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9章 忙しくも楽しい日々
神殿で
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「お戻りになられましたか。」
そう告げられた言葉には、どうにも夢見心地と言えばいいのだろうか。少々ふらふら、と言うよりもふわふわとした感覚が付きまとい、直ぐに返答を行えない。
そして、オユキの隣、途中で支えられたオユキとは異なり、アイリスのいた場所からは、彼女がそのまま地面に倒れる音が聞こえる。
「短くはない時間お召でしたもの、巫女様方はお疲れのようですね。」
これまでは夢の中、寝ている状態での事であったが、こういった疲労は帰されて起きるまで、その間に処理されていたらしい。懐かしい疲労が、それこそ偶の休日に一日中刀を振った後の様な疲労に、オユキはトモエに体を預けたままにする。
アイリスの方は司教が抱き起しているようであるが。
「ありがとうございます。」
「いえ。何か変調はありますか。」
「疲労だけでしょう。」
そうして答えながらも、何か得たはずの閃きを確かなものにしようと思うが、既にその過半は失せてしまっているようである。大きな、それこそ、オユキ自身がこちらに来てから得た望み、それを数歩先に勧める何か、それについては既に失せてしまったようである。ただ今は基本的に一つとは、よく言った物だ、そんな感想だけが胸中を占めている。
「これまでは実感がありませんでしたが。」
「数分でしょうか、こちらでは姿が見えなく。」
「成程。招かれる。その言葉に偽りはないという事なのでしょうね。」
どうやら位置情報、それすらも変わっているらしい。まさに言葉通りの結果と言うべきなのだろう。
「それにしても、随分と見覚えのある。」
「ああ、こちらにも。」
さて、向こうで使えと言われたものは、きちんと供物台に置かれているものであるらしい。重たい疲労に、確認も面倒に感じるが、オユキがそちらに視線を向ければ、ほとんど視線の位置、そこに置かれた台の上に、先ほど見た物と、それ以外が並べて置かれている。
全く、こういった事が神として行える、奇跡として確かにあるというのに。どうして過去、それからこちらで改めてそれを探すことをしなかったのだろうか、そんな事を考えてしまう。
それこそ、オユキの知らぬ何処かで、確立している可能性もやはりあるが。それに触れられぬのであれば、無いも同じであろう。
「では、エリーザ助祭。お手数かけますが。」
「畏まりました。しかし巫女様方、取り上げるところまでは。」
言われたオユキとしては、疲れているとはいえ、神から授けられたものを、本人以外が先にというのは確かにと納得するしかない。
そのままトモエに支えられたまま、隣に来たエリーザが身振りで指示をするそれに合わせて動く。
アイリスの方も司教に支えられて同じようにしている。さて、膝を付き、頭を下げ印を切りと、そうしている所で、トモエにやんわりと動きを止められる。
何事だろうかと思えば、何処か悪戯を見とがめたような雰囲気だ。
「オユキさん。怪我を。」
「ああ。成程。こちらから失せていたのであれば、確かに傷も残りますか。」
流石に躱しきれる物でもない。確実に致命、実際に命を取られることは無いだろう。しかし、戦闘不能が決まる物以外は、と。そうした弊害がある物らしい。
「ええ、アイリスさんも含めて、少々。」
「成程、剣舞と伺っています。そういうこともあるでしょう。お疲れの理由も分かりました。」
正直に実際を述べることなく、そう告げれば助祭がいい方向に解釈し、司教もそれに頷いている。
事実は、まぁ、良いだろう。問題は流血ではあるが。其処はそれ。今いるところ、司教という高位の神職。簡単な身振りを行ったかと思えば、オユキを淡い光が包み、流れていた血も、すっかり忘れていたが周囲を包む水に溶けて消える。
「お手間を。」
「いいえ、何程のこともありませんとも。では、もう一度。」
中座したのであれば、最初から。さて、練習の場を頂けた、そう考えて改めて助祭の言葉に従いながらも、供物台に置かれた物を手に取る。無論それなりの数があるため、一度にすべてとはいかないが。オユキは一先ず太刀と懐刀を手に取りそのままトモエに渡す。
神からは何も言われなかったものではあるが、演舞ではあるのだ。改めて師に可否を委ねる必要がある。それだけはオユキも譲りはしない。それこそ、そのために示したものもある。結果は伴わなかったが。
トモエにしても、心得たとばかりにオユキからそれを受け取る。そこに、いつぞや感じた物と同じ光が差し、それも良い、ただそう笑いながら言葉だけだ降ってくる。
「祭祀に向いた優美な物というのは、正直当流派にはほとんどないのですが。」
「おや、有るのですか。」
「神前にて奉納を、過去にはそう求められることもあったようですから。」
それ以上は何も言わず、編みからの追認もあったのだ。他がなにを言う事も勿論ない。そのままトモエに預けて残る衣装や、神像といった物は助祭へと。
アイリスからも渡されるそれらを、助祭が着替えを終えて戻っていた少女たちを招いて、分担して持つ。それなりの量にはなるのだ、全てとなれば。加えて残った物、聖印を象った装飾が4つ程残っている。うち二つは戦と武技の物、それも揃いとなれば巫女用の物と想像もつきはするが、残りの二つはいよいよ見覚えがない。いや、象られている者の一部は、ここの主たる神の物と、それはわかるのだが。
「こちらは、司教様へ、それで宜しいのでしょうか。」
「一つは、私宛で間違いございません。しかしもう一つは。」
そうして、司教がアドリアーナに目線を向ける。思い当たるところはありはするのだが。では他の二人の少女との違いは何か。それについては直ぐに答えがわかる。神殿に、訪れたからだ。そしてアナにしても少し先にはなるが、神殿に向かう事になるのだ。
「それこそ司教様から授けていただいたほうが。」
「そこは本人が選べばよいでしょう。それともう一つは、そうですね。改めて落ち着いた時に、翌週には生誕祭がありますから、その先にとそうなりますが。」
「ああ、そうなりましたか。」
どうやら通行証と言えばいいのか、招待状と言えばいいのか。今はそれを兼ねた物であるらしい。
さて、そうであるならと。少々ゆっくりと動いて、少しは疲労も抜けたため次は少女たちの用事を待つ。
そればかりではなく、王家からの今回の件、孫に対する事であったり、祭りの準備の礼も含めてだろう。月と安息に納められた物よりも多い荷物が持ち込まれる。
どうにも少し時間がかかりそうだと、トモエがオユキを休ませようと少し場を離れて、礼拝堂に並べられた椅子の一つに、オユキを座らせる。始まりの町でもそうであったように、それぞれの品で供える神が違うものでもあるようで、次々と持ち込まれては分けられ、運ばれと、その位の時間は貰える様だ。
一度だけ確認と、視線をこの場の主に向ければ、頷きが返ってきたことでもある。
「やはり、体力ばかりは。」
椅子に座らせられ、改めて大きく息をついてそうおどけて見せる。
「緊張の続くものであったでしょうから。」
「やっぱり、初めてではなかったのね。」
「ええ。機会があればせっかくですからと。」
アイリスの方は、やはり回復が早いようで、それでも目に見て分かるほどの消耗はあるが、既に一人で歩いている。
授けられた野太刀を持て余してはいるが。流石に二本背中にというのも用意がある物でもない。
オユキ達の分、公爵家らの寄付については、こういった事には遥かに慣れている少年たちが率先して行ってくれていることもあり、そちらを微笑ましく見ながら、話しを続ける。
「まさか、本気でやっても届かないなんてね。」
「一対一であれば、もう少し深手を負いましたよ。」
それに、オユキの刀は結局届いていないのだ。あたりはした。しかしそれは輝く毛の一筋も切れていない。爪は言わずもがな。前に語った言葉そのままに、力が足りず、技も意味を持たない。
「もう少し、ね。」
戦闘は、本気で行うそれは御終いという事なのだろう。アイリスにしても、既に普段通りではある。
「怪我を負ったのは私だけですから。」
「私も、指の骨をやられたわよ。もう治ってはいるけれど。トモエなら、どうしたのかしら。」
「オユキさんと変わりませんよ。今はまだ、足りていません。一応手立ての考えはありますが、見せることは無いでしょうね。」
つまり文字通り必殺を期する、そういった類の手練手管を使うという事だろう。オユキの習い覚えていない物、それは実に多い。
「手がないとは言わないのね。なんと言えばいいのかしら。」
「ええ、こちらに来て、実際の戦いの場に立ってみれば、言いたいことも分かりますとも。」
アイリスが頭痛を堪えるようにする仕草もよくわかる。物によっては道、精神修養、武器を持ついつでも殺せる、だからこそ己を律し、御することを教え込む。その部分だけを抜き取ったものもあり、むしろそちらが多数派だ。
その中でも、未だに如何に効率よくそれを為すか、その技を求め続けてきたというのは、なかなか理解が難しい物ではあるだろう。向こうでもそうだったのだ。こちらのように、明確な敵が存在するのであれば、なおの事。
「それにしても、千早もとなると、いよいよそういった物になりそうですね。」
そうして、トモエが手に持つ太刀を揺らせば、澄んだ鈴の音が響く。
「私の故郷の物と、様式は似ているけれど。」
「色合いで意味は変わりますが、私たちは正式な稽古の時に着る物でしたよ。」
膝の動きが隠れるので。そうトモエが加えれば、あきれたとばかりの視線がアイリスから投げられる。
古墳時代、もはや先史時代だが、その頃には見られていたそれだが、その程度の事までしか流石にオユキも記憶にない。
「袖口も広く、それが欠点にもなりますが、色々仕込んだりするんでしたか。」
「そうですね、暗器の方では。懐刀も頂いたようですし、そちらも改めてお伝えしましょう。」
「神から頂いた衣服で、あなた達ね。」
疲れたようなため息に対する返答は、トモエとオユキでぴたりと揃う。
「戦と武技、その神ですから。」
そう告げられた言葉には、どうにも夢見心地と言えばいいのだろうか。少々ふらふら、と言うよりもふわふわとした感覚が付きまとい、直ぐに返答を行えない。
そして、オユキの隣、途中で支えられたオユキとは異なり、アイリスのいた場所からは、彼女がそのまま地面に倒れる音が聞こえる。
「短くはない時間お召でしたもの、巫女様方はお疲れのようですね。」
これまでは夢の中、寝ている状態での事であったが、こういった疲労は帰されて起きるまで、その間に処理されていたらしい。懐かしい疲労が、それこそ偶の休日に一日中刀を振った後の様な疲労に、オユキはトモエに体を預けたままにする。
アイリスの方は司教が抱き起しているようであるが。
「ありがとうございます。」
「いえ。何か変調はありますか。」
「疲労だけでしょう。」
そうして答えながらも、何か得たはずの閃きを確かなものにしようと思うが、既にその過半は失せてしまっているようである。大きな、それこそ、オユキ自身がこちらに来てから得た望み、それを数歩先に勧める何か、それについては既に失せてしまったようである。ただ今は基本的に一つとは、よく言った物だ、そんな感想だけが胸中を占めている。
「これまでは実感がありませんでしたが。」
「数分でしょうか、こちらでは姿が見えなく。」
「成程。招かれる。その言葉に偽りはないという事なのでしょうね。」
どうやら位置情報、それすらも変わっているらしい。まさに言葉通りの結果と言うべきなのだろう。
「それにしても、随分と見覚えのある。」
「ああ、こちらにも。」
さて、向こうで使えと言われたものは、きちんと供物台に置かれているものであるらしい。重たい疲労に、確認も面倒に感じるが、オユキがそちらに視線を向ければ、ほとんど視線の位置、そこに置かれた台の上に、先ほど見た物と、それ以外が並べて置かれている。
全く、こういった事が神として行える、奇跡として確かにあるというのに。どうして過去、それからこちらで改めてそれを探すことをしなかったのだろうか、そんな事を考えてしまう。
それこそ、オユキの知らぬ何処かで、確立している可能性もやはりあるが。それに触れられぬのであれば、無いも同じであろう。
「では、エリーザ助祭。お手数かけますが。」
「畏まりました。しかし巫女様方、取り上げるところまでは。」
言われたオユキとしては、疲れているとはいえ、神から授けられたものを、本人以外が先にというのは確かにと納得するしかない。
そのままトモエに支えられたまま、隣に来たエリーザが身振りで指示をするそれに合わせて動く。
アイリスの方も司教に支えられて同じようにしている。さて、膝を付き、頭を下げ印を切りと、そうしている所で、トモエにやんわりと動きを止められる。
何事だろうかと思えば、何処か悪戯を見とがめたような雰囲気だ。
「オユキさん。怪我を。」
「ああ。成程。こちらから失せていたのであれば、確かに傷も残りますか。」
流石に躱しきれる物でもない。確実に致命、実際に命を取られることは無いだろう。しかし、戦闘不能が決まる物以外は、と。そうした弊害がある物らしい。
「ええ、アイリスさんも含めて、少々。」
「成程、剣舞と伺っています。そういうこともあるでしょう。お疲れの理由も分かりました。」
正直に実際を述べることなく、そう告げれば助祭がいい方向に解釈し、司教もそれに頷いている。
事実は、まぁ、良いだろう。問題は流血ではあるが。其処はそれ。今いるところ、司教という高位の神職。簡単な身振りを行ったかと思えば、オユキを淡い光が包み、流れていた血も、すっかり忘れていたが周囲を包む水に溶けて消える。
「お手間を。」
「いいえ、何程のこともありませんとも。では、もう一度。」
中座したのであれば、最初から。さて、練習の場を頂けた、そう考えて改めて助祭の言葉に従いながらも、供物台に置かれた物を手に取る。無論それなりの数があるため、一度にすべてとはいかないが。オユキは一先ず太刀と懐刀を手に取りそのままトモエに渡す。
神からは何も言われなかったものではあるが、演舞ではあるのだ。改めて師に可否を委ねる必要がある。それだけはオユキも譲りはしない。それこそ、そのために示したものもある。結果は伴わなかったが。
トモエにしても、心得たとばかりにオユキからそれを受け取る。そこに、いつぞや感じた物と同じ光が差し、それも良い、ただそう笑いながら言葉だけだ降ってくる。
「祭祀に向いた優美な物というのは、正直当流派にはほとんどないのですが。」
「おや、有るのですか。」
「神前にて奉納を、過去にはそう求められることもあったようですから。」
それ以上は何も言わず、編みからの追認もあったのだ。他がなにを言う事も勿論ない。そのままトモエに預けて残る衣装や、神像といった物は助祭へと。
アイリスからも渡されるそれらを、助祭が着替えを終えて戻っていた少女たちを招いて、分担して持つ。それなりの量にはなるのだ、全てとなれば。加えて残った物、聖印を象った装飾が4つ程残っている。うち二つは戦と武技の物、それも揃いとなれば巫女用の物と想像もつきはするが、残りの二つはいよいよ見覚えがない。いや、象られている者の一部は、ここの主たる神の物と、それはわかるのだが。
「こちらは、司教様へ、それで宜しいのでしょうか。」
「一つは、私宛で間違いございません。しかしもう一つは。」
そうして、司教がアドリアーナに目線を向ける。思い当たるところはありはするのだが。では他の二人の少女との違いは何か。それについては直ぐに答えがわかる。神殿に、訪れたからだ。そしてアナにしても少し先にはなるが、神殿に向かう事になるのだ。
「それこそ司教様から授けていただいたほうが。」
「そこは本人が選べばよいでしょう。それともう一つは、そうですね。改めて落ち着いた時に、翌週には生誕祭がありますから、その先にとそうなりますが。」
「ああ、そうなりましたか。」
どうやら通行証と言えばいいのか、招待状と言えばいいのか。今はそれを兼ねた物であるらしい。
さて、そうであるならと。少々ゆっくりと動いて、少しは疲労も抜けたため次は少女たちの用事を待つ。
そればかりではなく、王家からの今回の件、孫に対する事であったり、祭りの準備の礼も含めてだろう。月と安息に納められた物よりも多い荷物が持ち込まれる。
どうにも少し時間がかかりそうだと、トモエがオユキを休ませようと少し場を離れて、礼拝堂に並べられた椅子の一つに、オユキを座らせる。始まりの町でもそうであったように、それぞれの品で供える神が違うものでもあるようで、次々と持ち込まれては分けられ、運ばれと、その位の時間は貰える様だ。
一度だけ確認と、視線をこの場の主に向ければ、頷きが返ってきたことでもある。
「やはり、体力ばかりは。」
椅子に座らせられ、改めて大きく息をついてそうおどけて見せる。
「緊張の続くものであったでしょうから。」
「やっぱり、初めてではなかったのね。」
「ええ。機会があればせっかくですからと。」
アイリスの方は、やはり回復が早いようで、それでも目に見て分かるほどの消耗はあるが、既に一人で歩いている。
授けられた野太刀を持て余してはいるが。流石に二本背中にというのも用意がある物でもない。
オユキ達の分、公爵家らの寄付については、こういった事には遥かに慣れている少年たちが率先して行ってくれていることもあり、そちらを微笑ましく見ながら、話しを続ける。
「まさか、本気でやっても届かないなんてね。」
「一対一であれば、もう少し深手を負いましたよ。」
それに、オユキの刀は結局届いていないのだ。あたりはした。しかしそれは輝く毛の一筋も切れていない。爪は言わずもがな。前に語った言葉そのままに、力が足りず、技も意味を持たない。
「もう少し、ね。」
戦闘は、本気で行うそれは御終いという事なのだろう。アイリスにしても、既に普段通りではある。
「怪我を負ったのは私だけですから。」
「私も、指の骨をやられたわよ。もう治ってはいるけれど。トモエなら、どうしたのかしら。」
「オユキさんと変わりませんよ。今はまだ、足りていません。一応手立ての考えはありますが、見せることは無いでしょうね。」
つまり文字通り必殺を期する、そういった類の手練手管を使うという事だろう。オユキの習い覚えていない物、それは実に多い。
「手がないとは言わないのね。なんと言えばいいのかしら。」
「ええ、こちらに来て、実際の戦いの場に立ってみれば、言いたいことも分かりますとも。」
アイリスが頭痛を堪えるようにする仕草もよくわかる。物によっては道、精神修養、武器を持ついつでも殺せる、だからこそ己を律し、御することを教え込む。その部分だけを抜き取ったものもあり、むしろそちらが多数派だ。
その中でも、未だに如何に効率よくそれを為すか、その技を求め続けてきたというのは、なかなか理解が難しい物ではあるだろう。向こうでもそうだったのだ。こちらのように、明確な敵が存在するのであれば、なおの事。
「それにしても、千早もとなると、いよいよそういった物になりそうですね。」
そうして、トモエが手に持つ太刀を揺らせば、澄んだ鈴の音が響く。
「私の故郷の物と、様式は似ているけれど。」
「色合いで意味は変わりますが、私たちは正式な稽古の時に着る物でしたよ。」
膝の動きが隠れるので。そうトモエが加えれば、あきれたとばかりの視線がアイリスから投げられる。
古墳時代、もはや先史時代だが、その頃には見られていたそれだが、その程度の事までしか流石にオユキも記憶にない。
「袖口も広く、それが欠点にもなりますが、色々仕込んだりするんでしたか。」
「そうですね、暗器の方では。懐刀も頂いたようですし、そちらも改めてお伝えしましょう。」
「神から頂いた衣服で、あなた達ね。」
疲れたようなため息に対する返答は、トモエとオユキでぴたりと揃う。
「戦と武技、その神ですから。」
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