憧れの世界でもう一度

五味

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6章 始まりの町へ

続く買い物

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「一先ずティータイム用の物を頂くとして。」

オユキがそう店員と、トモエに向けて声をかければ、店員は喜色を浮かべ、トモエが悩む。

「ディナー向けの物はどうしましょうか。」
「こちらも興味はありますが。」

そんなトモエの様子に、では、と言いかけてもう一つの鞄に目を向ける。
その視線を感じてか、店員が、ティータイム用の物を閉じ、脇にどけると、用意された中では最も大きなカバンを開ける。

「酒杯ですか。」

その中には、表面に精緻な細工が施された
「他の用途でも使えますが。」
「成程。それもそうですね。ガラスがあるので、そちらが基本かと思っていましたが。」
「流石に、輸送が困難ですから。職人がいれば、それこそガラス種を運んでという手もあるかもしれませんが。」
「ああ、こちらではそうしているのですか。」
「はい。材料を纏めて仕入れて、作っていますね。そのためガラス製品は割高になっています。」
「となると、こちらが。」

そうして、トモエがしげしげと眺めるのをよそに、オユキはオユキで興味がわいたため、質問をしていく。

「金属製だと、香りが移ると、そんなこともあると思いますが。」

錫は甘い香りなどと言われて、よく使われていたが、さて、銀となると話に聞いたことくらいしかない、オユキはそんな事を考えながら店員と話を進める。

「それも含めて楽しまれる方が多いですね。」
「成程。木よりは、他の物も残りにくいですし。」
「はい。」
「重さは。」
「どうぞ、手に取ってみてください。」

2種類の酒杯がそれぞれ2つのセットとして、後はマドラーなども入っているが、勧められたこともあり、手布越しに一つを持ち上げてみる。
こちらで慣れ親しんでいる、木で出来た物とも、前の世界で親しんだガラス製の物とも違う、落ち着く重さが感じられる。

「しっかりとした重量ですね。それに装飾がよい滑り止めにもなりますね。」
「ありがとうございます。こちらも時間を頂ければ、お好みの物を用意させて頂けますが。近々離れるとのことでしたので。」
「ええ、流石に数日では。参考までに、どの程度の期間を見させていただけば、そうですね、図案は、戦と武器の神、その聖印やモチーフとしたとき、どれほど掛かるものでしょうか。」
「少なくとも、半月ほどは。図案としては慣れた職人もいますので、間違いはないでしょうが。」
「金属を掘るわけですから、それくらいはかかりますか。」
「はい。申し訳ございませんが。」
「いえ、責める意図の物ではありませんから。」

そうしてオユキが話している間に、トモエも手に取り見分を行っていたようで、何やら頷いて見せる。

「やはり、こちらも良い物ですね。ただ、そうですね、磨くための布なども。」
「勿論ですとも。」
「では、そうですね、こちら直ぐにとなると、いくつ程ありますか。」

その言葉に、確かにトラノスケなども喜びそうだと、オユキも思いつく。
ミズキリは、それなりの期間いるようではあるし、持っていそうだが、彼とて酒は好きなのだから、こういった物はいくつかあっても困りはしないだろう。
ただ、気になる事が有って、オユキも口をはさむ。

「金属の匂いは、花精の方はどう受け取るものでしょうか。」

ミズキリに渡すとなれば、それはルーリエラと共に使うことになるのだろうが、さて、彼女はどうだろうか。

「ああ、ルーリエラさんは、確かに。」
「好まれない方も多いと聞いています。」
「多い、ですか。」
「はい、その、種族と括るには好みの差としか言えない物ですから。」
「まぁ、確かにそうですね。」
「どのみち、ミズキリが嫌う事はないでしょうから、良いかと。」
「それもそうですか。」

そうして、話して酒杯についても4組ほど買う事を決める。
ディナーセットについては、買って持っておくのもいいかと、そんな話もあったが、あれば使いたくなるだろうが、宿で二人だけというのも手間をかけるだろうからと、控えることとした。
やはり、作るために手がかかるものは相応に価格が高くなるようで、先ほどの短杖に比べて、細工の分金属量に比べて、値段が文字通り桁が違うものとなっていた。
鞄の内張りよりも、この後他の町に運ぶと、そう伝えて、持ち運びに問題が無いように頼んだうえで、店を出る。
大金であることは間違いがないのだろうが、こちらに来て得た金銭に比べてしまえば、何ほどの物でもない。
戻れば少しの間間違いなく泊まるだろうあの宿に、年単位で止まれる額だというのに、それも鉄人形の遺したトロフィーの一部で簡単に賄えてしまうのだから。

「良い買い物でしたか。」
「その、随分と楽しんでしまって。」
「いえ、問題ありませんとも。それにしても、やはり銀食器は美しい物でしたね。」
「はい。変色が困りものですが、好まれるだけはあります。」
「金属だと、匂いがと思ってしまいますが。」
「ええ、ただ慣れると癖になるといった話も聞きますし、抗菌作用もありますから。」
「おや、そうなのですか。」

オユキとしては、何となくそんな話を聞いた事が有るくらいだが。

「細かい原理までは流石に。ただ機能するものと立証はされていたはずです。」
「こちらも、お酒やチーズがあるという事は、発酵などのメカニズムはあるでしょうし、安心して使えそうですね。」
「ええ。」
「チーズで思い出しましたが、あちらも土産に喜ばれそうなので、買って帰りたいのですが。」
「そういえば、ギルドの周りでは、見ませんでしたね。」
「どうなのでしょうか、酪農をされているのは反対側ですが。」

そうしてまた二人で話しながら、ゆっくりと道を進む。
食料などがあるとすれば、それこそ嵩張るし、重量もあるため、駅舎の近くになりそうだが、区分としては、この買い物用の道を進んだ先にあったとしても不思議ではないが。

「それにしても、為替は楽ですね。」
「硬貨だと冗談のような量になりますから。」
「鋳造などは。」
「あってもいいとは思いますが、為替で問題ないのであれば、そちらが優先されるでしょうね。」
「それもそうですか。おや。」

そうして暫く歩いていると、トモエが何かを見つけ、オユキもそちらに視線を向けると、少々これまでの店舗とは趣の違う、少々言葉は悪いが、見栄えの良くない店がある。
ガラス窓から覗く店内は、あれこれと積まれている。
ぱっと見たところでは、金属製の箱のようなものが多く目につくが、それこそ箱を売ったところで、ここに足を運ぶようなものに需要はまずないだろう。
それこそ化粧箱でもなければ。

「なんでしょうか。」
「流石に、見当もつきませんね。どうしますか。」

オユキが視線を向ければ、トモエはそれには首を振って応える。

「流石に、それなりに時間も使っていますから。あまり何か想像もつかない店舗は、今回は避けておきましょうか。」

言われて、オユキも空を見上げれば、既に日は傾き始めている。
午前中とはいえ、それなりに出かけの準備に時間を使った事もあり、なかなかいい時間にはなっているようだ。
未知の真ん中を通る馬車も増え始めており、これからこの道は賑やかな時間を迎えるという事なのだろう。

「成程。思いのほか時間がたっていたようですね。」
「こういった場ですから、休憩ができるところもあるでしょう。先にそちらを探しましょうか。」
「ええ、そうですね。」

そうして、二人話して足をまた進める。
昼を抜くことも多い環境ではあるため、無ければ別に構わないと、そうとも思ってはいるが、何処かあるのなら、飲み物くらいはと、そうも考えているのだから。
道を歩きながら、周囲へ視線を配り、目当ての店を探すついでに、他の店舗もガラス窓越しに冷かして歩いていく。
それこそ下町であれば、匂いであたりもつけられそうではあるが、こちらはそのあたりも対策をしているのだろう。しばらく歩いたところで、ようやくそれらしい店舗を見つけて、声をかければ軽食を出しているとのことだったので、改めてその店に二人で入ることとした。
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