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1章 懐かしく新しい世界
初めての納品
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結局のところ、トモエはアーサーの好意を断り切れず、その使い込まれた槍を受け取ることとなった。
それは、一目見てわかるほどに使い込まれたもので、柄のところどころに補修の箇所が見られる、そのようなものであった。
それこそ、門番が日々使い、受け継がれてきた、そのようなものであろう、それを感じさせるほどである。
「まぁ、新しい槍が来ても、訓練だ、実践だと、一年も使えばそうなる。
払い下げることも多いし、修繕で対応することもある。今回は払下げ、そういう事だ。」
最期に、アーサーは念を押すようにそう告げ、オユキの安静と回復を祈り、別れることとなった。
外は既に日が沈み始め、あまり時間の猶予もない、互いに少し急ぐような、そういう心があってのことだったのだろう。
「本当に、あのアーサーという方は、面倒見の良い方なのですね。」
三人で狩猟者ギルドへと向かう、その最中、感慨深げにトモエがそう口にする。
「門番は町の顔でもあるからな、当に人柄重視されると聞いたこともある。
それを差し引いても、あのアーサーは頭が抜けていると、そう思うが。
聞いた話では、元々は名の売れた狩猟者で、所帯を構えることを機に、ここにきて、乞われて今の職を得たとそう聞いている。
前の魔物の氾濫、その際の活躍を思えば、それも間違いはないだろう。」
トラノスケが、感じ入るようにそう口にする。
オユキにしても、彼の立ち居振る舞いを思い返せば、ぶれない重心、歩く際の滑らかさ、常に警戒を緩めない、その空気。
思い当たるところはある。
「ええ。かなり腕の立つ御方のようでした。」
オユキよりも、長い期間を武に欠けたトモエがそう口にする。
オユキもそれに頷き、今の自分が戦えばどうだろうか、以前の時分なら、ゲームの時分なら、自分の足で歩いていない、その退屈さからかそのようなことを考える。
そして、結論はすぐに出る。
以前の、ゲームにおける自分であれば、負けないだろう、そう判断する。
「はい。私も、以前の私であれば、恐らく勝てないかと。ゲームの私であれば、その限りではないかと思いますが。」
そう、オユキが応えれば、トラノスケは唸り声をあげる。
「それほどか。」
「そうですね、ゲームの時代というのは、私は計りかねますが、かなりの方ですよ。
少なくとも、今のトラノスケさんであれば、数合打ち合えば、結果が出るでしょう。」
そう、トモエもオユキの言葉を認めるように告げれば、トラノスケはただ唸り声のようなものを上げる。
思えば、オユキもトラノスケがいつからここにいるのか、それを聞いていないが、身に着けているもののくたびれ方を見れば、相応の期間であるのだろう、それこそ年単位。
その研鑽を、超える相手がいると聞いて、それも身近に、それを突き付けられて、思うところがあったのであろう。
そうして、アーサーについて話している間に、3人は目的地である狩猟者ギルドにたどり着く。
門前はさほど込み合ってもいなかったが、そこは出る前に比べれば、ほどほどに込み合い、少し並んで待たねば、そう思うほどの人が存在していた。
そんななか、トラノスケは慣れた足取りで、一つの受付へ向かい、そこに先に並ぶ数人の後ろに立つ。
トモエ、オユキを抱えて、トラノスケに続く。
オユキはそんな中、自らに向けられ鵜視線に、どうしても意識を取られた。
好奇の視線、このような見た目で、横抱きに抱えられて、それも見知らぬ相手、その視線を向けるなと、それが無理だとはわかるが、これまでの人生、前のそれも更けめても、オユキはそのような視線を受けることに慣れていなかった。
あまり、人前に出る様な性質でもなく、また社会に出てからも、組織を支えるそういった事を主としていたため、やはりそういった機会はあまりなかった。
それこそ、社の設立から存在する、そんな一人として、時にそれなりの人数の前に出ることはあったが、それでもそこは気心の知れた、そんな相手が多い。
今のように、誰とも知れぬ相手から、そのような視線を向けられるのは、やはり初めての経験であった。
それを、オユキが居心地悪く思っていると、トモエが、それからかばうように体の向きを変える。
それでもオユキを降ろそうとしないのは、捻挫というものが長引くと、悪化するとどれほど厄介かを知っているからだろう。
そうこうするうちに、順調に列は消化され、トモエはトラノスケと並んで、受付の前に立つ。
「それでは、提出を。」
受付の女性は、端的にそう告げる。それにトモエが声をかける。
「私達と、そちらの男性、トラノスケさんのものは分けていただきたいのですが。」
「ええ、分かりました。それでは、先にどうぞ。」
トラノスケは、それに頷き袋から、今日の成果を取り出し並べる。
女性はそれを、一つづつ確認しては、彼女の後ろに置かれたトレーのようなものに置いていく。
そして、書き込んでいた紙とは別の用紙に、何かを書付、トラノスケに渡す。
「査定が終わりましたら、そちらの番号でお呼びいたします。
しばらくお待ちください。」
オユキとトモエは、実に役所らしい、そう思わず笑みがこぼれる。
髪を受け取ったトラノスケが列から離れ、トモエはその分だけ前に進み出る。
勝手がわからず、なんと声を掛ければいいのか、その逡巡をくみ取ったのか、受付の女性が声を出す。
「それでは、登録証を先に確認させていただきます。」
言われて、トモエとオユキがそれを取り出せば、受付の女性は少し驚いたようなそぶりを見せる。
「そちらの少女もでしたか。どうしましょう、別途受付を行いますか?」
「いえ、私達はまとめてください。」
そう、オユキが告げれば、受付の女性は仮登録証を受け取り、そこに書かれた何かをメモし、それをすぐにオユキとトモエに返す。
「はい。それでは、本日の収穫物を。」
言われて、オユキとトモエは、今日集めた物をそこに並べる。
魔石に肉類、キノコや毛皮、それらを一度に、一緒くたに置くことに少し抵抗はあったが、それを咎めるように、受付の女性が手振りでそこに置けと示す。
それは、一目見てわかるほどに使い込まれたもので、柄のところどころに補修の箇所が見られる、そのようなものであった。
それこそ、門番が日々使い、受け継がれてきた、そのようなものであろう、それを感じさせるほどである。
「まぁ、新しい槍が来ても、訓練だ、実践だと、一年も使えばそうなる。
払い下げることも多いし、修繕で対応することもある。今回は払下げ、そういう事だ。」
最期に、アーサーは念を押すようにそう告げ、オユキの安静と回復を祈り、別れることとなった。
外は既に日が沈み始め、あまり時間の猶予もない、互いに少し急ぐような、そういう心があってのことだったのだろう。
「本当に、あのアーサーという方は、面倒見の良い方なのですね。」
三人で狩猟者ギルドへと向かう、その最中、感慨深げにトモエがそう口にする。
「門番は町の顔でもあるからな、当に人柄重視されると聞いたこともある。
それを差し引いても、あのアーサーは頭が抜けていると、そう思うが。
聞いた話では、元々は名の売れた狩猟者で、所帯を構えることを機に、ここにきて、乞われて今の職を得たとそう聞いている。
前の魔物の氾濫、その際の活躍を思えば、それも間違いはないだろう。」
トラノスケが、感じ入るようにそう口にする。
オユキにしても、彼の立ち居振る舞いを思い返せば、ぶれない重心、歩く際の滑らかさ、常に警戒を緩めない、その空気。
思い当たるところはある。
「ええ。かなり腕の立つ御方のようでした。」
オユキよりも、長い期間を武に欠けたトモエがそう口にする。
オユキもそれに頷き、今の自分が戦えばどうだろうか、以前の時分なら、ゲームの時分なら、自分の足で歩いていない、その退屈さからかそのようなことを考える。
そして、結論はすぐに出る。
以前の、ゲームにおける自分であれば、負けないだろう、そう判断する。
「はい。私も、以前の私であれば、恐らく勝てないかと。ゲームの私であれば、その限りではないかと思いますが。」
そう、オユキが応えれば、トラノスケは唸り声をあげる。
「それほどか。」
「そうですね、ゲームの時代というのは、私は計りかねますが、かなりの方ですよ。
少なくとも、今のトラノスケさんであれば、数合打ち合えば、結果が出るでしょう。」
そう、トモエもオユキの言葉を認めるように告げれば、トラノスケはただ唸り声のようなものを上げる。
思えば、オユキもトラノスケがいつからここにいるのか、それを聞いていないが、身に着けているもののくたびれ方を見れば、相応の期間であるのだろう、それこそ年単位。
その研鑽を、超える相手がいると聞いて、それも身近に、それを突き付けられて、思うところがあったのであろう。
そうして、アーサーについて話している間に、3人は目的地である狩猟者ギルドにたどり着く。
門前はさほど込み合ってもいなかったが、そこは出る前に比べれば、ほどほどに込み合い、少し並んで待たねば、そう思うほどの人が存在していた。
そんななか、トラノスケは慣れた足取りで、一つの受付へ向かい、そこに先に並ぶ数人の後ろに立つ。
トモエ、オユキを抱えて、トラノスケに続く。
オユキはそんな中、自らに向けられ鵜視線に、どうしても意識を取られた。
好奇の視線、このような見た目で、横抱きに抱えられて、それも見知らぬ相手、その視線を向けるなと、それが無理だとはわかるが、これまでの人生、前のそれも更けめても、オユキはそのような視線を受けることに慣れていなかった。
あまり、人前に出る様な性質でもなく、また社会に出てからも、組織を支えるそういった事を主としていたため、やはりそういった機会はあまりなかった。
それこそ、社の設立から存在する、そんな一人として、時にそれなりの人数の前に出ることはあったが、それでもそこは気心の知れた、そんな相手が多い。
今のように、誰とも知れぬ相手から、そのような視線を向けられるのは、やはり初めての経験であった。
それを、オユキが居心地悪く思っていると、トモエが、それからかばうように体の向きを変える。
それでもオユキを降ろそうとしないのは、捻挫というものが長引くと、悪化するとどれほど厄介かを知っているからだろう。
そうこうするうちに、順調に列は消化され、トモエはトラノスケと並んで、受付の前に立つ。
「それでは、提出を。」
受付の女性は、端的にそう告げる。それにトモエが声をかける。
「私達と、そちらの男性、トラノスケさんのものは分けていただきたいのですが。」
「ええ、分かりました。それでは、先にどうぞ。」
トラノスケは、それに頷き袋から、今日の成果を取り出し並べる。
女性はそれを、一つづつ確認しては、彼女の後ろに置かれたトレーのようなものに置いていく。
そして、書き込んでいた紙とは別の用紙に、何かを書付、トラノスケに渡す。
「査定が終わりましたら、そちらの番号でお呼びいたします。
しばらくお待ちください。」
オユキとトモエは、実に役所らしい、そう思わず笑みがこぼれる。
髪を受け取ったトラノスケが列から離れ、トモエはその分だけ前に進み出る。
勝手がわからず、なんと声を掛ければいいのか、その逡巡をくみ取ったのか、受付の女性が声を出す。
「それでは、登録証を先に確認させていただきます。」
言われて、トモエとオユキがそれを取り出せば、受付の女性は少し驚いたようなそぶりを見せる。
「そちらの少女もでしたか。どうしましょう、別途受付を行いますか?」
「いえ、私達はまとめてください。」
そう、オユキが告げれば、受付の女性は仮登録証を受け取り、そこに書かれた何かをメモし、それをすぐにオユキとトモエに返す。
「はい。それでは、本日の収穫物を。」
言われて、オユキとトモエは、今日集めた物をそこに並べる。
魔石に肉類、キノコや毛皮、それらを一度に、一緒くたに置くことに少し抵抗はあったが、それを咎めるように、受付の女性が手振りでそこに置けと示す。
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