憧れの世界でもう一度

五味

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7章 ダンジョンアタック

冒険者ギルドで

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その後、もし時間があればとカナリアも今日の夜に行われるだろう宴会へのお誘いを出した後、再度宿に戻り、領都で渡された書類を持って、冒険者ギルドに向かう。
ネットワークなど当然のように存在しないため、向こうでの成果をこちらに反映させる、そのためにはこうして預かった書類を提出しなければいけない。
帰還報告も兼ねてはいるが、直ぐに出なくても構わないあたり、融通が利くと言えばいいのか、緩いと言えばいいのか。
オユキとトモエも、昨日はそんなことができる状態ではなかったため、そのあたりの考慮もあるのだろうが。
久しぶりの狩猟者ギルドを覗いてみれば、既にいい時間でもあるためか、ちらほらと人がいるのが見える。外で魔物を狩った帰りだろう。
その中には、小さい人影もあるあたり、既に新人の教育は動き出しているようだ。そして、引率を行っている相手は、当然見覚えがある。

「お、戻ってたのか。」
「お久しぶりです。昨日戻ってはいたのですが、どうにも。」
「ま、長旅だからな。」

久しぶりに見たトラノスケと、オユキが話している一方でイリアにトモエが捕まっている。

「よ、領都はどうだった。魔物もここより手ごわいから、楽しめたろう。」
「その、戦闘を楽しんでいるのは事実ですが、そればかりというわけでも。」
「そういや、食もそれなりに興味がありそうだったね。向こうも色々珍しいものがあっただろ。」
「ええ。お土産も用意してますよ。」
「そりゃいいね。」

そうして話していると、初めて顔を合わせるというのに、気安く話しているからだろう。子供たちからも視線が集まる。

「任せる形になって、申し訳ありませんでした。」
「何、慣れてるからな。で、これから帰還報告か。」
「はい。それと少々向こうであれこれと買い込んできましたから、皆さんを誘ってと。」
「ほう。そりゃいいな。」
「ミズキリは。」
「今は、二階だな。こっちの新人たちの進捗報告もある。」
「おや、もうそこまで。」

そうして、改めて新人、子供ばかりかと思えば、それこそ見た目にはトモエを超える年齢らしきものもいる。
どうやら、子供向けとそう考えていたものだが、もう少し手広くやっているらしい。

「私達も暫くはこちらに居るつもりですから。」
「ああ、手伝ってもらうさ。そういや、いつもの顔がいないが。」
「ええ、まだ疲れていますし、先に教会で時間を使っていますよ。」
「ああ、そういや、そうだったな。」

そうして話していると、見慣れた顔に呼ばれたため、トラノスケとイリアに断ってから、そちらの受付へとトモエと進む。
彼らは彼らで、恐らく納品が終わって、それを待つのだろう。新人たちを連れて、周辺の魔物の情報が集められた一角へと向かっていく。

「お久しぶりです。早速ですが、こちらを。」
「はい。初めての遠出は如何でしたか。あれ、やけに分厚いですね。」
「やはり、一般的な量ではありませんか。」
「やはりというほど、何かあったんですね。」
「ええ、まぁ、それなりに。それとゲラルドという方は、こちらには。」

そうトモエが尋ねれば、ミリアムはため息をつく。

「ああ、そちらもお二人が関わっているんですか。」
「お手数かけます。それと、お土産がありますから、前と同じようにギルドの方も宿に来てくださいね。
 ゲラルドさんも、こちらにおられるようならお誘いしてください。」
「まぁ、ありがとうございます。皆で、共有しておきますね。今はギルド長と話しているはずですから、一緒に伝えておきます。」

渡した書類。それを開けることはせず、恐らく担当が違うのだろう、それを受け取ったミリアムは、そのままそれを机に置いて、話を変える。

「帰還手続きは、こうして口頭での報告だけですよ。」
「成程。ああ、それと今度は王都まで足を延ばす予定が。恐らく二月は先になりますが。」
「分かりました。また日程が決まったら、教えてくださいね。王都の周囲は大きな町も多いので、近づけば楽になると思いますよ。」
「そうですか。そういえば、地図などは。」
「ええと、商人ギルドの方で取り扱いが、たまにあるといったところでしょうか。」
「分かりました、そちらで伺ってみましょう。」

そうして、話を切り上げて、さて次は傭兵ギルド、そんなことを考えているところに、先ほど名前を出したミズキリが現れる。
そんな彼にオユキが手を振って注意を引けば、彼が近くに寄ってきたため、ギルドの壁沿い、よく清算を待つ時に借りていた一角へと移動して話す。

「お久しぶりです。」
「ああ、よく無事で戻ったな。」
「まぁ、色々とありましたが。ええと、ミズキリにも、面倒をかけますよ。」
「少し詳しく聞いても。あのゲラルドとかいうのが、話を聞きたいことがあるとか。」
「ああ、もう接触がありましたか。リース伯爵家の相談役の方ですよ。
 インスタントダンジョン、覚えていますか。」

オユキが端的に言えば、ミズキリも察しがついたようだ。ただ、頷いて答える。

「トラノスケさんもそうですが、それぞれにこちらに来る時に与えられた情報が違いますね。」
「まぁ、そうなんだろうな。にしても相変わらず察しがいいな。」
「ヒントはいくつか。トラノスケさんの武器に対する言葉もありましたし。索敵能力のことも有ります。
 おそらく彼は、よりゲーム時代に近い形でこちらを捉えているのではと。」

こちらに来たばかりのころ、トラノスケは武器が突然壊れると、そんなことを言っていた。
確かに、ゲームの時はそうだったが、実際に使ってみれば、曲がるし、欠ける。
つまり、彼はそれが当たり前と、そう思うだけの何か違う下地があるのだ。それが当たり前と考えているから、常時そういった武技を使っている、そんな状態かとも思っていたが。

「ふむ。一度すり合わせるか。」
「ええ、あまりこちらの方に聞かせる内容でもありませんから、内々に。」
「そうだな。」
「それと、今夜お時間があれば、宿の方でお土産を配りますから。」
「ああ、ルーも誘っていこう。」
「そういえば、彼女は。」
「採取者ギルドの方だな。流石というかなんというか、植物の採取に関しては、頭抜けているからな。」

少々生臭い話を終えて、今度はトラノスケとイリアを改めて宴会に誘う。
二人とも二つ返事で参加するとのことで、他の新人たちが、少し興味ありげにしていたのも、合わせて声をかける。

「良いのか。」
「量としては十分でしょう。少ないものは、優先しますが。」
「そんなに買い込んできたのか。」
「ええ、それこそ馬車一杯に。物価が違う以上に、稼げるペースが違いましたから。」

そうしてオユキが笑って話せば、イリアも頷いて答える。

「このあたりは、森に入らなきゃ稼ぎは増えないからね。」
「数を狩れば、どうとでもなりそうですが。」
「武器が駄目になるさ。」

そう言われてしまえば、オユキとしても頷くしかない。
こちらでは特に金属製品は高くつくのだから。ただ、今後はどうなるか分からないが。
後の問題は水くらいだろうか。河から離れたのに、豊かな水がある領都、そこから来るメイが何某かの対策は備えると思うが、さて。
そんなことを考えながら、イリアと話していると、勘が良いのだろう、少々探るような眼をしてくるが、それについては笑って流す。ただ、情報は渡すのだが。

「気楽な席を作りたくは思いますが、序盤少々硬い部分もあるかと。」
「お貴族様が、単身ギルドに乗り込んできてるからね。」
「ええ、その方も同席されますよ。」
「向こうで話したのを、きいときゃよかったね。」
「どのみち、その席で話しますよ。私ではなく、ミズキリが主体になりますが。」
「ふーん、ずっとこっちにいた旦那がねぇ。随分と面倒を起こしたみたいだけど、あんたらあっちで何してきたんだい。」

そうして訝しげな眼をイリアがトモエとオユキに向ける。それに対しては、二人そろって肩を竦めるしかない。
起きた事に対しては、対処をしたが、真面目な話、自分達から事を起こすつもりはなかったのだから。いや、発端はともかく、後の事は対処の結果として続いた物ではありそうだが。

「異邦からの者だからでしょうか。色々と物珍しいみたいで。」
「ま、間違っちゃないだろうけど、誤魔化してるね。」
「その、長くなりますから。今夜にでも、興味があれば。」
「ま、面白い話があったら聞くさ。いや、聞きたいことは私もあるしね。」
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