等、本当に考える事が多い。
それこそ根こそぎ、そうした場所と、そうでない場所に差が見られないこともある。以前始まりの町では、一週程、そのように言っていたこともある。場所の違いと言えばそこまでだが、では違いがなにに起因するのか。それを考え検証するのが大事なのだから。
そうして王妃とニコニコと、表面上は和やかに時間を過ごし、それが終わって少し休めば送り出した相手も帰ってくる。改めて二人でのんびりと、それも考えていたはずだが。それこそそこまで都合よく願いは叶えないと、そんな強かな少女の声が聞こえてきそうなものだと、オユキはそう思ってしまうものだ。因果応報、それを言い含めながらも。
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