憧れの世界でもう一度

五味

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11章 花舞台

勘違い

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年長者。最も今回は自分たちの目的というのもあったのだが。それでも引率を行う立場としては、他の者たちがちゃんと楽しめたのか、それも気になるものではある。
魔物の乱獲そのものは休みとしたが、そこはそれ。相も変わらず訓練は行うもので、その時間にやはり神殿の事が口の端に上る。残念な事ではあるが、一人は同行できなかったこともあるのだから。

「そうか。楽しめたなら何よりだ。」
「おう。流石、としか言いようがないけどな。」
「神のお膝元だ。その威容はやはり我らの物とは、根本から違う。」

一人留守番、と言うよりも今後の移動、それからその後。その準備を色々と行っていたファルコに、少年たちが思い思いに感想を語れば、彼にしても楽しいものであるらしい。
それなりに王都も長く、立場もある。すでに何度も訪れているのだろうから。

「本当にそうですよね。神殿からの水が王都にって、前に言ってましたけど。」
「ああ。いや、そうか。馬車で動いていれば位置関係も分かりにくいか。」

丸太への打ち込みはすでに終え、今はクールダウン中。そういった話も盛り上がるという物だ。オユキは鍛錬が終われば早速とばかりに、アベルにアイリスと共に連れて行かれた。新しく得た魔術文字、加えて巫女としての所作を習うためにと。どうにも、今の忙しなさばかりはどうにもならない。それこそ始まりの町に戻る迄は続くだろう。オユキにしてもそう語っていたものだが。

「王都の北側、大河もそちらの方向にあるのだが、そこから王都の水路を巡っている。」
「へー。」
「御爺様の領都、その水路は王都の物から着想を得て、そう聞いている。後は中心部だな、其の水路を巡るゴンドラもあってな。清涼な水の冷たさが側にあり、この時期は実に清々しい。」
「それって。」
「平時ならば誰でも、そういう物ではあるが。」
「あー、闘技大会もあって、まだ色々忙しいんだっけ。」
「今は人ではなく物を運ぶために、そうなっている。無論例年の事だから、残念に思うものもいるだろうが。」
「城から色々運び出してんだろ、俺らの食い物だし、文句を言うのは違う。」
「理解を示してくれてうれしく思う。落ち着けば、今度は楽しみにしていた者たちで混み合うだろうからな。」

どうやら、今回はそれを使うのは難しそうだ。領都にしても帰りにより、一度旅の疲れを抜くことになるだろう。相応の備えも、ある程度することになるであろう。ならば、その時にとするのが無理もないだろう。趣は勿論変わる物だろうが。

「にしても、最近は結構人が増えてきたけどさ。」

そして、闘技大会。技を競う場、それが神の名のもとに開かれる。それが大々的に示されれば、それに臨もうという物がやる事など決まっている。
鍛錬だ。
すぐそばに実戦の場がある。ならばそこを使うのが当然の帰結という物だ。
先の生誕祭以降、日毎に狩場としている場所にも人が増え続けている。勿論、平静ではいられない物も多く、まぁ、今度はしっかりとそちらの余波が、色々なところに波及している物であるらしい。
今日のこったファルコは、兄のリヒャルト共に、それに大いに頭を悩ませている事だろう。始まりの町では、彼が一応取りまとめなければいけない類の物ではあるのだから。
流石に手が足りないからと、マリーア伯爵家、彼らの両親の家からも応援が来るという話ではあるが、向こうも領地を持つ身である。本当にどうにかといったところであるらしい。

「ああ、それもあって、むしろ祭りの時よりも色々と足りなくなっているそうだ。」
「魔物を狩る人が増えているのに、ですか。」
「食料については、解決の目途が見えてきているらしいが、狩猟を行う人間が増えれば、まぁ、一番は。」
「武器か。」

それについては、少年たちにしても年齢に合わない重たいため息をこぼす。

「あー、値段、上がってたな、そういや。」
「ふむ、どの程度だ。すまないが詳しく話せるなら。」
「えっと、無造作に樽に入ってるものが、前は2000ペセだったんですけど、今は2500ペセぐらい。ただ、魔物の素材も併用しているものは、300ペセぐらい、安くなってたかな。」
「武器を作る手が足りないのか、鉱石の問題か。」
「いつも寄ってる武器屋のおっちゃん、暫くは手入れも難しいって言ってたからな。」
「すまないが、シグルド達からも、夕食の席で御爺様と兄上に伝えてくれるか。」
「あの、後はお薬も。切り傷用の薬が、前は布も併せて100ペセだったのに、今は300ペセ出しても、そもそも在庫が。」

そう、勿論魔物と戦えば怪我をする。そして目的とする舞台までは日がない。ならば一々自然に治るのを待ってなどいられない。ならば話は簡単だ。

「少し待ってくれ。」

そうして、ファルコがクールダウン、ゆっくりとした素振りと柔軟を終えたこともあって、使用人を呼び、メモの準備を頼む。そして、そういった事に詳しいアドリアーナを連れて、普段はお茶会の場や、公爵家の人々が訓練風景を眺める一角で、本格的に聞き取りを始める。
オユキやアベルが折に触れてあれこれと話、シグルド達、学び舎にも通わぬ、いよいよ市井の者たちと触れ合い、治世を行うものとしての姿勢に向き合い始めているようだ。
己が足りぬ事、その理解も十分であり、あくまで報告と、そうするための準備でとまってはいるが。その先に進むには、まぁ、それこそ経験が足りない。

「あー、俺らは流石に森迄は。北のほうだったら、まだ楽なんだっけ。」
「ええ。そうでしょうが、そもそも私たちでは、有用な薬草の見極めも難しいですからね。」
「それもそうだな。簡単な物ならわかるが。」
「植生が同じとも限りません。手伝うなら、まずは採取者ギルド、そちらで話を聞くのが良いでしょう。」

そして、身内、彼らの目線で言えばそうなる相手が頭を抱えれば、当然少年たちはでは出来る事をそういうのだ。
ただ、話がそちらに流れる前に、トモエとしても気になることを聞いておく。その話を先に進めるには、どのみち今はこの場にいない者たちにも色々と聞かなければならないのだから。

「皆さん、教会で色々とお話を伺っていたようですが。楽しめましたか。」
「ん。ああ。やっぱり、場所が変わるといろいろ変わるし。水と癒しの女神様の話も、初めて聞くものが多かったしな。」
「ね。私たちの教会だと、見ない物も多かったし。ティファニアちゃんたちは。」
「はい。お話は何度も聞いていましたけど、素晴らしい場所でした。祭具にしか使ってはいけない意匠が、長椅子に彫られていたり、驚くことも多かったですけど。」

距離が離れている、そして移動が難しい。以前と比べればそれが持つ意味が大きく、同じ系統である子供たち、そちらに不安はあったが楽しめたのなら何よりだ。
トモエにしても、司祭に話をせがみ、王太子や公爵の補足、関連する逸話などにすっかりと耳を傾け、普段ほどの注意を払えていなかったのだから。

「皆さんも楽しんでいただけたなら、何よりです。」
「うん、色々と助祭様がお話ししてくれましたし。3代目の国王様が、水と癒しの女神様に愛を伝える詩を贈った話とか。」
「俺はそっちよりも、新しい都市の水不足、その解決のために試練を受ける初代国王様の話のほうがおもしろかったな。」

トモエの方は美術品やその来歴ばかりを楽しんでいたが、子供たちには色々と伝承や寓話が伝えられた物らしい。勿論助祭、その位を持つものだ。その中に色々と訓戒を盛り込んだものだろうが。
そうして話していれば、改めて気になることも出て来る。

「そういえば、シグルド君たちの暮らしていた教会は、月と安息の神様を。」
「え。違いますよ。」

司教、ロザリアが月と安息の女神の聖印を首から下げていたため、そう考えていたが、違うらしい。

「おや。ロザリア様を見てそうと考えていましたが、では、どちらの柱を。」
「いや、全部の神様だぞ。」

言われて、トモエはようやく勘違いに気が付く。これまでの教会、それはどれも必ず祀る神の冠を先のおいていた。しかし、始まりの町、その教会は違う。
これまでであった神職の者たちも、何の教会とは言わず、必ず言っていたではないか。ただ、最も古い教会と。

「そういえば、呼び名も違いましたね。」
「はい、ただ最も古い教会。お祭りとかでは、最初の教会、神がその始まりを刻んだ地。そう呼びます。」
「それは、創造神様を、と言う事でもないんですよね。」
「えっと、この世界よりも前に神様はいましたし。他の世界からこちらにといった神様もいますから。」

トモエとしては、そう言った話を聞いて、ああ、だから創造神がもっと話を聞けというのか。そう、ただ納得する。オユキは、まぁ、生前から興味に向かって、そう言った傾向の強い人物である。それ以外と言うのは最低限、それすらしないこともあるのだと、それを改めて思い出す。
恐らくゲームの時分から、このあたりには全く興味を示さなかったのだろう。一般論や概論、それを抑えて話の中で推測を組み立てながら合わせる、それができるため一見不都合は生じないのだが。
こちらでも、食事、好みは変わってはいるが、結局不都合なく食べる、それ以上を考えていない。トモエが好んでいるから付き合う。これまでの経験で、会食の機会も多く、必要があったから身に着けた知識として。それこそ問題なく振舞えているから、気がつかれにくいのだが。

「となると、色々と、皆さんの教会でもお話を伺ってみたいものですね。」
「創世神話とかは、司教様がお祭りの時には話してくださいますよ。」
「では、一先ずそれを楽しみにしましょうか。」
「ま、結構人がたくさん来るけど、あんちゃん達なら俺らと一緒に教会の裏手のほうでもいいだろうしな。」
「初めてのお祭りは、流石に一般の参列者の方と同じく、そうしたいものですけど。」

シグルドの言葉は厚意ではあろうが、トモエとしては、叶うならとそう思うところもある。ただ、今回についてはいよいよと参列者も増えそうではあるから、難しそうだとは思うのだが。
普段はそういった事をシグルドが言えば止めるアナが、ただ難しい顔をしているあたり、いよいよと、そう分かるものではあるのだが。
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