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5章 祭りと鉱山
御言葉
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「すまんな。陽動に引っかかった。毒は、無いな。」
力任せ、そうとしか言いようのない暴力がその場を薙げば、武器を持って立っているものは、説教台を背に、
それを守る物しかいなくなる。
ルイスは落ちた短剣を拾って、その刃を確認すると、そうトモエに声をかける。
「助かりました。」
「そんな衣装と剣でよくやった。治療は。」
「私が。」
どれだけ集中しているのか、司祭と巫女による祈りと歌は未だ続く。
その中で、トモエたちの補助を行ってくれていた、巫女がトモエとオユキそれぞれの側に移動して祈りを捧げ始めると、青緑の光が傷口を包み、それがふさがる。
「ありがとうございます。」
「こちらこそ。守っていただき。」
「オユキさんは、ローブが割けていますが。」
「今はまだ下がるわけにはいきませんね、横合いですから、どうにか隠しましょう。」
礼拝者がようやくざわざわと動揺を見せ始めると、公爵らしき人物が立ち上がり、声を上げる。
「静粛に。祭事の最中、神の御言葉を待つ時間である。
場を乱した愚か者は、すでに制圧された。ならば我らはただ静かに、真摯に祈りを捧げて神の言葉を待つ者だ。
今は、静粛に。話も騒ぐのも後で存分にできる。しかし神の御言葉、それはこの一度のみである。」
その言葉に、僅かにざわめきを残しながらも、どうにか場が少し静まり始める。
そんな中、叩きのめした面々を、騎士と傭兵が手早く武器を取り上げ、縛り上げていく。
その顔に烙印があるものはいない。加護がはく奪されているわけでもないのか、技こそなくただの力押しであったからまだトモエでも捌けたが、なかなかに手ごわい相手ではあった。
他の場所にもいて、そちらの対処も行っていたのだろう、トモエが認識したよりも多くの人間が、説教台の前へと運ばれて生きては、傭兵や騎士によって対処されていく。
何も祭りの場、その真ん中でなくとも、そう思いはするが、公爵が何も言わず、騎士や傭兵が他から連れて来ているとなれば、何かそういう段取りがあるのだろう。
そう考え、怪我をした手を動かし、状態を確かめていると、祈りと詩が終わり、何かが割れる音が響き渡る。
「私の愛しい子供たち、どうか楽に聞いてください。
私から、日々私は祈りと感謝を届けてくれる、そんな愛しいあなた方へ、まずは謝罪を、謝りたいことがあるのです。」
トモエとオユキは、さてどうすればと悩む。司祭と巫女もそろって頭を下げているし、騎士達も、作業の手を止め、浮かび上がる水と癒しの神へと礼を取っているが、未だに敵が、意識がないとはいえ、そんな相手がぞんざいするため、即座に対応できない姿勢をとるのはどうしても気が引ける。
「一応あなた達も祭祀の参加者だから、そちらに習っておきなさい。護衛は私達で十分でしょう。」
そう、未だに抜いた剣を持つオユキとトモエにアイリスが声をかける。
見ればルイスや、他にも覚えのある顔が、そこかしこに立って、武器に手をかけ警戒を行っている。
「では、お任せしますね。」
そうオユキが答えて、事前に聞いた祈りの姿勢を取れば、トモエもオユキの隣に並んで同じ姿勢をとる。
その間も水と癒しの神の言葉は続いており、以前聞いた内容が話されていた。
身内、教会の自身の信者以外に向けて、そういう意識があるのか、以前ほど砕けた感じではないが。
「それと、悲しいことを、伝えなければいけません。」
そして、縛り転がされたものたち、それが見えているとでもいうかのように、水と癒しの女神の視線がそこを向く。
「私たちの加護、それを受け取る事を当たり前とし、祈りも、感謝も捧げず。
あろうことか、定められた原初の務めを行わない者たち、そのような者が増えてきています。」
そう告げると、霞む女神の影像が悲し気に顔を左右に振る。
「前者は構いません。祈りも感謝も、捧げたいものがそうすればいいのです。
しかし、務めを果たさず、果たすものを貪り、かすめ取り、害す、そして過去に与えた加護、その上に座り続ける、そうであるのなら話は別です。」
箱を開ける順番、それは確かに存在する様だ。
オユキとトモエが以前聞いたことが無い、そんな話が続けられる。
しかしそれに対して、縛られたものの中、意識を取り戻した一人が声を荒げる。
「黙れよ売女。我らの信仰が無ければ存在もできぬ寄生虫如きが良く吠えた。
我らの世界は我らの物だ。貴様ら如きが我が物顔で、何を上から語っておる。
我らは貴様の奴隷ではない、本来であれば宿主である我らこそが貴様らの寄生虫の主だぞ。
分際を弁えろ。」
そんな言葉に誰が何を言うこともなく、御言葉が続く。
「本来なら、法と裁きの神が行うのですが、今は私たちの都合もあってかの神も忙しい。
故に本来であれば、見守り、決定的な、人をその手で殺す、直接何かを奪う、そのようなことを行っていない物からは、その罪の測りが示した、その分だけ加護を薄めていた、それをここで一度止めることとしました。
我らの目の届く場所で、明確な罪、罪なき人を殺したもの、奪った物から、全ての加護を剥奪することとしました。」
その言葉に、悲鳴のような声が聞こえる。
礼拝堂の中からも、そして、外からも。
オユキとトモエにははっきりと分らぬが、それはかなり極端な捌きなのだろう。
「そして、私の愛する子供たち、あなた方は、生まれながらに必ず私達、いずれかの神々、複数の神からの加護があるのです。そして、今回、町の結界、その中にあらゆる加護を持たぬ者、そのもは足を踏み入れにくくなる。そんな効果を足すこととなりました。
先に話した、魔物の増加、大地や、他の恵みへの加護の薄れ、それに対するためにこれから、多くの努力をしなければならないでしょう。苦労もあるでしょう。
だから、結界の中、安息を得る拠り所、どうかその中だけは安全に、何にも恐れず休息を。」
「は、何を恩着せがましく。貴様らの加護などなくとも我らは、我らの生存権を築いて見せる。」
未だ、言葉を返すことおんない相手に、噛みついている者がいるが、オユキは今の言葉の意味を考える。
無論、熱心な信徒でもないため、それがなにを意味するかなどはピンとこないが、ゲームに置き換えて考えれば、ある程度の事は思いつく。
所謂レッドネーム、PK、BM言葉は色々だが、システム面から罰則を与えられる、そういう事なのだろう。
街に入りにくくなる、それは、烙印以上に誰の目にも犯罪者だと明らかになるのか、直接、それこそ結界の中では苦痛を覚える等の何かがあるのか。
そして、その結果は目の前の者たちで、この後示されるのだろう。
つまり、ここに彼らが並べられている理由が、それだと、そういう事だ。
「それと、この町には、とても悲しい、告げる私も、胸が裂かれる思いだけれど。
とても悲しい事を伝えなければいけません。」
その言葉に、息を呑む音が響く。
「この町の南区。そこの管理を行うものが、結界の維持、それを止めて久しいわ。
これまでは、教会の子たち、その祈りが水の流れによって巡り、その補助を行っていたの。
でもね、それは、あるべき形ではないわ。意味は、分かる者にしか分からないでしょう。
だから、それはその者が説明すると思うわ。ただ、私は既に決めているの。あるべきものはあるべき形に。
物事は正しい流れに。淀み留まることを良しとしない、水と癒しを司る、それが私の決定です。」
その言葉を最後に、目の前に縛られ、転がされていた者たちの体が、薄く赤い光に包まれる。
「これはまだこの世界で、今回の世界独立に関わっていない、他の仕事も少し苦手な、戦と武技の神、やんちゃな私たちの弟が、その力を使って行ってくれたこと。
すべての加護を持つに値しない、そう定められたものたちに、あの子が敵とそうわかる印をつけます。
顔を隠す仮面も、体を覆う服も、もはや意味を成しません。誰の目にも明らかに、明らかにあなた達は私たちの敵と、そうなってしまったのです。」
「は、望むところだ。寄生虫ごと気が。我らに勝てるとその傲慢を今に公開するがいい。」
その言葉に対して、未だに聞くに堪えぬ怨嗟を吐き続ける者もいるが、同時に、数人からは呻き声も上がっている。
そして、足元を流れる水路、天井から流れ落ちる水、その量が明らかに増える。
つまり、これまで南に回された、それらが止まった、そういう事なのだろう。
「きっとこれからも、今度こそはもう少し楽しい話を、言葉をあなた達に届けるわ。
だからそれまで、私の力が薄くなるけれど、どうか良き人たちで力を合わせ、この時を過ごしてくださいね。
世界が独立できたなら、その時は、私達ももう少し色々出来る様になるわ。どうかその日を心待ちに。」
力任せ、そうとしか言いようのない暴力がその場を薙げば、武器を持って立っているものは、説教台を背に、
それを守る物しかいなくなる。
ルイスは落ちた短剣を拾って、その刃を確認すると、そうトモエに声をかける。
「助かりました。」
「そんな衣装と剣でよくやった。治療は。」
「私が。」
どれだけ集中しているのか、司祭と巫女による祈りと歌は未だ続く。
その中で、トモエたちの補助を行ってくれていた、巫女がトモエとオユキそれぞれの側に移動して祈りを捧げ始めると、青緑の光が傷口を包み、それがふさがる。
「ありがとうございます。」
「こちらこそ。守っていただき。」
「オユキさんは、ローブが割けていますが。」
「今はまだ下がるわけにはいきませんね、横合いですから、どうにか隠しましょう。」
礼拝者がようやくざわざわと動揺を見せ始めると、公爵らしき人物が立ち上がり、声を上げる。
「静粛に。祭事の最中、神の御言葉を待つ時間である。
場を乱した愚か者は、すでに制圧された。ならば我らはただ静かに、真摯に祈りを捧げて神の言葉を待つ者だ。
今は、静粛に。話も騒ぐのも後で存分にできる。しかし神の御言葉、それはこの一度のみである。」
その言葉に、僅かにざわめきを残しながらも、どうにか場が少し静まり始める。
そんな中、叩きのめした面々を、騎士と傭兵が手早く武器を取り上げ、縛り上げていく。
その顔に烙印があるものはいない。加護がはく奪されているわけでもないのか、技こそなくただの力押しであったからまだトモエでも捌けたが、なかなかに手ごわい相手ではあった。
他の場所にもいて、そちらの対処も行っていたのだろう、トモエが認識したよりも多くの人間が、説教台の前へと運ばれて生きては、傭兵や騎士によって対処されていく。
何も祭りの場、その真ん中でなくとも、そう思いはするが、公爵が何も言わず、騎士や傭兵が他から連れて来ているとなれば、何かそういう段取りがあるのだろう。
そう考え、怪我をした手を動かし、状態を確かめていると、祈りと詩が終わり、何かが割れる音が響き渡る。
「私の愛しい子供たち、どうか楽に聞いてください。
私から、日々私は祈りと感謝を届けてくれる、そんな愛しいあなた方へ、まずは謝罪を、謝りたいことがあるのです。」
トモエとオユキは、さてどうすればと悩む。司祭と巫女もそろって頭を下げているし、騎士達も、作業の手を止め、浮かび上がる水と癒しの神へと礼を取っているが、未だに敵が、意識がないとはいえ、そんな相手がぞんざいするため、即座に対応できない姿勢をとるのはどうしても気が引ける。
「一応あなた達も祭祀の参加者だから、そちらに習っておきなさい。護衛は私達で十分でしょう。」
そう、未だに抜いた剣を持つオユキとトモエにアイリスが声をかける。
見ればルイスや、他にも覚えのある顔が、そこかしこに立って、武器に手をかけ警戒を行っている。
「では、お任せしますね。」
そうオユキが答えて、事前に聞いた祈りの姿勢を取れば、トモエもオユキの隣に並んで同じ姿勢をとる。
その間も水と癒しの神の言葉は続いており、以前聞いた内容が話されていた。
身内、教会の自身の信者以外に向けて、そういう意識があるのか、以前ほど砕けた感じではないが。
「それと、悲しいことを、伝えなければいけません。」
そして、縛り転がされたものたち、それが見えているとでもいうかのように、水と癒しの女神の視線がそこを向く。
「私たちの加護、それを受け取る事を当たり前とし、祈りも、感謝も捧げず。
あろうことか、定められた原初の務めを行わない者たち、そのような者が増えてきています。」
そう告げると、霞む女神の影像が悲し気に顔を左右に振る。
「前者は構いません。祈りも感謝も、捧げたいものがそうすればいいのです。
しかし、務めを果たさず、果たすものを貪り、かすめ取り、害す、そして過去に与えた加護、その上に座り続ける、そうであるのなら話は別です。」
箱を開ける順番、それは確かに存在する様だ。
オユキとトモエが以前聞いたことが無い、そんな話が続けられる。
しかしそれに対して、縛られたものの中、意識を取り戻した一人が声を荒げる。
「黙れよ売女。我らの信仰が無ければ存在もできぬ寄生虫如きが良く吠えた。
我らの世界は我らの物だ。貴様ら如きが我が物顔で、何を上から語っておる。
我らは貴様の奴隷ではない、本来であれば宿主である我らこそが貴様らの寄生虫の主だぞ。
分際を弁えろ。」
そんな言葉に誰が何を言うこともなく、御言葉が続く。
「本来なら、法と裁きの神が行うのですが、今は私たちの都合もあってかの神も忙しい。
故に本来であれば、見守り、決定的な、人をその手で殺す、直接何かを奪う、そのようなことを行っていない物からは、その罪の測りが示した、その分だけ加護を薄めていた、それをここで一度止めることとしました。
我らの目の届く場所で、明確な罪、罪なき人を殺したもの、奪った物から、全ての加護を剥奪することとしました。」
その言葉に、悲鳴のような声が聞こえる。
礼拝堂の中からも、そして、外からも。
オユキとトモエにははっきりと分らぬが、それはかなり極端な捌きなのだろう。
「そして、私の愛する子供たち、あなた方は、生まれながらに必ず私達、いずれかの神々、複数の神からの加護があるのです。そして、今回、町の結界、その中にあらゆる加護を持たぬ者、そのもは足を踏み入れにくくなる。そんな効果を足すこととなりました。
先に話した、魔物の増加、大地や、他の恵みへの加護の薄れ、それに対するためにこれから、多くの努力をしなければならないでしょう。苦労もあるでしょう。
だから、結界の中、安息を得る拠り所、どうかその中だけは安全に、何にも恐れず休息を。」
「は、何を恩着せがましく。貴様らの加護などなくとも我らは、我らの生存権を築いて見せる。」
未だ、言葉を返すことおんない相手に、噛みついている者がいるが、オユキは今の言葉の意味を考える。
無論、熱心な信徒でもないため、それがなにを意味するかなどはピンとこないが、ゲームに置き換えて考えれば、ある程度の事は思いつく。
所謂レッドネーム、PK、BM言葉は色々だが、システム面から罰則を与えられる、そういう事なのだろう。
街に入りにくくなる、それは、烙印以上に誰の目にも犯罪者だと明らかになるのか、直接、それこそ結界の中では苦痛を覚える等の何かがあるのか。
そして、その結果は目の前の者たちで、この後示されるのだろう。
つまり、ここに彼らが並べられている理由が、それだと、そういう事だ。
「それと、この町には、とても悲しい、告げる私も、胸が裂かれる思いだけれど。
とても悲しい事を伝えなければいけません。」
その言葉に、息を呑む音が響く。
「この町の南区。そこの管理を行うものが、結界の維持、それを止めて久しいわ。
これまでは、教会の子たち、その祈りが水の流れによって巡り、その補助を行っていたの。
でもね、それは、あるべき形ではないわ。意味は、分かる者にしか分からないでしょう。
だから、それはその者が説明すると思うわ。ただ、私は既に決めているの。あるべきものはあるべき形に。
物事は正しい流れに。淀み留まることを良しとしない、水と癒しを司る、それが私の決定です。」
その言葉を最後に、目の前に縛られ、転がされていた者たちの体が、薄く赤い光に包まれる。
「これはまだこの世界で、今回の世界独立に関わっていない、他の仕事も少し苦手な、戦と武技の神、やんちゃな私たちの弟が、その力を使って行ってくれたこと。
すべての加護を持つに値しない、そう定められたものたちに、あの子が敵とそうわかる印をつけます。
顔を隠す仮面も、体を覆う服も、もはや意味を成しません。誰の目にも明らかに、明らかにあなた達は私たちの敵と、そうなってしまったのです。」
「は、望むところだ。寄生虫ごと気が。我らに勝てるとその傲慢を今に公開するがいい。」
その言葉に対して、未だに聞くに堪えぬ怨嗟を吐き続ける者もいるが、同時に、数人からは呻き声も上がっている。
そして、足元を流れる水路、天井から流れ落ちる水、その量が明らかに増える。
つまり、これまで南に回された、それらが止まった、そういう事なのだろう。
「きっとこれからも、今度こそはもう少し楽しい話を、言葉をあなた達に届けるわ。
だからそれまで、私の力が薄くなるけれど、どうか良き人たちで力を合わせ、この時を過ごしてくださいね。
世界が独立できたなら、その時は、私達ももう少し色々出来る様になるわ。どうかその日を心待ちに。」
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