276 / 1,214
8章 王都
弁明
しおりを挟む
ゲラルドの往復は思いのほか早い物であり、朝食後とはいってもそれこそ昼に近い時間と、そんな事をオユキは考えていたがそのようなことは無く。
食事を終えて少ししたときには、彼が迎えに来た。そうして連れられた数人が、必要な物をそれは丁重に箱に入れるのを見送り、そして今は久しぶりに見る顔と話し合いの場となっている。
「マリーア公爵とリース伯爵は後程とのことです。先にこちらで必要な話を纏めよと。」
「そうなりましたか。」
ただそれにしてはおかしい事が有ると、オユキとしては口にしたいが。そこはそれ。トモエに視線を送れば二度頷かれる当たり、間違いではない。そして目の前の少女が嘘をついている様子もない。
さてアイリスはと見てみれば耳がしっかりと壁を向いている。警戒のため出入り口ではなく。
実にらしいと、そう言えばいいのだろうか。
「今朝、色々とあったそうですね。」
「はい。使命を果たした、その結果として。」
「事前に報告が無かったのは。」
「話せる場がなかった、それ以上の物ではありません。ミズキリが話すかとも考えたのですが、展開が読めないことも有り、王都にて結果を得てから、そう判断したのでしょう。」
「そうなりますか。」
そして、メイがため息をつく。
「それと、お二方は見当がついているのですか。」
「メイ様。」
その話題については、この場では口にできない。
一度言葉を切ってメイを見たうえで、オユキは尋ねる。
「以前の道具は今もお持ちですか。」
「まさか、当家で聞き耳を立てているものがいるとでも。」
「実際に二人。アイリスさん。」
「ええ、そこの壁の向こうにいるわよ。」
そしてアイリスが告げれば、気が付いていなかったメイは椅子ごと体を回し、少年たちも驚いた顔をしている。
「公爵様と、伯爵様。そのお二方かとは思いますが、確認ができない以上口にはできません。これまでメイ様が機会が有れども、語らなかったことも含まれていますので。」
さて、オユキがそう告げてみればそこに確かにあったはずの壁が忽然と消えて、二人の男性、一人は見覚えはあるがもう一人は初めて会う、そんな人物が現れる。
「久方ぶりであるな。さて、何故気が付いたのか、それを尋ねても。」
椅子から降りようとすれば、揃って手振りで止められたため、そのままでオユキが応える。
「こうして再びマリーア公爵様の御前にて御身の栄光に良くすることに感謝を。
私は間取りから。トモエは気配を認めていましたし、アイリスはその耳で確かめた様子。」
「成程。まぁ、気付かれても良い、その程度ではあったのだがな。」
「メイ、淑女がその様に大口を開ける物では無い。」
振り返っているため、オユキ達からは見えないが、まずはそちらで話せと言われたメイとしてはさぞ驚いただろうとその心情はくみ取れない物では無いが。
普段であれば、ここに集まった者を纏めて試す算段もあるかと考えられないこともないが、生憎とそんな時間は無い。
「さて、不作法であったが許せ。」
「仰せの通りに。」
「まずは紹介しよう、ルーベン・フローラ・リース伯爵だ。」
「ルーベンだ。娘が世話になっている。」
「いえ、リース伯爵家令嬢の手を煩わせ、至らぬ我が身を恥じいるばかり。」
そんな事、微塵も思っていないでしょうに、そんな視線をオユキは感じてしまうのだが、それこそ社交。
相手も分かっているのだから、口にすることが一先ず大事なのだ。
「なかなか強かな事であるな。過日は、トモエの後ろでただ控えていたというのに。」
それについては、オユキはただ微笑むばかり。公爵はトモエに話しかけたから、トモエが応えたそれだけなのだから。それに異を挟めば、それこそ意味のない面倒を作ることとなる。
「さて。リース伯爵子女から道中おおよその話は聞いておる。加えて、見慣れぬ書式ではあるが実に分かり易い報告書もあった。まずはその労を我からも労おう。」
「我からも、娘の至らぬ点を良く補佐した。」
「恐れ入ります。」
そう告げて、オユキが頭を下げる。
「さて、本題であるが。王太子妃様の出産は明日の夜だ。神々のご配慮が無ければ、我らは間に合わなかったであろうよ。」
公爵にまで伏せていた、その事実はどうしても気にかかるが、そこは知らされない以上踏み込むべきではないと、オユキは無理にそれを思考の隅に追いやる。
「そして、これらの報告になかった品々。有難くも神々より使命を果たした故の下賜品と、そう聞いているが。」
「王太子様の御子を守るための品、それを月と安息の女神様より。」
「それが、こちらか。人口の上限、それを超えた初めてのお子故、未だ薄いとそういう事か。
となれば神像の一つは、王城に据えることになろうが、もう一つは。ふむ。それこそ御言葉をお伺いしてとなるか。」
少年たちにとっては少々刺激の強い言葉であったろうが、彼らもそれを聞き逃してはいない。少々派手な音が鳴ったが、そちらはトモエが抑える。
この場には流石に領都からの子供たちまでは来ていないあたり、いよいよ彼らも逃がす気はないと、そういう事なのだろう。
トモエにしても、自身が面倒を見た子供たちが評価されることを喜んでいるようにオユキには見える。
「そして、短剣。またしても、か。」
「恐れながら、そちらは、こちらのアイリスの願いによるものかと。」
「二人の巫女にそれぞれと、そういう訳ではないのかね。」
これまではオユキに向けられていた促しが、アイリスに向く。
「技を。技を競うだけの場を求めたのです。此度の使命、この身はそれに乗っただけの身ではありますが。」
「しかし、叶えられたとそういう事か。ダンジョンは加護を抑える働きがある、そうも聞いた。つまり、神々はそのような場を用意できると、そういう事なのだろうな。そして、用意せよとも。」
どうやらそのあたりはくみ取って貰える、というよりも神が認めた、つまりそういう事になったのだろう。
どうにもトモエが少年たちに言葉をかけていたが、トモエは何やら王都にいる間にその機会があると踏んでいるようではあるが、さて。
「成程、由来は確かに理解したとも。」
「どうにも。御言葉を聞かなければと、そうはなりますが。しかしこちらも王城に、ですか。」
「既に、水と癒しの神殿から巫女と司教も王城に上がっておる。そこで開けよという事であろうな。それも内々に。」
出産の日取りも確定しているようであるし、それが明日城にと、その理由であることも理解した。
御言葉の中身は流石にオユキとしても一つは完全に埒外である。
既に出立前に今回の騒動に関わる言葉はメイが聞いている。後は創造神から預かった聖印を示し、それを告げれば片が付く。
そうであるならば一つは、オユキ達の事ではない何かと、今の所はその程度の予想しかつかない。
「明日の登城はそなたらについては、非公式の物となる。」
「は。」
「我らの馬車に別れて乗せ、その上で城に上がる。今はそうとだけ覚えておくがよい。
衣装の用意は既にある。この後昼食が終わればそちらの調整を行い、本日はこのままリース伯爵の屋敷にて休むがよい。」
「畏まりました。お心遣い、真に有難く。」
「それでは、次だ。つまりは明日の報告、それに関してであるな。
報告書は良くまとまっており、各ギルドの長、司教も巻き込んで、実によく作られておる。
予測された問答集にはかけている視点も散見されたが、それこそ我らの視点である故、それは致し方ない物であろう。
リース伯爵子女。後程我とリース伯爵が王への奏上、その文言は作る故、明日はそれを使えばよい。此度の事誠に大儀であった。」
「光栄です。しかし、先ほど名の上がったものたちの助けがあってこそ。私だけではなく、マリーア公爵の称賛は是非とも彼らにも頂きたく。」
「忘れてなど居らぬよ。文官へは時間がない故手直しは行わずそのまま渡せばよい。
問答については、その方が控えておけ。先に渡せばそれ以上を何かと考えて尋ねる、そういった手合いである。」
「ご教示いただき、有難うございます。」
そこで公爵は椅子の背もたれに体を預けて、大きく息をつく。
「正直なところ、よもやここまで、それは本心であるよ。誠に大儀であった。」
一先ず、この件で始まりの町の面々が散々に走り回った、それについては報われたようだ。
さて、後は何が出るかと、そうなるのだが。
「我からも改めて礼を言おう。よく娘を助けた。ゲラルドと娘からも話を聞いている。王都での滞在は不自由ないと、改めてそう約束しようとも。」
食事を終えて少ししたときには、彼が迎えに来た。そうして連れられた数人が、必要な物をそれは丁重に箱に入れるのを見送り、そして今は久しぶりに見る顔と話し合いの場となっている。
「マリーア公爵とリース伯爵は後程とのことです。先にこちらで必要な話を纏めよと。」
「そうなりましたか。」
ただそれにしてはおかしい事が有ると、オユキとしては口にしたいが。そこはそれ。トモエに視線を送れば二度頷かれる当たり、間違いではない。そして目の前の少女が嘘をついている様子もない。
さてアイリスはと見てみれば耳がしっかりと壁を向いている。警戒のため出入り口ではなく。
実にらしいと、そう言えばいいのだろうか。
「今朝、色々とあったそうですね。」
「はい。使命を果たした、その結果として。」
「事前に報告が無かったのは。」
「話せる場がなかった、それ以上の物ではありません。ミズキリが話すかとも考えたのですが、展開が読めないことも有り、王都にて結果を得てから、そう判断したのでしょう。」
「そうなりますか。」
そして、メイがため息をつく。
「それと、お二方は見当がついているのですか。」
「メイ様。」
その話題については、この場では口にできない。
一度言葉を切ってメイを見たうえで、オユキは尋ねる。
「以前の道具は今もお持ちですか。」
「まさか、当家で聞き耳を立てているものがいるとでも。」
「実際に二人。アイリスさん。」
「ええ、そこの壁の向こうにいるわよ。」
そしてアイリスが告げれば、気が付いていなかったメイは椅子ごと体を回し、少年たちも驚いた顔をしている。
「公爵様と、伯爵様。そのお二方かとは思いますが、確認ができない以上口にはできません。これまでメイ様が機会が有れども、語らなかったことも含まれていますので。」
さて、オユキがそう告げてみればそこに確かにあったはずの壁が忽然と消えて、二人の男性、一人は見覚えはあるがもう一人は初めて会う、そんな人物が現れる。
「久方ぶりであるな。さて、何故気が付いたのか、それを尋ねても。」
椅子から降りようとすれば、揃って手振りで止められたため、そのままでオユキが応える。
「こうして再びマリーア公爵様の御前にて御身の栄光に良くすることに感謝を。
私は間取りから。トモエは気配を認めていましたし、アイリスはその耳で確かめた様子。」
「成程。まぁ、気付かれても良い、その程度ではあったのだがな。」
「メイ、淑女がその様に大口を開ける物では無い。」
振り返っているため、オユキ達からは見えないが、まずはそちらで話せと言われたメイとしてはさぞ驚いただろうとその心情はくみ取れない物では無いが。
普段であれば、ここに集まった者を纏めて試す算段もあるかと考えられないこともないが、生憎とそんな時間は無い。
「さて、不作法であったが許せ。」
「仰せの通りに。」
「まずは紹介しよう、ルーベン・フローラ・リース伯爵だ。」
「ルーベンだ。娘が世話になっている。」
「いえ、リース伯爵家令嬢の手を煩わせ、至らぬ我が身を恥じいるばかり。」
そんな事、微塵も思っていないでしょうに、そんな視線をオユキは感じてしまうのだが、それこそ社交。
相手も分かっているのだから、口にすることが一先ず大事なのだ。
「なかなか強かな事であるな。過日は、トモエの後ろでただ控えていたというのに。」
それについては、オユキはただ微笑むばかり。公爵はトモエに話しかけたから、トモエが応えたそれだけなのだから。それに異を挟めば、それこそ意味のない面倒を作ることとなる。
「さて。リース伯爵子女から道中おおよその話は聞いておる。加えて、見慣れぬ書式ではあるが実に分かり易い報告書もあった。まずはその労を我からも労おう。」
「我からも、娘の至らぬ点を良く補佐した。」
「恐れ入ります。」
そう告げて、オユキが頭を下げる。
「さて、本題であるが。王太子妃様の出産は明日の夜だ。神々のご配慮が無ければ、我らは間に合わなかったであろうよ。」
公爵にまで伏せていた、その事実はどうしても気にかかるが、そこは知らされない以上踏み込むべきではないと、オユキは無理にそれを思考の隅に追いやる。
「そして、これらの報告になかった品々。有難くも神々より使命を果たした故の下賜品と、そう聞いているが。」
「王太子様の御子を守るための品、それを月と安息の女神様より。」
「それが、こちらか。人口の上限、それを超えた初めてのお子故、未だ薄いとそういう事か。
となれば神像の一つは、王城に据えることになろうが、もう一つは。ふむ。それこそ御言葉をお伺いしてとなるか。」
少年たちにとっては少々刺激の強い言葉であったろうが、彼らもそれを聞き逃してはいない。少々派手な音が鳴ったが、そちらはトモエが抑える。
この場には流石に領都からの子供たちまでは来ていないあたり、いよいよ彼らも逃がす気はないと、そういう事なのだろう。
トモエにしても、自身が面倒を見た子供たちが評価されることを喜んでいるようにオユキには見える。
「そして、短剣。またしても、か。」
「恐れながら、そちらは、こちらのアイリスの願いによるものかと。」
「二人の巫女にそれぞれと、そういう訳ではないのかね。」
これまではオユキに向けられていた促しが、アイリスに向く。
「技を。技を競うだけの場を求めたのです。此度の使命、この身はそれに乗っただけの身ではありますが。」
「しかし、叶えられたとそういう事か。ダンジョンは加護を抑える働きがある、そうも聞いた。つまり、神々はそのような場を用意できると、そういう事なのだろうな。そして、用意せよとも。」
どうやらそのあたりはくみ取って貰える、というよりも神が認めた、つまりそういう事になったのだろう。
どうにもトモエが少年たちに言葉をかけていたが、トモエは何やら王都にいる間にその機会があると踏んでいるようではあるが、さて。
「成程、由来は確かに理解したとも。」
「どうにも。御言葉を聞かなければと、そうはなりますが。しかしこちらも王城に、ですか。」
「既に、水と癒しの神殿から巫女と司教も王城に上がっておる。そこで開けよという事であろうな。それも内々に。」
出産の日取りも確定しているようであるし、それが明日城にと、その理由であることも理解した。
御言葉の中身は流石にオユキとしても一つは完全に埒外である。
既に出立前に今回の騒動に関わる言葉はメイが聞いている。後は創造神から預かった聖印を示し、それを告げれば片が付く。
そうであるならば一つは、オユキ達の事ではない何かと、今の所はその程度の予想しかつかない。
「明日の登城はそなたらについては、非公式の物となる。」
「は。」
「我らの馬車に別れて乗せ、その上で城に上がる。今はそうとだけ覚えておくがよい。
衣装の用意は既にある。この後昼食が終わればそちらの調整を行い、本日はこのままリース伯爵の屋敷にて休むがよい。」
「畏まりました。お心遣い、真に有難く。」
「それでは、次だ。つまりは明日の報告、それに関してであるな。
報告書は良くまとまっており、各ギルドの長、司教も巻き込んで、実によく作られておる。
予測された問答集にはかけている視点も散見されたが、それこそ我らの視点である故、それは致し方ない物であろう。
リース伯爵子女。後程我とリース伯爵が王への奏上、その文言は作る故、明日はそれを使えばよい。此度の事誠に大儀であった。」
「光栄です。しかし、先ほど名の上がったものたちの助けがあってこそ。私だけではなく、マリーア公爵の称賛は是非とも彼らにも頂きたく。」
「忘れてなど居らぬよ。文官へは時間がない故手直しは行わずそのまま渡せばよい。
問答については、その方が控えておけ。先に渡せばそれ以上を何かと考えて尋ねる、そういった手合いである。」
「ご教示いただき、有難うございます。」
そこで公爵は椅子の背もたれに体を預けて、大きく息をつく。
「正直なところ、よもやここまで、それは本心であるよ。誠に大儀であった。」
一先ず、この件で始まりの町の面々が散々に走り回った、それについては報われたようだ。
さて、後は何が出るかと、そうなるのだが。
「我からも改めて礼を言おう。よく娘を助けた。ゲラルドと娘からも話を聞いている。王都での滞在は不自由ないと、改めてそう約束しようとも。」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
419
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる