憧れの世界でもう一度

五味

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四章 領都

教会からの手紙

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「おう、どうだった。」

三時間、というには少し早いが、慣れない武器でもあるためか、少年たちがすっかり疲れてしまったため、
訓練はそこで終わりとして、傭兵ギルドの受付へと戻ってきた。

「練習用の武器は、癖が強いので、今後は使わないかと。」
「癖が強いか。」
「始まりの町では、全て木でできていましたから。」
「ああ。それならうちのはだいぶ癖が強く感じるだろうな。だが、大きい町だとこっちが標準だ。」
「向こうは、鉄が側で取れませんからね。それに今は新調した武器への慣らしが先です。」
「おー、それでそんな疲れてんのか。いいか坊主ども、これで分かったら、新しく買った武器引っ提げて、いきなりのこのこと魔物を狩りに行くなよ。」

言われた言葉にシグルドを始め、少年たちも思い思いに頷く。

「大して変わってないはずなんだけどな、こんな疲れるとは思わなかった。」
「ま、経験つみゃ、カバーできるんだがな。坊主たちじゃまだ先だ。
 こうやって、おとなしく一日振るだけで、だいぶ変わる。」
「ああ、最後の方は、ちょっといい感じになって来たしな。」
「よしよし、その調子で今後も油断なくいけよ。」
「分かってるよ。あんがとな。また、場所借りに来るからよろしく。」
「訓練熱心なのはいい事だ。いつでも来な。ああ、相手が要るときは、流石に事前に教えてくれ。」
「そういえば、こちらで弓の訓練は受けられますか。」
「ああ、やってるぞ。教官役がいるなら、一応二日前には教えてくれ。そうでないと、居なきゃ断ることになるからな。」


そんな話をして、傭兵ギルドの外に出れば、ホテルで見た顔、部屋付きの執事が、馬車の隣に立って、既に待っているところであった。

「すみません。お待たせしてしまいましたか。」
「いいえ。それとトモエ様、オユキ様に教会からの書状をお預かりしております。
 お部屋に戻られてから、お持ちさせていただきます。」
「早かったですね。分かりました。」
「それと今夜は皆さまだけの食事と伺っておりますので、パエジャをお出しさせていただきます。
 どうぞ楽しみにしていてください。」
「まぁ、それは嬉しいですね。」

そうして、一団で馬車に乗り込み、少年たちがパエジャってなんだ、そう興味深げに聞くのを、食事の時まで楽しみにしていましょうね、そう躱して、教会からの連絡が早かったことや、訓練中に気になったことなどを話す。
その中で、アナがオユキとトモエに、不思議そうに確認する。

「そういえば、二人とも今日はゆっくりした動きだけど。
 いつも外に出るとき以外も、そんな感じでゆっくり動くけど、でもいつもみたいに無理してって感じじゃなかったよ。」
「おや、気が付きましたか。これですね。」

そういって、トモエが指輪のはまった手を見せる。

「もしかしてこれって、昨日の。」
「ええ、戦と武技の神より頂いた物です。
 技を高めるため、この指輪を付けている、その間は功績に対する加護、それによる身体能力の強化、それをなくして頂いてます。」
「え、それで、俺らと同じだけ武器振ったのか。」

トモエがどのようなものか説明すると、シグルドが目を見開いてトモエとオユキを見る。

「はい。それくらいできて当然ですから。」
「えっと、オユキちゃん手を見せてもらっても。」
「勿論、私もつけてますよ。」
「うわー。」
「あんちゃん、持ってる剣貸してくれ。」
「はい、どうぞ。」
「俺のと、同じ重さだ。」

そうして、オユキは手を取ってペタペタと触るアンに、片手剣を渡す。

「私のナイフより重いし。」
「このあたりが、経験の差、としか言えませんね。
 ただ、普通ならまめができたり、皮がむけたりはしそうなものですが、それがない程度には前より上部にはなっているみたいですね。」

オユキがしれっと言ってのければ、アナが恐ろしいものを見たといわんばかりの視線でオユキを見る。
そしてゆっくりとトモエを振り返る。

「そうですね、一日かけて素振り千回、よくやりましたねぇ。」
「ええ。怪我するうちは未熟な証拠と、良く叱られたものです。」
「打ち合いよりは、だいぶ楽ですからね。」
「そうですね、うっかり骨にひびが入ったこともありますし。懐かしいですね。」

二人朗らかに笑った話す馬車の中、ただ少年たちの空気が重く沈んでいく。
そんな対照的に分かれた空気を持ったまま、馬車が目的地にたどり着き皆で部屋へと戻る。
そうして、一先ず荷物を置いたところで、執事が再び部屋を訪れ、手紙をトモエに渡す。

「食事は、いかがいたしましょうか。」
「そうですね、二時間ほど、時間をおいていただけますか。」
「畏まりました、それでは、その間はどうぞごゆっくり。」

そうして部屋から下がった執事をよそに、少年たちがわたわたと入浴の準備をするのをしり目に、トモエとオユキは手紙に目を通す。
挨拶や、先日御言葉の小箱を遂げたことに対するお礼等が丁寧に書かれ、そのあとには、祭りの予定は1週間後、に決まったと書かれている。
かなり速いと、不審に思うところもあるが、それだけこちらの人にとっては見過ごせない、早く共有すべき事柄なのだろう。領都以外の場所ではどうなのだろうと、気になるところはあるが、何にせよ、明日一度教会へ顔を出してほしいと書かれている。

「どうしましょうか。」
「今後の流れと、衣装があるなら、その合わせでしょうから、あまり時間は取られないでしょう。
 先に教会か、狩猟者ギルドか、ですが。町中の移動に馬車を頼みますから、さきに教会のほうが効率が良いでしょうね。」
「ん、教会からの手紙に、そんな直ぐにって書いてあったのか。」
「食事の時に改めて説明しますが、明日、一度顔を出してほしいとのことです。」
「そっか。大事なお務めだからな。俺らはどうすっかな。」
「皆さんも、手伝うのでしょう。なら、一緒に行って、同じ話になるかは分かりませんが、話を聞けば手間もないでしょう。」
「そうだな、そうするか。」

そうして、話をしながらも手紙を読み進めれば、既に公爵様へは、御言葉が得られたことを伝え、数日後、今はお互い慌ただしいため、少し間を空けて、先に行政を担う物で確認し、その後広く民衆へと、そういった流れになっていると書かれている。

「教会も少し大変そうですから、手伝いは喜ばれそうですよ。」
「おー、そっか。それならいいんだ。」

そうして、手紙を畳んで便箋に戻し、後は武器の手入れをしたり入浴を済ませ、服を洗ったりと、そういった細々としたことを片付けていれば、食事の時間となる。
ウエイターと、シェフだろう人物が、運んできた大きなパエリア鍋が二つ、それからスパニッシュオムレツ、サラダ、チーズなどが並べられる。

「お待たせいたしました。こちら二種のパエジャ、当ホテル伝統の物と、私の得意なもの。それとトルティージャ、サラダ、チーズも、こちらに合わせて、この領都で作られている物でご用意いたしました。」
「まぁ、お心遣いありがとうございます。」

そうして蓋の取られたパエリア鍋に少年たちが歓声を上げる。
見た目にも華やかな、野菜を主体としたものだろう、色鮮やかな野菜、薄く色のついた米、その対比がとても美しく、一方で、見た目は少々地味ではあるが、ベーコンとソーセージがたっぷりと使われるパエリアも、漂う香りは食欲をそそるものである。
そうして、嬉しそうにする少年を見て、シェフが嬉しそうに笑う。

「では、ごゆっくり。食後にはドルチェもご用意しておりますので。」

そういって、ウエイターとシェフが去っていく。
コースではないため、こちらのペースでゆっくりとという事だろう。
呼び出すには部屋に備え付けの魔道具もあるため、不都合はない。
トモエとアナが早速と、それぞれにとりわけ、早速口を付ける。

「美味いな。これ。この粒は、初めて見るけど。」
「お米ですね。育てるのに水が多くいりますから、始まりの町では、ありませんでしたが。」
「へー。俺はこっちのこの肉が良いな。柔らかいのに不思議な弾力があって。」
「えー、こっちの野菜のも美味しいじゃない。見た目もきれいだし。」
「まぁ、好みですね、そのあたりは。それとそちらの肉はソーセージですね。
 始まりの町でも畜産は行われると聞いていましたが、そういえば見ませんでしたね。」
「私、このトルティージャにかけるソースが好き。これ、何だろう。」
「サワークリームでしょうか。あと緑の物はチャイブかとは思いますが。」
「パタタスかな、よく合うね。サラダも美味しい。それとこのパエジャに入ってる、これ、何だろ。」
「野菜のパエジャだと、どうでしょう、アーティチョーク、アスパラなど思い当たるものはありますが。
 味で言えば、アーティチョークでしょうか。こちらでは何と呼ぶか分かりませんが。」

そうして、ワイワイと、皆で話しながら食事をとる。
そんな楽しい時間を過ごし、後はそれぞれにゆっくりと休んだ。
明日の予定を話し、町を見て回るそんなゆっくりとした時間はまだお預けですねと、話しながら。
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