憧れの世界でもう一度

五味

文字の大きさ
90 / 1,235
二章 新しくも懐かしい日々

後始末

しおりを挟む
そうして、暫くあれこれと話しながらも、肉を拾い集めていると、徐々に人出が増え始める。
氾濫も終わり、戦闘に参加できない人々も、周囲の大量に転がる収集物を拾い集める作業に、駆り出されたのだろう。
そんな中、オユキも聞き覚えのある快活な声が聞こえる。

「あ、オユキちゃん。お疲れ。怪我とかしてない。」
「ええ、この通り。流石に夜明けからですから、少し疲れてきましたけど。」
「そっか。もう少ししたら、日も沈み始める時間だしね。お疲れ様。ありがとうね。」
「いえいえ。助け合いとはこういう事でしょう。」

元気いっぱいと、そんな様子で話しかけて来るフラウと会話をしながら、オユキはただただ肉を運び続ける。
拾う手がいい加減脂で滑り出し、匂いも気に始める。
痛んだようなものではないのだが、それでもこれだけ大量に肉が集まると、特有のにおいがして、それが鼻につき始めてしまう。
セシリアも、早々に匂いにあてられて、肉からは離れて、辺りに落ちた、それこそ草原の中、少し背の高い草に紛れてしまう魔石を探して、拾い集めている。
氾濫が終わったとはいえ、そこはまだ町の外。
まばらに魔物はどうしても現れるため、人が増えれば、その分護衛の手がいる。
先輩の狩猟者であったり、傭兵達は、最初の内は回収に参加していたが、今は方々へ散って、護衛をしている。

「少し手を洗いたくなってきました。」
「あー。」

ついにオユキがそう零せば、フラウがよくわかると、そんな顔で頷く。

「いいんじゃないかな。これから町の人も出て来るだろうし。」

いうが早いか、フラウは肉の積み上げられた一角で、記録をつけているギルドの職員に声をかける。

「すいませーん。ちょっと休憩してきてもいいですか。」
「ええ。構いませんよ。疲れましたか。」
「私じゃなくて、オユキちゃんが。脂がひどいみたいで。」
「ああ。狩猟者の方ですし、武器が持てなくなるほどだと、気になりますよね。
 大丈夫ですよ。人手はまぁ、あるに越したことはないですが。」

その言葉に、オユキは頭を下げてお礼を言う。
職員と、フラウに。

「その、わがままを言って申し訳ありません。」
「いえいえ。そもそもこうなってしまえば参加は任意ですから。
 そうですね。ついでにギルドへ伝言をお願いしても構いませんか。
 そろそろ荷車を出して、町中に運び始めたほうがいいでしょうから。」
「分かりました。それでは、少し失礼しますね。」

オユキはそう断ってから、町中へと向かって歩き始める。
トモエは、少年たちと一緒に行動しているが、離れるオユキに気が付き振り返る。
それに、手を一度指さしてから軽く振ると、言いたいことが分かったのか、遠目にも分かるほどに苦い顔をしてから頷いて答える。
どうやらトモエも手指にまとわりつく脂に、辟易とし始めているらしい。
直にトモエたちも抜けてくるだろう、そう考えながら、門を抜けると、そこは朝方と違い、人がずいぶんと増えており、門の脇では治療を受ける物もいれば、提供されている食事を食べながら座り込み、寛いでいるものもいる。

「お。どうした。休憩か。」

門番にそう声をかけられ、仮登録証を差し出しながら、オユキは反対の手を軽く振る。

「はい。肉を拾うにも、脂がひどくて。」
「ああ。まぁ、仕方ないとはいえ、気になるよな。
 あっちで、肉を料理するために準備してる一角がある。お湯を貰って流すといい。」
「ありがとうございます。」

オユキが言われた一角に行けば、そこでは気が早いのか、それとも膨大な量を片付けるにはそうしなければいけないのか。既に料理が始まっており、見覚えのある顔もあった。

「すいません。お湯を貰っても。」
「おや、オユキかい。無事でよかった。流石にここで体を洗うのは難しくないかい。」
「いえ、手の脂を落としたくて。」
「ああ、石鹸の類は持ってきてないからね。完全には落とせないかもしれないね。」

そう言うと、フローラが木でできた器にお湯を入れて、それをオユキに手渡す。
道端にそれを置くと、オユキはそれに手を浸して、軽く揉みながら、どうにか気にならない程度になればと、手を洗う。

「まだ拾うなら、ちょっと奥に行った雑貨屋で、手袋を買うのもいいかもしれないね。」

そんなオユキの様子を見ながらも、大量の野菜を下処理しつつフローラがそう声をかける。

「今日だけで駄目にしてしまいそうですね。」
「仕方ないさ。ずいぶん早く終わったみたいだけど、魔物の数は多かったんだろう。」
「ええ。そこら中に、まだまだ肉が転がっていますね。」
「さっきから手の空いてるのが、出て行っちゃいるが、まぁ、これまで通りならそれこそ2,3日仕事だからね。」
「今回は、あと一日あればどうにかなりそうではありますが。」

オユキはどうにか気にならない、その程度まで脂が落ちたと、木の器から手を出すと、布で拭きながら、この汚れたお湯はどうしたものかと考える。
それをフローラが、手早く脇にひっくり返し、その場でお湯を捨てると、汚れものとして分けているのだろう、器がいくつか置かれている場所に、放る。

「あとで、このあたりもまとめて魔術ギルドの人間が洗浄しに来るからね。」
「成程。時間をとって、そういった技術も学びたいですね。」
「身ぎれいにしておくのは悪い事じゃないさ。私もだけど、それくらいなら使えるからね。」

そういってフローラが鍋に水を何もない空中から落とす。
そんな様子に、笑って礼を告げてから、狩猟者ギルドへと足を運ぶと、その中は人の姿は少なくとも、忙し気な空気が漂っている。
入り口から入ってきたオユキに、ミリアムがすぐに気が付き、声をかけて来る。

「あら、オユキさん。」
「休憩がてらではありますが。外の職員の方から、そろそろ荷台が欲しいと。」
「そうですか。ありがとうございますね。どうします、仮眠室、使われますか。」
「いえ、そこまで疲れているわけでもありませんから。」

そう答えたうえで、ふと気になって、尋ねてみる。

「そういえば、トロフィーを得たのですが。」

オユキがさて言葉をどう繋げようか、そう考える間もなく、ミリアムが歓声を上げる。

「まぁ、おめでとうございます。どうされますか。記念品にしますか、加工しますか。」
「そのあたり、ご相談させて頂こうかと。トモエも得ていますし、少し良い武器を、そんな話をしたところでもありますから、そちらの元手に、そうも考えたりしています。」

勢いに押されながら、オユキが応えれば、ミリアムは手早く取り出した紙に何かを書きつけると、それを他の職員に渡す。

「それは、なかなか難しいところですね。分かりました、しっかり相談に乗らせていただきますね。
 トモエさんもですよね、先にこちらに運んできますので、お二人一緒に改めて来ていただいてもいいですか。
 職員が運ぶので、それと一緒に。」
「外で、魔物の収集物を拾い集めなくても。」
「それは誰でもできますが、トロフィーはお二人の物ですからね。
 神々からの頂き物です。放置するなんてとんでもない。」

その言葉に、そういうものか、そう納得してオユキは従うこととする。
荷車を引く、職員数名と並んで門のところまで戻り、少年たちと作業を続けているトモエに声をかけ、事情を説明する。
ただ、何を得たかは言っていなかったこともあり、量が多かったため、少年たちも手伝いを買って出て、10人程で運ぶ。
荷車からはみ出すほどに立派な、白くつややかに光る角、大人の上半身程は優にありそうな熊の顔。
それらが乗せられた荷車は、当然のように注意を引いた。

「随分と立派なもんだな。これは、お前らが。」
「はい。私が鹿を。オユキさんが熊を。」

門に戻っていたアーサーに声をかけられ、トモエがそう答えると、彼はトモエの肩を叩いて言祝ぐ。

「いや、技術は優れてると思ったが、よくやった。すぐにギルドに持っていくのか。
 これからの祭りで、トロフィーがあればより盛り上がるが。」

それにトモエが職員に視線を向けると、職員達もそれに頷き、ひとまずここに置いて起き、一人が先にギルドで確認してくると戻ることとなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

処理中です...