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5章 祭りと鉱山
少しの歓談
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「さて、とすれば、そうだな、半月ほどはかかるが。祭りが終われば、始まりの町へ戻るのか。」
服を数着仕立てる、ほぼすべてが人の手によるものとそう見えるこちらでは、かなり速い速度だろう。
流石は公爵家と、そう言うしかない。
「もともとあと三週ほどは、こちらに滞在する予定でした。」
「で、あれば問題は無いか。ならば良し。明日のそうだな、昼前には、我が家から遣いを出す。
そのものが採寸や好みなどを聞くだろう。」
「ご配慮誠にありがたく。」
そうして、オユキとトモエが頭を下げれば、少なくともお茶がカップから無くなる迄は、席から立つこともできない公爵が、さらに質問を投げかける。
「元の予定と、そういったが。確か御言葉の小箱を届けるためだけに来た訳ではないとそう聞いたが。」
「はい、こちらには、武器を求めて参りました。」
「成程、元はトロフィー、そうだったな。であれば確かに始まりの町からであれば、此処が最も良い選択か。」
「は。公爵様のご威光の賜物でしょう。既に一振り得られております。残りの完成をこうして待っている仕儀です。」
そうトモエが答えれば、公爵が興味深げに話しを続ける。
「成程。異邦の物そう聞いているが、武器はそれらの。」
「我らの知識が足りぬ故、形だけではありますが。」
「ほう。であるなら、我も見てみたくはあるが。」
「公爵様の願いとあれば、そうお答えしたくはありますが、何分本日はこのような場ですので、持参しておらず。」
トモエがそう答えれば、公爵としてもそれを理解して、直ぐに納める。
「いや、そうであったな。今のは失言であった、忘れよ。」
「明日来られる方に、お預けいたしましょうか。公爵様の目を喜ばせることができるかは、分からぬ品ではありますが。」
「我が領内で作られた物であるなら、全て我の喜びである。
其の方らが良ければ、預かろう。
魔物を狩る事を生業としているそなたら故、直ぐに返すとも。
そのような物から武器を取り上げては、それこそ父祖に申し訳が立たぬからな。」
「ご配慮、誠にありがたく。」
そうして話が武器、それに触れれば流れとして、先の一件にも及ぶ。
「それにしても、その方らの動きは見事であったと、我が騎士も褒めておったが、やはりそちらも。」
「お褒めに預かり恐縮です。拙い技ではありますが、異邦の地で修めた物です。」
「生憎、我はおよそ武と呼ばれるものからは離れて久しい、それ故それがどれほど卓越した物かはわからぬが、我が騎士が褒めるほどの物であるなら、成程それほどの物であろう。」
「有難く。まだまだ道半ばではありますが、こちらへとお招きいただいて、二月に足らぬ身。
今後も精進を重ねてまいります。」
トモエがそう答えれば、入口の扉を守っていた騎士が音を立てる。
見れば、驚いたように身を固めてトモエとオユキを見ている。
「ふむ。その方がそこまで驚くとは珍しい。よい、申せ。」
「は。その。恐れながら。正直に申し上げて、我が団の見習いであれば、我らの教導が足りぬ、そう言わざるを得ませんが、お二人には及ばないかと。」
「それほどか。」
改めて公爵が興味深げに、オユキとトモエを見る。
「公爵様の身を任される程の方に、そう評して頂けるのは誠にありがたいのですが、未だ加護薄く、腕力、脚力そう言った物では到底敵いません。」
「つまり技術では負けぬと、そういう事か。流石に戦と武の神より選ばれるだけはある、そういう事なのだろうな。」
そう言うと公爵は、深々と頷く。扉の前に立つ騎士も、姿勢を正し、それでも先ほどよりも強くトモエに意識を向けている。
当然、こちらの騎士、それも公爵の身を守る、そんな職責を持った人物なのだ、公爵を害そうとする、領都の中で。
そうであるなら、人に対する武を彼も、彼の所属する団も磨いている事だろう。
「困ったな、我はがぜん興味が湧いてしまったぞ。」
「それは構いませんが、当教会であまりそういった話は避けて頂きたく。」
その流れを、レーナが公爵を窘めて、そっと止める。
「これはこれは、我としたことが。うむ。神に貴賤はないと言えども、水と癒しの教会そこで切った張ったの話は確かに、場を乱すものだろう。許せ。」
「ええ、勿論ですとも。教会の外で、技を競う、そうであるなら私も止めはしませんとも。
それに必要とそう言われれば、奇跡の使い手、それに戦と武の神へ奉じる試合、その段取りも請け負いましょう。」
「成程。その手もあるか。平時であれば、良い余興と、我もそう言えるが、今は、な。」
そう公爵が重くため息をつけば、護衛の騎士も少し残念さをにじませる。
それに対してすぐに公爵が窘める。
「堪えよ。我らの武は、我が公爵領の誇る剣と盾は何のためにある。」
「は。領民の健やかな生活、無辜の民を守る、そのためです。私欲に逸りました。」
「うむ。少なくとも、今望むものではない。全く、度し難い。
それとレーナ。この度は急かしたな。改めて恙なく万事を取り計らったそなたに感謝を。」
「多くの方の助けがあっての事です。それはそちらに。」
「民にも感謝はしているとも。それは祭りに沿えた華で報いるとして、そうだな教会へも後程寄付を持たせる。」
「ありがとうございます。水と癒しの神の言葉にあった、水が癒しの力を持つ、その意味を改めて調べるために使わせていただきますとも。」
レーナがそう語れば、公爵も改めて考えこむしぐさを見せる。
「それよな。教会では何か新たに分かったのか。」
「恐らく今回が初めての事でしょう。過去からは何も。」
「つまり学問に頼るしかないと、そういう事か。」
そうして言葉を止める公爵に、トモエが不思議そうに声をかける。
「恐れながら。」
「よい、申せ。」
「はい。私どもは始まりの町で、いくつかの水薬を購入しました。」
そうしてトモエが宙を見るように考えるそぶりを見せると、公爵がそれに相槌を打つ。
「うむ。一般的な薬だな。採取者が集めた物を使い、薬師が作る。はやり病から軽い切り傷迄、実に多様なものがある。」
「はい。私共もいくつかを揃えております。その水薬です。液体であり、製法は申し訳ありません、浅学の身故存じ上げませんが、水を使わない、といったことはないかと、そう愚考いたしますが。」
「成程。」
そういって公爵が少し黙り、腕を組んで考えこむ。
オユキにしてみれば、そもそも他のゲームでは様々な形で見た目として液体の回復薬、時には水そのものが回復薬だったりしたのだ、それに何も疑問は感じなかったが、確かにそれは灯台の下そこに明かりがささない、そういった物になるのだろう。
特に、御言葉そのものは広く誰にでも届けられたわけではなく、一部の物の間でのみ共有されていたのだから。
「確かに、な。早晩薬学院から何か報告が上がるかもしれんが、気が付いたのなら、こちらから働きかけるのが良いか。」
「私達からも聖別した水を届けましょう。」
「うむ。助かる。成程、一部で情報を止めた弊害がこれか。
それ故早く動けた面もあるが、まったくままならぬことよ。」
そう、公爵が呟いたころには、カップの中に入っていたお茶もなくなる、そういうころ合いとなっていた。
「では、我はこれで失礼する。突然押しかけて、中座する非礼は許されよ。」
「ええ、そちらもまだまだこれから忙しいでしょうから。」
「全くではあるが、頭の痛い事だ。
改めて、トモエとオユキ、此度の事は大儀であった。
今後もその方らが、今のまま健やかであることを望む。」
「もったいないお言葉です。」
そうしてトモエとオユキが改めて席から立ち、跪いて礼を告げれば、公爵は人声をかけて退室していく。
「うむ。また何れかの時に合うこともあるであろう。
その時を楽しみにしておる。今は祭りの喧騒を楽しむとよい。」
服を数着仕立てる、ほぼすべてが人の手によるものとそう見えるこちらでは、かなり速い速度だろう。
流石は公爵家と、そう言うしかない。
「もともとあと三週ほどは、こちらに滞在する予定でした。」
「で、あれば問題は無いか。ならば良し。明日のそうだな、昼前には、我が家から遣いを出す。
そのものが採寸や好みなどを聞くだろう。」
「ご配慮誠にありがたく。」
そうして、オユキとトモエが頭を下げれば、少なくともお茶がカップから無くなる迄は、席から立つこともできない公爵が、さらに質問を投げかける。
「元の予定と、そういったが。確か御言葉の小箱を届けるためだけに来た訳ではないとそう聞いたが。」
「はい、こちらには、武器を求めて参りました。」
「成程、元はトロフィー、そうだったな。であれば確かに始まりの町からであれば、此処が最も良い選択か。」
「は。公爵様のご威光の賜物でしょう。既に一振り得られております。残りの完成をこうして待っている仕儀です。」
そうトモエが答えれば、公爵が興味深げに話しを続ける。
「成程。異邦の物そう聞いているが、武器はそれらの。」
「我らの知識が足りぬ故、形だけではありますが。」
「ほう。であるなら、我も見てみたくはあるが。」
「公爵様の願いとあれば、そうお答えしたくはありますが、何分本日はこのような場ですので、持参しておらず。」
トモエがそう答えれば、公爵としてもそれを理解して、直ぐに納める。
「いや、そうであったな。今のは失言であった、忘れよ。」
「明日来られる方に、お預けいたしましょうか。公爵様の目を喜ばせることができるかは、分からぬ品ではありますが。」
「我が領内で作られた物であるなら、全て我の喜びである。
其の方らが良ければ、預かろう。
魔物を狩る事を生業としているそなたら故、直ぐに返すとも。
そのような物から武器を取り上げては、それこそ父祖に申し訳が立たぬからな。」
「ご配慮、誠にありがたく。」
そうして話が武器、それに触れれば流れとして、先の一件にも及ぶ。
「それにしても、その方らの動きは見事であったと、我が騎士も褒めておったが、やはりそちらも。」
「お褒めに預かり恐縮です。拙い技ではありますが、異邦の地で修めた物です。」
「生憎、我はおよそ武と呼ばれるものからは離れて久しい、それ故それがどれほど卓越した物かはわからぬが、我が騎士が褒めるほどの物であるなら、成程それほどの物であろう。」
「有難く。まだまだ道半ばではありますが、こちらへとお招きいただいて、二月に足らぬ身。
今後も精進を重ねてまいります。」
トモエがそう答えれば、入口の扉を守っていた騎士が音を立てる。
見れば、驚いたように身を固めてトモエとオユキを見ている。
「ふむ。その方がそこまで驚くとは珍しい。よい、申せ。」
「は。その。恐れながら。正直に申し上げて、我が団の見習いであれば、我らの教導が足りぬ、そう言わざるを得ませんが、お二人には及ばないかと。」
「それほどか。」
改めて公爵が興味深げに、オユキとトモエを見る。
「公爵様の身を任される程の方に、そう評して頂けるのは誠にありがたいのですが、未だ加護薄く、腕力、脚力そう言った物では到底敵いません。」
「つまり技術では負けぬと、そういう事か。流石に戦と武の神より選ばれるだけはある、そういう事なのだろうな。」
そう言うと公爵は、深々と頷く。扉の前に立つ騎士も、姿勢を正し、それでも先ほどよりも強くトモエに意識を向けている。
当然、こちらの騎士、それも公爵の身を守る、そんな職責を持った人物なのだ、公爵を害そうとする、領都の中で。
そうであるなら、人に対する武を彼も、彼の所属する団も磨いている事だろう。
「困ったな、我はがぜん興味が湧いてしまったぞ。」
「それは構いませんが、当教会であまりそういった話は避けて頂きたく。」
その流れを、レーナが公爵を窘めて、そっと止める。
「これはこれは、我としたことが。うむ。神に貴賤はないと言えども、水と癒しの教会そこで切った張ったの話は確かに、場を乱すものだろう。許せ。」
「ええ、勿論ですとも。教会の外で、技を競う、そうであるなら私も止めはしませんとも。
それに必要とそう言われれば、奇跡の使い手、それに戦と武の神へ奉じる試合、その段取りも請け負いましょう。」
「成程。その手もあるか。平時であれば、良い余興と、我もそう言えるが、今は、な。」
そう公爵が重くため息をつけば、護衛の騎士も少し残念さをにじませる。
それに対してすぐに公爵が窘める。
「堪えよ。我らの武は、我が公爵領の誇る剣と盾は何のためにある。」
「は。領民の健やかな生活、無辜の民を守る、そのためです。私欲に逸りました。」
「うむ。少なくとも、今望むものではない。全く、度し難い。
それとレーナ。この度は急かしたな。改めて恙なく万事を取り計らったそなたに感謝を。」
「多くの方の助けがあっての事です。それはそちらに。」
「民にも感謝はしているとも。それは祭りに沿えた華で報いるとして、そうだな教会へも後程寄付を持たせる。」
「ありがとうございます。水と癒しの神の言葉にあった、水が癒しの力を持つ、その意味を改めて調べるために使わせていただきますとも。」
レーナがそう語れば、公爵も改めて考えこむしぐさを見せる。
「それよな。教会では何か新たに分かったのか。」
「恐らく今回が初めての事でしょう。過去からは何も。」
「つまり学問に頼るしかないと、そういう事か。」
そうして言葉を止める公爵に、トモエが不思議そうに声をかける。
「恐れながら。」
「よい、申せ。」
「はい。私どもは始まりの町で、いくつかの水薬を購入しました。」
そうしてトモエが宙を見るように考えるそぶりを見せると、公爵がそれに相槌を打つ。
「うむ。一般的な薬だな。採取者が集めた物を使い、薬師が作る。はやり病から軽い切り傷迄、実に多様なものがある。」
「はい。私共もいくつかを揃えております。その水薬です。液体であり、製法は申し訳ありません、浅学の身故存じ上げませんが、水を使わない、といったことはないかと、そう愚考いたしますが。」
「成程。」
そういって公爵が少し黙り、腕を組んで考えこむ。
オユキにしてみれば、そもそも他のゲームでは様々な形で見た目として液体の回復薬、時には水そのものが回復薬だったりしたのだ、それに何も疑問は感じなかったが、確かにそれは灯台の下そこに明かりがささない、そういった物になるのだろう。
特に、御言葉そのものは広く誰にでも届けられたわけではなく、一部の物の間でのみ共有されていたのだから。
「確かに、な。早晩薬学院から何か報告が上がるかもしれんが、気が付いたのなら、こちらから働きかけるのが良いか。」
「私達からも聖別した水を届けましょう。」
「うむ。助かる。成程、一部で情報を止めた弊害がこれか。
それ故早く動けた面もあるが、まったくままならぬことよ。」
そう、公爵が呟いたころには、カップの中に入っていたお茶もなくなる、そういうころ合いとなっていた。
「では、我はこれで失礼する。突然押しかけて、中座する非礼は許されよ。」
「ええ、そちらもまだまだこれから忙しいでしょうから。」
「全くではあるが、頭の痛い事だ。
改めて、トモエとオユキ、此度の事は大儀であった。
今後もその方らが、今のまま健やかであることを望む。」
「もったいないお言葉です。」
そうしてトモエとオユキが改めて席から立ち、跪いて礼を告げれば、公爵は人声をかけて退室していく。
「うむ。また何れかの時に合うこともあるであろう。
その時を楽しみにしておる。今は祭りの喧騒を楽しむとよい。」
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