憧れの世界でもう一度

五味

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四章 領都

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「ありがとうございます、異邦のお方。」

像が消えてからもしばらくは、誰も声を上げなかったが、暫くしてレーナが、オユキとトモエに向けて頭を下げる。

「いえ、大したことでは。ああ、この言い方は良くないかもしれません。
 その、難しい事ではありませんでしたから。」
「お心遣い有難く。しかし、神々から何かを授かる、それは簡単な事ではありませんとも。
 そうであれば、私どもの元には、難しいでしょうが、他の教会に届けられたはずですから。」
「ああ。それは、そうですね。やはり異邦、そこからこちらに訪れた、それがあるのでしょうか。」
「それだけではないでしょうが。さて、皆さん、聞きましたね。今はこの場で聞いたこと、神の身言葉はそれぞれの胸にしまっておいてください。改めて、祭りを行い、町の者、その全てに直接お言葉を届けましょう。いいですね。」

最後にに強く念押しされた言葉に、その場にいる物がそれぞれ頷いて答える。

「では、この場は、ひとまず終わりですね、後はアマリーア様から皆様へ話があるとか。」

ただ、オユキとしても多少の意趣返しは考えていたこともあり、ここで口をはさむ。

「その、私達にこれを運ぶようにと、そう仰せであった戦と武技の神へご報告をしたいのですが。」
「まぁ、私としたことが、そうですね、それは大事な勤めですから。」

勿論異論はありませんよね、そう言わんばかりに、レーナとリザがアマリーアを見れば、彼女は軽く肩をすくめて応える。
ただカレンの方は、青ざめた顔でただ頷くだけだ。

「では、そうですね。こちらへ。ご案内いたしますね。」
「礼拝堂では、無いのですか。」
「いえ、礼拝堂です。しかし祭具の準備もありますから。」
「その、流石に私たちはそのあたりは。」
「私達へお言葉を届ける、その感謝を私達からも戦と武技の神へ、そういう事ですよ。
 遣わされたお二人には、戦と武技の神への供え物を運んでいただきたく。」
「分かりました。ええと、どのように。道々ご説明いたします。まとめれば、ただ運ぶだけではありますが。」

そうして、再び一同で連れ立って部屋を後にして、礼拝堂に戻る。
先に部屋を出ていた数人が、後から教会へ入ってこようとする人を、近くの椅子に座るようにと声をかけているのを、オユキとトモエは申し訳なく思いながら見る。
レーナは準備があるのか、途中で分かれ、今はリザがオユキ達についているのだが、そのリザが改めてオユキとトモエに頭を下げてから話しかけて来る。

「その、協力は頂けるとのことでしたが、お言葉を皆に伝えるとき、参列していただけるのでしょうか。」
「どうか、あまり畏まらずに。ええ。出来る事でしたら。
 その、慣れていない、どころではなく全く初めての事ですから。」
「ええ、分かりました。日取りについては、ご領主さまと改めて話し合いを持つこととなりますが、明日すぐにというわけではありませんから。
 一度、どのような祭儀を行うか、改めてご説明させていただきます。
 どの程度のご協力を頂けるかは、それから伺わせていただきます。」
「ご理解、ありがとうございます。」
「こちらこそ、ご協力に感謝を。」

そうして話していると、数人の揃いのローブを着た人物が、礼拝を行う人がいなくなったその前を、丁寧に清掃し始める。
さて、あまり大掛かりなものではないだろうが、それでもすぐにすむ物でもないようだ。
その様子を少年たちがどこか居心地が悪そうに見ているのは、あの町の教会で、彼らもそれを行う立場だだったからだろうか。
トモエがそっと肩に手を置いて話しかける。

「ここではあの方たちの仕事です。手伝いを頼まれたのならともかく、そうでなければお任せしましょう。
 万一作法が異なれば、ご迷惑にもなりますから。」
「うん。でも、やっぱり落ち着かないかも。」
「迷惑などと、そのようなことはありませんよ。
 しかし神々から頼まれた、それを終えた方々が報告する、その一つの栄誉、その前を整える、そんな大事な仕事を我々から取り上げないでいただけると。」
「はい、助祭様。お祭りの準備、大事ですものね。」
「ええ。神への奉仕は私たちの願いであり、大事な仕事ですから。
 もちろん、手伝いたい、その心遣いは有難く。」

そうして、礼拝所の清掃が終わると、その様子を何が始まるのかと見守っていた人々も、何かが起こるのだと、その予感と共に、静けさの中に熱を湛えて待つ。
そしてその場、礼拝堂の横合い、恐らくこの教会の者だけが使う通路があるのだろう、そこからレーナが出てきて、説教台の前に立つ。その横には巫女と呼ばれた、箱を開けた少女も控えている。
そのどちらも、先ほど見た時とは違い、下品ではないが豪華な衣装を身に着け、それぞれに装飾品も身に着けている。

その様子を見守っていると、トモエがリザに声をかけられる。

「恐れ入りますが、武器をお預かりさせて頂いても。」
「ああ、失礼しました。こちらを。」
「確かに。それと、これから御言葉の小箱を、戦と武の神、その神像の前まで運んでください。」
「持ち方などは。」
「それは、そこまで気にしていただかなくても構いません。
 ですが、くれぐれも落とさないようにお願いしますね。それと先ほど神像の前に供物台が置かれていますので、その上に置いていただくようお願いいたします。
 後は司祭様が代理として受け取り、改めて水と癒しの神、その神像の前に置きますから。」
「分かりました。」
「そのあとに、司祭様の言葉に合わせて、皆で祈りを捧げます。その時は先ほどとっていただいた礼拝の姿勢を。」
「あまり難しくないようで助かります。本来の祭儀であれば、もう少しいろいろとあるのでしょう。」
「はい。ただ、押し付けるようなものではありませんから。」
「ありがとうございます。それと、こちらを受け取ったのは、私とオユキの二人でなのですが。」
「でしたら、二つありますから、一つづつ、そうしましょうか。」

そうリザが言うと、側に控えていた御言葉の小箱を捧げ持っていた女性に声をかけると、しずしずと下がっていき、司祭と巫女による、水と癒しの神を湛える歌が終わりを迎える少し前に、二つの盆に分けてもう一人連れて戻ってくる。
それを見たリザが、説教台に向けて手振りを行えば、それが準備完了の合図なのだろう。
司祭が、二人を招くように礼拝堂にいる人々へと向けて語り掛ける。
それに合わせて、リザがオユキとトモエにそれぞれ御言葉の小箱を持つように言い、礼拝堂の中央、水と癒しの神を正面に見る、青緑の絨毯が引かれた道をリザについて歩くようにと言われ、その後ろをついて歩く。
恐らく、レーナの言葉が終わる、そのタイミングを計って歩く速度を決めているのだろう。
成程、こんなものは練習もなしにはできないなと、オユキとトモエで視線を交わす。

「それでは、神の御言葉、それが封じられた小箱を当教会迄運ぶと、その偉大なる神の使命を見事果たされたオユキとトモエに祝福のあらん事を。
 また、我らの祀る水と癒しの神、そのお言葉を届けて下さった神、その前にどうかその奇跡を。」

そう言われて、リザが小声で戦と武の神の前へ、そう告げてくれたため、オユキとトモエは、型をなぞるときのように動きにただ集中し、乱れの内容にゆっくりと動きながら、置かれた供物台に、手にしていたそれを供える。
慣れた動きとして、座り方などつい前の作法が出てしまったが、そこはもう目をつぶってもらうしかない。
さて、これからどうすればと考えていると、レーナがまた声を出す。

「では、使命を果たしたお二方はこちらへ。」

呼ばれたからと、二人で立ち上がり、レーナの前に立とうとすれば、どうぞ隣にと言われ、巫女とは逆の位置へと立つ。

「では巫女メルクリア、頂いた神の御言葉を。」

次は呼ばれたメルクリアが、見慣れない動き、歩き方も体の揺らし方も、恐らく儀式としての動きなのだろう。
それを行いながら、戦と武技の神の前から、水と癒しの神の前、その供物台へと移す。

「確かに、我等水と癒しの神を祀るが御言葉の小箱をお預かりいたしました。
 この言葉を聞く日は、後程改めて知らせましょう。祭りと共に皆で神の言葉、それを聞く栄誉を分かち合いましょう。
 ですが、今、この日。その祭りが訪れる確かな約束を得た、その喜びを皆で先に喜びましょう。
 居合わせた幸運に、神々の愛に。感謝を」

そうして、静かな、それでもどこか熱をはらんだ祈りをその場でそれぞれに捧げ、終わると思えば、そこは神のいたずら、まさにそれであろう。

よくやった。使命の対価を、此処に。

戦と武技の神、その立像にどこからともなく光が差し、空の供物台の上に、何かが落ちることりと、そんな小さな音が聞こえた。
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