憧れの世界でもう一度

五味

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四章 領都

属性と神々の色

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「それでは、確認していきましょうか。」

そうカナリアが言えば、それぞれ、手の中にある魔石を改めて見る。
幸いと言えばいいのだろうか、全員、元の無色の結晶ではなく、何某かの色が、薄くついている。

「そういえば、魔物倒した時も、こんな感じで、色がついてるよな。」

そういって、シグルドがつまんだ指で持った魔石を掲げる。

「そうですね。魔物が属性を持っているとする説もありますし、事実それらしい特性を持つ魔物もいますが、主流の論は、自然に存在する雑多なマナを取り込んでいるからとなります。」
「それだと、特定の色を示す魔物がいた場合に、説明がつかないように思いますが。」
「土地柄、というものがありますから。水場の側はやはり、水のマナ。森の中では、森。風の強い場所では風、そのように。」
「それでは、魔物が属性を持っているというのは。」
「魔術、のような物、を使う魔物がいるのと、土地が極端にマナが偏っている場合、それから、どのような場所で討伐しても、特定の属性をもった魔石を落とす場合、それらですね。」
「成程。」

そう言うと、カナリアは、彼女も持っていた魔石を手のひらの上に広げて見せる。

「マナの扱いに慣れれば、このように得意な属性だけを表に出すのではなく、分けることも、自分でマナを加工することもできるようになります。」

そこには、色とりどりの魔石が5個ほどあった。
そのどれも色がはっきりとしており、初めて行った面々の手にあるそれとは、はっきりと違うと分かる。

「へー。これって、色はどんな意味があるんだ。」
「神々の色と同じですよ。シグルド君は橙なので、火ですね。」
「ふーん。」

それから、少年たちの他の者が持つ魔石の色を確認し、それぞれに属性をカナリアが伝えていく。

アナは黒で月、パウが茶色で大地、セシリアが緑で木、アドリアーナが青緑で水。
それぞれが、その色に思い当たることがあるのだろう、神殿の神々と同じ色と、そう言われているのだ。
特に、アナはロザリアの祀る神と、同じ色だったことを殊更喜んでいる。
セシリアは、種族に依る物なのだろうが、狩猟と木々、その色ではあるが、それがどういった魔術かピンとこないのか、首をかしげている。

「属性の魔術しか使えない、というわけでもありませんから。
 まぁ、そのあたりは、おいおい説明しますけど。それと、お二人は。」

言われて、トモエとオユキも、手の中の魔石を見せる。
よくもここまで全員違う色になったものだと、感心しながら。

「えっと、オユキちゃんが、灰色で、冬。トモエさんが、黄色で雷ですね。」
「成程。」

一先ず、トモエもそう頷くが、やはりそれで何ができるのかと言われれば、ピンとこない。
それに、神殿に並ぶ10の神像とも、違う色であるため、どのような神かもわからない。

「オユキちゃんは、月と安息の神様の妹神だね。冬と眠りの神様。
 トモエさんは、雷と輝きの神様。」
「頂いた物を言うのは無粋ですが、戦と武技の神であれば、そう思ってしまいますね。」
「あの、トモエさん。戦と武技の神は、魔術はお使いになられませんので。
 マナにかのお方を示す色は、存在しないのですよ。」
「そうなのですか。技として、明らかに魔術じみた事を行えると聞いてはいますが。」
「ええと、管轄が違う、としか言いようがありませんね。
 その、技を与えられた方が、マナを使っている、そのような気配はあるのですが、正直魔術よりもよくわかっていません。
 言葉は悪いのですが、そういった方々は、非常に感覚的と言いますか、体系を作るほど、理論に積極的でないといいますか。」

その言葉にはオユキとトモエも頷くしかない。
考えることも重要だが、それよりも剣を一度でも多く振れ、そういうだろう。
技を考えるだけならまだしも、体に覚えさせるにはそれしかないのだから。

「ああ、その顔、駄目です、よくありません。
 異邦の方は割と学問に明るい方が多いというのに、どうしてそう。」

カナリアが二人を見て大きなため息をつく。
それに苦笑いを返すしかない。

「その、魔術に熱を上げている異邦人は。」
「一人だけです。」

他の方は、狩猟者になってます。
そんな湿度の高い視線と共に、カナリアが告げる。

「なぁ、ねーちゃん。それで、これがわかったら魔術つかえんの。」
「さっき説明されたでしょ。別にそういう訳じゃないって。」
「じゃ、なんでこんな事させられてんだ。それこそ、素振りでいいじゃねーか。」

シグルドとアナが退屈し始めたのか、きゃいきゃいとやり始めると、カナリアがただ愁いを浮かべてシグルドに話しかける。

「マナの扱いだけで魔術が使えるわけではありませんから。
 得意、馴染みやすい魔術文字の勉強をするんですよ。」
「じゃ、俺はいいや。」
「やるんです。いいから、やるんです。」
「いや、使えるかも分かんないのに、なんでそんな面倒なことを。」
「良いですか、勉学は人生を豊かにするんですよ。
 別にあなたが魔術を使えなくとも、正しく魔術文字を学べば、魔道具だって作れるようになるんですよ。」

カナリアの涙ながらの言葉に、シグルドが何かを言う前に、アナが後ろから飛びついて、口をふさぐ。

「わー。凄いですね。早速勉強しましょうか。」
「ええ、そうですとも。早速お勉強しましょう。」

セシリアが、まったく感情のこもらない声でそう言えば、カナリアが砂の詰められた箱を早速とばかりに運んできて、地面に置き、その前に座る。
そして早速とばかりに、そこに何か図形のようなものを指で書く。

「これまで、見たこともない文字ですね。」
「これが魔術で使う文字ですね。今発見されている、いえ、神々から授かった文字は全てで二百程が確認されています。公開されていないかともいると思いますので、実際はもう少し多いのでしょうが。」
「神々から授かる、ですか。」
「ええ。魔術の扱いが極まってくると、神から新しい文字を授かることがあります。
 いえ、極論するなら、全て神から授かると言い換えてもいいのですが。」

その言葉に、オユキを除く一同が首をかしげる。
そんなオユキの様子に気が付いたのか、カナリアが、オユキに話しかける。

「あら、オユキちゃんは知っていましたか。」
「経験はありませんが、使い続けるうちに、次の呪文が唐突に思いつくと、そう聞いたことが。
 そして、人の呪文を聞き、真似をしようとしたところで、出来ないとも。」
「そうですね、前半分は正解ですが、後ろ半分が少し違います。
 必要な研鑽を積んでいれば、使うことができますから。」

実は、このあたり、武技と同じところもあるんですよ、そういうとカナリアは話を続ける。

「魔術文字、これを自分で組み立て、そこに必要な経路を組み合わせ、必要なマナを正確に供給する。
 この流れをもって、魔術というのは成立します。
 それと、勘違いされる方もいらっしゃいますが、文字だからと、その音を口に出す必要はありません。
 正確に思い描く補助、その程度ですから。それと慣れてしまえば、それこそ簡単なものは、手指を動かすのと、そう変わらない感覚で使えますからね。」
「神々から授かる文字なのに、なんで、勉強するんだ。」

シグルドの素朴な疑問にカナリアの言葉が止まる。

「文字の意味、それを知るためでしょう。」
「でも、神様がくれるんだろ。」
「私達では、頂けない文字があるかもしれません。そしてそれは、使うことができるかもしれません。
 私も、トモエさんも、主に使う武器はありますが、それ以外の技も修めていますし、一緒に弓も習っているでしょう。」
「ああ、手札が増えるのは、いいことだって、言ってたな。
 でも、それで中途半端になったら、どうすんだ。」
「そうならないようにするだけです。難しくはありますが、何処かで見極めるしかありませんから。
 私たちの時間は有限ですからね。」
「んー、どっちかと言えば、これよりも剣の方を鍛えたいな。」
「まぁ、それも追々でいいでしょう。正直、今はそこまで根を詰めて剣を振るのもよくありませんから。」
「そうなのか。」

オユキがそう言えば、続きはトモエが引き取る。

「やりすぎても、体を痛めますからね。それで鍛錬ができなくなっては、本末転倒です。
 それに、皆さん、まだ体が成長しそうですからね。」
「そりゃ、まだ背は伸びるだろうけど。」
「そうなると、一番合う構えも変わってきますから。今は基礎以上の事はあまりできないんですよ。」
「そうか。じゃ、空いた時間でなら、やってみるか。」
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