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四章 領都
教会にて
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「あれ、今日は指輪しないんだ。」
馬車に乗り込み、教会に向かっている最中、アナにそう尋ねられる。
「ええ。騒動があるとは思いませんが、功績ですから。
分かり易いようにしておくのが良いかと思いまして。
そのあたり、アナさんは何かご存知ですか。」
トモエがアナにそう尋ね返すと、彼女は少し考えるようにしながら話始める。
「えっと、最後は人によるみたいだけど、お祭りのときとかは、なるべく見えるようにしておくほうが良いって。
神様への感謝を捧げるから、神様に認められてる物も日の下にとか。
それ以外の時は、持ち歩くのに不便だったりすると、飾ったり、トモエさんとオユキちゃんみたいに首から下げたりが多いかな。
なるべく身に着けていたほうが、せっかく神様に貰ったものだから。」
「成程、そういう扱いですか。」
「神職の場合は、必ず身に着けるみたい。
自分が一番に置いてる神様の物じゃなくても、必ず身に着けるって聞いたかな。
でも、私達もそんなに詳しいわけじゃないし、お祭りの決まりはいろいろ違うみたいだから、司祭様か、助祭様に聞いたほうが良いと思う。」
「そうですね、そうしましょう。ただ、今朝もそうでしたが、やはり人目を引くようなので、普段は服に隠すほうがよさそうですね。」
トモエがそう言えば、アナが少し不満げにしながらも頷く。
「神様に何か認められた人だもの。でも、目立つのが嫌な人はそうする見たい。」
そうして、話しているうちに馬車が教会にたどり着いたのだろう。
外から戸をノックされ、一団で揃って馬車から降りると、既にリザが教会の門の前に立ち、出迎えの体勢を取っている。
「昨日は不在でご迷惑をおかけしました。」
「いえ、こちらこそ。手紙で呼び出し、申し訳ありません。
それにしても、創造神様からとは。これからもどうぞ仲良く。」
「分かるものなのですね。」
「それ故の神職です。さて、早速ではありますが、どうぞこちらへ。」
馬車の操縦を行ってくれたベルホップに、待たせることを詫びれば、仕事ですからとこれまた軽く返され、彼と馬車は、それを待つ場所があるのだろう。別の人物に案内され、教会から少し離れた場所へと移動していく。
馬車というと、少々ゆっくりとした印象があるが、そこらの乗用車よりも早く移動していく。
「その、祭り、祭事迄あまり期間が無いようですが。」
「申し訳ありません、お言葉の内容が内容でしたから。急いだほうが良いと公爵様も判断されたようです。
それで、本日ですが、まずお二人には衣装合わせを。そして、教会の子たちは、手伝っていただけると、それでよいのでしょうか。」
「はい、助祭様。」
「ありがとうございます。ただ、魔物の狩猟、これも神から頂いた我らの大切な役目です、こちろ疎かにはできませんから、午前中、今日と同じ時間から、昼まで、お手伝いいただいてもいいですか。」
少年たちがそれに揃って頷けば、早速とばかりにリザが走らないようにはしているが、忙しなく動く一人の女性に子供たちを預ける。その女性は手伝い志願の別の町の教会の子ですと、紹介し、先ほど彼女が述べた時間を告げると、それでも嬉しいのだろう、喜色を顔に浮かべて、早速と子供たちを連れて行く。
「1週間と、その忙しさですか。」
「ええ。町を挙げての物になりますから、そろそろ町中も騒がしさを増すでしょうね。」
「祭りの告示はもう。」
「いえ、無い内には行われていますが、町には今日の夕方と、その予定です。
それでも、知っているものも増えていますから。」
「まぁ、各部門の上層部は、大騒ぎでしょうねぇ。」
「ええ、それはもう。当教会も例外ではなく。さて、こちらです。
お連れいたしました。入りますよ。」
リザが返事を待たずに部屋を空ければ、中は布があたりに山のように積まれており、その中で一心不乱に針を動かすものたちがいた。
「助祭様、無理ですよ、私達だけじゃ。」
「告示が終われば、町の御針子たちにも声をかけますから。今はとにかくできるだけ。
それとこちらが、今回の届け人のお二人です。」
「分かりました、それでは、こっちで早速採寸を。一応簡単に聞いて、仮縫いはしていますが。
あら、創造神様。戦と武技の神だけではなかったのですね。
では、刺繍を変えないと。」
「ええと、お手数かけます。その平時はどうしても過剰に人目を引くので。それと服から出していると、どうしても動きの妨げになりますから。」
「狩猟者の方ですからね、神々も我々の妨げを望んでの事ではありませんから。
当日は、その様に見えるようにしていただいても。」
「ああ、やはりそういう物なのですね。」
「流石に祭事で神の威光を隠すものではありませんから。」
そうして、二人して、一先ず布をその形に合わせただけ、そういった衣装を着せられたり、採寸をされたりとされる。
「オユキ様は、髪はどうしますか。」
「何か作法があれば、その様に。」
「こちらのローブだけを身に着けるのが慣例ではありますが、狩猟者の方ですし、垂髪では、邪魔になりますか。」
「祭事の中の動作によっては、踏みそうですね。」
「後程詳しくご説明させていただきますが、それなりにお願いしたいこともありますので。括りましょうか。
結い上げではなく、束ねるだけとなりますが。」
「それでも、何もしないよりは楽ですから。」
「あとは戦と武技の神より預かっていますので、当日は武器を持っていただきますが、こちらは公爵様より貸し出されます。」
「儀礼用の物ですか。事前に持って練習する時間は。」
「勿論ですとも。」
そうして、採寸が終われば、道中も当日の流れについて説明を聞きながら、また移動をする。
そして、一つの部屋の前に着くと、リザが声をかける。
「司祭様、お連れしました。」
「どうぞ、入ってください。」
招かれた先は、レーナの執務室であるらしい。昨日の今日で、なかなかの紙束を横に置き、今も手を一時的に止めてはいるが、書類仕事の最中であったらしい。
「申し訳ありません。本来であれば、こちらからお迎えをしなければ。」
「いえ、今の忙しさは想像がつきますから。動けるものを使う、それが良いことでしょう。
祭りを恙なく行う、それが第一ですから。」
「ご理解いただきありがとうございます。リザ、説明は。」
「はい。一連の流れは、既に。」
「その、お願いすることが多いけれど。」
「聞いた範囲であれば、問題ありません。最低限と理解できるものですから。
ただ、動きに関しては、当日までに一連として練習の機会を頂けると。」
「ええ、勿論ですとも。それにしても、創造神様の功績もお持ちですか。
あのお方が、そういった功績をお渡しになるのは珍しいのですが。」
レーナが二人の胸元に下げられる功績を見て、そう呟く。
「確か、華と恋の神でしたか、領分とされる方がいますからね。」
「ええ、他にも授けて下さる神はおられますが、創造神様は珍しいですね。
それにしても、これであなた方に無体を働こうとした者たちの身に起きた事に納得がいったわ。」
「その、何かあったのですか。既に何か対応が行われたというのは聞いているのですが。」
「加護がほとんどなくなっていたわ。」
レーナがあっさりといった言葉は、この世界ではかなり重いものだろう。
「それは、その。」
トモエが思わず口ごもる。
「時系列としては難しくありますが、戦と武技の神が、水と癒しの神その大切な御言葉を託された方ですもの。
少なくとも結果は同じでしょうが、今回は公爵様が手勢を送り込んだ時には、既に加護が薄れていたようよ。
本来であれば、教会での審問を経て、というのが多いのだけれど。」
「結果として、今回の件で私達の為に骨を折ってくださった方が、無事に仕事を終えられたのなら何よりです。」
そうオユキが答えて、肩を竦める。
そもそもただ単純に、私欲を満たそうと、そうであったのなら、そこまで苛烈な事にはならなかっただろう。
利益を求める事、それを神が禁止しているわけではないのだから。
そうであれば、食事の味を始め、より良いサービスなど存在しえないのだから。
つまり、アマリーアも口にしなかった、それ以上の心づもりがあったのだろう。
「今後ここを離れてはともかく、今回の件で町にいる間は、煩わされないで済むといいのですが。」
「ええ。神の従順な僕として、どうかそうなるよう私も手を尽くしましょう。」
そうして笑うレーナの顔は、トモエにしても圧を受ける物であった。
馬車に乗り込み、教会に向かっている最中、アナにそう尋ねられる。
「ええ。騒動があるとは思いませんが、功績ですから。
分かり易いようにしておくのが良いかと思いまして。
そのあたり、アナさんは何かご存知ですか。」
トモエがアナにそう尋ね返すと、彼女は少し考えるようにしながら話始める。
「えっと、最後は人によるみたいだけど、お祭りのときとかは、なるべく見えるようにしておくほうが良いって。
神様への感謝を捧げるから、神様に認められてる物も日の下にとか。
それ以外の時は、持ち歩くのに不便だったりすると、飾ったり、トモエさんとオユキちゃんみたいに首から下げたりが多いかな。
なるべく身に着けていたほうが、せっかく神様に貰ったものだから。」
「成程、そういう扱いですか。」
「神職の場合は、必ず身に着けるみたい。
自分が一番に置いてる神様の物じゃなくても、必ず身に着けるって聞いたかな。
でも、私達もそんなに詳しいわけじゃないし、お祭りの決まりはいろいろ違うみたいだから、司祭様か、助祭様に聞いたほうが良いと思う。」
「そうですね、そうしましょう。ただ、今朝もそうでしたが、やはり人目を引くようなので、普段は服に隠すほうがよさそうですね。」
トモエがそう言えば、アナが少し不満げにしながらも頷く。
「神様に何か認められた人だもの。でも、目立つのが嫌な人はそうする見たい。」
そうして、話しているうちに馬車が教会にたどり着いたのだろう。
外から戸をノックされ、一団で揃って馬車から降りると、既にリザが教会の門の前に立ち、出迎えの体勢を取っている。
「昨日は不在でご迷惑をおかけしました。」
「いえ、こちらこそ。手紙で呼び出し、申し訳ありません。
それにしても、創造神様からとは。これからもどうぞ仲良く。」
「分かるものなのですね。」
「それ故の神職です。さて、早速ではありますが、どうぞこちらへ。」
馬車の操縦を行ってくれたベルホップに、待たせることを詫びれば、仕事ですからとこれまた軽く返され、彼と馬車は、それを待つ場所があるのだろう。別の人物に案内され、教会から少し離れた場所へと移動していく。
馬車というと、少々ゆっくりとした印象があるが、そこらの乗用車よりも早く移動していく。
「その、祭り、祭事迄あまり期間が無いようですが。」
「申し訳ありません、お言葉の内容が内容でしたから。急いだほうが良いと公爵様も判断されたようです。
それで、本日ですが、まずお二人には衣装合わせを。そして、教会の子たちは、手伝っていただけると、それでよいのでしょうか。」
「はい、助祭様。」
「ありがとうございます。ただ、魔物の狩猟、これも神から頂いた我らの大切な役目です、こちろ疎かにはできませんから、午前中、今日と同じ時間から、昼まで、お手伝いいただいてもいいですか。」
少年たちがそれに揃って頷けば、早速とばかりにリザが走らないようにはしているが、忙しなく動く一人の女性に子供たちを預ける。その女性は手伝い志願の別の町の教会の子ですと、紹介し、先ほど彼女が述べた時間を告げると、それでも嬉しいのだろう、喜色を顔に浮かべて、早速と子供たちを連れて行く。
「1週間と、その忙しさですか。」
「ええ。町を挙げての物になりますから、そろそろ町中も騒がしさを増すでしょうね。」
「祭りの告示はもう。」
「いえ、無い内には行われていますが、町には今日の夕方と、その予定です。
それでも、知っているものも増えていますから。」
「まぁ、各部門の上層部は、大騒ぎでしょうねぇ。」
「ええ、それはもう。当教会も例外ではなく。さて、こちらです。
お連れいたしました。入りますよ。」
リザが返事を待たずに部屋を空ければ、中は布があたりに山のように積まれており、その中で一心不乱に針を動かすものたちがいた。
「助祭様、無理ですよ、私達だけじゃ。」
「告示が終われば、町の御針子たちにも声をかけますから。今はとにかくできるだけ。
それとこちらが、今回の届け人のお二人です。」
「分かりました、それでは、こっちで早速採寸を。一応簡単に聞いて、仮縫いはしていますが。
あら、創造神様。戦と武技の神だけではなかったのですね。
では、刺繍を変えないと。」
「ええと、お手数かけます。その平時はどうしても過剰に人目を引くので。それと服から出していると、どうしても動きの妨げになりますから。」
「狩猟者の方ですからね、神々も我々の妨げを望んでの事ではありませんから。
当日は、その様に見えるようにしていただいても。」
「ああ、やはりそういう物なのですね。」
「流石に祭事で神の威光を隠すものではありませんから。」
そうして、二人して、一先ず布をその形に合わせただけ、そういった衣装を着せられたり、採寸をされたりとされる。
「オユキ様は、髪はどうしますか。」
「何か作法があれば、その様に。」
「こちらのローブだけを身に着けるのが慣例ではありますが、狩猟者の方ですし、垂髪では、邪魔になりますか。」
「祭事の中の動作によっては、踏みそうですね。」
「後程詳しくご説明させていただきますが、それなりにお願いしたいこともありますので。括りましょうか。
結い上げではなく、束ねるだけとなりますが。」
「それでも、何もしないよりは楽ですから。」
「あとは戦と武技の神より預かっていますので、当日は武器を持っていただきますが、こちらは公爵様より貸し出されます。」
「儀礼用の物ですか。事前に持って練習する時間は。」
「勿論ですとも。」
そうして、採寸が終われば、道中も当日の流れについて説明を聞きながら、また移動をする。
そして、一つの部屋の前に着くと、リザが声をかける。
「司祭様、お連れしました。」
「どうぞ、入ってください。」
招かれた先は、レーナの執務室であるらしい。昨日の今日で、なかなかの紙束を横に置き、今も手を一時的に止めてはいるが、書類仕事の最中であったらしい。
「申し訳ありません。本来であれば、こちらからお迎えをしなければ。」
「いえ、今の忙しさは想像がつきますから。動けるものを使う、それが良いことでしょう。
祭りを恙なく行う、それが第一ですから。」
「ご理解いただきありがとうございます。リザ、説明は。」
「はい。一連の流れは、既に。」
「その、お願いすることが多いけれど。」
「聞いた範囲であれば、問題ありません。最低限と理解できるものですから。
ただ、動きに関しては、当日までに一連として練習の機会を頂けると。」
「ええ、勿論ですとも。それにしても、創造神様の功績もお持ちですか。
あのお方が、そういった功績をお渡しになるのは珍しいのですが。」
レーナが二人の胸元に下げられる功績を見て、そう呟く。
「確か、華と恋の神でしたか、領分とされる方がいますからね。」
「ええ、他にも授けて下さる神はおられますが、創造神様は珍しいですね。
それにしても、これであなた方に無体を働こうとした者たちの身に起きた事に納得がいったわ。」
「その、何かあったのですか。既に何か対応が行われたというのは聞いているのですが。」
「加護がほとんどなくなっていたわ。」
レーナがあっさりといった言葉は、この世界ではかなり重いものだろう。
「それは、その。」
トモエが思わず口ごもる。
「時系列としては難しくありますが、戦と武技の神が、水と癒しの神その大切な御言葉を託された方ですもの。
少なくとも結果は同じでしょうが、今回は公爵様が手勢を送り込んだ時には、既に加護が薄れていたようよ。
本来であれば、教会での審問を経て、というのが多いのだけれど。」
「結果として、今回の件で私達の為に骨を折ってくださった方が、無事に仕事を終えられたのなら何よりです。」
そうオユキが答えて、肩を竦める。
そもそもただ単純に、私欲を満たそうと、そうであったのなら、そこまで苛烈な事にはならなかっただろう。
利益を求める事、それを神が禁止しているわけではないのだから。
そうであれば、食事の味を始め、より良いサービスなど存在しえないのだから。
つまり、アマリーアも口にしなかった、それ以上の心づもりがあったのだろう。
「今後ここを離れてはともかく、今回の件で町にいる間は、煩わされないで済むといいのですが。」
「ええ。神の従順な僕として、どうかそうなるよう私も手を尽くしましょう。」
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