憧れの世界でもう一度

五味

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8章 王都

そしてクエスト達成

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門をくぐるときに、相変わらず大量に積み込まれたトロフィーに怪訝そうな顔はされた者の、そこは公爵による一言で何が起こるでもなく無事に王都へと入る事が出来た。
既に日も沈みと、そんな時間帯であるためオユキ達も馬車へと乗るように言われたため、町並みを楽しむ時間も無く、傭兵達ともどこかで分かれたのかは分からないが、アイリスが乗り込んでいるあたりに思惑も見て取れる。

「おー、狐のねーちゃんもこっちなんだ。」
「アイリスで良いわよ。まぁ、連絡役と、色々ね。」
「アイリスさんも巫女様ですもんね。」
「そう、らしいのよね。」

アイリスもそうであるらしいが、オユキにしてもその実感は正直なところ何かと呼ばれる、その程度のものでしかない。

「そういえば、聞きそびれていましたが、巫女とはそもそもどのような者なのでしょうか。」

オユキがそうアナとセシリアに水を向ければ、早速とばかりに説明がある。

「えっと、神様の声を聞きやすい人で、きちんとお勤めをしていると、舞とか歌とか、神様から授けられるの。」
「それと、お祭りの時に神様の依り代役、えっと御言葉の小箱や夢以外だとそうしなきゃお姿を見ることができないから、そういうお務めをする人なの。」
「何というか、ふわっとしてるわね。」
「大切な御勤めというのはもちろん理解できるのですが、その。」

オユキとしては口にしにくいのだが、それを理由に教会に押し込められると、正直困る。

「あ、大丈夫だよ。始まりの町の巫女様も、他の町で普段過ごしてるって言ったでしょ。」
「ああ。そういえばそのような話が。」

そうであるならまぁ、あまり問題は無いだろう。いや、そうとも言い切れないところは今もこうしていることが証明しているのだが。

「その、あまり公言はしないでくださいね。あまり大仰になると困りますから。」
「んー。オユキちゃんがそういうなら。」
「まぁ、それで魔物狩りに行けなくなっても困るし、俺らも教えてもらえる時間が減るとなぁ。戦と武技の神様だから、戦いから離れたらそっちの方が駄目だろうしな。」
「それはあるかも。」

やはりそのあたりは神の特色が出る者なのだろうか。悪戯気な月と安息の神を思い出せば、教会から離れているという始まりの町の巫女も気に入られている、つまりはそういう事であろうし。

「さて、私たちもですが、これから一日のうちいくらかは行儀作法が待っていますからね。」
「面倒だな。」
「でも、仕方ないでしょ。一応公爵様のお屋敷でお世話になるわけだし。」
「いえ、前回と違って、今回は皆さんも正式に司教様からの用事をするわけですから。」
「あー。」

彼らは彼らで、特に既に位を持っている少女二人は、教会で散々にやられたようで何やら遠い目をしている。
そして、そんな話をしていれば馬車の速度も落ちて来る。

「おや、到着ですね。一先ず今日は休むだけですから。」
「おー、久しぶりにちゃんとベッドで寝れるのか。」
「今後も狩猟者を続けて大型を狙うようになれば、片道二ヵ月こんな感じよ。」
「きついな。」
「それについては今後でしょうね。正直、その辺りの改善は私も考える必要を認めていますし。」

さて、それについては試してみたいことも有る。これまでの異邦人が行っていないあたり、何かボトルネックはありそうではあるが。少なくとも金銭で馬車の籠、そこの居住性くらいは上げられるだろう。
後はそれこそ休む間の事は護衛に任せてしまえばいい。
オユキもトモエも既に二人での旅などというのは考えてもいないのだから。

そんなことを話しながらも、外からの声に従って馬車からぞろぞろと降りれば、見事な庭園が迎えてくれる。
門は既に超えたのだろうに、背の高い割くに蔓を這わせ、壁となり、見慣れぬ形の花が実に色彩豊かに咲き誇り、手入れが行き届いている、そうと分る様に芝生は高さが整っている。
また花壇が並んだ一角もあれば、葉が鮮やかな木々が植えられている一角もある。それこそ壁の裏に回り、門の外を気にしなければ、林の側にいる、その様に見える事であろう。
屋敷にしても白々とした壁が美しく、背の高い造りの屋敷。扉は少し離れても見て分かるほど艶やかな木製の扉が取り付けられ、柱の間、広く作られた間口は二階という訳でも無い天井が日陰を作り、中を覗くことが出来ぬようにカーテンはかけられているが、ガラス窓も存在する。
そしてそこからさらに目を逸らせば、果たしてどこからどこへつながっているのか。水路を水が流れと、このまま写真に撮って飾るだけで、実に多くの人の目を楽しませる、そう思えるものであった。

「お客様、こちらがマリーア公爵様の王都西部行政区別邸となっております。」
「ご案内いただきありがとうございます。今後の予定についてですが。」
「申し訳ございません。明朝、遣いの物が参りますので。」
「畏まりました。」

そうしてそのまま案内されるままに中に入れば、内装も公爵、その位に相応しいと言えばいいのだろうか。豪奢とそう呼ぶしかない調度が使われ、これまではたまに見る程度であったガラス、加えて陶器などもいたるところで使われている。
そんな中をゆっくりとそれぞれ案内され、流石に旅の疲れもあり、そのまま何をするでもなく食事と入浴、喜ばしい事に浴室もあった、を済ませれば、それぞれの部屋とそう言われた場所で眠りにつく。
これに合わせて建てたという訳でも無いだろうに。少年たちは性別事に少し大きな部屋へ、アイリスは個室、オユキとトモエは同室と誂えたように部屋を割り振られた。
まだいくつか案内されていない部屋もあるという事は、子供も込みで、王都に数世帯で、そういったときに利用すのかもしれない、そんな事を少しトモエと話せばすっかり寝入ってしまった。
そして、改めて意識を覚ませば、膝を着いて礼を取ることとなる。

「よく果たしたわね。正直もう少しギリギリになるかと思ったけれど。」
「ご下命と有らばこそ。そしてそれを果たすためとメイ・グレース・リース様の決断に助けられました故。」
「その気が付いているようだし、良いわよ、少々砕けた言葉遣いでも。やんちゃな弟と遊ぶ時の様に武器を向けられたら困るけれど。」
「ご気分を害したなら申し訳ありません。」

そして、今はこうして戦と武技の神、それと今回の事を指示した月と安息の神の前で頭を下げる。どうにもオユキの予想通り、各隙も無いようではあったし思考は筒抜けとそういう事であるらしい。
しかしそれも変わらぬ不可思議な力で立たせられ、夜の闇からにじみ出た、そうとしか思えぬように現れた机に一緒に座ることとなる。

「さて、あの日の約束、それについてはいつもと同じとして。」
「うむ。その方らへの褒美も考えねばなるまいよ。」
「過分なご加護を既にいただいておりますれば。」
「そこはそれ、日々の鍛錬と、魔物の討伐それによるものである。」

月と安息の女神は見覚えのある酒杯を傾けているし、戦と武技の神、その横に置かれた酒樽にも見覚えがある。
前者は期間の短縮を告げられた時、後者は少年たちと教会の者たちと一緒に用意した物であろう。
出かける前にせめて祭りに備える物を残そうと、少年たちから相談されたため改めて樽でいくつかサングリアらしきものを作ったのだ。
戦と武技の神は甘いものは好まない、そう言われたために、ワインそのままではあるのだが。

「しかし特にこれといった望みはなさそうであるな。」
「ほんと、無欲な事ね。」

ただ、困ったことに神々から何か褒美をと言われても、トモエとオユキ、アイリスの三名には直ぐに思い当たることは無いのだ。
そもそも加護を封じる、そんな指輪を願った身である。つまるところ技を鍛えるために、それを断るそんなものたちなのだから。

「申し訳ございません。未だ道半ばの至らぬ身であります故。」
「よい、その心は我の意に沿うものである。しかしながら我らも神として、使命を果たしたものに何も与えぬ、そうは出来ぬのだ。」
「そうね。何もなければ、功績をたたえる証、そうなってしまうけれど。」
「それだけでも有難く。」
「それ以上は望んでいない、そちらが本音でしょうに。」

隠し事は出来ないとはわかっていても、これまでの経験による社交辞令、それまでは流石に伏せられないため、月と安息の神にその様に悪戯気に笑わわれる。
そんな中、トモエとオユキ、二人の願いとしては二つほどある。そしてどうせ知られているのだろうからと、オユキがそれを口にする。

「恐れながら、頂けるのであれば、改めて水と癒しの神、その神殿へ詣でるその許可と、何分忙しない日々を過ごしておりましたので、今しばらく休息を得られればと。」
「欲のない事。」
「その程度であれば、その方らが望めば叶えられるであろうが、まぁその方らの考えも分かる。相分かった、我らが言葉を残す。その手間を此度の褒美としよう。さて、もう一人の巫女よ、その方からは何かあるか。」

そう聞かれたアイリスは、ここまでの間トモエとオユキに視線を向けることもなく、何かを考えこんでいるそぶりをずっと見せていた。
トモエにも、オユキにも。何かこれまでの日々で彼女が迷いを得ている、そういったそぶりは見て取れたのだ。
そして、何となく想像もついてしまう。戦と武技の神、初めて会ったとき彼女が口にしたことを考えれば。
神々は既にそれを理解している、しかしアイリスは口に出せないのであればと、オユキが先に口を開く。

「恐らく、ではありますが。」
「いえ、私の願いだもの、私が。」

ただそれを遮り、アイリスが訴える。

「戦と武技の神よ。王都に闘技場、鍛えた技、それを比べる場があるのです。
 私は、己の技を、伝えようとして伝えられなかったもの、それを示す場が、ハヤト様が残したものが意味がないと、この世界に、生きる人々、にそうさせたくはないのです。
 必ず意味があると、道を求める、それが間違っていないのだと。」

そう、それが彼女の願い。どうにも要領を得ないが神々には正しく届くであろう。
つまるところ加護があれば、それだけではない。人型だ鍛える、そしてそこに加護が加わる、その有用性を示す、そんな場を求めているのだ。
インスタントダンジョン、その場で加護の上限が設けられ、鎧を着たままでは動けぬ騎士がいた、しかし外で戦えばその騎士は彼女よりも強いのだ。
その歪、己を鍛える、改めてそれに向き合う場を。ただ彼女は涙ながらに訴える。変わらず感情が先行し、要領を得ない物ではあるが、切々と。これまでの長年の鬱屈が、涙として流れてしまえばいいと、そういうかのように。
そして、その元目は正しく届くのだ。戦と武技の神。技を磨く、その事を誰よりも求める神の元に。
そして彼女の訴えは、ただ静かに、柔らかく輝く5つの月の下の元、確かな約束として、神の名のもとに保証される。
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