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二章 新しくも懐かしい日々
立ち合い稽古
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「ねぇ、本当にあれだけで大丈夫なの。」
オユキは三角巾に腕をつられたまま、置かれていた短剣を片手に少女セシリアと対峙する。
食事が終わり、少し休んだ後は、こうして立ち合い稽古の時間となった。
「はい。どうしてもあれ以上は。無理に食べると、今度は夜も食べられなくなりそうですから。」
控えめな、5人組の中で最後尾にいることの多い少女と、互いに武器を向けて対峙しながらそんな話をする。
彼女も少し残しはしたが、半分も食べていないオユキに比べて、小食と言いながらも8割ほどは食べていた。
5人の中で、体格もオユキに最も近いため、より一層オユキの小食ぶりが目立った。
「私もあんまり食べないほうだけど。」
「今後、努力してみます。では、お好きにどうぞ。」
そういって、オユキは短剣を前に出し、半身に構える。
そこに、躊躇いながら少女が剣を振り下ろす。
それを横から短剣でたたき、逸れたところを上から抑え、慌てて力を入れて振り上げなおそうとする、それに合わせて下から跳ね上げる。
模造刀は少女の手を離れ、少し離れた場所に落ちる。
「怪我を気遣っていただく必要はありませんよ。」
オユキがそう声をかけると、ただぱちぱちと瞬きを繰り返す。
彼女もこういった返しを受けたことが無く、あっさりと手から武器が離れたその現実が、上手く飲み込めないのだろう。
「早く拾っておいでなさい。時間はまだありますが、数をこなすのも重要ですから。」
オユキがそう軽くせかせば、ようやく動き出し、また幅広の剣を構えるが、手から抜けないようにと、今度は力が入りすぎている。
その様子に、実に素人らしいことではないかと、ほほえましさを覚えながら、力んだせいで振出しが遅くなる、それを入り身で躱して、短剣を喉元に突きつける。
金属ではなく、木ではあるが、喉元に何かが当たる、そんな感触に彼女は小さな悲鳴を上げる。
「力みすぎです。素振りの時に、そんなに力を入れて構えましたか。
振りが遅れれば、その時間でこうなりますよ。」
そう告げて、また少し離れた位置でオユキが構えると、今度は攻めあぐねているのだろう。
肩を縮め、腰が引け、武器を必要以上に前に構える。
その様子に、無造作に短剣を打ち付けると、それに反応して目をつぶりながら、押し返そうとしてくる。
その力を短剣を彼女の武器に沿わせてずらしながら、目を閉じた彼女の後ろに回り、後ろから肩に短剣を置く。
「はい。見失ってしまうのは仕方ありませんが、目を閉じてしまうのはいけません。
もちろん、目つぶしなどもあるのですが、それにしても食らうほうが悪いのですから。
必ず敵は見る。それは心がけましょう。」
そうオユキが声をかけると、振り向いて、ただ驚いたような顔をしている。
トモエも、オユキとは少し離れた場所で徹底的にやっているようで、木の打ち付け合う音が鳴ることもなく、ただ武器が転がる音だけが響いている。
そんな様子を、素振りをしながらイマノルが離れた場所から、ニコニコと眺めている。
「さ、続けましょうか。」
オユキが構えなおして、そう告げれば、ひきつったような表情を浮かべながらも、果敢に剣を振り始める。
上手く吹っ切れたようで、先ほどまでと比べれば、思い切りが良く、素振りの時と近い、そんな振り方ができ始めている。
懐かしい、そんなことを考えながら、短剣で捌き、油断があれば剣を落とさせ、そんなことをオユキは繰り返す。
「悪くないですね。最初の数度よりも、良くなっていますよ。」
合間にそうして誉めもしながら、30分ほど立ち合いを続ければ、彼女は肩で息をしながら、地面に膝をついている。
他方、トモエが見ていた少年は、ただ愕然とした表情で、荒い呼吸のまま、トモエを見上げている。
「さて、それでは代わりましょうか。
休んでいる間も、よく見ていてくださいね。」
そうして、相手を変えて、続ける。
少年たちが5人であるため、少し回し方が変則的な物にはなるが、ひとまず4巡ほどする。
二回目以降は、一人に対する時間が、どうしても疲労が目立ち始めたこともあり、短くなっていき、今は全員が立ち上がることもできず、壁にもたれて座っている。
今終わったばかりの二人に至っては、大の字で転がっている有様だ。
「今日は、ここまでにしておきましょうか。やりすぎても意味がないですからね。」
トモエがそう宣言すると、少年たちは、一切の疲れを見せないトモエとオユキを信じられない物を見るような眼で、ただ眺めている。
その様子に、オユキも苦笑いをしながら、言葉をかける。
「確かに、あなた達より少々体力はあると思いますが、疲れていないのは、無駄に力を入れていないからですよ。
必要な時に、必要な量を。正しく力を籠める。それができているのです。」
そう言いながら、借り物の短剣を、何処かに不備がないかと確認する。
「素振りの時よりも、あなた方が剣を振った回数は、かなり少ないのですよ。
それでも、素振りよりも疲れている、それが無駄に力んでいた、その証左です。」
トモエも、武器を確認しながらそんなことを言っていると、横合いからイマノルが声をかける。
「お疲れ様でした。私も、御手合わせを願っても。」
そう言いながら、イマノルが手に持った模造刀を掲げて見せる。
それにトモエは軽くうなずくと、少年たちによく見ておくようにと、そう声をかけ、イマノルと対峙する。
オユキも少年たちに交じって、その様子を見る。
立ち合いを願ったのがイマノルからだからだろう、彼は少し遠間から、軽く鋭い剣閃を放つ。
届かないと、そう分かっているだろうが、トモエはそれに軽く剣を合わせて、逸らす。
そこを隙と見たのか、添えられた剣に向けてすぐに切り返し、それを逆に跳ね上げようとするが、トモエがにぎりを緩めて勢いに逆らわず、剣を軽く回して逸らす。そして、手を絞った勢いを乗せて相手の剣の柄を叩く。
本来は手を切りに行ったのだろうが、イマノルがそれを防いだ形になるのだろう。
そのやり取りに、イマノルが薄く笑い、改めて冗談から切り込めば、昨日ルイスにしたように巻き技をトモエが狙い、しかし家が槍を扱うと、そういっていた彼には、それがなにかうっすらとわかったのだろう、逆らわず互いにからめるようにして、つばぜり合いに持ち込もうと、そんなそぶりを見せるが、トモエはそれに付き合わず、体を下げながら払う。
立ち合いはそこで終わった。
イマノルは構えを解いて、模造刀を降ろす。
「いや、お見事です。技でも負けないと、そう考えていましたが。まさか、こうも簡単にあしらわれるとは。」
「いえいえ。そちらもお見事でした。それこそ全力で来られれば、何もできぬままに切り伏せられるでしょうから。」
二人は、そういいながらも、互いの意図を確認し合い始める。
その様子に、何が起こっていたのか、詳しくはわからないのだろう、少年たちはどこかぽかんとしたまま、その二人を眺めている。
確かに、二人とも少年たちが見ているからか、型の、素振りとして教えた動きの範疇を、あまり超えないよう努めていた。
「皆さんが今やっていること、その少し先には、ああいった応酬があるのです。
もちろん、より発展的な物、それらもありますが、どうですか、ただの一振り、それだけではないでしょう。」
オユキがそう声をかけると、少年たちは、判ったような、判らないような、そんな表情で頷く。
今はまだ、かなり差があるから、そうなるだろうな、そんなことを考えていると、アナから質問の声が上がる。
「オユキちゃんも、出来るの?」
「できますよ。あれくらいでしたら。ただ、イマノルさんととなれば、怪我が治ってからにしたいですね。
事故が起きないとも限りませんから。」
そう言いながら、オユキはトモエに声をかける。
いい機会でもあるし、型稽古、それがどのようなものか、きちんと見せるのもいいだろう。
片手しか使えず、あまり慣れてはいない短剣ではあるが、型の幾つかであれば、問題もないだろう。
「トモエさん。いくつか型をやりましょうか。」
「その、私が見てもいいものですか。」
トモエとイマノルが確認が終わった、そのタイミングで声をかければ、彼はすぐにそう聞いてくる。
「大丈夫ですよ。オユキさんも、短剣では秘伝、奥伝の類は知りませんから。」
「うーん。いつか、正式な試合をしてみたいですね。」
そう、楽しげに笑うイマノルに、機会があればと互いに返し、オユキとトモエで、いくつかの型を軽く応酬する。
それを最後に、今日はここまでと、訓練の終わりを告げた。
オユキは三角巾に腕をつられたまま、置かれていた短剣を片手に少女セシリアと対峙する。
食事が終わり、少し休んだ後は、こうして立ち合い稽古の時間となった。
「はい。どうしてもあれ以上は。無理に食べると、今度は夜も食べられなくなりそうですから。」
控えめな、5人組の中で最後尾にいることの多い少女と、互いに武器を向けて対峙しながらそんな話をする。
彼女も少し残しはしたが、半分も食べていないオユキに比べて、小食と言いながらも8割ほどは食べていた。
5人の中で、体格もオユキに最も近いため、より一層オユキの小食ぶりが目立った。
「私もあんまり食べないほうだけど。」
「今後、努力してみます。では、お好きにどうぞ。」
そういって、オユキは短剣を前に出し、半身に構える。
そこに、躊躇いながら少女が剣を振り下ろす。
それを横から短剣でたたき、逸れたところを上から抑え、慌てて力を入れて振り上げなおそうとする、それに合わせて下から跳ね上げる。
模造刀は少女の手を離れ、少し離れた場所に落ちる。
「怪我を気遣っていただく必要はありませんよ。」
オユキがそう声をかけると、ただぱちぱちと瞬きを繰り返す。
彼女もこういった返しを受けたことが無く、あっさりと手から武器が離れたその現実が、上手く飲み込めないのだろう。
「早く拾っておいでなさい。時間はまだありますが、数をこなすのも重要ですから。」
オユキがそう軽くせかせば、ようやく動き出し、また幅広の剣を構えるが、手から抜けないようにと、今度は力が入りすぎている。
その様子に、実に素人らしいことではないかと、ほほえましさを覚えながら、力んだせいで振出しが遅くなる、それを入り身で躱して、短剣を喉元に突きつける。
金属ではなく、木ではあるが、喉元に何かが当たる、そんな感触に彼女は小さな悲鳴を上げる。
「力みすぎです。素振りの時に、そんなに力を入れて構えましたか。
振りが遅れれば、その時間でこうなりますよ。」
そう告げて、また少し離れた位置でオユキが構えると、今度は攻めあぐねているのだろう。
肩を縮め、腰が引け、武器を必要以上に前に構える。
その様子に、無造作に短剣を打ち付けると、それに反応して目をつぶりながら、押し返そうとしてくる。
その力を短剣を彼女の武器に沿わせてずらしながら、目を閉じた彼女の後ろに回り、後ろから肩に短剣を置く。
「はい。見失ってしまうのは仕方ありませんが、目を閉じてしまうのはいけません。
もちろん、目つぶしなどもあるのですが、それにしても食らうほうが悪いのですから。
必ず敵は見る。それは心がけましょう。」
そうオユキが声をかけると、振り向いて、ただ驚いたような顔をしている。
トモエも、オユキとは少し離れた場所で徹底的にやっているようで、木の打ち付け合う音が鳴ることもなく、ただ武器が転がる音だけが響いている。
そんな様子を、素振りをしながらイマノルが離れた場所から、ニコニコと眺めている。
「さ、続けましょうか。」
オユキが構えなおして、そう告げれば、ひきつったような表情を浮かべながらも、果敢に剣を振り始める。
上手く吹っ切れたようで、先ほどまでと比べれば、思い切りが良く、素振りの時と近い、そんな振り方ができ始めている。
懐かしい、そんなことを考えながら、短剣で捌き、油断があれば剣を落とさせ、そんなことをオユキは繰り返す。
「悪くないですね。最初の数度よりも、良くなっていますよ。」
合間にそうして誉めもしながら、30分ほど立ち合いを続ければ、彼女は肩で息をしながら、地面に膝をついている。
他方、トモエが見ていた少年は、ただ愕然とした表情で、荒い呼吸のまま、トモエを見上げている。
「さて、それでは代わりましょうか。
休んでいる間も、よく見ていてくださいね。」
そうして、相手を変えて、続ける。
少年たちが5人であるため、少し回し方が変則的な物にはなるが、ひとまず4巡ほどする。
二回目以降は、一人に対する時間が、どうしても疲労が目立ち始めたこともあり、短くなっていき、今は全員が立ち上がることもできず、壁にもたれて座っている。
今終わったばかりの二人に至っては、大の字で転がっている有様だ。
「今日は、ここまでにしておきましょうか。やりすぎても意味がないですからね。」
トモエがそう宣言すると、少年たちは、一切の疲れを見せないトモエとオユキを信じられない物を見るような眼で、ただ眺めている。
その様子に、オユキも苦笑いをしながら、言葉をかける。
「確かに、あなた達より少々体力はあると思いますが、疲れていないのは、無駄に力を入れていないからですよ。
必要な時に、必要な量を。正しく力を籠める。それができているのです。」
そう言いながら、借り物の短剣を、何処かに不備がないかと確認する。
「素振りの時よりも、あなた方が剣を振った回数は、かなり少ないのですよ。
それでも、素振りよりも疲れている、それが無駄に力んでいた、その証左です。」
トモエも、武器を確認しながらそんなことを言っていると、横合いからイマノルが声をかける。
「お疲れ様でした。私も、御手合わせを願っても。」
そう言いながら、イマノルが手に持った模造刀を掲げて見せる。
それにトモエは軽くうなずくと、少年たちによく見ておくようにと、そう声をかけ、イマノルと対峙する。
オユキも少年たちに交じって、その様子を見る。
立ち合いを願ったのがイマノルからだからだろう、彼は少し遠間から、軽く鋭い剣閃を放つ。
届かないと、そう分かっているだろうが、トモエはそれに軽く剣を合わせて、逸らす。
そこを隙と見たのか、添えられた剣に向けてすぐに切り返し、それを逆に跳ね上げようとするが、トモエがにぎりを緩めて勢いに逆らわず、剣を軽く回して逸らす。そして、手を絞った勢いを乗せて相手の剣の柄を叩く。
本来は手を切りに行ったのだろうが、イマノルがそれを防いだ形になるのだろう。
そのやり取りに、イマノルが薄く笑い、改めて冗談から切り込めば、昨日ルイスにしたように巻き技をトモエが狙い、しかし家が槍を扱うと、そういっていた彼には、それがなにかうっすらとわかったのだろう、逆らわず互いにからめるようにして、つばぜり合いに持ち込もうと、そんなそぶりを見せるが、トモエはそれに付き合わず、体を下げながら払う。
立ち合いはそこで終わった。
イマノルは構えを解いて、模造刀を降ろす。
「いや、お見事です。技でも負けないと、そう考えていましたが。まさか、こうも簡単にあしらわれるとは。」
「いえいえ。そちらもお見事でした。それこそ全力で来られれば、何もできぬままに切り伏せられるでしょうから。」
二人は、そういいながらも、互いの意図を確認し合い始める。
その様子に、何が起こっていたのか、詳しくはわからないのだろう、少年たちはどこかぽかんとしたまま、その二人を眺めている。
確かに、二人とも少年たちが見ているからか、型の、素振りとして教えた動きの範疇を、あまり超えないよう努めていた。
「皆さんが今やっていること、その少し先には、ああいった応酬があるのです。
もちろん、より発展的な物、それらもありますが、どうですか、ただの一振り、それだけではないでしょう。」
オユキがそう声をかけると、少年たちは、判ったような、判らないような、そんな表情で頷く。
今はまだ、かなり差があるから、そうなるだろうな、そんなことを考えていると、アナから質問の声が上がる。
「オユキちゃんも、出来るの?」
「できますよ。あれくらいでしたら。ただ、イマノルさんととなれば、怪我が治ってからにしたいですね。
事故が起きないとも限りませんから。」
そう言いながら、オユキはトモエに声をかける。
いい機会でもあるし、型稽古、それがどのようなものか、きちんと見せるのもいいだろう。
片手しか使えず、あまり慣れてはいない短剣ではあるが、型の幾つかであれば、問題もないだろう。
「トモエさん。いくつか型をやりましょうか。」
「その、私が見てもいいものですか。」
トモエとイマノルが確認が終わった、そのタイミングで声をかければ、彼はすぐにそう聞いてくる。
「大丈夫ですよ。オユキさんも、短剣では秘伝、奥伝の類は知りませんから。」
「うーん。いつか、正式な試合をしてみたいですね。」
そう、楽しげに笑うイマノルに、機会があればと互いに返し、オユキとトモエで、いくつかの型を軽く応酬する。
それを最後に、今日はここまでと、訓練の終わりを告げた。
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