1 / 1
日常
しおりを挟む
なんでもない日。
いつものように日中は仕事して、ため息吐きながら家に帰って来て、寝るまでの僅かな時間を趣味に費やす……そんな、なんでもない日。
「ただいま久梨原」
ネクタイを解きながら、リビングに向けてそう告げる。
俺、滝宮理人はアパートの一部屋を借りて暮らしているが、一人暮らしではなく……久梨原という小学から大学まで一緒だった女友達と同棲している。
ただ勘違いしないで欲しいのは、俺達は別に付き合っている訳ではない。勿論そういう気も無いし、あくまで友達である。
何故同棲する事になったのかは、あまり深い意味は無い。ただ親元を離れて自分の給料だけで生活していくという一人暮らしには憧れがあったというだけだ。
だが二人で一つの部屋を借りて暮らした方がお互い使えるお金が増えるからと久梨原の方から同棲を提案してきた。
「おかえり理人……今日は早いんだな……?」
久梨原は昼から今に至るまでずっと昼寝していたのか、ピンク色の女の子らしいパジャマの格好で眠そうに目を擦りながらベッドから起き上がる。
今の時刻は16時24分。普通のサラリーマンが帰ってくるには少し早い時間帯だ。
因みに久梨原も働いているが、正社員ではなく夜の20時からホテルの清掃員のパートをしている。
「おう。仕事終わって暇だったから帰ってきた」
「……ごめん理人、晩飯の準備なんもしてない」
「だろうな。どうする、今日は俺が作ろうか」
「いい。おまえ料理下手だし」
「おいコノヤロー」
俺の反応に“言ってやったぜ”と言わんばかりにニヤリと笑いながら、久梨原はキッチンの方へ歩いていった。
「……あ、聞くの忘れてた。理人、おまえ今何食べたい?」
「え? そうだな……“なんでもいい”は?」
「じゃあおまえのと同じ大きさの生ウィンナー1本でいいな」
俺の要望を聞いた久梨原は、むすっとした表情をしながら俺の方に包丁を向けてそう言ってきた。
「冗談に決まってるだろ。その返答が一番困る事くらい知ってるしな」
「じゃあ何食いたいのかさっさと言えっ。今のあたしは眠くて若干不機嫌モードなんだ」
「じゃあペロペロンチンチーノ」
俺は普通にペペロンチーノと言えばいいものの、何故かボケてそう言った。最初は“?”となるだろうが、まぁすぐにわかるだろう。
「あ? ……はぁ、あぁそうかわかった」
久梨原は一瞬眉間に皺を寄せた後、言葉の意味を理解したのか呆れたようにため息を吐く。すると怒りをぶつけるようにまな板に包丁を刺して、ゆっくりとこちらに歩みを寄せて来た。
「え……何だ? マジで怒ったなら謝るよ……」
俺は久梨原が怒っているのだと思い、こちらに近づいてくる久梨原に向けてそう言った。
「……たてよ」
「え? おう」
俺は意味がわからず、言われるがままに立ち上がった。
「ちげーよここだ」
「……ひゅっ!?」
すると突然、久梨原はぐいっと距離を詰めてきて、優しく包み込むように俺の股間に手を当ててきた。
今までは精々下ネタを言い合っていたまでだったが、こうやって恥部に直接触れてきたのは今回が初めてだった為、俺は驚きで思わず変な声を出してしまった。
「ほら、お望み通りシてやるから勃てよ」
久梨原はニヤニヤと悪い笑みを浮かべながら下唇をチロリと舐め、俺の股間を刺激するように細い指をぐにぐにとゆっくり優しく動かしてきた。
「お、おい……さっきのはただのボケだぞ、間に受けるなよ……!」
「……あたしが本当にする訳ないだろ、こっちこそただのボケだよ。大体、おまえに対してはそういう気持ちになれないしな」
久梨原は先程とはまた違った満足げな笑みを浮かべながらそう言うと、呆気なく俺の体から離れてキッチンに戻って、冷蔵庫を開けたり棚を開いたりして料理の準備に取り掛かった。
「こっちのセリフだコノヤロー」
俺はなんだか負けたような気分になって、そんな負け犬の遠吠えみたいな事を久梨原の背中に向かって言った。
「……なぁ理人」
「ん?」
「何でペペロンチーノなんだ? もっと色々あるだろ、ほら……鰻の蒲焼とかさ」
「何でそんな高いもんを例えに出すんだよ」
「美味いから。特にタレ」
「タレが美味いんなら鰻じゃなくていいだろ」
「うるさいな、とにかく何でペペロンチーノなんだよ」
「だって久梨原の作るペペロンチーノ美味いから。ただそんだけ」
「……そ」
久梨原はそう返した。表情は見えないが、きっとつまらなそうな表情をしているのだろう。
そして乾燥パスタを熱湯の入った鍋に綺麗に入れた後、何故かこちらに体を向けて再び近づいてきた。
「今度はなんだよ」
「……こんっ」
久梨原は狐の形にした手を俺に見せつけると、その手で俺のおでこを割と強い力で突いてきた。
「痛てっ、なんだよ」
「——ばーか。ペペロンチーノに限らず、あたしが作る料理は全部美味いだろ」
いつものように日中は仕事して、ため息吐きながら家に帰って来て、寝るまでの僅かな時間を趣味に費やす……そんな、なんでもない日。
「ただいま久梨原」
ネクタイを解きながら、リビングに向けてそう告げる。
俺、滝宮理人はアパートの一部屋を借りて暮らしているが、一人暮らしではなく……久梨原という小学から大学まで一緒だった女友達と同棲している。
ただ勘違いしないで欲しいのは、俺達は別に付き合っている訳ではない。勿論そういう気も無いし、あくまで友達である。
何故同棲する事になったのかは、あまり深い意味は無い。ただ親元を離れて自分の給料だけで生活していくという一人暮らしには憧れがあったというだけだ。
だが二人で一つの部屋を借りて暮らした方がお互い使えるお金が増えるからと久梨原の方から同棲を提案してきた。
「おかえり理人……今日は早いんだな……?」
久梨原は昼から今に至るまでずっと昼寝していたのか、ピンク色の女の子らしいパジャマの格好で眠そうに目を擦りながらベッドから起き上がる。
今の時刻は16時24分。普通のサラリーマンが帰ってくるには少し早い時間帯だ。
因みに久梨原も働いているが、正社員ではなく夜の20時からホテルの清掃員のパートをしている。
「おう。仕事終わって暇だったから帰ってきた」
「……ごめん理人、晩飯の準備なんもしてない」
「だろうな。どうする、今日は俺が作ろうか」
「いい。おまえ料理下手だし」
「おいコノヤロー」
俺の反応に“言ってやったぜ”と言わんばかりにニヤリと笑いながら、久梨原はキッチンの方へ歩いていった。
「……あ、聞くの忘れてた。理人、おまえ今何食べたい?」
「え? そうだな……“なんでもいい”は?」
「じゃあおまえのと同じ大きさの生ウィンナー1本でいいな」
俺の要望を聞いた久梨原は、むすっとした表情をしながら俺の方に包丁を向けてそう言ってきた。
「冗談に決まってるだろ。その返答が一番困る事くらい知ってるしな」
「じゃあ何食いたいのかさっさと言えっ。今のあたしは眠くて若干不機嫌モードなんだ」
「じゃあペロペロンチンチーノ」
俺は普通にペペロンチーノと言えばいいものの、何故かボケてそう言った。最初は“?”となるだろうが、まぁすぐにわかるだろう。
「あ? ……はぁ、あぁそうかわかった」
久梨原は一瞬眉間に皺を寄せた後、言葉の意味を理解したのか呆れたようにため息を吐く。すると怒りをぶつけるようにまな板に包丁を刺して、ゆっくりとこちらに歩みを寄せて来た。
「え……何だ? マジで怒ったなら謝るよ……」
俺は久梨原が怒っているのだと思い、こちらに近づいてくる久梨原に向けてそう言った。
「……たてよ」
「え? おう」
俺は意味がわからず、言われるがままに立ち上がった。
「ちげーよここだ」
「……ひゅっ!?」
すると突然、久梨原はぐいっと距離を詰めてきて、優しく包み込むように俺の股間に手を当ててきた。
今までは精々下ネタを言い合っていたまでだったが、こうやって恥部に直接触れてきたのは今回が初めてだった為、俺は驚きで思わず変な声を出してしまった。
「ほら、お望み通りシてやるから勃てよ」
久梨原はニヤニヤと悪い笑みを浮かべながら下唇をチロリと舐め、俺の股間を刺激するように細い指をぐにぐにとゆっくり優しく動かしてきた。
「お、おい……さっきのはただのボケだぞ、間に受けるなよ……!」
「……あたしが本当にする訳ないだろ、こっちこそただのボケだよ。大体、おまえに対してはそういう気持ちになれないしな」
久梨原は先程とはまた違った満足げな笑みを浮かべながらそう言うと、呆気なく俺の体から離れてキッチンに戻って、冷蔵庫を開けたり棚を開いたりして料理の準備に取り掛かった。
「こっちのセリフだコノヤロー」
俺はなんだか負けたような気分になって、そんな負け犬の遠吠えみたいな事を久梨原の背中に向かって言った。
「……なぁ理人」
「ん?」
「何でペペロンチーノなんだ? もっと色々あるだろ、ほら……鰻の蒲焼とかさ」
「何でそんな高いもんを例えに出すんだよ」
「美味いから。特にタレ」
「タレが美味いんなら鰻じゃなくていいだろ」
「うるさいな、とにかく何でペペロンチーノなんだよ」
「だって久梨原の作るペペロンチーノ美味いから。ただそんだけ」
「……そ」
久梨原はそう返した。表情は見えないが、きっとつまらなそうな表情をしているのだろう。
そして乾燥パスタを熱湯の入った鍋に綺麗に入れた後、何故かこちらに体を向けて再び近づいてきた。
「今度はなんだよ」
「……こんっ」
久梨原は狐の形にした手を俺に見せつけると、その手で俺のおでこを割と強い力で突いてきた。
「痛てっ、なんだよ」
「——ばーか。ペペロンチーノに限らず、あたしが作る料理は全部美味いだろ」
0
お気に入りに追加
2
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【女性向けR18】性なる教師と溺れる
タチバナ
恋愛
教師が性に溺れる物語。
恋愛要素やエロに至るまでの話多めの女性向け官能小説です。
教師がやらしいことをしても罪に問われづらい世界線の話です。
オムニバス形式になると思います。
全て未発表作品です。
エロのお供になりますと幸いです。
しばらく学校に出入りしていないので学校の設定はでたらめです。
完全架空の学校と先生をどうぞ温かく見守りくださいませ。
完全に趣味&自己満小説です。←重要です。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
【完結】【R18百合】会社のゆるふわ後輩女子に抱かれました
千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。
レズビアンの月岡美波が起きると、会社の後輩女子の桜庭ハルナと共にベッドで寝ていた。
一体何があったのか? 桜庭ハルナはどういうつもりなのか? 月岡美波はどんな選択をするのか?
おすすめシチュエーション
・後輩に振り回される先輩
・先輩が大好きな後輩
続きは「会社のシゴデキ先輩女子と付き合っています」にて掲載しています。
だいぶ毛色が変わるのでシーズン2として別作品で登録することにしました。
読んでやってくれると幸いです。
「会社のシゴデキ先輩女子と付き合っています」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/759377035/615873195
※タイトル画像はAI生成です
【R-18】早くイッちゃえ。
緑茶
恋愛
この作品は、R-18作品になっております。レズモノです。苦手な方は自衛お願いします。短編集小説になっています。(たまに続きがある物もあります最初の方は、主の性癖が入るかもしれません。(SM等)よろしくお願いいたします。
彼女の母は蜜の味
緋山悠希
恋愛
ある日、彼女の深雪からお母さんを買い物に連れて行ってあげて欲しいと頼まれる。密かに綺麗なお母さんとの2人の時間に期待を抱きながら「別にいいよ」と優しい彼氏を演じる健二。そんな健二に待っていたのは大人の女性の洗礼だった…
連続寸止めで、イキたくて泣かされちゃう女の子のお話
まゆら
恋愛
投稿を閲覧いただき、ありがとうございます(*ˊᵕˋ*)
「一日中、イかされちゃうのと、イケないままと、どっちが良い?」
久しぶりの恋人とのお休みに、食事中も映画を見ている時も、ずっと気持ち良くされちゃう女の子のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる