憧れの世界でもう一度

五味

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8章 王都

内向きの話し

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魔物を狩るといっても、そもそもオユキにしてもトモエにしても長々と行うわけではない。
その事がファルコとしては意外だったのか、帰りの馬車の中で何処か落ち着かない様子を見せていたが、それをただ生暖かく見守る先輩たちの視線から何やら予感を得たらしく。狩猟者ギルドでに降ろしを下ろすときには、すっかりと覚悟を決めたような顔になっていた。
これまでは傭兵ギルドを狩りて行っていたが、これからは生活する場のすぐ隣、そこで存分に鍛錬ができるのだ。
勿論、トモエとしても熱が入るし、帰り道、そこからの日々の事、その余白をさらに切り詰める事が出来る。

「トモエ。明日からはもう少し加減をして頂けるかしら。」

結果として、公爵夫人から夕食の席でそのような言葉を頂く羽目になったのだが。

「畏まりました。夕食の席で学ぶべきこと、それを失念しておりました。」
「結構。」

そうして、公爵夫人の視線の先には既に半分夢の中といった有様の少年たちがいる。少年たちにしても口数が少なく、マナー以前に、それを行うための体力がほとんど残っていない。
ファルコはかろうじてといった様子ではあるが、それはあくまで今日が初日。まずは構えから始まった、その差に過ぎない。

「オユキ、トモエ、食後に少し話があります。」
「畏まりました。ファルコ様は。」

オユキが先に呼ばれる当たり、公爵夫人にも情報は共有されているらしい。それにこういった事は公爵から直接あるかと思えば、どうにもオユキが考えるよりも手を取られる状況が生まれているようである。
それについては、追加で得た大量のトロフィーの処遇もあるのだろうが。

「そうですね。オユキは。」
「ファルコ様も聞くべきかと。」
「では、そのように。」

少年たちについては、今後別の家、そうなる予定の物だから外すのは当然として、ファルコは公爵夫人が判断するかと思えば、話を振られたことに驚きながらもオユキが応える。
シグルドとアナはそういった互いに何かを知っている、その前提のやり取りで話の方向性は想像がついているようで、僅かに緊張は見せたが、話に入ってこようとはしない。
彼らについてもメイに預ける前には、オユキ達の監督下から離れる前には、このあたりも教えて置かなければ、そう考えはするものの、今はまだと、夕食を終えて改めて6人で集まる。

「リヒャルト様はともかく、アベルさんもですか。」

公爵家の3人、オユキとトモエ、それからアベルだけがさして広くない一室に集まる。

「ええ。」
「その、御婆様、この場に使用人を入れないのは。」
「理由は分かりますか。」
「いいえ。」
「では、リヒャルトは。」

護衛、とするにしても。そう考えて意外と、そう声音でオユキが示せば当たり前とばかりに頷きが返ってくる。そして、その後は彼女の孫に話を向けているその間に、オユキが視線だけでアベルに尋ねるが、ただ肩を竦められるだけに終わる。
王都なのに、月と安息の協会には司祭。アーサー。どうやら何やらまだいろいろありそうだとオユキは疑問を飲み込み、リヒャルトの答えを聞く。

「ファルコ、信頼のできる使用人ではありますが、あの者達は当家の人間ではありません。」

どうやら、政治向きという言葉は正しいようで、こちらは背景がある程度理解できているらしい。

「ですが。」
「彼らにも知らせるべきでない話、それをこれからする、そういう事です。」
「信頼できる相手でも、ですか。」
「ええ。彼らに信を置いているのは、その職務に対して、それ以上でもそれ以下でもありません。」

リヒャルトはそう告げて、公爵夫人を確認するように見る。そして、夫人もただそれが当たり前と頷く。その事実にファルコが悲し気な顔を浮かべるが、さて。
口を挟むべきかとオユキが悩んでいれば、公爵夫人から目線で促されたため、声をかける。

「加えて、あの方々が主家、そこから知らされていない情報それを扱いますから。主よりも事情を良く知る。それはあまり外聞も良くありません。彼らを守るためでもあります。そして話が出れば、彼らの主は詳細を求めるでしょう。そして、彼らを訪ねるとして、ここに来るのでしょう。」
「ええ。彼らを煩わせることにもなります。加えて当家としては、オユキとトモエ、この二人を今回はあまり表に出さない、それは既に決めています。」

今回の事は、あくまでそういった事情が重なっての事、そう説明すればファルコも納得できたのか、一つ頷く。
勿論、今のやり取りの裏側に気が付いていないのは分かってはいるのだが、それについてはわざわざ口にする必要もないだろう。オユキと公爵夫人の言葉、そこに共通するものは単純だ。あくまであの使用人たちは公爵家ではなく、彼らの所属する家、そこを優先すると断言している。そこは変わっていない。
だからこそ、何故アベルが、オユキはそれを考えてしまったのだから。

「それと、この場では言葉は自由に。」
「ありがとうございます。」

さて、そうとなればまずは話すべきこと、それは決まっている。

「今後の予定、ですが。」
「お披露目を急ぐのですね。御言葉についてもその時に合わせて、ですか。」
「ええ。」

さて、急ぐ理由については知っているだろうかと、幼い二人を見るが、理由に思い立っている風ではない。つまり、この場はそういう事だ。
そして、オユキの予想通りに二人にも世界の裏側、これまでの確実に会った制限と、それがあったが故の事柄が語られる。既に知っている事ではあるのだが、やはりその歪を用意した側としては気分のいい物では無い。
ただ、その辺りについては、オユキとしては気になっていることもある。神に肯定された思考もある。それについては機会を見て、まずはミズキリに話すつもりではいるのだが。

「そんな事が。」
「お二人は、いえ、知っているからこそ、知らないだろうものを除いた、この場ですか。」
「ええ。事この事実はこれまでは極一部の物だけが知っていたことです。」

そして、その二人の衝撃はわかるがこの場でそれを消化するのは待てない。

「それまでの間に、教会を巡ることになりますか。お披露目は1週以内に行うのでしょう。」
「6日後ですね。」
「また、随分と。果物などの手配は。」
「既に。時期もあり限られたものとなりますが。あれは。」

そう言えば、その辺りは説明を省いていたと思い出し、オユキが神が好んだものだと伝える。始まりの町で今回の切欠となった御言葉の小箱、それを得るきっかえになったものだという言葉も添えて。

「何とも、まぁ。」
「そのあたりはダンジョン、その糧を祝う祝祭の話と共に新たに行われるでしょう。さて、お披露目を行い、闘技大会その布告、トロフィー、功績として称えられるべき事柄について。一度に纏めてとそうなりますか。」
「ええ。」
「とすれば、リース伯爵令嬢が。」

あの聖印、それを示して布告の一端を担う事になるのだろう。

「後見は付きますが。」
「となれば、その翌日にリース伯爵家との晩餐か茶会ですか。」
「その予定です。そしてその翌週には、王太子様の下へ。」
「私とアイリスは、それまでに、ですか。」

実際の祭祀は闘技大会の開催、それに先立ってとなるのだろうが、その前に王の下へ改めて巫女として赴く役がある。つまりは晩餐に招かれる、その時にはその立場でとなるわけなのだが。

「お二方が、何を。」
「ああ。アイリスと私は、戦と武技の神より巫女、そう呼ばれる立場です。」

そう無造作に告げれば、オユキとしても今後の予定の把握と、それまでに行うべき事柄にどうしても意識が取られてそうなってしまうのだが。
それについては、この場ではそういう物としてもらうしかない。考えるべきことは公爵夫人にしても、オユキにしても多い。この場では、予定の確認を口実に、互いが持っている情報を改めてすり合わせる場でもある。

「急ぐ理由は。間に合わせるため、ですか。」
「ええ、貴女方の休日は異邦と同じ仕組みと。」
「無いよりは良しとしましょう。」

どうにもそのあたりも甘くはないらしい。

「とすると、私たちが始まりの町へ戻る、その期限も置かれましたか。」
「ええ、予定通りにと。降臨祭それまでには。」

さて、だとすればそれに合わせてまたぞろ何か起こるようではある。さて、こうなるとオユキ以外の異邦人もこちらであれこれと忙しくしているのだろう。それをいいように使われていると考えるかは、それぞれであろうが。

「優先順位は、人口の増加と軍備の増強、ですね。」
「それ以前に得た資源の加工、その基盤からです。」
「何をするにも人が足りない、そうなりますか。拠点は。」
「今後は一先ず増えないとのことです。」

そうであるなら、計画は立てやすいだろう。

「つまり闘技大会では、領主向けの褒美が神々から得られるわけですか。」

少々飛躍したオユキの言葉に、ただ公爵夫人が頷きで応える。
なかなか王都での日々も忙しくなりそうだと、オユキとしてはそう内心でため息をつくしかないのだが。
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