憧れの世界でもう一度

五味

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7章 ダンジョンアタック

気楽な話

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それからも暫く、ミズキリはゲラルドにあれやこれやと説明を続けると、これで終わりと、そう話を締める。
そうすれば、ゲラルドもまた、聞いた話を整理するためだろう、黙り込んでしまう。
聞いた話をメモも取らずにというのは、実に器用なものだが、それができるからこそなのだろうとも思わせる。

「それで、魔石か。」
「ええ、そちらにもすでに話が。」
「ああ、今日聞いたばかりだ。だが、買取の値段はどうなるかだな。」
「そのあたりは、それこそ国王陛下のご采配によるものなのでは。」
「そうだが、その前段階がな。」
「ああ、各領での聞き取りはありますか。」

そうしているうちに、またそちらでも話を改めてかみ砕いていたのだろう。狩猟者ギルドの長、ブルーノもまた難しい表情で、トモエと話している。
そこに、ミリアムも加わり、そちらはそちらで賑わいを見せる中、傭兵ギルドの面々は気楽なものだ。

「仕事先が増えるな。」
「まぁ、私達は、その程度よね。」
「にしても、最奥に変異種か、正直肩慣らしにはいいよなぁ。遠出しなくてもそこそこの相手とやれるんなら。」
「話に出てなかったけど、加護回りはどうなのかしら。」
「それこそ、潜って確かめりゃいいだろ。ま、俺らは先に周囲に情報を伝えるために走り回る事になりそうだが。」
「そのあたりは、オユキはこの町で試すつもりと、そう考えていたわ。」
「そうなるのか。」

そんな話が出たからか、オユキにも視線が向くが、席が離れているためそちらに気軽に話しかけられる物でもない。
ただ、それを聞いたミズキリから、慣れた視線が向けられる。

「話していない事が有るようだな。」
「流石に時間がありませんでしたから。」
「ま、ゆっくり聞こう。ゲラルド殿は、この後は戻られるのですね。」
「ええ。直ぐに。」

初めから酒類に手を付けていないあたり、そういった考えもあるのかとはオユキも考えていたが、なかなかに慌ただしい事だ。

「2週間後、またお目にかかる事になりそうですね。」
「その時は、またお呼びさせていただくかと。」
「ええ、畏まりました。」

そうしてゲラルドは、立ち上がり、頭を軽く下げると、そのまま席を後にする。
それを見送ってしまえば、机にも賑やかな空気が戻って来る。そして当然のことながら、それはトモエとオユキに向かう。

「で、今度は何をやらかした。」
「今度とは、また、信頼なのない事ですね。」
「そうでなきゃ、あんな貴族がこんな場末の宿に一人で来るものか。」
「おや、ゲラルドさんもですか。」
「気が付いてなかったのか。」
「どうにも、向こうでの知識と、こちらの体系が違うような気がするんですよね。」
「ああ、そういや、そういった背景にはまったく関心がなかったな。」

そうして、ミズキリがため息をジョッキを傾けて飲み込む。他方でトモエにしても、ブルーノとアベルにあれこれと聞かれている。

「報告書は読んだが、また、随分と暴れた様だな。」
「ただ魔物の狩猟を、勤めを日々行った、それだけです。」
「それだけというには、成果がだいぶ出ているがな。」
「そのあたりは、指標をまだ存じ上げず。」
「然も有りなん。それにしても、こちらも忙しくなりそうだ。」
「全く、あなた達、話していると理性的に見えるのに。」

そうして、トモエはトモエで対応している中、空いた空間に、ルイスがやってきて、ミズキリとオユキに声をかける。

「で。俺は現場にはいなかったからな。アイリスが随分と荒れていたぞ。」
「その、お手数を。」
「お前は、そのあたり、変わらんな。」
「切欠は偶発的な物だったんですよ。」
「そりゃそうだろうな。で、そこでいつもみたいに、上手い事運んだんだろうな。
 全く、失敗して見せるのだって、世の中大事だと、あれほどいっただろうに。」
「その、子供たちもいましたから。それに相応に失敗もありましたとも。」
「ま、そのあたりも含めて聞くか。で、実際何があった。」

そうミズキリに言われて、オユキは領都での事をあれこれと話す。ところどころはぐらかしたいことも有ったが、ミズキリが、長年の付き合いのある相手がそれを見逃すはずもなく、伏せようとそんなそぶりを見せれば、容赦なく暴かれた。そうして事の顛末を語り切れば、ミズキリはただただため息をついて、しみじみとオユキとトモエの両方に言い含める。

「よかったな、この世界に労基が無くて。」
「その、私は働いた経験がなく。」
「トモエは、そうか。では、オユキ。」
「趣味を仕事にしたら、こうなると、私も思い知った次第です。」
「お前ら二人だけならともかく、子供まで巻き込んで。」
「面目次第もありません。」

まず真っ先にやり玉に挙がったのは、以前の世界、そこでブラック企業どころではない、その日程だろう。文明が未発達、そういった状況であるなら、それが当たり前とそう言ってもいいかもしれないのだが。それこそこの宿にしても家族で年中無休そうなっているのだろうから。

「考えていることは分かるが、だからと言ってな。それこそ色々見るのも経験だろう。
 その機会を奪った、そこについては反省をするといい。」
「返す言葉もありません。あの子たちに戦闘狂と、そう思われていたのは、流石に私達も堪えました。」
「そりゃ、そうとしか見えないだろうよ。」
「まぁ、旦那もそう責めてやるな。あいつらもそれを喜んでいた節があるからな。」
「大人の責任、オユキはそうは見えないでしょうが、そこには求められる振る舞いがあります。」
「ま、それについては否定しないがね。あの年ごろなら、学校での訓練か、もっと軽い物だろうし。」
「これからは、きちんと休日を設けます。」
「今後の予定、その腹案くらいはあるんだろう。」

ミズキリにそう言われてしまえば、オユキとしても話さざるを得ない。

「ええと、この町周辺では物足りないでしょうから、また河沿いの町で。」
「せめて二日は置くように。」

言われて、明日話をして、それからと考えていたオユキは、それなら十分ではないかと、そう考えるがミズキリはそれを見逃しはしない。

「その予定を話すまで、日を開けろと、そういったつもりだが。」
「分かりました。」
「まさか、二日後に行くつもりだったのか。」
「そこで、一週間ほど狩りをして来れば、丁度かなと。」
「さっきの休日の話は、どこに消えたんだ。」

今度はルイスにまでため息をつかれる。一方でトモエにしても、アイリスにあれこれと言われている。

「あなた、明日木材を取りに行くつもりだったの。」
「その、訓練の準備は事前にしなければ。」
「旅から帰ったばかりじゃないの。」
「一日休みましたから。」
「実質半日じゃない。」
「そういえば、そうですね。」
「何を白々しい。」
「ですが、一日休むと三日分遅れますから。」
「三日の遅れ位、簡単に取り戻せるでしょうに。それに半日でも十分でしょうに。」
「それは、そうかもしれませんが。」

トモエとしても、何やら明日からの訓練に関して考えていたようで、そのあたりは改めてすり合わせがいるなと、そんなことをオユキは考える。

「またぞろ、碌なことを考えてないな。」
「ミズキリ、それは私に対して、あまりに信頼が無いと思いませんか。」
「これまでにお前がやらかしたことを考えるとな。で、挙句の果てに神からの下賜品を、ポンと人に投げ渡したと。」
「いえ、それは。貰った理由が、頂き物によるものでしたし。短剣は使う予定が無かったので。」
「その結果がこの大騒ぎだぞ。」

そうしてミズキリが、それぞれに話していたはずの面々に視線を投げれば、一同が揃って頷く。

「流石に、ここまでは想定外ですよ。」
「想定内は、トロフィーからか。贈り物として提供することで、この町への意識を向ける事、新人の育成への便宜を狙ってか。」
「後は、今後の観光の事も。」
「ほう。観光か。まぁ、国外もと考えれば間違ってはいないと思うが、やり用はもっとあっただろうに。」
「そのあたり、よくわからないことが。」
「貴族制だな。」
「ええ、ゲラルドさんにも、一度時間を頂いて、聞こうとは思っていたのですが。」
「それよりも先に、聞く相手がいるだろうに。」

ミズキリがそういってジョッキを傾ければ、一緒の席にいる物が、各々頷いている。

「トモエもかい。」
「その、異邦では形骸化したといいますか、形は残っていますが、実行力の無いものでしたから。」
「その割に、応対は最低限出来ていましたけど。」
「目上と、その意識はしていますし、一応過去の話としてある程度の知識は。」
「普段の口調にしてもそうだけど、あんたら教養はありそうだからね。」
「その、こちらの貴族というのは、所謂特権階級、民衆を治める立場と。」
「それもあるけど、もっと広範だよ。治める町の結界の維持管理、戸籍の管理、他の町との連絡や、物流の調整。それと所領のギルドの管轄。他にも色々だね。非常時の対応なんかもあるし。」

そんなイリアの説明に、オユキも首をかしげる。

「結界の維持に魔石がいるとは思ていましたが、基本は教会では。神の奇跡によるものでしょう。」
「その対価を領主が払っている。」

オユキの疑問は、実にあっさりとミズキリに切り捨てられる。
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