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姦邪Ⅰ -ルィリア編-
第68話 心は叫んでいる
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鎮火した繁華街の道の真ん中には、中に雨が浸水して機能停止したアーシュのクローンが倒れていた。
……何が不老不死だ、こんなんじゃ雨降ったら終わりじゃないか。
心の中でそう吐き捨てると、俺は周囲の瓦礫で下敷きになっている人達に駆け寄り、瓦礫を退かすべく土魔術で地面を競り上げて次々と救出した。
「ありがとう……」
「ああ、無理するなよ」
目に見える限りでは最後の一人を見送ると、俺はため息を吐いてその場に座り込んだ。別に疲れた訳でもない、きっとまだ瓦礫に埋もれたまま助けを求めている人がいる筈だ。
……そうだ、まだ助けを必要としてる人が。そう思い、立ち上がって一歩を踏み出した時だった。まるで足で地面にあったスイッチを押してしまったかのように、突然今日の出来事がフラッシュバックした。
ネフィラの死。
ルィリアの衝撃の事実。
シャーロットの犠牲。
「…………ダメだ、みんなを助けないと」
今日は精神的にキツい出来事が多過ぎた……人を助ける事に集中してなければやってられない。俺は自分の頬を叩いて、人々を助けるべく重い足を前へ前へと踏み出そうとする……が、足を一歩踏み出す度、まるで肩に大きな岩を乗せられていくかのように、今日の出来事がフラッシュバックして身体全体が重たくなっていく。更には、今日以前の出来事までフラッシュバックしてきてしまう。
シャーロットとシオンの過去の事。
王族となったシェリルと再会してしまった事。
自分が代償の副産物として生まれてきた事。
家出をして、久遠に苦しい思いをさせた事。
シェリルに殴られ続けていた日々の事。
久遠を救えず、自殺した日の事。
……気がつくと、俺の目から涙が出ていた。全くの無意識だった。
「……ぁ……あぁ……くっ……ぅうう……うぁぁあ……あああああああ……」
涙を流している自覚をした途端、言葉を発する事が出来なくなってしまい、その場に膝をついて崩れてしまった。だがきっと……言葉を流暢に喋れたとしても、今の自分の感情を言語化する事は出来なかっただろう。
「……零、にぃちゃん?」
突如、この場にいない筈の久遠の声が聞こえた。俺は後ろに振り返ると、そこには騎士団総団長のカナンと……久遠が確かにそこにいた。
「あ……く、久遠……な、なんで……」
「苦渋の決断だったのだ。これ以上団員を死なせる訳にはいかない上、フェリノート殿の側から離れる訳にもいかなかったのでな」
「カナン……事はもう済んだ。人々の救助も出来る限りした、でもまだ建物の中には避難が遅れた人達がいるかもしれない。ここから先は頼んでもいいか」
俺は目をゴシゴシと強く拭いて、改めて騎士団の総団長であるカナンに人々の救助を頼むと、その場を去ろうと通り過ぎる。
「なぁ、シン」
「何だ?」
「シャーロット殿とルィリア殿が見えないが、二人は何処に行ったんだ?」
「っ……」
カナンの問いに俺は足を止めたが、すぐに答えられなかった。まるで喉がキュッと締まったかのように、その一瞬だけ声を出せなくなってしまったのだ。
「……?」
「……ルィリアを連れ戻してくるよ」
「連れ戻すって、どういう」
「どうして強がるの、零にぃちゃん」
カナンの更なる問いにわざとなのか被せるように久遠が俺の背中に向けてそう問いかけた。
「…………」
「二人とも、私は救助を優先するぞ。では」
そう言うと、カナンは何処かへ向かって走っていっていった。
「……久遠も帰るんだ」
「帰らないよ。だって今帰っても私一人だもん」
「家に一人くらい騎士団員が居るだろ」
「居てもきっと頼りにならないよ」
「……」
「零にぃちゃん。何処に行くのかわからないけど、私も一緒に行く」
「来ない方がいい……きっと後悔する。俺はもう久遠に辛い思いをしてほしくないんだ」
「それは零にぃちゃんも同じでしょ」
「っ……」
「いつもそう、自分と関係ない事に毎回首突っ込んで、無茶ばっかして、その度に他人の事請け負って抱え込んでさ。私、嫌だよ。辛い思いさせたくないからって零にぃちゃんが辛い思いするの……自分だけ苦しめばいいなんて考えないで!」
「久遠……」
「正義のヒーローなんでしょ!! だったら変なとこばっか現実主義になんないで“俺が守ってやる”とか“俺の側から離れるな”の一言くらい言ってよ!! もう……私だけ何も知らないのは、生きて帰ってきてって言うだけなのは嫌なのっ!!」
久遠の心からの叫び。俺は考え込むように目を瞑って俯いた後、深呼吸をした。雨上がりだからか湿っぽい空気が入ってきた、お世辞にも美味しい空気とは言えない。
今まで俺は遠ざける形で久遠を守ってきたつもりだった。でもそれは単に俺が久遠を守り切れる自信が無かったが故なのだ。
久遠は戦えないどころか何も出来ない……そんな自分が嫌なのだろう、だから多少野蛮な方法でも変わろうとしているのだ。変わろうとする事は、相当な勇気がいる……勢いで言ったのだとしても、その覚悟は兄として受け入れなくてはいけない。
「……これから突きつけられる現実がどんな残酷なものであっても、久遠は耐えられるか?」
「零にぃちゃんは耐えてきたんでしょ。だったら私も耐えてみせるよ」
「そっか。じゃあひとまず、ルィリアを連れ戻しに行こう」
「うん!」
久遠が頷くと、俺は久遠の手を握って、ルィリアがいるであろう場所……魔術アカデミー前へ向かうべく炎の翼で飛翔した。
……何が不老不死だ、こんなんじゃ雨降ったら終わりじゃないか。
心の中でそう吐き捨てると、俺は周囲の瓦礫で下敷きになっている人達に駆け寄り、瓦礫を退かすべく土魔術で地面を競り上げて次々と救出した。
「ありがとう……」
「ああ、無理するなよ」
目に見える限りでは最後の一人を見送ると、俺はため息を吐いてその場に座り込んだ。別に疲れた訳でもない、きっとまだ瓦礫に埋もれたまま助けを求めている人がいる筈だ。
……そうだ、まだ助けを必要としてる人が。そう思い、立ち上がって一歩を踏み出した時だった。まるで足で地面にあったスイッチを押してしまったかのように、突然今日の出来事がフラッシュバックした。
ネフィラの死。
ルィリアの衝撃の事実。
シャーロットの犠牲。
「…………ダメだ、みんなを助けないと」
今日は精神的にキツい出来事が多過ぎた……人を助ける事に集中してなければやってられない。俺は自分の頬を叩いて、人々を助けるべく重い足を前へ前へと踏み出そうとする……が、足を一歩踏み出す度、まるで肩に大きな岩を乗せられていくかのように、今日の出来事がフラッシュバックして身体全体が重たくなっていく。更には、今日以前の出来事までフラッシュバックしてきてしまう。
シャーロットとシオンの過去の事。
王族となったシェリルと再会してしまった事。
自分が代償の副産物として生まれてきた事。
家出をして、久遠に苦しい思いをさせた事。
シェリルに殴られ続けていた日々の事。
久遠を救えず、自殺した日の事。
……気がつくと、俺の目から涙が出ていた。全くの無意識だった。
「……ぁ……あぁ……くっ……ぅうう……うぁぁあ……あああああああ……」
涙を流している自覚をした途端、言葉を発する事が出来なくなってしまい、その場に膝をついて崩れてしまった。だがきっと……言葉を流暢に喋れたとしても、今の自分の感情を言語化する事は出来なかっただろう。
「……零、にぃちゃん?」
突如、この場にいない筈の久遠の声が聞こえた。俺は後ろに振り返ると、そこには騎士団総団長のカナンと……久遠が確かにそこにいた。
「あ……く、久遠……な、なんで……」
「苦渋の決断だったのだ。これ以上団員を死なせる訳にはいかない上、フェリノート殿の側から離れる訳にもいかなかったのでな」
「カナン……事はもう済んだ。人々の救助も出来る限りした、でもまだ建物の中には避難が遅れた人達がいるかもしれない。ここから先は頼んでもいいか」
俺は目をゴシゴシと強く拭いて、改めて騎士団の総団長であるカナンに人々の救助を頼むと、その場を去ろうと通り過ぎる。
「なぁ、シン」
「何だ?」
「シャーロット殿とルィリア殿が見えないが、二人は何処に行ったんだ?」
「っ……」
カナンの問いに俺は足を止めたが、すぐに答えられなかった。まるで喉がキュッと締まったかのように、その一瞬だけ声を出せなくなってしまったのだ。
「……?」
「……ルィリアを連れ戻してくるよ」
「連れ戻すって、どういう」
「どうして強がるの、零にぃちゃん」
カナンの更なる問いにわざとなのか被せるように久遠が俺の背中に向けてそう問いかけた。
「…………」
「二人とも、私は救助を優先するぞ。では」
そう言うと、カナンは何処かへ向かって走っていっていった。
「……久遠も帰るんだ」
「帰らないよ。だって今帰っても私一人だもん」
「家に一人くらい騎士団員が居るだろ」
「居てもきっと頼りにならないよ」
「……」
「零にぃちゃん。何処に行くのかわからないけど、私も一緒に行く」
「来ない方がいい……きっと後悔する。俺はもう久遠に辛い思いをしてほしくないんだ」
「それは零にぃちゃんも同じでしょ」
「っ……」
「いつもそう、自分と関係ない事に毎回首突っ込んで、無茶ばっかして、その度に他人の事請け負って抱え込んでさ。私、嫌だよ。辛い思いさせたくないからって零にぃちゃんが辛い思いするの……自分だけ苦しめばいいなんて考えないで!」
「久遠……」
「正義のヒーローなんでしょ!! だったら変なとこばっか現実主義になんないで“俺が守ってやる”とか“俺の側から離れるな”の一言くらい言ってよ!! もう……私だけ何も知らないのは、生きて帰ってきてって言うだけなのは嫌なのっ!!」
久遠の心からの叫び。俺は考え込むように目を瞑って俯いた後、深呼吸をした。雨上がりだからか湿っぽい空気が入ってきた、お世辞にも美味しい空気とは言えない。
今まで俺は遠ざける形で久遠を守ってきたつもりだった。でもそれは単に俺が久遠を守り切れる自信が無かったが故なのだ。
久遠は戦えないどころか何も出来ない……そんな自分が嫌なのだろう、だから多少野蛮な方法でも変わろうとしているのだ。変わろうとする事は、相当な勇気がいる……勢いで言ったのだとしても、その覚悟は兄として受け入れなくてはいけない。
「……これから突きつけられる現実がどんな残酷なものであっても、久遠は耐えられるか?」
「零にぃちゃんは耐えてきたんでしょ。だったら私も耐えてみせるよ」
「そっか。じゃあひとまず、ルィリアを連れ戻しに行こう」
「うん!」
久遠が頷くと、俺は久遠の手を握って、ルィリアがいるであろう場所……魔術アカデミー前へ向かうべく炎の翼で飛翔した。
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