憧れの世界でもう一度

五味

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1章 懐かしく新しい世界

旧友との再会

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狩猟者ギルド、その扉をくぐって中に入れば、さて、今が昼時だからであろうか。
そこは、どこかのんびりとした空気が支配する場所であった。
さて、新入りが向かうべきカウンターは何処だったかと、カウンターを遠目に眺めるオユキと、珍し気に併設された食事処や、依頼表の張り出される掲示板、各種申請書が束になって詰め込まれている箱が積み上げられている、一角などをトモエは順番に見ている。
狩猟者、そう呼ばれる結界の外で魔物を討伐する、それを生業とする人間がいなければ、中はオユキにしてみれば、役所とそう変わりはない。
ある程度の合理性をもとめれば、こういう形に行き当たるのだろう。そんなことを昔友人と話したものだ。
そうして、一人で思い出に浸っていると、彼らに声をかけるものがいた。

「おい、あんた。」

その男は、オユキにしてみれば、見上げるような大男。顔貌はオユキからはよくわからないけれど、鍛え上げられた体、それを覆う鎧はあちこちに細かい傷が見て取れるものの、よく手入れをされている、そう感じさせる。
ただ、声をかけられたのはオユキではなく、トモエのようで、トモエはかけられた声に、少し不思議そうに、相手に体を向けている。

「おお、ひょっとしてだが、アンタ、トモエか。」
「ええ、私はトモエと申します。失礼かと思いますが、どちら様でしょうか。」

トモエは見覚えがないだろうが、オユキにはその相手がだれか、その声で相手の想像がついた。
自分がかつて使っていた姿を遠目で見ただけで、すぐにわかる。
それも、さして特徴的でもない、そんな姿を見てわかるというのなら、やはり親しい間柄だろう。
オユキは、長く一緒に遊んだ相手を、その声で脳裏に思い浮かべた。

「ひょっとして、寅之介さんかい。」

それでも顔が確認できない以上はと、オユキはそう声をかける。

「ああ。俺は確かにトラノスケだ。嬢ちゃんとはどっかであったことがあったか?」

オユキの声に、寅之介はすぐにその場に膝をつき、オユキと目の高さを合わせる。
子供相手にこういった行動を自然にとれる、そんな男であったな、オユキはそんなことも思い出す。
ゲームが流行っていたころ、彼を慕うものも多く、NPCの子供に、よじ登られて困惑し、しかしそこから動けないと、数時間もそのまま我慢したこともあったはずだ。

思い出にふけるのをほどほどに、聞かれて、オユキはさて、どう説明したものかと考える。
しかし、それよりも先にと、トモエに説明を行う。

「トモエさん。こちらトラノスケさん。まだゲームだったころ、それこそゲームの開始からまもなく、それから終わるときまで、一緒にゲームを遊んだ私の友人ですよ。
 生憎と、一緒の会社で働いていたりはしなかったので、トモエさんと面識はないかと思いますが。」

オユキがそうトモエに説明をすると、寅之介は腕を組み、首をかしげる。
寅之介にしてみれば、何を言っているのかよくわからないのだろう。

「ああ。失礼しました。オユキから話を聞いたことがあります。
 そうですか、アナタがトラノスケさんなのですね。どうぞお見知りおきを。」

トモエがそういって頭を下げれば、寅之介は、何が何やらわからない、そう言いたげに頭を掻きむしる。

「ん。なんだ。つまり、どういうことだ。嬢ちゃん、いや、オユキか。あんたは俺を知っていて、そっちの名前まで同じトモエは俺を知らない、だがオユキからは話を聞いたことがある。
 つまり、どういうことだ。」

オユキは苦笑いを浮かべて種明かしを行う。

「寅之介さん。ゲームでは私がトモエです。今はオユキ。トモエは私の妻だった人ですよ。」

そう告げても、寅之介は首をかしげる。

「んー。つまり、オユキがトモエで。トモエはオユキ。ん、なんだ、わからん。」
「いえ、今のトモエはゲームをしていませんでした。」
「プレイヤーでもないのに、ここに来たってのか。」
「ええ、私の我がままに付き合っていただきまして。」

実のところは、そうではないが。実際としては、そう取れるだろう。
オユキはそう告げる。
そのオユキの肩を、トモエが叩き、嗜める。

「私は私で選んだんですよ。それは良くない責任感です。」

オユキは思わず反論しそうになるが、トモエが笑顔でかける圧力に、何も言えなくなる。
そうして二人が視線を交わしている間に、寅之介の中で何か決着がついたのだろう。

「つまり、あれだな。元トモエが今はオユキだと。
 でもトモエ、あんた、そんな外見にするような質じゃないと思っていたんだがな。」
「ええ、いい機会なので、トモエの姿は贈り物に、今の姿はこちらのトモエが作ってくれました。」

オユキ自身、この姿のあまりの変わりように何も思うところがないかと言われれば、そうでもないのだが、それでも愛する女性からの贈り物。
トラノスケに胸を張る。
彼が立ち上がれば、その腰を少し超える程度の背丈しかないオユキが、そうして胸を張る姿は実に子供らしいもので、トラノスケは、ひとまずすべてを飲み込むことにしたのだろう。
彼は、子供に甘いのだ。彼が思う以上に。

「うん。かわいらしいな。いいと思う。それにしても、久しぶりだ。トモエ、いや今はオユキか。
 どうだ、時間があるなら、少し話をしたいが。」
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