憧れの世界でもう一度

五味

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11章 花舞台

外での感想戦

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トモエが己の考えを、まだ固まっていないそれを話して戻ってきたのをオユキは迎える。
オユキにしてもそうだが、色々あったのだ。そして、まだ期間はある。生前、晩年と同様に、やはり悩みの種など尽きるはずもない。日々移ろう景色に併せて、それも移り変わるのだから。

「人はいさ。という言葉もありましたが。」
「花の色とならないよう、そう務めるだけでしょう。」
「君がため。そう返すよりほか有りませんよ、私としては。」

どうしたところで、突きつけた言葉。その反作用は無くならない。ならばと、オユキからはトモエに軽口をたたくしかない。少しでも楽になるようにと。かつての言葉を借りれば、こちらの相手には十分隠せることもある。
それを隠そう、その努力はわかるのだから。

「やはり、体それに対する慣れが、制御が甘ければ難しい事も多く、大味な物が多いのですが。」

そうして、トモエは今の教え子たちに向かう。師として、見本として振舞ったのだ。そこまで含めてではある。
レジス侯爵、未だ立ち上がらぬ彼の下には公爵が向かっている。トモエの出した条件、それが何処まで叶うものかはわからぬが、それについてはそこで話してもらう他ない。
他派閥の侯爵、高位の貴族が、己の麾下の手によって位を返す。それは外聞が悪いどころの騒ぎではない。特に現状においては。
トモエとしては、それを抑えるためとして、預かるといったのだろうが、それにしても難しい。
名は立場だ。それを受け取れば、ではとばかりに先方から色々と舞い込むだろう。そして、クララから何を言われるか分かったものではない。彼女の家としては侯爵家の子息であればこそ、そうなっていたものが急にそうでは無くなるのだ。家督を与える、その判断の前提が変わるのだから。
次女。こちらでは長男がいれば次は次女となるようだが、その人物が家を継がないのだ。相応の理由、例えばマリーア伯爵がいて、その子息がマリーア公爵となるように。そういった物はあるのだろうが。
なんにせよ、色々と調整はいる。それによっては、レジス侯爵はさらなる重しとして、貴族としての役割を果たしてもらう事になる。その辺りまで至れば、オユキにしてもどうにもならない。後は両者、親も交えての話し合い。その結果を粛々と受け取るしかない。ただでさえ、クララの件で骨を折ってもらっている、それについては申し訳なく思うものだが。

「んー、結局油断は駄目だってことだよな。」
「はい。大枠としてまとめればそうなります。」

トモエが話した間合い、その利点と不利。それはシグルドが非常に端的にまとめた。あながち間違っていないこともあり、トモエとしては、否定しにくいものだが。

「繰り返しになりますが、有効打、攻撃が意味を成す距離という物があり、それを間合いと呼ぶわけです。」
「ああ、分かる。だが、結局そこに相手を入れなければ。」
「そうですね。自身のそれと相手のそれ。その折り合いはありますが、そもそも攻撃できない位置にお互いが立つ、そうなれば、何も起こりませんから。」
「でも、私がこう、長刀を使っても、アベルさんとかアイリスさんは。」
「ええ、セシリアさんが振るよりも早く、その刃の内に飛び込んでくるでしょう。」

少年たちの美点として、当たり前のように分からないことは分からない。そう言えるところがあるだろう。今も活発にトモエの言葉に対して、自分の理解でこうなるのではないか。ならば、どうにもならないではないのかと声を上げている。

「えと、それだと結局さっきみたいに動きを止めずに、動き回ってが良いんですか。」
「動作の合間と言うのは最も隙が多いですから。オユキさんの動きにしても、それを如何に潰すかに重きを置いていますよ。」
「あー、あっちの狐のねーちゃんだと。」
「向こうはその理合いを最低限にして、そういった物ですね。」

そこであれこれと話していれば、トモエと少年たちの会話により関心を向ける物ばかりとなる。両貴族の取り決め、それに意識を割くものがいない、使用人は除いて、それが、まぁ、なんというかこの集まりを如実に表している。

「どうかしら、さっきみたいな動きがあるのなら、そうも思うけれど。」
「元来あのような渡り技、それをねじ伏せるのもそちらの手管ですよ。」
「でも、貴方なら逸らすでしょう。」
「そうされぬ、それを許さぬために鉄断ちがありますから。」
「あ。鎧だけじゃなくて、武器も、ですもんね。」

トモエの中でも色々と吹っ切れたようで、今は事表層、それに関してはこれまで以上に憚ることなく話している。

「で、連れ合いの変化を喜んでるところ悪いがな。」

そして、そんなオユキの小さな頭をアベルが掴む。

「ちょっと、向こうの始末に手を借りれないものかね。」
「ええと、流石に、貴族同士のやりとりは。」
「というか、イマノル、お前も何をしてる。お前の家の事だぞ。」

アベルが声をかければ、トモエと少年達、アイリスの話し合いに集中していた彼も、慌てたようにこちらに走り寄って来る。

「失礼しました、団長。」
「気持ちは分かるし、これまでの悩み、それも知ってるから言いたくはないが。」
「いえ、私の父、家の事です。」
「どうせ聞いちゃいなかっただろうがな、どうしても位を返上したいそうだ。お前、そうなるとクララから散々恨まれるぞ。」
「まぁ、そうでしょうけど。結局は当主の判断ですから。あ、いえ。説得は勿論。」

何処か他人ごとのように語るイマノルには、オユキとアベルから熱量の高い視線を贈って置く。女性同士、その前提がクララにあるため、手紙のやり取りくらいはあるのだ。作法の一環としてそれを求められたこともあり、確認は入るものだが。
そこに一文添えて置こう、オユキはただそのように決心する。結局のところ、このイマノルと言う人物にとって、それが正しいとはいえ、家同士、それ以上を婚姻に見出していないのだぞと。
恐らく、このイマノルの頭の中では、クララは気の置けない戦友。隣に立ってもらえるなら安心できる。そこから出ていないのだと。勿論、そう書けば先方から熱量の高い返事は返って来そうではあるのだが。

「ただ、どこに落とし込めばいいのか。」
「最低限家の維持は必須だ。」
「だとすれば、預けた物をとなりますが、それこそ前と同じに。」
「あっちの小僧も見抜いたわけだからな、レジス候がそれをどう判断するか、考えるまでもないか。」

最も手っ取り早い物。次代として、オユキとイマノルが向き合えば。
ただ、その結果はやるまでもなく決まっている。全力でとなれば間違いなくイマノルが。技術としての枠を用意すれば、オユキが。
そして、その結果はレジス侯爵の心をさらに苛むだろう。

「そうですね、私からも少し話をさせて頂いても。」
「ま、そのあたりトモエよりお前向きだろうな。」
「団長、淑女に対して、あまりに粗雑では。」
「お、何ならお前も一月一緒に動くか。こうなるぞ。」

未だにオユキの頭を掴み、何なら話の中でところどころ足が浮いている。それをイマノルが咎める物だが、アベルの返答はにべもない。そもそも中身、その理解もあるのだから。
それもあって、アベルはトモエに配慮を見せるが、オユキにはあまりそういった物を見せない。そういった慣れに対して、色々と裏を考えてしまうが、体力、それに対しては優しさがあるので、個としてみているのだ、そう受け取っている。

「一応、簡単な物はありますが。」
「そうなのですか。であれば、お願いしても。」
「イマノル、何度もそういう迂闊は注意したはずだが。」
「迂闊、ですか。」

さて、詳細を説明する前にと、力の込められていないアベルの手から抜けて、未だに言葉を重ねている両者の側に寄る。
何処までが掌中なのか、その疑問はあるが。解決策は簡単なのだ。実に。

「諭されて、改めて見えたものが有ります。始まりとして掲げたそれから離れている。であれば、我が家を表す紋章、認められたそれに何の価値が有りましょうや。」
「我とて、その方と同じ立場であれば同じ言葉を口にする。今もその葛藤はある。しかし、現状では我らはただ全てを飲み込み、そうあるしかないのだ。この、大きな変化、その中で舵を取るべきものが惑えば、それを見る物はもはや激流にただ飲まれるしかないのだから。」
「しかし、祖の誓い、それが違えられたのであれば。」
「確かにな。しかしそれを飲み込む、それが責務であり、今後を作る事こそが。」

さて、少し前から聞いてはいたが、やはり話は堂々巡りとなっている。そしてやはりこれもどちらも正しい。家として、貴族、それを名乗るための誓いが破られた、ならば掲げる紋章に意味はない。そう語る侯爵も。
現状、家が減れば、手が減れば起きる影響、そもそもその根底は後に続くもの達のため、それが前提である以上。そう語る公爵も。
ならば、手っ取り早い解決策がここにいる。

「お二方とも、そこまでです。トモエが不足、そうであるなら。」

そう、今はあくまで公爵の下にいる、何物でもないトモエが不足であるとういうのならば。
こちらの世界で絶大である、その名を語り、トモエの願いを叶えるのがオユキだ。勿論妥当性、それが叶えるべきかどうか、それを考え、そうでなければ諫めもするが、今回は違う。
どちらも正しく、向き合う時間がいる。ならば。

「戦と武技の神、その名において巫女と呼ばわれるこのオユキが預かりましょう。レジス侯爵、その家名も。取り返す、改めて正道に、望むのであればトモエに、その流派を継ぐ者に、望むとよいでしょう。
 しかし人の世として、その枠は必要であるなら、届かぬそれを名乗る、その恥こそこの度の贖罪そうしましょう。」

神の名、それを使う事にあまりに大きい危険がある世界、だからこそ巫女としての言葉は重い。

「戦と武技、その名を冠する神よ。そなたの巫女、そうある物の言葉に不服があれば、どうぞ如何様にでも。」

そして、その名を語るのであれば、判断は彼の神に。そして身近、その気安さで言葉が届く。
足りぬのであれば、届くために。その研鑽こそが我が道であると。

さて、こちらの立場を知らぬイマノルが驚いてはいるが、他は届いた言葉にいい加減見慣れた印を切っている。巫女としての物とは違うあたり、何ともややこしいのが、この世界なのだ。
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