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本編

24 爆乳ホルスタインさん

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 俺は商業街のベンチで仰向けになりながら異世界プラネタリウム、ようするに満天の夜空を楽しんでいた。

 なにせ、異世界の初日なのだ。

 興奮してしまって、眠ることなどできやしなかった。

 もしかしたら、昼寝をしたせいかもしれないけれども。

 それに、夜空を眺めているだけでも十分に楽しい。

 星が綺麗だし、流れ星は降りまくりで、本当に幻想的なのだ。

 いつも部屋に引きこもっていた俺が、今や、異世界の街中のベンチでワイルドに野宿とは、いやはや、人生ってやつは本当にどうなるのか分からないものだな。

 ただ、この非日常感は、「あー、俺、異世界に来たんだなー」と、あらためてしみじみと感じさせてくれる。


「――ったくよー! 何だよ、妙に安いなーと思えば、よく見れば亜人かよー。俺、亜人むりー、かーえーれー! かーえーれー!」

「ひー、ごめんさないー、帰りますから蹴らないでー」


 何やら、うるさいやり取りが聞こえてきたので、俺は仰向けの姿勢から、肘枕を立てて横になると、商業街の街灯と店の明かりで照らされた通りの先に目をやった。

 それなりに離れた所で、酔っ払っているのか、ろれつがあまり回っていない一人の軽装備な男性が、ふらふらとした立ち姿で、自分よりも明らかに背丈が高くて大きな女性のふくらはぎ辺りを、ぺしぺしと蹴っていた。

「わーん、ごめんなさいー、ごめんなさいー、えーん」

 この大柄な女性が腕をぶん回せば、酔っぱらいの男など一撃で沈みそうだが、見た目に反して女性は目元に手をやってピーピーと泣いている。

 酔っ払いが足蹴りを空振ったのを見計らって、女性はその場から「とてとて!」と小走りで、こちらに向かって逃げ出してきた。

 おー、近づいてくる近づいてくる。

 というか、デカ!

 あの距離であのデカさだからな、近づいてくると更にデカイ!!

 もはや、山を見上げるようだ。

 ……て、俺、ベンチに寝転んでたわ。

 俺のベンチに近づいてくると「とぼとぼ」と歩く速度が落ち始め、目元に手を添えながら「えーんえーん」とめそめそしている巨体なお姉さん。

 見た目と、行動のギャップが凄い。

 俺が座るベンチの周囲は、あまり明かりがないので、巨大なお姉さんの詳細な姿は分からなかった。

 俺は寝転んでいたベンチから起き上がると、ベンチに腰かける。

 俺の座るベンチより少し離れた所を、巨大な影のお姉さんは「しくしく」としゃくりながら通り過ぎていく。

 俺はそれを目線だけで追いかけて、巨大な影のお姉さんの背中を見送った……のだが、巨大な影のお姉さんは途中でピタリと立ち止まると、暗闇の中で、じっと、その場から動かなかった。

 止まらないで、怖いよ。

 怖い、怖い。

 巨大な影のお姉さんが、ふい、とこちらに体を向けると、とてとて、と近づいていくる。

 しかも「しくしく」泣きながらだ。

 怖い怖い、怖いから!

 異世界でホラーとかノーサンキューだから!

 暗闇を「ぬっ」と抜けてきた巨大なお姉さんが、俺の前で仁王立ちする。

 ただ、今もまだ目元に手を添えながらメソメソしていた。

「あのー、あのー、すみませんー」

 巨大なお姉さんは、見た目とのギャップまみれなのか、何とも可愛らしくものんびりとした声を発してくる。

 俺は巨大なお姉さんを見上げると、うはー、と心の中で驚きに満ちた声を呟いた。

 これだけの至近距離になって、やっと巨大なお姉さんの姿を、俺は詳細に確認することができたのだが、これがまた、何とも凄かった。

 たぶん、180cm超えの長身、大柄な体に負けないほどの柔らかそうな爆乳を大きなブラで支え、際どいハイレグショーツをはいているだけ。

 白い肌が9割、ほぼ裸体。

 見るだけで、エロい、という感情しかわいてこない。

 目のやり場に困るわー。

 ちなみに、ブラとハイレグショーツの柄は、なぜか白地に黒の斑点、いわゆる牛柄だ。

 金髪のふんわりロングに、何やら動物の耳らしきものと、その耳のすぐ上に角らしきものが、側頭部の両側に生えている。

 なにこれ、乳牛娘のコスプレか?

 というか、そんな際どいオタク文化がこの異世界にあるのだろうか。

 もし、そうならば、異世界の性風俗文化、侮りがたし。

 いやー、それにしても、足が長いね。

 見るだけで圧巻の、むちむちナイスバディの爆乳さんやで。

 しかも、全体的な見た目は、露骨な乳牛コスプレも合わさってか、超ダイナマイツな金髪アメリカン女性のような雰囲気があった。

 ちなみに、なぜか、足は素足である。

「あのー、あのー」

 メソメソと泣きながら話しかけてくる爆乳ホルスタインさん。

「なんでしょうか」

「あのー、あのー」

「はいはい、なんでしょう」

「あのー、あのー……えーん」

 泣き出した。

 メンタルが、ガラスっぽい。

 分かる。

 分かるけれども、話が進まないよ。

 俺は、ベンチの右端に体を移動させると、空いた箇所をぽむぽむと叩いた。

「まーまー、お座りなさいな、お姉さん」

「えーん……、い、いいのー?」

「いいよー」

「あ、ありがとうー、わはーい」

 爆乳ホルスタインさんは、目元から手をどけると、涙目のままだが、嬉しそうに俺の横にどっしりと腰をおろした。

 俺は、ぼんやりと爆乳ホルスタインさんの横顔を見上げてしまう。

 いやー、さすがは西洋風異世界人、目鼻立ちがしっかりしているし、凄い美人さんやで。

 いつまででも見ていられそうな程の、見事に整った美形さんである。

 北欧女神様、スプリンター御姉様ときて、爆乳ホルスタインさん。

 この異世界の女性のレベルの高さは、どうなってるんだよ。

 女神しかおらんのか。

 真隣にいる爆乳ホルスタインさんが、俺の方に顔を向けてくるので、自然と視線がぶつかり合う。

 俺は本当に無意識レベルで、反射的に顔を前に向けて視線を逸してしまった。

「えーん」

 俺に無視されたと思った爆乳ホルスタインさんがまた泣き出す。

「あー、ごめんごめん、ついつい体の反応だからね。無視をしたわけじゃないからね」

 美人さんを前に少しばかり緊張するのは事実だが、俺は気を取り直して、爆乳ホルスタインさんと「超近距離」で視線を交わした。

 これでも、北欧女神様なエルさんとディープキスまで接近した男なんだぜ。

 もはや、これぐらいの超近距離での美人さんとの会話など、どうってことはない。

 うん、ないないあるよ。

「あのー、わたし、娼婦でしてー」

「ほう、そうでしたか」

「でも、星無しなのー」

「……ほしなし?」

「星無しは、星無しなのー」

 うん、分からん。

「一ツ星は星1個でしょー? でも、わたしは、星ゼロ個なのー」

「あー、それで星無し、か」

「そうなのー。立ちんぼ、とか呼ばれる時もあるよー、でも、星無しというと皆、分かるみたいー」

「へー」

「それで、わたしー、15分、銅粒1つでいいのー」

 あー、娼婦さんの客引きでしたか。

 納得。

 それにしても、銅粒1つって100円程度やで?

 どれだけ安いねん。

「もし、お金がダメだったらー、「合成食レーション」1つでもいいのー」

 ぶわっ、泣ける。

 お金の代わりに「合成食レーション」(これも1つ100円)でやらせてくれるって、この異世界、女性の厳しさに、まだ下があったのかい。

「お姉さん、そんなに綺麗で魅力的なのに、どうして星無しなのさ。せめて、一ツ星娼館で働きなよ」

「えー!? わたしのこと、綺麗に見えるのー?」

「見えるよー」

「わはーい! 生まれて初めて言われたー! お兄さんありがとー!」

 ぶわわっ、涙があふれてとまらんち。

 どんだけ、不憫(ふびん)な思いをしてるんや爆乳ホルスタインさん。

「でもー、それはダメなんだってー」

「どうして」

「わたしたちは亜人だから、ダメなんだってー」

「あじん……おー、亜人か!」

 ファンタジーは大好きだからな。

 亜人は分かるよ分かる。

 ってことは、何ですか。

 この爆乳ホルスタインさん、コスプレじゃなくて本物ってことか?

 つまり、乳牛型ミノタウロス女性ってことかっ!?

 俺は思わず、爆乳ホルスタインさんの耳をつまんでもみもみしてみた。

「いやーん」

 爆乳ホルスタインさんの牛耳が、ぶるんぶるん振り回すようにバタバタと動きまくる。

 お……おぉぉ……、と、尊い。

 リアルなミノタウロス女性、尊いわ。

 俺が感動していると、ふいに爆乳ホルスタインさんのお腹が「どぎゅるるるるんっ!」と豪快に鳴った。

「あうー、お腹がー」

 爆乳ホルスタインさんは目を×印にしそうな勢いでへこたれながら、お腹を両手でさすさすと擦る。

「お腹が減っているのかい?」

「うんー」

「そうかいそうかい、それは辛いね」

 俺は道具袋から最後の「合成食レーション」を取り出すと、爆乳ホルスタインさんの、むっちむちな太ももの上に置いてあげた。

「ほわー!?」

「どうぞ召し上がれ」

「お兄さん、私を指名してくれるのー!?」

「ん?」

「ありがとうー!!」

「え、あ?」

 そういえば、銅粒1つか、「合成食レーション」1つでもOKとか言ってたな。

 いや、もう、ちょっと、今は北欧女神様なエルさんとの楽園パーリーで、ちょいと満足気味、というか余韻よいんを楽しんでますから、今は、結構です。

 それに、今は、異世界の冒険者面して、夜空をワイルドに楽しんでいる厨二野郎ですから。

「ああ、いい、いい、別にセックスは今度でいいから、それはお食べ」

「ほ、ほんとー!? お兄さん、ほんとー!?」

 俺の言葉が信じられないのか、何度も聞き返してくる爆乳ホルスタインさん。

「ほんとー、ほんとー」

 俺も間延びした言葉で何度も返事をする。

「わはーい、わはーい、やったー」

 爆乳ホルスタインさんは袋をバリッと破ると、ショートブレッド風の棒を指先でつまみ出して、バグッと一口で口内に放り込むや、まぐまぐと元気に食べる。

 そこは、見た目通り豪快やね。

 あと、そんなパサパサした食べ物を、一気食いて、大丈夫なのかいな。

 だが、爆乳ホルスタインさんは、特に気にする様子もなく、ごくりと飲み込んだ。

 うーん、パワフル。

「――ぐぎゅるるるるんっ!!!」

 しかし、やはり、この巨体の空腹感を満たすには「合成食レーション」1個では、心許ないようであった。

「きゃー、はずかしいよー」

 爆乳ホルスタインさんは目を×印にしそうな勢いで頬を真っ赤にしながら、お腹を両手でドスドスと叩いてごまかそうとする。

 やめて、やめて、見た目が豪快すぎて痛い痛い。

「ちょっと、待ってな」

「へ?」

 俺はベンチから立ち上がると、近くでまだ開いている「配給店」に入り、「合成食レーション」を10個買い入れ、水筒の魔素水を満タンにして、小走りでベンチに戻った。

 俺は両腕に抱えていた合成食を、爆乳ホルスタインさんのむっちむちな両ふとももの上に、どさっと落とす。

「え、とー、え、とー」

 合成食と俺の顔を交互に見る爆乳ホルスタインさん。

 俺は、ベンチに座ると、爆乳ホルスタインの横に魔素水入りの水筒を置いてあげた。

「それ、食べな。あと、これ水ね。飲みたければどうぞ」

「い、いいのー?」

「いいよー」

「わはーい、わはーい」

 爆乳ホルスタインさんは、袋をちぎっては食べ、ちぎっては食べ、ちぎっては食べ、間に水をゴクゴクしつつ、ちぎっては食べた。

 うーん、見ているだけで爽快な食べっぷり。

 俺はちぎっては捨てられる袋ゴミを拾い集めては、道具袋に詰め込んでいく。

 綺麗な街だから、ポイ捨ては気が引ける。
 あとでゴミ箱にインしておこう。

「ふー、美味しかったー」

 爆乳ホルスタインの太ももの上には、合成食が3つ残っていた。

「まだ、残ってるよ?」

「これはねー、お友達に持って帰りたいのー、いいかなー?」

 ぶわっ、エエ子やなー。

「いいよ、いいよ。持って帰ってあげな」

 他にも爆乳ホルスタインさんみたいな、ミノタウロス娘さんがいるのかな?

 いや、それだと3つでは足りないような。

 そう考えると、さすがは爆乳ホルスタインさん族、食費が凄そうだ。

 これで、よく生き延びてこられたな……。

 いや、そういえば、この「合成食レーション」は、腹は減るが栄養はあるんだったな。

 ってことは、合成食を買う金があまり無いと、1日1食で栄養は何とか足りても、常に空腹感には苦しめられるということか。

 辛い、異世界、辛い。

「3つで足りるのかい?」

「大丈夫だよ。わたしのお友達は、わたしとは違うからー」

 あ、そうなのね。

「きっと、今頃わたしと同じように、お腹を空かせているだろうから、わたし、帰るねー」

「あいよ」

 爆乳ホルスタインさんは、ひょいとベンチから立ち上がる。

「お兄さんありがとうー、今度、お礼をしにくるねー」

「べつに気にしなくていいよー」

「だめだよー」

「そう? じゃあ、俺は、時々、ここのベンチでだらだらしているから」

「わかったー、ばいばーい!」

 爆乳ホルスタインさんが元気に手を振ってくるので、俺も振り返した。

 爆乳ホルスタインさんは、「もー♪ もー♪」と楽しそうに歌いながら、どこかへと帰っていくのであった。

 俺は嵐のように去っていった爆乳ホルスタインさんの大きな背中を、見えなくなるまで見つめ続けた。

 いやー、異世界ファンタスティック。

 さすがは異世界、亜人さんもいたかー。

 ミノタウロス娘の大柄な爆乳ホルスタインさん。

 肉付きの良いエッロい体やで。

 もし、また会えたら、今度はお願いしてみようかな。

 俺は、再びベンチに寝転ぶと、夜空をぼんやりと眺め続けるのだった。
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