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姦邪Ⅰ -ルィリア編-
第61話 復活のネルフィラ
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「あぁっ……ァアアアアアア!!!」
ネルフィラはまるで苦しむような声を上げる。
よく見ると、ネルフィラの肌の表面はまるでバラバラになったものを無理やり繋ぎ止めているかのようなツギハギになっていた。ちょっとでもズラしたら血が噴き出て来そうな程だ。
「まさか……蘇ったっていうのか!?」
「いや……蘇ったんとちゃう。あれは確かにネルフィラ本人、見た目以外はウチが喰う前と本質は何ら変わらへん」
「で、でもあり得ないだろ! だってネルフィラは」
「でも目の前におるのは事実、きっと何か絡繰がある筈や」
「憎ィイ……ニ、クグ……ギィイ……殺してヤラァアアアアッ、ァアアアアアア!!!」
ネルフィラは俺たちに対する憎しみを叫ぶと、自らの身体に炎を纏わせる。しかし自分の身を焼く痛みと熱に耐えきれず、そのまま窓から手を離して落ちていってしまった。
その直後、グチャ、という肉が地面に叩きつけられる音が聞こえてきた。恐る恐る俺達は窓から身を乗り出して下を覗くと、衝撃に耐えられなかったのか四肢がバラバラになったネルフィラの死骸があった。
「なっ……何だったんだ」
「まさか、あれは……」
何か心当たりがあるのか、ネフィラはそう呟いた。俺は問いただすべく口を開こうとしたその時、ルィリア邸内にチーンという風鈴のような音が鳴り響いた。
俺は急いで部屋を飛び出して、玄関へ向かおうとするが……相変わらず道がわからない。
「えぇ……えと……」
「こっちや!」
するとネフィラが俺の手を掴んで、玄関まで引っ張って案内してくれた。
「あ、零にぃちゃん!!」
「シン様? どうかなさいましたか、そんなに慌てて」
玄関にたどり着くと、久遠とシャーロットが居た。何故かルィリアが居ないが……夜遅いしもう寝ているか風呂に入っているのだろう。
しかしみんなの反応を見る限りでは、やっぱりネフィラの事は俺にしか見えていないようだ。
「はぁ……はぁ……シャーロット、開けない方がいい。何か嫌な予感がする」
「……それはフェリノート様の仰っていた“悪霊”に関係するのですか?」
「悪霊……強ち間違いじゃないが、多分もっと恐ろしい奴だ」
「ではフェリノート様、シン様のお近くに」
「う、うん……」
すると久遠は俺の元に駆け寄ってきて、怖いのか俺の腕にガッチリとしがみついてきた。途端、まるで急かすように玄関をコンコンと叩かれる。
「シャーロット、アンタは!?」
「拙はメイドですので」
「関係ないだろ!」
「玄関を開けて拙の身に何かあったら、ルィリア様をお願い致しますね」
「……!」
そう言って、シャーロットは遂に玄関を開けてしまった。俺はその瞬間、久遠を守るように庇った。
「——すみません、この付近に……おや? 貴女はもしや……」
シャーロットが扉を開けてしまった後に聞こえてきたのは、知らない女の声だった。俺は恐る恐る振り向いて玄関の方に目を向けると、そこに居たのは白衣を着た見知らぬ若い女だった。
「なっ……何故貴女がここに……!?」
「これは奇遇ですわね……わたくしとは22年振りくらいかしら、シャーロット」
「……貴女と話す事など何もありません。帰ってください」
シャーロットは冷たくあしらうと、玄関を閉めようとする……が、白衣の女は扉を掴んで力づくで開けてきた。
「貴女には無くともわたくしにはあるのですわ。この家の庭に、わたくしの娘が迷い込んでしまったようで……何か心当たりは」
「そんなものありません。調べたければ勝手に調べてさっさと消えてください」
「ウフフ……まさかと思うけれど、まだ根に持っているのかしら? ……あの子を解剖した事」
「ッ!!」
「うっ……!」
白衣の女が“解剖”という単語を出した途端、シャーロットは扉を掴む手を思い切り殴り、離れた隙に勢いよく玄関の扉を閉めて慣れた動きで即座に鍵を閉めた。
あの子、というのは恐らく……シオンの事だろう。
「はぁ……はぁ……」
シャーロットは珍しく、息が荒くなっていた。
シオンを解剖したという事を知っていて、それでシャーロットとは因縁があるようで、あの白衣……まるで、科学者のようなその容姿。
「……今の人、まさか」
「申し訳ありませんシン様、フェリノート様。どうやら拙は頭に血が昇っているようです、明日に備えて睡眠をとらせてください」
「あ、ああ……ゆっくり休んでくれよ」
そう告げるが、シャーロットは無言で俺達の横を通り過ぎて、どこかへ行ってしまった。俺はただ、シャーロットの背中を見つめる事しか出来なかった。
「……あんなシャーロット、初めて見た」
「…………」
久遠がシャーロットの背中を寂しげに見つめる中、俺はこの短時間で生まれた謎を頭の中で纏めていた。
1、ネルフィラの復活。
人が蘇るなんてあり得ない。しかしネフィラの事も見えていたし、双子という事もあり得ない。ネフィラ曰く本質は変わらないそうだが、肌の表面がツギハギになっていたのは一体……。
2、白衣の女について。
22年前、シャーロットが勤めていた研究所の人間だろう。シオンの解剖について知っているという事は、恐らく当事者。この家に娘が迷い込んだと言っていたが、娘というのは恐らくネルフィラの事だろう。つまりあの白衣の女は、ネルフィラの母親という事になるが……その割に随分見た目が若かった。
……いや、ちょっと待て。あれがネルフィラの母親だとするなら、それはあり得ない。
“ウチがちょろっと聞いた話やと、母親の仇とか……後は栗がどうのって言うとったなぁ”
ネフィラの言葉が正しければ、ネルフィラの母親は既に死んでいるはず。まぁこの“仇”の捉え方にもよるのだろうが、もし死んでいると仮定するなら……何故ネルフィラの母親は生きているんだ?
もしかしてネフィラが言っていた、謎の“栗”が関係しているのだろうか?
「ねぇ、零にぃちゃん」
「ん?」
「なにか知ってるって顔してる」
「全部知ってるって訳じゃない。でも、ある程度目星はついてる」
「教えて……って言っても、どうせ教えてくれないんでしょ?」
「……これに限っては知らない方がいい」
「そっか。いつもはぐらかす零にぃちゃんがそこまできっぱり言うなら、聞かない」
「……悪い」
俺は久遠に頭を小さく下げてそう告げた。
正直、ルィリアの過去については隠し切れるとは思っていない。俺の口から言う事は無いとは思うが、いずれは久遠も知る事になるだろう。
「じゃあ戻ろっか。そういえば悪霊はもう退治したの?」
「あ、ああ……それを確認する為に、部屋入る前に俺が一旦確認するよ」
「うん、わかった」
そう言って、部屋へ戻ろうと俺は久遠と一緒に歩き始めた。窓の下を覗いた時にネルフィラの死骸が無ければいいんだが。
「んぐぅっ……!?」
「ん?」
その時、突然ネフィラが苦しむような声をあげ、俺は思わず振り返る。
「どうしたの、零にぃちゃん?」
「いや……ちょっと幽霊がな」
「えっ!? また幽霊!?」
「大丈夫、俺達の前にいるのは味方の幽霊だから」
「そ、そうなの……?」
「くぅっ……ぅ……いぎぎっ……ぁあ……!」
ネフィラは頭を抱えて悶えるような声を出しながら、勢いよく玄関から外へ飛び出して行った。
「きゃぁあっ!! げ、玄関が一人でにっ……!」
「嫌な予感がする……久遠、家の中に居てくれ」
「ちょ、ちょっと待って零にぃちゃんっ!?」
引き止める久遠の声を背に、俺はネフィラを追いかけて外へ飛び出していった。
すぐに追いかけたからか、ネフィラはまだルィリア邸の敷地内に居た。しかし依然として苦しそうであった。
「ネフィラどうしたんだよ!?」
「うぅっ……ぐ……し、シン……ウチとの契約も、これまでかもしれへん……!」
「は!?」
「別にウチがシンに飽きた訳とちゃうよ……? これはシンの為なんよ……だからっ……ぁあああっ!」
「何言ってるんだよさっきから!?」
「シンとの契約を破棄する……!」
ネフィラはそう告げると、俺に向けて手を翳す。俺の身体に特に異常は感じられなかったが、恐らく契約が解かれたのだろう。
……しかし、一体何故……?
「どういう事なんだ、説明してくれなきゃわからないぞ!」
「ごめんなぁ、説明してる暇は無いんよ……でもすぐにわかる、ウチの優しさにっ……うぅっ!?」
「ネフィラ……!?」
「んぐっ……うぅ……ふぅっ……んぎぃっ……ぁ……ぁああああああああああああっっっ!!」
ネフィラは悲鳴を上げた後、まるで力が抜けてしまったかのように首をかくんと下げた。俺が恐る恐る近づいていくと、意識を取り戻したのか顔を上げた。
「ね、ネフィラ……?」
「……ふふふっ……ギャハハハハハハハハッ!」
ネフィラは意識を取り戻すと、今までのネフィラでは絶対にしないような笑いをした。
「っ!?」
「ようやく……ようやくよ! 遂にあの大妖怪の肉体を掌握してやったわ……! アハハッ、アハハハハハハハハハ!!!!」
「な……何だ……何者だ、アンタ!?」
「はぁ? あぁあのクソガキか……ネフィラの記憶によると……シンっていうのね、あんた。あたしってばこんなガキに負けたの?」
「ま、まさか……」
ネフィラの口調は全くの別人であった。そして俺はその人格に心当たりがあったが……何がどうなっているのかは全く理解できなかった。
「遂に大妖怪ネフィラの身体を掌握したのですわね」
すると何処からともなく白衣を着た女が姿を現した。
「あっ……ママ! そうなの、あたしやったよ! ママに言われた通り、ネフィラの身体奪ってやったよ!」
「うふふ、偉いですわ……流石わたくしの娘」
まるで子供のように駆け寄るネフィラと、それを我が子のように頭を撫でる白衣の女。物凄く異様な光景である。
「アンタ……やっぱりネルフィラか……!」
「そうよクソガキ。あたし達の目的は最初からネフィラの身体だったのよ、だからわざわざネフィラと契約して、見て触れられるようにしたの」
「でもネフィラの姿は契約した者にしか見えないはず! 何でアンタの母親には見えてるんだ!?」
「さぁ、どうしてなのでしょうね?」
「そんな事どうでもいいよママ。早速ネフィラの身体、解剖してみようよ!」
「ふふ……そうですわね。ああ楽しみだわ……人間に化けた状態の大妖怪の身体はどうなっているのかしら!? うふふっ……うふふふふっ!」
「待てッッ!!」
俺は追いかけようとするが、ネルフィラは蜘蛛の糸を出して俺の足を拘束してきて、身動きが取れなくなってしまった。その隙にネルフィラは大蜘蛛へと変身し、白衣の女を乗せて闇夜に消えていってしまった。
俺達が見たあのツギハギのネルフィラは何だったのか、ネルフィラはどうやってネフィラの身体を乗っ取ったのか、そして何故白衣の女はネフィラを視認出来たのか。
——蜘蛛の糸が解けた頃には、もうあの二人の姿を捉える事は出来なかった。
ネルフィラはまるで苦しむような声を上げる。
よく見ると、ネルフィラの肌の表面はまるでバラバラになったものを無理やり繋ぎ止めているかのようなツギハギになっていた。ちょっとでもズラしたら血が噴き出て来そうな程だ。
「まさか……蘇ったっていうのか!?」
「いや……蘇ったんとちゃう。あれは確かにネルフィラ本人、見た目以外はウチが喰う前と本質は何ら変わらへん」
「で、でもあり得ないだろ! だってネルフィラは」
「でも目の前におるのは事実、きっと何か絡繰がある筈や」
「憎ィイ……ニ、クグ……ギィイ……殺してヤラァアアアアッ、ァアアアアアア!!!」
ネルフィラは俺たちに対する憎しみを叫ぶと、自らの身体に炎を纏わせる。しかし自分の身を焼く痛みと熱に耐えきれず、そのまま窓から手を離して落ちていってしまった。
その直後、グチャ、という肉が地面に叩きつけられる音が聞こえてきた。恐る恐る俺達は窓から身を乗り出して下を覗くと、衝撃に耐えられなかったのか四肢がバラバラになったネルフィラの死骸があった。
「なっ……何だったんだ」
「まさか、あれは……」
何か心当たりがあるのか、ネフィラはそう呟いた。俺は問いただすべく口を開こうとしたその時、ルィリア邸内にチーンという風鈴のような音が鳴り響いた。
俺は急いで部屋を飛び出して、玄関へ向かおうとするが……相変わらず道がわからない。
「えぇ……えと……」
「こっちや!」
するとネフィラが俺の手を掴んで、玄関まで引っ張って案内してくれた。
「あ、零にぃちゃん!!」
「シン様? どうかなさいましたか、そんなに慌てて」
玄関にたどり着くと、久遠とシャーロットが居た。何故かルィリアが居ないが……夜遅いしもう寝ているか風呂に入っているのだろう。
しかしみんなの反応を見る限りでは、やっぱりネフィラの事は俺にしか見えていないようだ。
「はぁ……はぁ……シャーロット、開けない方がいい。何か嫌な予感がする」
「……それはフェリノート様の仰っていた“悪霊”に関係するのですか?」
「悪霊……強ち間違いじゃないが、多分もっと恐ろしい奴だ」
「ではフェリノート様、シン様のお近くに」
「う、うん……」
すると久遠は俺の元に駆け寄ってきて、怖いのか俺の腕にガッチリとしがみついてきた。途端、まるで急かすように玄関をコンコンと叩かれる。
「シャーロット、アンタは!?」
「拙はメイドですので」
「関係ないだろ!」
「玄関を開けて拙の身に何かあったら、ルィリア様をお願い致しますね」
「……!」
そう言って、シャーロットは遂に玄関を開けてしまった。俺はその瞬間、久遠を守るように庇った。
「——すみません、この付近に……おや? 貴女はもしや……」
シャーロットが扉を開けてしまった後に聞こえてきたのは、知らない女の声だった。俺は恐る恐る振り向いて玄関の方に目を向けると、そこに居たのは白衣を着た見知らぬ若い女だった。
「なっ……何故貴女がここに……!?」
「これは奇遇ですわね……わたくしとは22年振りくらいかしら、シャーロット」
「……貴女と話す事など何もありません。帰ってください」
シャーロットは冷たくあしらうと、玄関を閉めようとする……が、白衣の女は扉を掴んで力づくで開けてきた。
「貴女には無くともわたくしにはあるのですわ。この家の庭に、わたくしの娘が迷い込んでしまったようで……何か心当たりは」
「そんなものありません。調べたければ勝手に調べてさっさと消えてください」
「ウフフ……まさかと思うけれど、まだ根に持っているのかしら? ……あの子を解剖した事」
「ッ!!」
「うっ……!」
白衣の女が“解剖”という単語を出した途端、シャーロットは扉を掴む手を思い切り殴り、離れた隙に勢いよく玄関の扉を閉めて慣れた動きで即座に鍵を閉めた。
あの子、というのは恐らく……シオンの事だろう。
「はぁ……はぁ……」
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シオンを解剖したという事を知っていて、それでシャーロットとは因縁があるようで、あの白衣……まるで、科学者のようなその容姿。
「……今の人、まさか」
「申し訳ありませんシン様、フェリノート様。どうやら拙は頭に血が昇っているようです、明日に備えて睡眠をとらせてください」
「あ、ああ……ゆっくり休んでくれよ」
そう告げるが、シャーロットは無言で俺達の横を通り過ぎて、どこかへ行ってしまった。俺はただ、シャーロットの背中を見つめる事しか出来なかった。
「……あんなシャーロット、初めて見た」
「…………」
久遠がシャーロットの背中を寂しげに見つめる中、俺はこの短時間で生まれた謎を頭の中で纏めていた。
1、ネルフィラの復活。
人が蘇るなんてあり得ない。しかしネフィラの事も見えていたし、双子という事もあり得ない。ネフィラ曰く本質は変わらないそうだが、肌の表面がツギハギになっていたのは一体……。
2、白衣の女について。
22年前、シャーロットが勤めていた研究所の人間だろう。シオンの解剖について知っているという事は、恐らく当事者。この家に娘が迷い込んだと言っていたが、娘というのは恐らくネルフィラの事だろう。つまりあの白衣の女は、ネルフィラの母親という事になるが……その割に随分見た目が若かった。
……いや、ちょっと待て。あれがネルフィラの母親だとするなら、それはあり得ない。
“ウチがちょろっと聞いた話やと、母親の仇とか……後は栗がどうのって言うとったなぁ”
ネフィラの言葉が正しければ、ネルフィラの母親は既に死んでいるはず。まぁこの“仇”の捉え方にもよるのだろうが、もし死んでいると仮定するなら……何故ネルフィラの母親は生きているんだ?
もしかしてネフィラが言っていた、謎の“栗”が関係しているのだろうか?
「ねぇ、零にぃちゃん」
「ん?」
「なにか知ってるって顔してる」
「全部知ってるって訳じゃない。でも、ある程度目星はついてる」
「教えて……って言っても、どうせ教えてくれないんでしょ?」
「……これに限っては知らない方がいい」
「そっか。いつもはぐらかす零にぃちゃんがそこまできっぱり言うなら、聞かない」
「……悪い」
俺は久遠に頭を小さく下げてそう告げた。
正直、ルィリアの過去については隠し切れるとは思っていない。俺の口から言う事は無いとは思うが、いずれは久遠も知る事になるだろう。
「じゃあ戻ろっか。そういえば悪霊はもう退治したの?」
「あ、ああ……それを確認する為に、部屋入る前に俺が一旦確認するよ」
「うん、わかった」
そう言って、部屋へ戻ろうと俺は久遠と一緒に歩き始めた。窓の下を覗いた時にネルフィラの死骸が無ければいいんだが。
「んぐぅっ……!?」
「ん?」
その時、突然ネフィラが苦しむような声をあげ、俺は思わず振り返る。
「どうしたの、零にぃちゃん?」
「いや……ちょっと幽霊がな」
「えっ!? また幽霊!?」
「大丈夫、俺達の前にいるのは味方の幽霊だから」
「そ、そうなの……?」
「くぅっ……ぅ……いぎぎっ……ぁあ……!」
ネフィラは頭を抱えて悶えるような声を出しながら、勢いよく玄関から外へ飛び出して行った。
「きゃぁあっ!! げ、玄関が一人でにっ……!」
「嫌な予感がする……久遠、家の中に居てくれ」
「ちょ、ちょっと待って零にぃちゃんっ!?」
引き止める久遠の声を背に、俺はネフィラを追いかけて外へ飛び出していった。
すぐに追いかけたからか、ネフィラはまだルィリア邸の敷地内に居た。しかし依然として苦しそうであった。
「ネフィラどうしたんだよ!?」
「うぅっ……ぐ……し、シン……ウチとの契約も、これまでかもしれへん……!」
「は!?」
「別にウチがシンに飽きた訳とちゃうよ……? これはシンの為なんよ……だからっ……ぁあああっ!」
「何言ってるんだよさっきから!?」
「シンとの契約を破棄する……!」
ネフィラはそう告げると、俺に向けて手を翳す。俺の身体に特に異常は感じられなかったが、恐らく契約が解かれたのだろう。
……しかし、一体何故……?
「どういう事なんだ、説明してくれなきゃわからないぞ!」
「ごめんなぁ、説明してる暇は無いんよ……でもすぐにわかる、ウチの優しさにっ……うぅっ!?」
「ネフィラ……!?」
「んぐっ……うぅ……ふぅっ……んぎぃっ……ぁ……ぁああああああああああああっっっ!!」
ネフィラは悲鳴を上げた後、まるで力が抜けてしまったかのように首をかくんと下げた。俺が恐る恐る近づいていくと、意識を取り戻したのか顔を上げた。
「ね、ネフィラ……?」
「……ふふふっ……ギャハハハハハハハハッ!」
ネフィラは意識を取り戻すと、今までのネフィラでは絶対にしないような笑いをした。
「っ!?」
「ようやく……ようやくよ! 遂にあの大妖怪の肉体を掌握してやったわ……! アハハッ、アハハハハハハハハハ!!!!」
「な……何だ……何者だ、アンタ!?」
「はぁ? あぁあのクソガキか……ネフィラの記憶によると……シンっていうのね、あんた。あたしってばこんなガキに負けたの?」
「ま、まさか……」
ネフィラの口調は全くの別人であった。そして俺はその人格に心当たりがあったが……何がどうなっているのかは全く理解できなかった。
「遂に大妖怪ネフィラの身体を掌握したのですわね」
すると何処からともなく白衣を着た女が姿を現した。
「あっ……ママ! そうなの、あたしやったよ! ママに言われた通り、ネフィラの身体奪ってやったよ!」
「うふふ、偉いですわ……流石わたくしの娘」
まるで子供のように駆け寄るネフィラと、それを我が子のように頭を撫でる白衣の女。物凄く異様な光景である。
「アンタ……やっぱりネルフィラか……!」
「そうよクソガキ。あたし達の目的は最初からネフィラの身体だったのよ、だからわざわざネフィラと契約して、見て触れられるようにしたの」
「でもネフィラの姿は契約した者にしか見えないはず! 何でアンタの母親には見えてるんだ!?」
「さぁ、どうしてなのでしょうね?」
「そんな事どうでもいいよママ。早速ネフィラの身体、解剖してみようよ!」
「ふふ……そうですわね。ああ楽しみだわ……人間に化けた状態の大妖怪の身体はどうなっているのかしら!? うふふっ……うふふふふっ!」
「待てッッ!!」
俺は追いかけようとするが、ネルフィラは蜘蛛の糸を出して俺の足を拘束してきて、身動きが取れなくなってしまった。その隙にネルフィラは大蜘蛛へと変身し、白衣の女を乗せて闇夜に消えていってしまった。
俺達が見たあのツギハギのネルフィラは何だったのか、ネルフィラはどうやってネフィラの身体を乗っ取ったのか、そして何故白衣の女はネフィラを視認出来たのか。
——蜘蛛の糸が解けた頃には、もうあの二人の姿を捉える事は出来なかった。
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