憧れの世界でもう一度

五味

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8章 王都

会食

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「その、技だけであれば、アイリスを超えると聞いていますけど。」
「それは間違いありませんが。そういえばアイリスさんは。」

ふとそれが気になって、トモエがアイリスに話を振る。
極力気配迄を押し殺し、影のようになっていたのだが、そういう話題になった以上は、彼女も巻き込まざるを得ない。

「ハヤト流であれば、奧伝からね。」
「成程。」

となると、型が使えて初伝、そこに在る理を理解して中伝、体現出来て奧伝かとトモエは当たりを付ける。
生憎、あまりにも理合いが違いすぎるため、中伝以降の手伝いは出来そうもない。

「あなた達は、技の体系を身に着けた数だったかしら。」
「ええ。刀術、当身術、棒術、暗器術。この四種を身に着けて初めて印可となります。」

実際には、刀術の中でも脇差、太刀、大太刀と分れ、剛、柔もあるその全てをとそうなるのだが。
オユキは短刀、寸鉄といった物に興味を示さなかったため、ゲームで使う、その予定が無かったからでもあろうが、暗器術については、ほとんど学ばずに済ませた。
だから大目録で止まっている。
オユキは口にしなかったそれを聞いて、アイリスの表情がなかなか愉快なものになる。
確かに、正気とは思えないだろう。最初に聞けば。

「あくまで、それほどの武器に通じなければ開祖の掲げた理念にたどり着けぬ、そう先達が考えたうえでですから。」
「生憎我は詳しくないのだが、さて、武門と呼ばれる家でも剣と槍で分かれておる。一つの流派で剣も、槍もか。」
「槍を相手取るには、それ自体を学ばねばなりません。」
「理屈はわかるがな。」

さて、前の世界、トモエから皆伝の証を受けた、孫娘は元気にやっているだろうか。
一体何があの子の琴線に触れたかは分からないが、僅か20年、小学校に通い始めたころから、道場で寝起きをするような娘になってしまったのだが、上達はトモエですら驚くほどの物であり、オユキの目録までの期間など、当たり前のように抜き去ってしまった。天賦の才、そう呼ぶにふさわしいものを示してはいたが、さて。

「例えば、我が孫、それに教えて欲しいとそういえば。」
「勿論、最善は尽くさせていただきます。しかし。」
「ああ、幸い我には二人おってな。あの少年たちと似た年かさである。一人は我の跡を、もう一人は今後も考えて武を磨く、そうなるだろう。幸い気質も異なり、既に剣を好んでいるからな。」

そうであるならと、トモエは頷く。

「では、近いうちに場を設けよう。」
「畏まりました。」

つまり王都、そこに在るであろう学院に通っているらしい。
どうにも評判があまり宜しくない施設ではあるが、さてその少年は如何程であろうか。そんなことをトモエは考える。
そもそもそこを卒業したとて、イマノル、既に懐かしく感じるあの人物の言によれば、改めて徹底的な教育が必要である、そういった様子であるらしいのだから。

「では、マリーア公爵、あちらの少年たちにはメイから声をかけても。」
「構わん。にしても、人材の取り合い、これまでもあったことではあるが。」

そういって公爵が自嘲を顔に浮かべる。

「異邦の物たちに見透かされる、しかしそれでもやらねばならん。」
「ダンジョンは、それほどですか。」
「うむ。その方は知るまいが、既に我は新たになった仕組みにも触れた。手間はかかるが、得られる利益は神の奇跡、そう呼ぶしかない物であるからな。」

成程。こちらに渡って来る時に創造神が、叶えられなかった、技術的に限界が、ありえない、後追いもできない者であったというのに、それでも叶えられぬものが有ったと、そのような事を言っていたのだ。
つまりミズキリも知らぬ、それこそ元のプレイヤーの誰もが知らぬ、そのような物が存在しているのだろう。

「それについては、私たちでもかなり紛糾しましたが。」
「魔石、それについてだな。」

ただ、それを口にした後は、貴族三人そろってため息をつく。
用途が多すぎて、大変だと、そういう事であるらしい。

「それこそ取り合いですか。」
「うむ。その方が思うよりも見苦しい事になるであろうな。」
「私は正直あの町の者たち、あなた方もそうですが、その好意にかなり助けられました。」
「それについては、改めて補填を行う。」

さて、思ったよりも、としか言えないのだが、そもそも溢れで得た魔石を領都に運んだと、そういった話もあったのだ。つまりそういった取引が、今後加熱するとそういう事なのだろう。

「王都では、むしろそれを各領に供給する、そういった形を取りますか。」
「それが無難であろうな。その方らからの報告書でも、そう纏まっておる。
 確かに、今後を考えるのであれば、その帰結は自然であろう。後はどうご判断をされるか、であるな。」
「こちらでも、訓練を目的とすれば、そうなるでしょう。」

さて、そうであれば狩猟者、魔石を最も得やすい立場としてはそれに励むのが筋ではある。
魔物が増えた、それも併せてどうにもこちらの神は、上手く事を運ぶ存在であるらしい。
だとすれば、御言葉の小箱、その中身も想像がついてくる。
一つは間違いなく闘技場。一つはオユキ達に対する配慮を求める物。
さて、残った一つ、それをアイリス、戦と武技の神から巫女と、そう見られた相手に授けられた言葉。
増える魔物、継戦能力それを得るのに必要な物を考えれば、想像もつく。
今後はトロフィー、それを得る物が増えていくことになるであろう。

「なんにせよ、人口の増加、それを国としては求めますか。」
「下世話な話にはなるがな。」

さて、そうとなればメイ、彼女に関しても少々不安がある。
ラザロからは否定されてはいるが。
少々不安に思って、ちらりと彼女へ視線を送れば、メイからも苦笑いが返ってくる。
どうにも、本人もその不安があるようだが。

「そちらについては、心配の必要はない。華と恋の神、その意思が最優先であるからな。」
「ああ、そちらを先に確かめてしまえば、無粋はありませんか。」
「貴族の務めとして、当主に新しいものは増えようがな。」

こちらの人口比は分からないが、まぁ、それにまつわる期間が短い側、現実的な方にそういった物は課せられるであろう。
これはミズキリは今後大いに頭を悩ませることになるだろうが。
メイにしても、苦笑いは恐らくそれ由来だろう。

「長期的な計画と、そうなりそうですね。」
「うむ。国家の計とはもとよりそのような物であるからな。」
「トモエさん、どうしましょうか。」

そうであるなら、最終的には、それこそ旅の終わりには腰を据えて門下生を、そういう事も求められるのであろう。
特に既に出ている実績もある、今後それが目立つようになれば、付き合いとして頼まれることも増えていくであろう。

「場所だけは先に選びましょうか。」
「領都とは言わぬのだな。」
「申し訳ありませんが。教える側とそうなるのであれば、求める物もありますので。」
「然も有りなん。それについては事前に聞かせてくれ。用意ができるのであれば、そう応えよう。」
「畏まりました。とはいう物の、とにもかくにも練習用の得物、道具、それから狩場とそうなりますが。」
「ふむ。」
「要は武器を安価に量産できる体制、私どもは丸太への打ち込みを練習として行いますので、それが簡単に得られる事、加護もあるため、手ごろに狩れる魔物が近場にいるのか、その辺りです。」

そうオユキがかみ砕いて伝えれば、その場にいる者が各々頷く。

「確かに我が領では広すぎるか。鍛錬もあるのに、町の外に出るまでにあまり時間をかけても確かに不都合を感じよう。」
「その点で言えば、始まりの町は実に好都合なのですね。」

そう、外周、門からほど近い場所に拠点を構えていることもあるが、練習場所の傭兵ギルドは門のすぐそば。
狩猟者ギルドも同様だ。町から数十分歩けば、木材を得る事も出来る。
欠点であった武器についてもダンジョンという解決の目途が立ってしまった。今後の拡張方向は、一先ず飛渡瀬活を支える食料生産、それから居住区を新たに増やしと考えると、まだまだ、その枠組みは変わらないであろう。
その辺りを踏まえると、確かにあの町は非常に都合がいいのだ。新人を鍛える、それだけであれば。
それこそ、始めたばかりのプレイヤー、その全てがあそこに現れる、それができる環境は整っているのだから。

「相分かった、直ぐにとはならないのであろうから、そちらについては我も考え準備をしよう。」
「お手数を。」
「よい、ある意味我が頼んでおるのだ。まずは我が子となるが、よく頼む。」
「私が教えるとなれば、騎士とは異なる形になりますが。」
「構わぬ。その辺りは調整もいるが、新しい仕組みを立ち上げる。」

守るためではなく、得るために。そういう事だろう。全く変革期そこに訪れた身としては、実に忙しい事に巻き込まれたものだと、そう零すことくらいは許してほしいものだ。そんなことを考えながらも、改めて今回の件に関わる事だけでなく情報の共有を進めながら、食事を進める。
どうにも、久しぶりではあるのだが、以前の世界を思い出す食事になったものだと、そんな事を考えずにはいられない。
本来であればホスト、この場を提供しているリース伯爵に話を向けるのだろうが、どうにもこの場では彼がマリーア公爵を立てているため、そうして先々の話も交えながら時間を過ごす。
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