友達以上、恋人未遂。

ろんれん

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日常

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 なんでもない日。
 いつものように日中は仕事して、ため息吐きながら家に帰って来て、寝るまでの僅かな時間を趣味に費やす……そんな、なんでもない日。

「ただいま久梨原くりはら

 ネクタイを解きながら、リビングに向けてそう告げる。
 俺、滝宮たきみや理人りひとはアパートの一部屋を借りて暮らしているが、一人暮らしではなく……久梨原という小学から大学まで一緒だった女友達と同棲している。
 ただ勘違いしないで欲しいのは、俺達は別に付き合っている訳ではない。勿論そういう気も無いし、あくまで友達である。
 何故同棲する事になったのかは、あまり深い意味は無い。ただ親元を離れて自分の給料だけで生活していくという一人暮らしには憧れがあったというだけだ。
 だが二人で一つの部屋を借りて暮らした方がお互い使えるお金が増えるからと久梨原の方から同棲を提案してきた。

「おかえり理人……今日は早いんだな……?」

 久梨原は昼から今に至るまでずっと昼寝していたのか、ピンク色の女の子らしいパジャマの格好で眠そうに目を擦りながらベッドから起き上がる。
 今の時刻は16時24分。普通のサラリーマンが帰ってくるには少し早い時間帯だ。
 因みに久梨原も働いているが、正社員ではなく夜の20時からホテルの清掃員のパートをしている。

「おう。仕事終わって暇だったから帰ってきた」
「……ごめん理人、晩飯の準備なんもしてない」
「だろうな。どうする、今日は俺が作ろうか」
「いい。おまえ料理下手だし」
「おいコノヤロー」

 俺の反応に“言ってやったぜ”と言わんばかりにニヤリと笑いながら、久梨原はキッチンの方へ歩いていった。

「……あ、聞くの忘れてた。理人、おまえ今何食べたい?」
「え? そうだな……“なんでもいい”は?」
「じゃあおまえのと同じ大きさの生ウィンナー1本でいいな」

 俺の要望を聞いた久梨原は、むすっとした表情をしながら俺の方に包丁を向けてそう言ってきた。

「冗談に決まってるだろ。その返答が一番困る事くらい知ってるしな」
「じゃあ何食いたいのかさっさと言えっ。今のあたしは眠くて若干不機嫌モードなんだ」
「じゃあペロペロンチンチーノ」

 俺は普通にペペロンチーノと言えばいいものの、何故かボケてそう言った。最初は“?”となるだろうが、まぁすぐにわかるだろう。

「あ? ……はぁ、あぁそうかわかった」

 久梨原は一瞬眉間に皺を寄せた後、言葉の意味を理解したのか呆れたようにため息を吐く。すると怒りをぶつけるようにまな板に包丁を刺して、ゆっくりとこちらに歩みを寄せて来た。

「え……何だ? マジで怒ったなら謝るよ……」

 俺は久梨原が怒っているのだと思い、こちらに近づいてくる久梨原に向けてそう言った。

「……たてよ」
「え? おう」

 俺は意味がわからず、言われるがままに立ち上がった。
 
「ちげーよここだ」
「……ひゅっ!?」

 すると突然、久梨原はぐいっと距離を詰めてきて、優しく包み込むように俺の股間に手を当ててきた。
 今までは精々下ネタを言い合っていたまでだったが、こうやって恥部に直接触れてきたのは今回が初めてだった為、俺は驚きで思わず変な声を出してしまった。

「ほら、お望み通りシてやるから勃てよ」

 久梨原はニヤニヤと悪い笑みを浮かべながら下唇をチロリと舐め、俺の股間を刺激するように細い指をぐにぐにとゆっくり優しく動かしてきた。

「お、おい……さっきのはただのボケだぞ、間に受けるなよ……!」
「……あたしが本当にする訳ないだろ、こっちこそただのボケだよ。大体、おまえに対してはそういう気持ちになれないしな」

 久梨原は先程とはまた違った満足げな笑みを浮かべながらそう言うと、呆気なく俺の体から離れてキッチンに戻って、冷蔵庫を開けたり棚を開いたりして料理の準備に取り掛かった。

「こっちのセリフだコノヤロー」

 俺はなんだか負けたような気分になって、そんな負け犬の遠吠えみたいな事を久梨原の背中に向かって言った。

「……なぁ理人」
「ん?」
「何でペペロンチーノなんだ? もっと色々あるだろ、ほら……鰻の蒲焼とかさ」
「何でそんな高いもんを例えに出すんだよ」
「美味いから。特にタレ」
「タレが美味いんなら鰻じゃなくていいだろ」
「うるさいな、とにかく何でペペロンチーノなんだよ」
「だって久梨原の作るペペロンチーノ美味いから。ただそんだけ」
「……そ」

 久梨原はそう返した。表情は見えないが、きっとつまらなそうな表情をしているのだろう。
 そして乾燥パスタを熱湯の入った鍋に綺麗に入れた後、何故かこちらに体を向けて再び近づいてきた。

「今度はなんだよ」
「……こんっ」

 久梨原は狐の形にした手を俺に見せつけると、その手で俺のおでこを割と強い力で突いてきた。

「痛てっ、なんだよ」
「——ばーか。ペペロンチーノに限らず、あたしが作る料理は全部美味いだろ」
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