憧れの世界でもう一度

五味

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9章 忙しくも楽しい日々

様子見

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さて、一行としては用事が片付き、供出する人員については当然ではあるが同行という訳にもいない。
ではいつもの流れにと、そう話の流れを向けていたところでシグルドから声が上がる。

「あー。ちょっと、他の人が今どんな感じか気になるかも。」
「ああ。それも良いですね。」
「こう、一方的にこっちだけ見るってのは気が引けるけどさ。」
「いえ、以前も言いましたが人前で技を振るうというのは、そもそもそういったリスクを含んでいますから。」

そう、どのみち大会に参加したとなれば、それはいよいよ衆目にさらされるのだ。
その後の事についてはオユキとしては色々と考えることもあるし、だからこそ王太子からも護衛が手配されることになるのだから。
まぁ、その辺りは恐らく闘技大会の前に一度や二度は対処の必要も出るだろう。烙印の実態は予測と違い、加護が失われるだけ、言葉は悪いがそれが主体でしかないのなら、正直闘技大会そのものに影響が出るような物では無い。町から、魔物の脅威から身を守る事が出来る場所、その外に放逐される危険性が無いのであれば、そこを政治的な物でどうにか出来る手合いであるなら、選択肢の一つとしてもそういう者は出て来る。

「そうですね、時間もまだありますし、ご案内を頂いても。」

考えていることはトモエには伝わっているようではあるのだが、おくびにも出さずオユキが司祭に尋ねる。
どうにもアイリスも気になっているようではあるし、悪くはないだろう。トモエの方は、何とも言えない感じではあるが、今は技を競う物では無く加護を存分に使った物ではあるだろうから、形は違うにせよ見ごたえというものはあるだろう。

「ええ、勿論ですとも。そうですね、せっかくの機会ですからエリーザに案内させましょう。」

後でと考えていたが、機会もあるため顔合わせも行う事とする様だ。
その後、少し待てば、どうやら助祭まで登れば一先ずは鎧姿なのだろう。見覚えのある騎士鎧ほどの重装ではないが、小札、こちらの形式に合わせれば薄片鎧となるのだろうが。

「こちらです、巫女様方。」
「ありがとうございます。」

さて、場所その者、教会もあくまでこの円形闘技場の外側にあるのだから内側に向かう扉に向かえばよいだけなのだから。

「観客席、観戦場所と言えばいいのでしょうか。」
「内側から上がるようになっています。」
「成程。」

どうやらそういった質問にもなれているらしい。案内されるままに進めば、通路の先に光が差す場所があり、そちらから喧騒も聞こえてくるが、そこにまっすぐに向かうわけではなく、横合いに備えられた階段を進んでいく。
そうして重厚な階段を上がった先には、まさに観戦席と、そう呼ぶにふさわしい場所があった。

「こちらは当教会の関係者が使う席となっております。」

内装は豪奢というほどではないにしろ、絨毯が引かれソファーもいくつか並べられている。机にしても、ソファーの横に水差しなどを置くためだけでなく、10人程度は一度に食事ができる長机も用意されており、上等な観劇席、そう呼べるものとなっている。
外向きにはガラスだろう、透明感のある窓が用意され、そこから見える先には石舞台が8カ所あり、そのどれも人が上がり、存分に彼らの武器を振るっている。
周囲を見回せば、らしい、と言えばいいのだろうか。
案内された場と似たような場所、更に手の込んでいると分かる席もあれば、石造りの段に腰かけるのだろう、そう見える場所もある。

「ご案内頂き有難うございます。その、未だ所属は正確ではありませんが。」
「神々に直接任を頂いている巫女様方であれば、何も問題ございませんとも。」
「助祭様は違うのでしょうか。」
「どうぞ、エリーザと。私共も、日々の勤めをお認め頂き、位を頂くのですが。」

やはりこちらの神職というのは、そういった物であるらしいが、言葉を濁すあたり、なんというか簡易な物なのだろう。
話は恐らく司祭から聞いているのだろう。

「おー。」
「これは、なかなか派手ですね。」

オユキは助祭と話しているのだが、他の面々はすっかり窓の方に移動している。
そこから先では8面の石舞台で繰り広げられている、異邦ではありえない戦いが繰り広げられているのだから。

「魔術も、使うんだな。」
「アイリスさんも使っていましたから。」
「ああ、そういやそうか。でも、そうなると本番も魔術ありか。」
「いえ、以前カナリアさんが戦と武技の神は魔術を使わないと。」

流石に魔術を良しとして、武技を認めぬというのは難しいだろう。そうであるなら魔術、それを競う場も用意せよと、まぁ今頃は王城の方でそういった手合いが動いている事だろう。
生憎と、それの使えぬオユキには関係のない事ではある。そう、それを言われるとすればもう一人。なんにせよ、アベルが以前は止めたというのに、あっさりと放逐する程度にはアイリスについてもそういった目が向けられているのだ。後は、彼女のいた国と何か起こる可能性もあるが、まぁ、それこそ巫女なのだ。いくらでもやりようはある。

「にしても、ここまで遠いと分からんな。」
「流石にあの直ぐ近くというのは難しいでしょう。」
「そうかも。わー。」

魔術というのはさて、行使に時間がかかるものではないようで、なかなか派手な戦闘が繰り広げられている。加えて武技にしてもトモエとオユキはあくまで今の延長となっているが、そうでない場合は実に派手だ。

「あの、剣が光るのは。」
「武技の一種ね。」
「それにしても、やはり、こうなりますか。」

暫く観察していたトモエがそう呟く。そこには落胆はないが、見るべきものを見た、その感慨は乗せられている。

「あー、あんちゃんがそういうってことは。」
「いえ、流石にシグルド君たちよりは、いくらか上ですよ。こうして人同士で戦う、それに対する研鑽は見られます。」
「そっか。」

ただ、それを超える物では無いと、つまり、トモエに会う前に少年たちが行っていたこと、それ以上ではないとそういう事でもある。

「前に言ってましたもんね、自分で流派を興せる人は極一部って。」
「そういった方が武門を起こしたと考えれば、此処にいる方々は、まぁそういう事です。」
「私も出たいけど、どうしようかな。」
「あら、あなたも出る気だったの。」

そうしてセシリアが声を上げているが、それにアイリスが驚いたように返している。
オユキにしても、意外な言葉ではあるのだが。トモエは3人と言っていたから、あと一人は。

「うーん。トモエさんは、どう思いますか。」
「参加の条件がまだ分からないので、難しくはありますが、望めば止めませんよ。ファルコ君は。」

トモエの言葉が、師としての物に代わっているが、場としては悩むが、話す内容はそれである以上やむを得ないのだろうと、オユキはそう考えて唯一の人物に視線を向ける。
助祭からは心得ていますとばかりに頷きが返ってくるので、外に漏れることは無いだろう。恐らくではあるが、彼女は神に対して宣誓を行っているはずだ。そして、神職、神から位を頂いた人間がそれを行うというのは、重い。

「そうですね、私の教えを受ける物として出るのか、今既にある物、それを使うのか、まずはそちらを選んでもらわなければいけません。」
「そう、なりますか。」
「流石に日がありませんから。教える側として、どちらもは無理と、そう判断しています。ああ、これについては才覚の問題ではなく、私が流石に騎士としての術理を知らないからと、そういう意味ですが。」
「ええ、分かっています。しかし、既に師事するとそう決めていますから。」

そうして師弟の話をする一方で、オユキとしても気になることをいくつか助祭に確認していく。

「当日の祭祀、その前後で特に決めるべき日程は。」
「前日からは、やはり移動も難しくなるでしょうから。」
「その、失礼ですが、あまり生活感が無いように見えましたが。」
「勿論、日々の生活の場は別ですから。その翌日も、場を鎮めるための祭祀がありますので。」

言われた言葉に、オユキは地鎮祭のような物かと、大雑把に納得する。

「分かりました。後はそうですね、巫女として晩餐に招かれる事が有るのですが。」
「ええ、その折も私が補佐を。」
「心強い事です。未だ任を得た自覚も薄い身です、何かと手間をかけるかと思いますが。」

さて、この後は普段通りとするにしても、監督の身としては少々過剰に熱が入っている相手の対応もある。普段よりもさらに気を配る必要もあるだろう。
オユキ自身、そもそも背丈の問題も大きく、前に並ぶ相手が壁になっているため見えないが、だからこそトモエの背中から感じる物を考えれば、どのような物かはわかる。
そこには、物珍しさ、それしかないのだろう。
それ以上があるなら、もう少し違った気配を纏うはずだ。そして、アイリスにしても大差がない。つまり彼女が一度道から外れた、その理由が改めてそこに存在しているという事だ。
そういった事の総括として、いくらか上、その評価だろう。そういった場で研鑽を積んでいる、その相手がそう評価される程度でしかない。加えて、トモエは少年たちに語ったはずだ。武術、技、それはあくまで己より強い物を如何にするかそういう物だと。
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