プロテアの星空

ルイ

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『ガガッ……ピオニー、303号室へ』

 通信機からピオニーの名前が呼ばれる。しかも、303号室は"常連"で、ピオニーをひどく気に入っている相手だ。幸い、彼女が仕事を終えて戻って来た時には、暴行や罵倒を浴びた様子は見られない。最初のうちは、いつか相手の本性が現れるのではないかと警戒していたが、今ではその心配が杞憂だったと分かっている。

「アレックス少佐ね。じゃあアサ、またあとで」

「ああ、気をつけて」

 ピオニーを見送ったあと、まだ呼ばれていない子達がコソコソと話し始めた。

「アレックス少佐って絶対……だと思うわ」
「確かに確かに!」
「ピオニーは気づいてるのかな?」
「気づいてないんじゃない?」
「だいたいピオニーは……のことしか見てないし」

 ところどころ聞き取れないが、楽しそうに会話を続けていた。

 アレックス少佐ーーこの基地を管理しているアルバート少佐の補佐役だ。同じ少佐ではあるが、現在所属している基地が大規模なこともあり、2人体制で管理をしている。風の噂では、どちらかが中佐に昇進し、いずれ一本化されるという話もある。
 そんな噂の人物が、ピオニーに惚れているらしい。ピオニー本人から聞いた話では、呼び出しされるものの雑談をして終わりだそうだ。この基地では変わった行動とされ、フラワーの子達も憶測を立てるほどの不思議な出来事であった。


 ピオニーがアレックス少佐の元へ向かってしばらくした後、基地内に緊急警報が鳴り響いた。突然の警報音に、アサは胸騒ぎを覚えた。何が起きているのかと外を見渡すと、兵士たちが慌ただしく走り回っている。

(何が起こった……?)

 兵士たちの会話の断片が耳に入ってくる。

宇宙そらの奴らが来た!」

「あいつらが!? 何のために……?」

 宇宙そら――それは地球を捨てた人々を指す言葉だった。男たちが最も憎んでいる存在であり、女性よりも激しい敵意を抱いていた。アサは、なぜこのタイミングで宇宙そらが現れたのか、全く理解できなかった。

 基地全体が緊張感に包まれ、戦闘態勢に入っていた。兵士たちは次々と武器を手に取り、出動準備を進めている。アサはその様子を見て、何か胸が締めつけられるような感覚を覚えた。

 その時、アルバート少佐がアサに近づいてきた。

「アサ、ここにいろ」

「しかし……!」

「お前には武器が支給されていないだろう? 基地内で待機していろ」

 アサは言葉を飲み込んだ。彼女には武器を持つことが許されていない。軍からは、問題を起こす可能性があると見なされているため、他の兵士たちと同じように戦闘に参加することはできないのだ。

「ここでおとなしくしていろ」

 その言葉を残して、少佐は他の兵士たちと共に急ぎ足で出て行った。アサはその背中を見送りながら、心の中で葛藤が渦巻いていた。彼女もまた、この異常事態に対して何かしなければならないと感じていたが、与えられた役割は、ただ待つことだけだった。
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