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姦邪Ⅰ -ルィリア編-
第48話 怒りの勇者サマ
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俺は雨に打たれながら、雷鳴にも動じずその場に両膝をついて俯いていた。
こんな凄惨な状況を作り出した、あの名前も知らない男が心底許せない。このエアトベル王国に何の思い入れもないし、国王がどんな人物であろうとどうだっていい。
でも意味も無く多くの人間を巻き込んで、その光景を、他人の不幸を見て笑っているなんて……ふざけるな。そんなもの、悪魔と同じじゃないか。
「ママ……? ねぇママ、起きてよ……ママ!」
ふと豪雨の中、近くで女の子の声が聞こえてきた。声の方に顔を向けると、そこには骨が露出するほど背中を喰われて倒れている母親を起こそうと身体を揺らす、久遠と同い年くらいの女の子の姿があった。
あの人は……俺が一番最初に助けた女性だ。もしかして蹲っていたのは、自分の娘を守る為だったのか……?
「ママぁ……ねぇ起きてってば……やだよ……ひとりぼっちはやだよぉ……うぅっ……ううう……」
「…………」
「んだようるせぇなぁ……」
すると、あの男が頭を掻きながら歩いてきて、母親を起こそうとする女の子を見下ろした。女の子も男の存在に気づいて、徐々に表情が恐怖に染まっていく。
「あ……ああっ……」
「もう起きねーよ。オマエを庇って、魔獣に喰われて死んだんだ」
「そ……そんなことないもん……! ママはつよいもん……!!」
「人間、死ぬ時は簡単に死ぬんだ。現にほら……つよーい騎士団の総団長もあんなんになってる」
「うっ……うう……あ、あなたの、せいでしょ」
「あ?」
「わらうのは、うれしい時とつよがる時だけなんだよ。でもあなたはひとがくるしんでるの見て、わらってた……ひとがくるしいの、なにがうれしいの?」
「嬉しいだろ。嫌いな奴が俺の手で蹂躙……ボコボコにされていくのはよォ……!」
「……おかしいよ。あなた」
「言うじゃねェか……女だからって、ガキだからって手出されないと思ったら大間違いだぜェ? 今のテメェは、誰からも守ってもらえないんだぜ?」
「っ……」
「立場弁えろ……調子乗んなクソガキ」
「……うっ……うう……うぁあああああああん!!」
女の子は遂に、泣き出してしまった。
「ぁああもううるせぇんだよ!!! 泣けば何とかなると思ってんじゃねェ!!!」
男は女の子の泣き声に腹を立てて頭をガリガリと掻くと、剣を女の子に向けて振り下ろそうと刃を天に突き上げる。
女の子は逃げる訳でもなく、ただこの“誰も守ってくれない”現実に泣く事しか出来なかった。
「テメェみてぇな泣けば許されると思ってる女がァ……一番うぜぇんだよぉおおっ!!!」
男はそう叫んで、手に持った剣で女の子を殺そうと振り下ろした。その瞬間、あらゆる音を掻き消す豪雨の中で……確かに聞いた。
女の子の泣き叫ぶ声。男の怒声。剣を振り下ろす音。
——剣を刀で受け止める音。
「っ……!!!」
「あぁん!? テメェは……一人で戦ってたガキ!?」
……俺は即座に動いて刀を引き抜き、男の怒りの刃から女の子を守ったのだ。そして無言で男の剣をいなして、即座に拳に炎を纏わせて男の顔面を力いっぱい殴り飛ばした。
「ぐはぁあああああああっ!!!」
男は情けなく吹っ飛ばされていく。あれだけ調子こいていた人物があんな風に吹っ飛ばされていくのを見ると、中々爽快だ。
……こんな事で爽快に感じるなんて、俺も大概だな。
「ううっ……あなたは……?」
「……きっと怖かっただろうに、よく言ったな」
俺は刀を鞘に納めると、しゃがんで女の子と同じ目線でそう告げた。
「う、うん……」
「もう大丈夫、今この瞬間だけは俺が絶対に守るから」
「ほ……ほんと……?」
「ああ。お母さんは……守れなくてごめん」
「……ううん、あなたは悪くないよ」
女の子はそう言って、笑った。
「君は本当に強いな」
「ママのこどもだもん!」
「ふっ……そっか」
「レイ君っ!!!」
するとこんな豪雨の中、俺を呼ぶ声が聞こえてきた。この聞き慣れた声は……全く、そこまでの距離じゃないだろうに、来るのが遅いんだよ。
「ルィリア、シャーロット……!」
そこに現れたのは、俺の予想通り……ずぶ濡れになったルィリアとシャーロットだった。
「申し訳ありませんシン様、ルィリア様が流星群で重傷を負った人達の治療をしていたら遅れてしまいました」
「そうだったのか……ならこの子とカナンを頼む! 母親は……」
「……ご安心を。まだ辛うじて息はあります」
シャーロットは母親の脈と息を確認し、そう告げる。
「ほんと!? ママ治る!?」
「ええ治せますよ~、だってワタクシ天才ですから! さぁ手遅れになる前に行きましょう!」
「承知しました」
「……俺はここに残る」
「えっ、何故です!?」
「——俺が、アイツを倒す!」
俺は吹っ飛ばされてよろめいているあの男を睨みつけながらそう宣言した。
「アイツ、って……わかりました。レイ君はこうなったら何言っても聞きませんからね。死んでしまったら治療出来ませんから、絶対生きて帰ってきてください」
「大丈夫だ……じゃあまた後で会おう」
「あ……まって!」
「ん?」
突然女の子に呼び止められ、俺は振り返る。
「おなまえ!」
「名前……。シンっていう名前だよ」
「シン……がんばってねシンさん!!」
「ああ」
女の子は手を振って、シャーロットは母親を抱えて、ルィリアはカナンを抱えて戻っていった。改めて、俺は男を睨みつける。
「あーあ……ガキだからって舐めてたわ……テメェ、誰に喧嘩売ってんのか分かってんのか?」
「女の子に“おかしい”って言われた男だろ」
「煽るねェ……オレはアーシュ。選定の剣に選ばれた、勇者サマってヤツさァ……!」
「俺はシン……命知らずのバケモノだ……!!」
「ヘッ! テメェはイレギュラー的存在だが……オレに比べたら雑魚だろォッ!!」
アーシュが叫んだその時、選定の剣が金色のオーラを纏い始め、やがてアーシュの体へと流れ込んでいく。
オーラが全身に行き届くと、アーシュは衝撃波を放ってきた。それは凄まじい威力で、俺はそれだけで吹き飛ばされそうになる。
「くっうぅっ!!」
「最初から本気で行くぜ……こう見えてオレは今、究極にイラついてんだからなァ!!」
アーシュは怒りが滲み出るように震えた声でそう言うと、物凄い速さで俺に迫ってくる。あの速度で突進なんてされたらひとたまりもないだろう。
それにあの選定の剣から出ている金色のオーラ……あれは俺の本能が危険信号を発している。もはや力でどうこう出来る物ではないだろう。しかしあの力をこの刀で吸収出来れば、勝てる見込みはある。
……一か八か、やってみるしかない。
「ハァッ!!」
俺は背中に炎の翼を最大出力で展開すると、こちらも負けじと迫り来るアーシュに向かって飛んでいった。最大出力で加速しているのに、それでもなお向こうの速度の方が三倍ほど速い。
「オラァアッ!!」
「でやぁあああっ!!」
互いの距離が近くなった頃、俺は刀を、アーシュは選定の剣を振りかぶった。そして刃の届く範囲まで相手が近くなると、互いの刃を振り下ろした。金属同士がとても強くぶつかり、折れるんじゃないかと思うほどの音がした。
「フンッ、オレの勝ちだァッ!!」
「うっ……ぐぅうううううううう!!!」
一瞬の鍔迫り合いの末、俺は向こうの力に負けてしまい、一方的に押されてしまった。押し返そうにも、向こうとでは出力が月とスッポンだ。
しかし刀はアーシュの選定の剣に触れている。押しに負けてはいるが、ここで力を吸収すれば……そう思うと、刀身がピンク色に光り始めた。
「あぁん? んだこれ……」
「っ……ぐぁああっ!?」
選定の剣の力を吸収しようとしたその時、まるで刀が拒絶したかのように選定の剣の力に弾かれてしまい、俺はバランスを崩してしまった。
「おらっ……よっ!!」
アーシュは隙ありと言わんばかりに、俺の腹に蹴りを入れてきた。俺は成す術無く吹っ飛んでしまい、崩壊した噴水に叩きつけられた。
「ぐっ……なんでだ……!?」
「何しようとしてたかは知らねぇが……どうやらテメェの考えは打ち砕かれたみてぇだなァ?」
「くぅっ……まだだッ!!」
俺は諦めず、刀に炎を纏わせてアーシュを斬り付けようとする。真正面から、右から、左から、上から、下から……しかしどの攻撃も、いとも簡単にいなされてしまった。
「往生際が悪いぜ……テメェは負けたんだ」
「まだ決まって……ない……!!」
俺は再び炎の翼を展開し、この場の脱却を試みたが……いち早く気付いたアーシュは俺の胸を足でかなり強い力で踏み付け、阻止してきた。
「炎の翼ってのはカッコいいと思うぜ……だが俺に喧嘩売るにはちょっと……いや、だいぶ力不足だったみてぇだなァ」
「くっ……」
「オレに挑んだ勇気は認めるぜ。まぁ勇気っつーより、無謀だったけどな……さぁ、チェックメイトだ」
アーシュはそう告げると、俺の身体に選定の剣を深々と突き刺した。
「がァァァァァァァアああアッ!! ァアアアぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!! ハァッ、ハァッ……ウゥウウウァアアアア!!!」
痛い。痛い。痛い。熱い熱い熱い!!
選定の剣に突き刺された箇所には当然、耐え難い痛みが襲ってくるのだが、それ以上に、まるで根性焼きでもされているかのような熱さも襲ってくる。前世でも根性焼きなんてした事は無いが。
アーシュが俺の身体から選定の剣を引き抜くと、血が噴水のように噴き出してくる。傷口に雨が当たって、更に痛みが増す。焼けるような熱さは健在で、意識が朦朧としてくる。
流石に、これは死んでしまうかもしれない。あぁ、でも確か死にかけた時にだけ発動するあの謎の力がまだ俺には……。
……。
…………。
…………………。
……何故だ。何故発動しない?
前回とは状況がかなり酷似しているのに、何故あの謎の力が発動しないのだろうか。時間差……という事は無いだろう。
「……弱ぇくせに手間取らせやがって。剣が汚れちまったじゃねぇか」
「あぁっ……はぁ……な、何で、だ……」
「あ? 何が?」
「どうして……こんな事、を……この国に……恨み、でもある……のか……?」
俺は力を振り絞ってアーシュに問う。
ただムカついたから、という理由だけではここまでしないだろう。
「勇気に免じて教えてやるよ。信じちゃくれねーだろうが……オレは2週目なんだよ」
こんな凄惨な状況を作り出した、あの名前も知らない男が心底許せない。このエアトベル王国に何の思い入れもないし、国王がどんな人物であろうとどうだっていい。
でも意味も無く多くの人間を巻き込んで、その光景を、他人の不幸を見て笑っているなんて……ふざけるな。そんなもの、悪魔と同じじゃないか。
「ママ……? ねぇママ、起きてよ……ママ!」
ふと豪雨の中、近くで女の子の声が聞こえてきた。声の方に顔を向けると、そこには骨が露出するほど背中を喰われて倒れている母親を起こそうと身体を揺らす、久遠と同い年くらいの女の子の姿があった。
あの人は……俺が一番最初に助けた女性だ。もしかして蹲っていたのは、自分の娘を守る為だったのか……?
「ママぁ……ねぇ起きてってば……やだよ……ひとりぼっちはやだよぉ……うぅっ……ううう……」
「…………」
「んだようるせぇなぁ……」
すると、あの男が頭を掻きながら歩いてきて、母親を起こそうとする女の子を見下ろした。女の子も男の存在に気づいて、徐々に表情が恐怖に染まっていく。
「あ……ああっ……」
「もう起きねーよ。オマエを庇って、魔獣に喰われて死んだんだ」
「そ……そんなことないもん……! ママはつよいもん……!!」
「人間、死ぬ時は簡単に死ぬんだ。現にほら……つよーい騎士団の総団長もあんなんになってる」
「うっ……うう……あ、あなたの、せいでしょ」
「あ?」
「わらうのは、うれしい時とつよがる時だけなんだよ。でもあなたはひとがくるしんでるの見て、わらってた……ひとがくるしいの、なにがうれしいの?」
「嬉しいだろ。嫌いな奴が俺の手で蹂躙……ボコボコにされていくのはよォ……!」
「……おかしいよ。あなた」
「言うじゃねェか……女だからって、ガキだからって手出されないと思ったら大間違いだぜェ? 今のテメェは、誰からも守ってもらえないんだぜ?」
「っ……」
「立場弁えろ……調子乗んなクソガキ」
「……うっ……うう……うぁあああああああん!!」
女の子は遂に、泣き出してしまった。
「ぁああもううるせぇんだよ!!! 泣けば何とかなると思ってんじゃねェ!!!」
男は女の子の泣き声に腹を立てて頭をガリガリと掻くと、剣を女の子に向けて振り下ろそうと刃を天に突き上げる。
女の子は逃げる訳でもなく、ただこの“誰も守ってくれない”現実に泣く事しか出来なかった。
「テメェみてぇな泣けば許されると思ってる女がァ……一番うぜぇんだよぉおおっ!!!」
男はそう叫んで、手に持った剣で女の子を殺そうと振り下ろした。その瞬間、あらゆる音を掻き消す豪雨の中で……確かに聞いた。
女の子の泣き叫ぶ声。男の怒声。剣を振り下ろす音。
——剣を刀で受け止める音。
「っ……!!!」
「あぁん!? テメェは……一人で戦ってたガキ!?」
……俺は即座に動いて刀を引き抜き、男の怒りの刃から女の子を守ったのだ。そして無言で男の剣をいなして、即座に拳に炎を纏わせて男の顔面を力いっぱい殴り飛ばした。
「ぐはぁあああああああっ!!!」
男は情けなく吹っ飛ばされていく。あれだけ調子こいていた人物があんな風に吹っ飛ばされていくのを見ると、中々爽快だ。
……こんな事で爽快に感じるなんて、俺も大概だな。
「ううっ……あなたは……?」
「……きっと怖かっただろうに、よく言ったな」
俺は刀を鞘に納めると、しゃがんで女の子と同じ目線でそう告げた。
「う、うん……」
「もう大丈夫、今この瞬間だけは俺が絶対に守るから」
「ほ……ほんと……?」
「ああ。お母さんは……守れなくてごめん」
「……ううん、あなたは悪くないよ」
女の子はそう言って、笑った。
「君は本当に強いな」
「ママのこどもだもん!」
「ふっ……そっか」
「レイ君っ!!!」
するとこんな豪雨の中、俺を呼ぶ声が聞こえてきた。この聞き慣れた声は……全く、そこまでの距離じゃないだろうに、来るのが遅いんだよ。
「ルィリア、シャーロット……!」
そこに現れたのは、俺の予想通り……ずぶ濡れになったルィリアとシャーロットだった。
「申し訳ありませんシン様、ルィリア様が流星群で重傷を負った人達の治療をしていたら遅れてしまいました」
「そうだったのか……ならこの子とカナンを頼む! 母親は……」
「……ご安心を。まだ辛うじて息はあります」
シャーロットは母親の脈と息を確認し、そう告げる。
「ほんと!? ママ治る!?」
「ええ治せますよ~、だってワタクシ天才ですから! さぁ手遅れになる前に行きましょう!」
「承知しました」
「……俺はここに残る」
「えっ、何故です!?」
「——俺が、アイツを倒す!」
俺は吹っ飛ばされてよろめいているあの男を睨みつけながらそう宣言した。
「アイツ、って……わかりました。レイ君はこうなったら何言っても聞きませんからね。死んでしまったら治療出来ませんから、絶対生きて帰ってきてください」
「大丈夫だ……じゃあまた後で会おう」
「あ……まって!」
「ん?」
突然女の子に呼び止められ、俺は振り返る。
「おなまえ!」
「名前……。シンっていう名前だよ」
「シン……がんばってねシンさん!!」
「ああ」
女の子は手を振って、シャーロットは母親を抱えて、ルィリアはカナンを抱えて戻っていった。改めて、俺は男を睨みつける。
「あーあ……ガキだからって舐めてたわ……テメェ、誰に喧嘩売ってんのか分かってんのか?」
「女の子に“おかしい”って言われた男だろ」
「煽るねェ……オレはアーシュ。選定の剣に選ばれた、勇者サマってヤツさァ……!」
「俺はシン……命知らずのバケモノだ……!!」
「ヘッ! テメェはイレギュラー的存在だが……オレに比べたら雑魚だろォッ!!」
アーシュが叫んだその時、選定の剣が金色のオーラを纏い始め、やがてアーシュの体へと流れ込んでいく。
オーラが全身に行き届くと、アーシュは衝撃波を放ってきた。それは凄まじい威力で、俺はそれだけで吹き飛ばされそうになる。
「くっうぅっ!!」
「最初から本気で行くぜ……こう見えてオレは今、究極にイラついてんだからなァ!!」
アーシュは怒りが滲み出るように震えた声でそう言うと、物凄い速さで俺に迫ってくる。あの速度で突進なんてされたらひとたまりもないだろう。
それにあの選定の剣から出ている金色のオーラ……あれは俺の本能が危険信号を発している。もはや力でどうこう出来る物ではないだろう。しかしあの力をこの刀で吸収出来れば、勝てる見込みはある。
……一か八か、やってみるしかない。
「ハァッ!!」
俺は背中に炎の翼を最大出力で展開すると、こちらも負けじと迫り来るアーシュに向かって飛んでいった。最大出力で加速しているのに、それでもなお向こうの速度の方が三倍ほど速い。
「オラァアッ!!」
「でやぁあああっ!!」
互いの距離が近くなった頃、俺は刀を、アーシュは選定の剣を振りかぶった。そして刃の届く範囲まで相手が近くなると、互いの刃を振り下ろした。金属同士がとても強くぶつかり、折れるんじゃないかと思うほどの音がした。
「フンッ、オレの勝ちだァッ!!」
「うっ……ぐぅうううううううう!!!」
一瞬の鍔迫り合いの末、俺は向こうの力に負けてしまい、一方的に押されてしまった。押し返そうにも、向こうとでは出力が月とスッポンだ。
しかし刀はアーシュの選定の剣に触れている。押しに負けてはいるが、ここで力を吸収すれば……そう思うと、刀身がピンク色に光り始めた。
「あぁん? んだこれ……」
「っ……ぐぁああっ!?」
選定の剣の力を吸収しようとしたその時、まるで刀が拒絶したかのように選定の剣の力に弾かれてしまい、俺はバランスを崩してしまった。
「おらっ……よっ!!」
アーシュは隙ありと言わんばかりに、俺の腹に蹴りを入れてきた。俺は成す術無く吹っ飛んでしまい、崩壊した噴水に叩きつけられた。
「ぐっ……なんでだ……!?」
「何しようとしてたかは知らねぇが……どうやらテメェの考えは打ち砕かれたみてぇだなァ?」
「くぅっ……まだだッ!!」
俺は諦めず、刀に炎を纏わせてアーシュを斬り付けようとする。真正面から、右から、左から、上から、下から……しかしどの攻撃も、いとも簡単にいなされてしまった。
「往生際が悪いぜ……テメェは負けたんだ」
「まだ決まって……ない……!!」
俺は再び炎の翼を展開し、この場の脱却を試みたが……いち早く気付いたアーシュは俺の胸を足でかなり強い力で踏み付け、阻止してきた。
「炎の翼ってのはカッコいいと思うぜ……だが俺に喧嘩売るにはちょっと……いや、だいぶ力不足だったみてぇだなァ」
「くっ……」
「オレに挑んだ勇気は認めるぜ。まぁ勇気っつーより、無謀だったけどな……さぁ、チェックメイトだ」
アーシュはそう告げると、俺の身体に選定の剣を深々と突き刺した。
「がァァァァァァァアああアッ!! ァアアアぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!! ハァッ、ハァッ……ウゥウウウァアアアア!!!」
痛い。痛い。痛い。熱い熱い熱い!!
選定の剣に突き刺された箇所には当然、耐え難い痛みが襲ってくるのだが、それ以上に、まるで根性焼きでもされているかのような熱さも襲ってくる。前世でも根性焼きなんてした事は無いが。
アーシュが俺の身体から選定の剣を引き抜くと、血が噴水のように噴き出してくる。傷口に雨が当たって、更に痛みが増す。焼けるような熱さは健在で、意識が朦朧としてくる。
流石に、これは死んでしまうかもしれない。あぁ、でも確か死にかけた時にだけ発動するあの謎の力がまだ俺には……。
……。
…………。
…………………。
……何故だ。何故発動しない?
前回とは状況がかなり酷似しているのに、何故あの謎の力が発動しないのだろうか。時間差……という事は無いだろう。
「……弱ぇくせに手間取らせやがって。剣が汚れちまったじゃねぇか」
「あぁっ……はぁ……な、何で、だ……」
「あ? 何が?」
「どうして……こんな事、を……この国に……恨み、でもある……のか……?」
俺は力を振り絞ってアーシュに問う。
ただムカついたから、という理由だけではここまでしないだろう。
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