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【短編】君の事が忘れられなくて ――― あなたとの思い出をただ偲ぶ ―――
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ブランド物の腕時計が味のある光を映す、輝きの溢れる朝の街に車を走らせる。
この都会の街に引っ越してきてから、7年が経った。
歳も取り、既に三十四の歳となる。
そんな思考の中、目的地のすぐ近くへと着いた俺は、少し高いコインパーキングに車を駐めた。
そして、ふと思う。
―――君と出逢ったのは、まだ十代の頃だったね。
◇
沢山のそれが並ぶ道を歩く彼は、目的の場所へと歩き始める。
そして、目的のそれの前に足を止めた僕は、彼女の好物だった桃のゼリーを彼女の前に置く。
一拍。
「……久しぶりだね」
―――うん、久しぶり。
「……あぁ、そうだね」
返答するように頭の中に響いた声に動揺にしながらも、耳に残るその声を頭に刻み込む。
そして、彼女との間に産まれた愛の結晶―――愛娘の事を思い浮かべた彼は、再び、ゆっくりと話し始める。
「愛海は、四歳になったよ……今は妹に預けていてね、連れて来れなくてごめんよ、愛海は君に似て甘えるのが好きでね」
日に日に容姿まで君に似ていくんだろうね……とは、言えなかった。
だから―――
―――大きくなったら、私に似るのかな?
―――頭の中に響いたその声に、思わず、嚥下した唾液を詰まらせた。
「……あぁ、日に日に君に容姿が似ていって……少し……嬉しく思ったよ」
―――ふふっ、やっぱり?
記憶に刻まれた光景を思い出し、彼女もそう言うのだろうか……? そんな事を考えながら、頭の中に響く彼女の声を新たに記憶に刻み込む。
それから暫く、たわいもない話をしてから、思い出話に移り変わる。
「―――それでさ、今日は12月24日、クリスマスイヴでしょ? ……懐かしい日々を思い出すよ」
彼女との、〝友人〟としての最後のデートを……〝恋人〟としての始まりを過ごした日。
「クリスマスイヴ―――聖夜の輝きが舞う都会の光景に圧倒されながら、2人で街を歩いたね」
―――うん。
「ここに来たのも、あの日が初めてで……手を繋ぎたくて……何度も手が触れ合って、その度に恥ずかしくなってお互いに離れて……」
―――うん。
「……大きくて綺麗なイルミネーションの前で告白する予定だったのに……想いが溢れて、我慢できなくなっちゃって……道の真ん中で、沢山の人がいる前で告白しちゃって……今考えると、迷惑だったかなぁって思う……けど、失敗して恥ずかしがる俺を見て、君が微笑んでくれたのは嬉しかったよ」
―――そうだね……あの時は、思わず私も笑っちゃったなぁ……
「ははっ、そうだね……でもね、君が笑顔で居てくれるだけでも、幸せだったんだ……」
―――ごめんね……
一拍。
「……謝らないでくれよ……泣きたくなるだろ……」
―――うん……
「……君には、言った事は無かったと思うんだけどさ……初めて逢った時には、もう、心の底から君に惚れてたんだ」
一目惚れってヤツだね……なんて言って、笑う。
―――ふふっ、そうだったの? 嬉しいなぁ……
返ってくる幻聴に哀愁を湧き上がらせながら、それでも……再び彼女の声を聞けた事に喜びを感じる。
「愛海が産まれた時はなんかはさ……俺、慌て過ぎて逆に冷静になっちゃって……病院の人達には、ちょっと、凄い目で見られちゃったんだよ……」
ははは……と、苦笑を溢しながらそう伝える。
それからも思い出話を続けて……あの聖夜の日の翌日、クリスマスに彼女から贈られたプレゼントであるブランド物の腕時計を見て、最後の話に入る。
「……君を失ってから、もう3年が経ったよ」
―――そう……
「……」
―――私の事は……忘れられて……無さそうだね……
その声に、苦笑を溢す彼女の姿を幻視する。
「……君の事が忘れられなくてね……ずっと、職場の後輩からのアプローチは断っていたんだ……」
―――そうなんだ……
今度は、少し不機嫌な彼女を幻視した。
「……ははっ、そう不機嫌にならないでくれよ、君の事を忘れようとしている訳じゃないんだから……彼女は良い子だよ、君の事もちゃんと気遣ってくれてるし……明るくて…元気で…たまに、君の面影が重なる事があるんだ……」
―――うん…ちゃんと……分かってはいるよ……だけど、あなたを奪られると思うと……やっぱり嫌なの……
「……やっぱり、彼女の誘いは断るよ……」
―――ううん、断らなくて…いいよ……
「……えっ?」
―――嫌だよ? ものすごく嫌だけど……愛海はね、甘えん坊なんでしょ? だったら……お母さんもいてあげた方がいいでしょ……?
何故……という感情が溢れたが、彼女の声を聞いて……納得した。
あぁ……君は、そういう女性だったね……
嫉妬深いけど、ちゃんと他人の事を考える事ができて……甘えん坊だけど、素直には甘えられないような、愛らしい女性だった。
「……君の事は、多分……いや、絶対に一生忘れられないと思う……」
───ありがとっ。
幻視した彼女は……少し不機嫌な顔で、けれど頬は朱に染まっていて、声には喜色が滲んでいて……それが照れ隠しだって事が分かって、どうしようもなく嬉しくなる。
「……忘れられないと思う……けどさ、前には進もうと思うよ」
───うん、それが■■らしいよ。
今度は、少し誇らしそうに……けれど、そこには隠しきれない程の寂寥感が滲んでいて……
―――頑張ってね……?
「……あぁ…そうだね……」
滲む視界に少しの勇気を湧き上がらせながら、俺は立ち上がった。
「……また……今度はいつもよりも早く来るよ……」
その言葉を残して、背を向けた。
―――うん……ありがと……
彼女の声に、今度は心の中で言葉を返す。
―――俺の方こそ…ありがとうだよ……
―――君が、俺の人生を彩ってくれたんだ……
―――また…近い内に来るよ……■■。
この都会の街に引っ越してきてから、7年が経った。
歳も取り、既に三十四の歳となる。
そんな思考の中、目的地のすぐ近くへと着いた俺は、少し高いコインパーキングに車を駐めた。
そして、ふと思う。
―――君と出逢ったのは、まだ十代の頃だったね。
◇
沢山のそれが並ぶ道を歩く彼は、目的の場所へと歩き始める。
そして、目的のそれの前に足を止めた僕は、彼女の好物だった桃のゼリーを彼女の前に置く。
一拍。
「……久しぶりだね」
―――うん、久しぶり。
「……あぁ、そうだね」
返答するように頭の中に響いた声に動揺にしながらも、耳に残るその声を頭に刻み込む。
そして、彼女との間に産まれた愛の結晶―――愛娘の事を思い浮かべた彼は、再び、ゆっくりと話し始める。
「愛海は、四歳になったよ……今は妹に預けていてね、連れて来れなくてごめんよ、愛海は君に似て甘えるのが好きでね」
日に日に容姿まで君に似ていくんだろうね……とは、言えなかった。
だから―――
―――大きくなったら、私に似るのかな?
―――頭の中に響いたその声に、思わず、嚥下した唾液を詰まらせた。
「……あぁ、日に日に君に容姿が似ていって……少し……嬉しく思ったよ」
―――ふふっ、やっぱり?
記憶に刻まれた光景を思い出し、彼女もそう言うのだろうか……? そんな事を考えながら、頭の中に響く彼女の声を新たに記憶に刻み込む。
それから暫く、たわいもない話をしてから、思い出話に移り変わる。
「―――それでさ、今日は12月24日、クリスマスイヴでしょ? ……懐かしい日々を思い出すよ」
彼女との、〝友人〟としての最後のデートを……〝恋人〟としての始まりを過ごした日。
「クリスマスイヴ―――聖夜の輝きが舞う都会の光景に圧倒されながら、2人で街を歩いたね」
―――うん。
「ここに来たのも、あの日が初めてで……手を繋ぎたくて……何度も手が触れ合って、その度に恥ずかしくなってお互いに離れて……」
―――うん。
「……大きくて綺麗なイルミネーションの前で告白する予定だったのに……想いが溢れて、我慢できなくなっちゃって……道の真ん中で、沢山の人がいる前で告白しちゃって……今考えると、迷惑だったかなぁって思う……けど、失敗して恥ずかしがる俺を見て、君が微笑んでくれたのは嬉しかったよ」
―――そうだね……あの時は、思わず私も笑っちゃったなぁ……
「ははっ、そうだね……でもね、君が笑顔で居てくれるだけでも、幸せだったんだ……」
―――ごめんね……
一拍。
「……謝らないでくれよ……泣きたくなるだろ……」
―――うん……
「……君には、言った事は無かったと思うんだけどさ……初めて逢った時には、もう、心の底から君に惚れてたんだ」
一目惚れってヤツだね……なんて言って、笑う。
―――ふふっ、そうだったの? 嬉しいなぁ……
返ってくる幻聴に哀愁を湧き上がらせながら、それでも……再び彼女の声を聞けた事に喜びを感じる。
「愛海が産まれた時はなんかはさ……俺、慌て過ぎて逆に冷静になっちゃって……病院の人達には、ちょっと、凄い目で見られちゃったんだよ……」
ははは……と、苦笑を溢しながらそう伝える。
それからも思い出話を続けて……あの聖夜の日の翌日、クリスマスに彼女から贈られたプレゼントであるブランド物の腕時計を見て、最後の話に入る。
「……君を失ってから、もう3年が経ったよ」
―――そう……
「……」
―――私の事は……忘れられて……無さそうだね……
その声に、苦笑を溢す彼女の姿を幻視する。
「……君の事が忘れられなくてね……ずっと、職場の後輩からのアプローチは断っていたんだ……」
―――そうなんだ……
今度は、少し不機嫌な彼女を幻視した。
「……ははっ、そう不機嫌にならないでくれよ、君の事を忘れようとしている訳じゃないんだから……彼女は良い子だよ、君の事もちゃんと気遣ってくれてるし……明るくて…元気で…たまに、君の面影が重なる事があるんだ……」
―――うん…ちゃんと……分かってはいるよ……だけど、あなたを奪られると思うと……やっぱり嫌なの……
「……やっぱり、彼女の誘いは断るよ……」
―――ううん、断らなくて…いいよ……
「……えっ?」
―――嫌だよ? ものすごく嫌だけど……愛海はね、甘えん坊なんでしょ? だったら……お母さんもいてあげた方がいいでしょ……?
何故……という感情が溢れたが、彼女の声を聞いて……納得した。
あぁ……君は、そういう女性だったね……
嫉妬深いけど、ちゃんと他人の事を考える事ができて……甘えん坊だけど、素直には甘えられないような、愛らしい女性だった。
「……君の事は、多分……いや、絶対に一生忘れられないと思う……」
───ありがとっ。
幻視した彼女は……少し不機嫌な顔で、けれど頬は朱に染まっていて、声には喜色が滲んでいて……それが照れ隠しだって事が分かって、どうしようもなく嬉しくなる。
「……忘れられないと思う……けどさ、前には進もうと思うよ」
───うん、それが■■らしいよ。
今度は、少し誇らしそうに……けれど、そこには隠しきれない程の寂寥感が滲んでいて……
―――頑張ってね……?
「……あぁ…そうだね……」
滲む視界に少しの勇気を湧き上がらせながら、俺は立ち上がった。
「……また……今度はいつもよりも早く来るよ……」
その言葉を残して、背を向けた。
―――うん……ありがと……
彼女の声に、今度は心の中で言葉を返す。
―――俺の方こそ…ありがとうだよ……
―――君が、俺の人生を彩ってくれたんだ……
―――また…近い内に来るよ……■■。
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