Defense 2 完結

パンチマン

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権力者の宴

13 権力者の訪れ.3 とある主計科員

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ケインが待機所になっている広場に行くと、大半の職員が昼飯を食っていた。どうやら保安庁の主計課職員らが総出で、警察職員の分まで調理しているらしい。飯をもらおうとケインがテントに行ってみると既に特警の課員らが食べ終わっていた。課員はケインを見つけると「遅いですよ隊長!」と笑いながら言い、持ち場に帰っていった。あっという間に特警課で1人ぼっちになったケインはそそくさと飯をとり、テント下の広いテーブルに1人腰掛け、食べ始めた。
 1人寂しく食べていると、主計課職員の男がケインの正面に座った。


「よおケインさん。」


名を呼ばれてケインは顔を上げた。少しあご髭の生えた男が黒い肌に白い歯でニッコリ笑っていた。


「なんだ、サザールか。」


男の名はサザール。保安庁総務局主計課の職員で、調理員だ。ケインとは危機管理局以来の友人で、異動後初めてケインと再会したのだった。


「あんたらの部下はそっけないね。リーダーほっといて帰っちまうじゃないか。」


「今はそういうご時世なんだよ。まぁ、俺は大して気にしてないから。ところで、最近お前何やってんの?」


「何って、洋上保安の連中の飯作ってるんだわ。」


「巡視船勤務か?」


「まぁな。大変なんだぜ?船内で飯作るの。俺は昔っから船が苦手でな、船酔いがすげんだわ。でも、そのかわりに魚料理はだいぶ上手くなったぜ?」


サザールはケインの食べている飯を覗き込んだ。


「それは........なんだよ、肉料理じゃねえか。俺の作った魚料理食えよな。」


吐き捨てるようにサザールは言った。


「俺は魚があんまり好きじゃないんだよ。悪かったねぇ。」


「まぁいい、今度お前っところの課に魚料理配達してやるから。」


「全部釣りの餌に使わせてもらうわ。」


「食い物は大切にしろや。」


そんな感じで2人でしばらく談笑していると、武装した警察職員が昼飯を取りにやってきた。その職員達は、なにやら新型の小銃をぶら下げていた。


「おい、あの小銃なんだ?」


ケインがサザールに聞いた。


「あれは!ここ最近、オーシアのマクロス財閥が製造発表したXM8だよ!XM8!」


「XM8?なんだそれ?」


「あんた、特警なのに知らないのか?あの、流れるような流線型にプラスチック製のボディ、銃身は特殊製造が施されて高い命中精度と耐久性まで獲得。そして銃床は人間工学に基づいて作られていて反動や跳ね上がりが劇的に抑えられているんだ!そしてなにより、射撃時にガスが内部に吹き付けないから2000回撃っても掃除いらずの親切設計!まだまだあるぞ、それにトライアルではオーシアやスカイラインの現行装備に比べて動作不良も格段に少なくなっかたらしいぞ!」


サザールは目を輝かせながら、時折訴えかけるように魅力を説明した。


「ちょっと待った?どこの製造だって?」


「あん?マクロスだよ!マクロス!お前知らないのか?」


「マクロス....XM8...」


「どうしたどうした?浮かない顔してから。」


「いや、何でもない。」


「あのXM8、防衛庁の部隊では今じゃ立派な主力らしいぞ?あんたらもM4やAR15なんかほっといてアレ使え。」


「防衛庁は武器が足りてなかったからだろ?それに保安庁はどうせ廃止になるんだから、使い古しの銃がメインになっとるんだよ。」


「なるほど。そりゃ予算の苦しい保安庁らしいわ。でも、警察官もあんな小銃使い出してるんだ。マクロス財閥はガッポリだな。」


「そりゃ、今のこの島の情勢からすれば、ここ程美味い場所は無いさ。」


するとケインの電話が鳴った。サザールに「悪い」と断りを入れて立って電話に出た。


『はい、ケイン。』


『ケインさん?あなた今どこにいるの!早く帰ってきてちょうだい!デモ隊の規模が大きくなってるのよ!』


電話の相手はシャロンだった。


『えぇ、本当に俺たち特警に対処命令が出たの?』


『出てなかったら電話なんてしてないわよ!分かったらすぐ来て!』


電話の向こう側から罵声が聞こえて来る中、電話は切られた。


「出動?」


「これが俺たちの仕事だからな。まぁ、それじゃ。」


ケインはサザールに手を挙げて一言言うと駆け足で現場に向かった。
 
 現場に着くと、デモ隊は想像以上の規模に膨れ上がっていて、機動隊員だけではとても収拾のつかない状態だった。すると保安庁の特車隊の放水車がけたたましいサイレンを鳴らしながら群衆に向かって放水を開始した。あっという間に路上が水浸しになった。それでもデモ隊は怯む事なく、抗議活動を続けた。


<1機から本部、デモ隊は暴徒化しており現場は非常に危険な状態です。指示を乞います。どうぞ>


州警の機動隊員が無線で連絡していた。


<本部から1機、催涙弾の使用を許可する。>


漏れた無線をケインは聞き逃さなかった。


「おい、催涙弾用意しろ。」


ケインが近くにいた課員に言った。しかし、課員は戸惑った感じで中々動かなかった。それにシャロンも強く反発した。


「本庁許可も無いのに、勝手に使うなんて駄目に決まってるじゃ無い!」


「州警は使うんだよ。もしバレてもおとぼけを決め込めば良いのさ。」


シャロンは反対の態度を取った。どっちつかずの課員らを見てケインはこう言った。


「心配すんな。なんせ、州警が撃ち込むんだから。」


しばらくすると理解した課員らは、乗り気で発射器を持って来た。シャロンはため息を吐いて、「もう好きにしなさい」と投げやりに言った。こうして特警課は機動隊員が撃ち終わるその時まで、どさくさに紛れて撃ち続けていたのであった。















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