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9章 忙しくも楽しい日々
戦と武技の神、その教会
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馬車から降りて目に入ってきたものを見て、さて首をかしげたのは何人だろうか。
「ここで間違いはないのでしょうか。」
トモエがそういうのも仕方がないだろう。目の前にあるのはどう控えめに言ってもコロッセオでしかない。ここが会場になるのは間違にだろうとそう思わせる建造物があり、出入りをしている人間にしてもらしいとしか言いようのない者たちだ。
これまで見てきた教会にしても、一般に想像するだろうそれにしても、あまりに縁がないように思える。
「ええ、この内部、その一区画に。」
「何とも。」
遠くからは金属同士が打ち合う音、そんな物も響いてくる。確かにその名を冠する神であればと、そう思わないでもないのだが、それにしても祈りを捧げるには賑やかすぎるようにも思えてしまう。
「基本的にこういった場があるところでは、併設だな。無い時は、まぁ一般的な教会とそう変わらないが。」
「訓練所の併設、競う場、そういった物を併設することを展望とすると聞いています。つまるところ用意できていないというのが正しいのでしょう。」
「かの神の素性を考えれば理解もできますが。いえ、だからこそ教会が別れるのでしょうね。」
ファルコに補足されトモエもそれに頷く。確かに始まりの町、あそこで主としてどの柱を祀っているかは思えば尋ねはしなかったが、そこと水と癒しの神にしても、大いに差があったのだから。
「それにしても、思っていたよりは活気がありますね。」
オユキとしてはこの施設の活気の方が気になる。そもそもゲーム時代の知識として、ある程度の大枠を知っていたからでもあるが。
「こちらでの事を考えれば、あまり重要と考える方はおられないと考えていましたが。」
「武技と加護ありきだからな。どうする、覗いてみるか。」
「いえ、後にしておきましょう。」
そう尋ねられ、断ればファルコがまずは歩き出す。先ぶれも既に伝えているだろうし、予定を突然変えるのも良くはないだろう。それこそ戻る前に時間を取ればよい事でもあるのだから。
一緒について来ている少年達は興味深げにあたりを見てはいるが、それを促してファルコに続く。司教の用事とそう言っていたからアナとセシリアについてはそれ用の衣装を着るかと考えていたのだが、前に言われたように持祭では教会の外では着られない、そういった決まりを守るらしい。
到着してから着替えをと、何ともややこしい話ではあるがそれが文化と言われれば、やはりそれまでではある。
「アイリスさん。」
そして、一人後ろからついて来ているアイリスにオユキが声をかける。今回については、ファルコの後ろに並ぶべきはオユキとアイリスなのだから。
声をかければ諦めもついたのか、ため息一つと共にアイリスがオユキの横に並ぶ。
「そういえば、音は大丈夫ですか。」
「うるさいとは思うけれど、我慢できないほどではないわ。」
オユキ達にしてみれば遠く聞こえる音、それこそ少し離れた場所で工事が行われている、その程度でしかないのだが、アイリスたちの種族にとっては違うだろう。そう思って声をかければ、やはり感じ方は異なるらしい。
「そういった意味では、不便ですね。」
「調整が効くものでもないもの。」
特に頭頂部についている、つまり実際に解剖してみなければ構造は分からないが、それこそそういった生き物と同じように脳までの距離が近い、振動がより大きく伝わる造りになっているはずだ。ならば金属音というのはより堪える物だろう。猫騙し、そのような手もあるが、一つの策としてアイリスたちの種族を相手にするときは有効な手ではあろう。
「何か、嫌な視線ね。」
「失礼しました。」
さて、近々剣を合わせる予定があるからか、どうにも思考が良くない方向に向かっているとオユキは己を戒める。話の流れでオユキの考えに気が付いたのだろうが、トモエが何処か楽し気にしているのも伝わってくる。
直ぐ近く、これまで感じる事の出来なかった人々の熱気、武に対するそれを感じる事が出来るからだろうか。道場で時折行われるそれ、他の者たちの一挙手一投足を見ながら、打倒すには如何する、それを考える様な、そんな感覚に引き摺られてしまっているらしい。
「全く。一応、耳を伏せれば問題ないわよ。」
「やはり、既に試したことはありますか。」
そんな禄でもないやり取りを続けていれば、闘技場の通路、それを進むうちに少々趣の違う一角にたどり着く。
これまでは武骨な石が積み上げられ、同様の石材が敷き詰められていた通路をただ通ってきたのだが、明らかに他と違う、そうわかる装飾の施された、戦と武技の神、その意匠が施された両開きの扉がある場所へとたどり着く。
やはり飾りのような物はないが、これまでの武骨なばかりの石材ではなく、灰色や粒の混ざりが目立つような物では無くマーブル模様の美しい大理石が敷かれ、両脇の柱にしても夢に見た白い空間、そことよく似た色合いのものが建てられている。
「武骨ではありますが、趣のある構えですね。」
「彼の神は装飾を好まれぬ、であるからこそそのままの美しさを、その工夫だそうです。」
「成程。」
確かに礎版や虹梁に装飾がなされているわけでもないし、そもそも呼び名も違うのだろうが、本来であれば彫刻の一つも行われるものに装飾がない、それが武骨さを引き立てているのだろうが、それゆえの美しさというのも確かに存在する。
それこそ予定が無ければ水と癒しの神の協会でそうしていたように、暫く検分したいと、そういった考えも浮かぶのだが、そういわけにもいかない。扉越しにファルコが声を上げれば、扉が当たり前のように開き、膝を着いた相手が並ぶ空間に迎え入れられる。そうする理由も理解はできるのだが、あまりの仰々しさに少々気が引ける。
内部はやはり飾り気がない、そう言うしかない場所ではあるが、これまでの何処か息苦しさを感じる場ではなく、広々とした空間が広がっている。礼拝用堂であろうに、椅子が並べられていないのは理屈が分かるものではあるが、どうにも違和感を感じはするのだが。
柔らかく光る白い石に覆われたその場を進み、周囲の、やはり入り口と同じくほとんど装飾のない柱が作る道を少し進めば、ファルコが膝を付き、首を垂れる相手に声をかける。
「巫女オユキ、アイリス、共のもを連れて参った。此度の事について、既に両名より可能な協力は惜しまぬと、そう聞いている。」
「この度はご足労頂き、真に有難く。」
「良い。こちらの都合もあるのだ。さて、早速ではあるが。」
「ええ、勿論です。こちらへ。」
そうしてファルコがやり取りするのを耳にしながらも、後ろをついて歩く一行は何とはなしに周囲を観察する。
やはり前の世界にない物でもあるし、こちらでもそう目にするものではない。如何に装飾がないとはいえ、見るべきものがない、そんな場所でもないのだから。
少なく、目立たぬように、要所要所にそれでも施された彫刻にしても、磨き抜かれた石材にしてもやはり目を楽しませるものである。そして、扉が閉じられたからだろうか、恐らくそちらにしても何か細工があるのだろうが、外からの音、遠く響いていた戦いの喧騒も聞こえず、何処か隔絶した印象を受ける場は、それまでとの差がなおの事神性さ、そのような物を感じさせる。
加えてこちらに居る神職にしても、これまで見た相手とはまた装いが違う。
外からの金属音が聞こえずとも、内部ではまた異なったそれが響いている。それもそのはず、神職であるはずの相手が誰も彼も騎士鎧、それほど重装には見えないが、しっかりと鎧を着こんでいるのだから。
装飾があるわけではないが、やはり鎧、その豪華さと言えばいいのか、防御力と言えばいいのか。チェインメイルにしても手間はかなりかかるだろうが、その上からタバードを着ているもの、恐らくさらにその上から小札を着ているもの、様々ではあるが、何とも面白い物ではある。
「あなた、巫女としてと言われて、着られるのかしら。」
「難しそうですね。」
アイリスからそのように言われるが、オユキとしては正直怪しいものが有る。
加護の仕組みについては正直分からないことがあまりに多い。トモエにしてもパウやシグルドにしても、純粋な筋力を強化する方向で大いに働いているように見えるのだが、残りの面々はそうではない。特にオユキとアナに関してはまた違う方向が伸びている。速さ、瞬発力、そういった方向に。
つまるところ、重量物には、相変わらずオユキは自信が無いのだ。
「鎧、良い物ですね。」
「あー、そういやあんちゃん興味あるって言ってたか。」
背後からは小さな声ではあるが、そのような話声も聞こえてくる。
やはり物珍しい物を見れば、どうにも口からついて出るものではある。そうして、少し進めば小札を着た相手の足も止まり、そこにある扉を開けたうえで、中へと促される。
さて、此処ではどのような話が待ち受けているのだろうか、そんな事を考えながらファルコについて、一同でその部屋に入る。
「ここで間違いはないのでしょうか。」
トモエがそういうのも仕方がないだろう。目の前にあるのはどう控えめに言ってもコロッセオでしかない。ここが会場になるのは間違にだろうとそう思わせる建造物があり、出入りをしている人間にしてもらしいとしか言いようのない者たちだ。
これまで見てきた教会にしても、一般に想像するだろうそれにしても、あまりに縁がないように思える。
「ええ、この内部、その一区画に。」
「何とも。」
遠くからは金属同士が打ち合う音、そんな物も響いてくる。確かにその名を冠する神であればと、そう思わないでもないのだが、それにしても祈りを捧げるには賑やかすぎるようにも思えてしまう。
「基本的にこういった場があるところでは、併設だな。無い時は、まぁ一般的な教会とそう変わらないが。」
「訓練所の併設、競う場、そういった物を併設することを展望とすると聞いています。つまるところ用意できていないというのが正しいのでしょう。」
「かの神の素性を考えれば理解もできますが。いえ、だからこそ教会が別れるのでしょうね。」
ファルコに補足されトモエもそれに頷く。確かに始まりの町、あそこで主としてどの柱を祀っているかは思えば尋ねはしなかったが、そこと水と癒しの神にしても、大いに差があったのだから。
「それにしても、思っていたよりは活気がありますね。」
オユキとしてはこの施設の活気の方が気になる。そもそもゲーム時代の知識として、ある程度の大枠を知っていたからでもあるが。
「こちらでの事を考えれば、あまり重要と考える方はおられないと考えていましたが。」
「武技と加護ありきだからな。どうする、覗いてみるか。」
「いえ、後にしておきましょう。」
そう尋ねられ、断ればファルコがまずは歩き出す。先ぶれも既に伝えているだろうし、予定を突然変えるのも良くはないだろう。それこそ戻る前に時間を取ればよい事でもあるのだから。
一緒について来ている少年達は興味深げにあたりを見てはいるが、それを促してファルコに続く。司教の用事とそう言っていたからアナとセシリアについてはそれ用の衣装を着るかと考えていたのだが、前に言われたように持祭では教会の外では着られない、そういった決まりを守るらしい。
到着してから着替えをと、何ともややこしい話ではあるがそれが文化と言われれば、やはりそれまでではある。
「アイリスさん。」
そして、一人後ろからついて来ているアイリスにオユキが声をかける。今回については、ファルコの後ろに並ぶべきはオユキとアイリスなのだから。
声をかければ諦めもついたのか、ため息一つと共にアイリスがオユキの横に並ぶ。
「そういえば、音は大丈夫ですか。」
「うるさいとは思うけれど、我慢できないほどではないわ。」
オユキ達にしてみれば遠く聞こえる音、それこそ少し離れた場所で工事が行われている、その程度でしかないのだが、アイリスたちの種族にとっては違うだろう。そう思って声をかければ、やはり感じ方は異なるらしい。
「そういった意味では、不便ですね。」
「調整が効くものでもないもの。」
特に頭頂部についている、つまり実際に解剖してみなければ構造は分からないが、それこそそういった生き物と同じように脳までの距離が近い、振動がより大きく伝わる造りになっているはずだ。ならば金属音というのはより堪える物だろう。猫騙し、そのような手もあるが、一つの策としてアイリスたちの種族を相手にするときは有効な手ではあろう。
「何か、嫌な視線ね。」
「失礼しました。」
さて、近々剣を合わせる予定があるからか、どうにも思考が良くない方向に向かっているとオユキは己を戒める。話の流れでオユキの考えに気が付いたのだろうが、トモエが何処か楽し気にしているのも伝わってくる。
直ぐ近く、これまで感じる事の出来なかった人々の熱気、武に対するそれを感じる事が出来るからだろうか。道場で時折行われるそれ、他の者たちの一挙手一投足を見ながら、打倒すには如何する、それを考える様な、そんな感覚に引き摺られてしまっているらしい。
「全く。一応、耳を伏せれば問題ないわよ。」
「やはり、既に試したことはありますか。」
そんな禄でもないやり取りを続けていれば、闘技場の通路、それを進むうちに少々趣の違う一角にたどり着く。
これまでは武骨な石が積み上げられ、同様の石材が敷き詰められていた通路をただ通ってきたのだが、明らかに他と違う、そうわかる装飾の施された、戦と武技の神、その意匠が施された両開きの扉がある場所へとたどり着く。
やはり飾りのような物はないが、これまでの武骨なばかりの石材ではなく、灰色や粒の混ざりが目立つような物では無くマーブル模様の美しい大理石が敷かれ、両脇の柱にしても夢に見た白い空間、そことよく似た色合いのものが建てられている。
「武骨ではありますが、趣のある構えですね。」
「彼の神は装飾を好まれぬ、であるからこそそのままの美しさを、その工夫だそうです。」
「成程。」
確かに礎版や虹梁に装飾がなされているわけでもないし、そもそも呼び名も違うのだろうが、本来であれば彫刻の一つも行われるものに装飾がない、それが武骨さを引き立てているのだろうが、それゆえの美しさというのも確かに存在する。
それこそ予定が無ければ水と癒しの神の協会でそうしていたように、暫く検分したいと、そういった考えも浮かぶのだが、そういわけにもいかない。扉越しにファルコが声を上げれば、扉が当たり前のように開き、膝を着いた相手が並ぶ空間に迎え入れられる。そうする理由も理解はできるのだが、あまりの仰々しさに少々気が引ける。
内部はやはり飾り気がない、そう言うしかない場所ではあるが、これまでの何処か息苦しさを感じる場ではなく、広々とした空間が広がっている。礼拝用堂であろうに、椅子が並べられていないのは理屈が分かるものではあるが、どうにも違和感を感じはするのだが。
柔らかく光る白い石に覆われたその場を進み、周囲の、やはり入り口と同じくほとんど装飾のない柱が作る道を少し進めば、ファルコが膝を付き、首を垂れる相手に声をかける。
「巫女オユキ、アイリス、共のもを連れて参った。此度の事について、既に両名より可能な協力は惜しまぬと、そう聞いている。」
「この度はご足労頂き、真に有難く。」
「良い。こちらの都合もあるのだ。さて、早速ではあるが。」
「ええ、勿論です。こちらへ。」
そうしてファルコがやり取りするのを耳にしながらも、後ろをついて歩く一行は何とはなしに周囲を観察する。
やはり前の世界にない物でもあるし、こちらでもそう目にするものではない。如何に装飾がないとはいえ、見るべきものがない、そんな場所でもないのだから。
少なく、目立たぬように、要所要所にそれでも施された彫刻にしても、磨き抜かれた石材にしてもやはり目を楽しませるものである。そして、扉が閉じられたからだろうか、恐らくそちらにしても何か細工があるのだろうが、外からの音、遠く響いていた戦いの喧騒も聞こえず、何処か隔絶した印象を受ける場は、それまでとの差がなおの事神性さ、そのような物を感じさせる。
加えてこちらに居る神職にしても、これまで見た相手とはまた装いが違う。
外からの金属音が聞こえずとも、内部ではまた異なったそれが響いている。それもそのはず、神職であるはずの相手が誰も彼も騎士鎧、それほど重装には見えないが、しっかりと鎧を着こんでいるのだから。
装飾があるわけではないが、やはり鎧、その豪華さと言えばいいのか、防御力と言えばいいのか。チェインメイルにしても手間はかなりかかるだろうが、その上からタバードを着ているもの、恐らくさらにその上から小札を着ているもの、様々ではあるが、何とも面白い物ではある。
「あなた、巫女としてと言われて、着られるのかしら。」
「難しそうですね。」
アイリスからそのように言われるが、オユキとしては正直怪しいものが有る。
加護の仕組みについては正直分からないことがあまりに多い。トモエにしてもパウやシグルドにしても、純粋な筋力を強化する方向で大いに働いているように見えるのだが、残りの面々はそうではない。特にオユキとアナに関してはまた違う方向が伸びている。速さ、瞬発力、そういった方向に。
つまるところ、重量物には、相変わらずオユキは自信が無いのだ。
「鎧、良い物ですね。」
「あー、そういやあんちゃん興味あるって言ってたか。」
背後からは小さな声ではあるが、そのような話声も聞こえてくる。
やはり物珍しい物を見れば、どうにも口からついて出るものではある。そうして、少し進めば小札を着た相手の足も止まり、そこにある扉を開けたうえで、中へと促される。
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