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1章 懐かしく新しい世界
襲撃
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オユキとトモエは、今後の約束をしつつ、オユキは今はとりあえずどうしたものか、そう頭を悩ませる。
土や落ち葉のついたオユキの髪を、トモエが掬い上げ、それらを簡単に払う。
「とりあえずは、簡単にまとめましょう。」
そういって、トモエがオユキの髪をいじり始める。
髪留めになるものなど何もないだろう、オユキはそう思うが、生前からこういった事にオユキよりもはるかに身近であるトモエが、何某かの手立てを打つというのだ。
オユキはひとまずされるがままとなる。
少しもしないうちに、これでいいでしょう、そういってオユキはトモエに開放される。
鏡などという気の利いたものが、野外にあるわけもなく、オユキはそういうならそうなのだろう、そうとだけ納得する。
それを見ていたトラノスケが、特に何も言わずに見ている以上、おかしなことになっているわけでもないのだろうし。
オユキは、これまで常に首周りをかすめ、先ほどまで張り付くような感触のあったものが無くなり、随分と首周りが涼しくなった気がする。
「簡単にまとめているだけですので、あまり激しく動いたり、無造作に触れると崩れますので。
そのうち、髪紐を見繕いましょうね。」
「任せきりになってしまい、申し訳ありません。」
「いえ、いいんですよ。娘や孫にもよくしてあげましたし。懐かしいくらいです。」
「まったく、実に器用に手早く済ませるものだな。」
「これでも、半世紀は行ってきたことですから。このくらいは。」
三人が、森の傍らで立ち止まりそんなことを話していると、ふと、三人ともが何かに気が付く。
それは森の中、何かが落ち葉を踏む音が切欠か、枝の折れる音が先か。
それとも、何か明確な敵意によるものか。
「これは、少しまずいかもな。流石に、俺も動くぞ。」
「狼の魔物、確かグレイウルフでしたか。」
「ああ。6匹だな。流石に、先ほどの様子を見ていれば、お前たちにだけ任せるわけにもいかないだろう。」
そういって、トラノスケは獲物に手をかけ、周囲を警戒する。
この深い森の中で、よくもまぁ数が正確にわかるものだ、そう思う反面、ゲーム時代にも索敵用の技術があった、そうオユキは思い出す。
ゲームの中では、主に武器を利用していたが、思い返せば、徒手空拳でも十分な破壊力、殺傷力を得る方法もあった。さて、それが今のオユキに叶うかといえば別の話だが。
抜いたナイフを正面に構えたオユキは、三人がそれぞれ異なる方向を警戒できるように、立ち位置を調整する。
その動きにトモエも併せながら、これから襲い掛かてくるであろう敵について、情報を求める。
「オユキさんとトラノスケさんは、よくご存じのようですが、敵はどの様な?」
「中型犬程の、狼だ。攻撃手段も、変わらない、牙、爪。だが人間にとっては、やはりどれも致命傷になりえる。」
「そのあたりは、普通の犬と変わりませんか。」
「ああ。加えて集団での連携をとる。所謂群れのリーダーのような個体は、このあたりでは出てこないが、リーダーがいないからこそ、すべて討たねば、逃げもしない。」
「なかなか厄介そうですね。」
「ああ、厄介だ。新人が死亡する原因は大体こいつだ。来るぞ。」
話の途中、トラノスケが鋭い声を上げる。
オユキは6匹すべての今場所は、今一つはっきりとはわからなかったが、自分の側に回り込もうとしている2匹は補足していた。
それぞれに2匹づつか、それともこの中では間違いなく、最も弱く見える自分に、隠れた他の何匹かで襲い掛かってくるのか。
ゲームの時代であれば、恐らく後者だ、オユキはそう判断し、積極的に攻めるのはやめ、防御を主体に動くことを決める。
とびかかってくる2匹をそのまま流せば、他の2人に負担をかけるだろう。
大きく口を開き、迫りくる狼の内、一匹のほうへ近寄り、ナイフの背で、牙を殴り、そのまま足を大きく回し、その頭を蹴り飛ばす。
やはり体重の軽さが裏目に出て、オユキの想像より、はるかに短い距離しか、グレイハウンドをはじくことができていない。
直前までオユキがいた位置に飛び込んだグレイハウンドが、地面に着地する音が聞こえ、けり足を振りぬく勢いのまま、オユキは体を回し、そのついでに、流れる視界の中で、他の狼の位置を探すが、オユキの視界には、この2匹しか入らない。
4足歩行動物特有のしなやかさで、地面に何事もなく足をつけた狼が、オユキのほうを振り返りつつあるのを確認し、今度はそちらに近づき、ナイフの刃を立て、切り付ける。
立ち位置、足運びに気をつけながら、グレイハウンドの回避先に、他の2人がいない、そんな位置取りを心掛ける。
オユキの振るった刃は、グレイハウンドが後ろに飛ぶことで、交わされる。その一匹を視界に収めつつ、もう一匹をと探せば、すでに起き上がった後であった。
打撃はオユキが思うよりは、効果があったようで、僅かにふらつくようなそぶりを見せている。
しとめるための決定打は、やはりナイフになるだろうが、確実を期するのであれば、相応の距離に近寄らなければいけない。下手をすればオユキとそう重さの変わらない、そんなグレイハウンドに抑え込まれれば、オユキは碌に手立てもなくなるだろう。
では、どうするのが最善だろうか、オユキは思考を回しながら、再度二匹が同時にとびかかってくる様子を見て、少し離れてはいるが、弱っているほうへと距離を詰める。
そして、オユキは視界の端から、別のグレイハウンドがとびかかってくるのを見た。
土や落ち葉のついたオユキの髪を、トモエが掬い上げ、それらを簡単に払う。
「とりあえずは、簡単にまとめましょう。」
そういって、トモエがオユキの髪をいじり始める。
髪留めになるものなど何もないだろう、オユキはそう思うが、生前からこういった事にオユキよりもはるかに身近であるトモエが、何某かの手立てを打つというのだ。
オユキはひとまずされるがままとなる。
少しもしないうちに、これでいいでしょう、そういってオユキはトモエに開放される。
鏡などという気の利いたものが、野外にあるわけもなく、オユキはそういうならそうなのだろう、そうとだけ納得する。
それを見ていたトラノスケが、特に何も言わずに見ている以上、おかしなことになっているわけでもないのだろうし。
オユキは、これまで常に首周りをかすめ、先ほどまで張り付くような感触のあったものが無くなり、随分と首周りが涼しくなった気がする。
「簡単にまとめているだけですので、あまり激しく動いたり、無造作に触れると崩れますので。
そのうち、髪紐を見繕いましょうね。」
「任せきりになってしまい、申し訳ありません。」
「いえ、いいんですよ。娘や孫にもよくしてあげましたし。懐かしいくらいです。」
「まったく、実に器用に手早く済ませるものだな。」
「これでも、半世紀は行ってきたことですから。このくらいは。」
三人が、森の傍らで立ち止まりそんなことを話していると、ふと、三人ともが何かに気が付く。
それは森の中、何かが落ち葉を踏む音が切欠か、枝の折れる音が先か。
それとも、何か明確な敵意によるものか。
「これは、少しまずいかもな。流石に、俺も動くぞ。」
「狼の魔物、確かグレイウルフでしたか。」
「ああ。6匹だな。流石に、先ほどの様子を見ていれば、お前たちにだけ任せるわけにもいかないだろう。」
そういって、トラノスケは獲物に手をかけ、周囲を警戒する。
この深い森の中で、よくもまぁ数が正確にわかるものだ、そう思う反面、ゲーム時代にも索敵用の技術があった、そうオユキは思い出す。
ゲームの中では、主に武器を利用していたが、思い返せば、徒手空拳でも十分な破壊力、殺傷力を得る方法もあった。さて、それが今のオユキに叶うかといえば別の話だが。
抜いたナイフを正面に構えたオユキは、三人がそれぞれ異なる方向を警戒できるように、立ち位置を調整する。
その動きにトモエも併せながら、これから襲い掛かてくるであろう敵について、情報を求める。
「オユキさんとトラノスケさんは、よくご存じのようですが、敵はどの様な?」
「中型犬程の、狼だ。攻撃手段も、変わらない、牙、爪。だが人間にとっては、やはりどれも致命傷になりえる。」
「そのあたりは、普通の犬と変わりませんか。」
「ああ。加えて集団での連携をとる。所謂群れのリーダーのような個体は、このあたりでは出てこないが、リーダーがいないからこそ、すべて討たねば、逃げもしない。」
「なかなか厄介そうですね。」
「ああ、厄介だ。新人が死亡する原因は大体こいつだ。来るぞ。」
話の途中、トラノスケが鋭い声を上げる。
オユキは6匹すべての今場所は、今一つはっきりとはわからなかったが、自分の側に回り込もうとしている2匹は補足していた。
それぞれに2匹づつか、それともこの中では間違いなく、最も弱く見える自分に、隠れた他の何匹かで襲い掛かってくるのか。
ゲームの時代であれば、恐らく後者だ、オユキはそう判断し、積極的に攻めるのはやめ、防御を主体に動くことを決める。
とびかかってくる2匹をそのまま流せば、他の2人に負担をかけるだろう。
大きく口を開き、迫りくる狼の内、一匹のほうへ近寄り、ナイフの背で、牙を殴り、そのまま足を大きく回し、その頭を蹴り飛ばす。
やはり体重の軽さが裏目に出て、オユキの想像より、はるかに短い距離しか、グレイハウンドをはじくことができていない。
直前までオユキがいた位置に飛び込んだグレイハウンドが、地面に着地する音が聞こえ、けり足を振りぬく勢いのまま、オユキは体を回し、そのついでに、流れる視界の中で、他の狼の位置を探すが、オユキの視界には、この2匹しか入らない。
4足歩行動物特有のしなやかさで、地面に何事もなく足をつけた狼が、オユキのほうを振り返りつつあるのを確認し、今度はそちらに近づき、ナイフの刃を立て、切り付ける。
立ち位置、足運びに気をつけながら、グレイハウンドの回避先に、他の2人がいない、そんな位置取りを心掛ける。
オユキの振るった刃は、グレイハウンドが後ろに飛ぶことで、交わされる。その一匹を視界に収めつつ、もう一匹をと探せば、すでに起き上がった後であった。
打撃はオユキが思うよりは、効果があったようで、僅かにふらつくようなそぶりを見せている。
しとめるための決定打は、やはりナイフになるだろうが、確実を期するのであれば、相応の距離に近寄らなければいけない。下手をすればオユキとそう重さの変わらない、そんなグレイハウンドに抑え込まれれば、オユキは碌に手立てもなくなるだろう。
では、どうするのが最善だろうか、オユキは思考を回しながら、再度二匹が同時にとびかかってくる様子を見て、少し離れてはいるが、弱っているほうへと距離を詰める。
そして、オユキは視界の端から、別のグレイハウンドがとびかかってくるのを見た。
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