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姦邪Ⅰ -ルィリア編-
第33話 カナンの心
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「……いや、いつまで手を繋いでんだ?」
ネルフィラとの尋問じみた会話を終えてまた少し歩いた後、俺は相変わらずずっと手を繋いでいるカナンに向けてそう言った。
「そ、それは……少年が何処かへ行ってしまわないようにだ! ルィリア殿が心配するだろうからな!」
「何処も行かないよ俺は。それに俺の名前はシンだ」
「し、シンか! そうか、覚えておこう!」
カナンは何故か焦っているような口調でそう言って、相変わらず手を繋いだまま歩く。
「いや手を離してくれって」
「あぁすまない! そうだよな……私は子供からしたら怖いだろうしな……」
「別に怖くないぞ?」
「え……本当か!?」
「ああ、総団長としては相応しい姿勢だと思うよ。逆に周りの目を考えて女性らしくしていたら、却って信頼はされないと思うしさ」
「そ……そうか……よかった……そう言って貰えると、気持ちが楽になる」
「もしかして、総団長としての立ち振る舞いのせいで周りから怖い人だと思われて避けられてるとか?」
「なっ、何故わかったのだ!?」
「そういう人よくいるからな。でもいざ話してみれば、意外と普通だったり優しい人だったりする。実際、カナンもそうだ」
「……ありがとう。本当に」
すると、カナンは突然今にも泣きそうな顔で俺に抱きついてきた。
「へ!? ちょ、なんでそうなる!?」
「感謝を伝えるのは当然だ、貴殿が初めて私の事を理解してくれた人なのだから」
「ま、まぁ難しいよな。総団長という肩書きがある以上、自分らしさは捨てなきゃいけないけど、それだと周りから誤解されて避けられるってさ。強い人でなければならないからこそ、誰かに相談する事も出来なかったんだよな」
「うん……うん……」
「……と、とりあえず繁華街まで一緒に行こう! なっ?」
「……うん」
カナンは俺に抱きついたまま、泣き止んだ直後の子供のように頷いた。
この感じを見るにカナンは長い間誤解され続け、更には自分を打ち明けられる人も居なかった為、相当辛かったのだろう。こんな姿を見られては総団長の面子が立たないだろうが、この辺りはルィリア邸の近くという事もあって人通りが少ないのが幸いか。
深呼吸をした後、カナンはゆっくりと立ち上がって自分の涙を拭った。
「すまない、取り乱した……では行こう、シン!」
「ああ」
——カナンの顔は、憑き物が取れたような……爽やかな表情をしていた。
◇
繁華街に来てからの買い物は、驚くほどテンポ良く進んだ。カナンが“これをくれ”と言えば、対面した商人は焦るように急いで品を出すのだ。まるで魔王に生贄を捧げるみたいに。
お陰で、触れてはいけない事だと思われているのか隣にいる俺の事は一切聞かれなかった。
「ふむ、かなり順調だな。だが改めて私が人々から怖がられているという事実を突きつけられるのが酷だな……」
「いいじゃないか。順調な上に割引とかもしてもらったしさ」
「……シンはポジティブなんだな」
「ポジティブっていうか……物事を悪く考えても気分が暗くなるだけだからな」
カナンの言葉に、俺はそう返した。
こんな事を言っているが、実際俺も結構物事を悪く考えてしまいがちだ。だからこの言葉はある意味、俺自身に向けている事にもなる。
わかってはいるんだが……逆に良い風に考え過ぎて、どう捉えても悪いようにしかならなかった時が怖いのだ。だから予め悪いように捉える事で少しでも結果が良く思えるようにしたいのだ。
「そうだシン、具体的な日にちはまだ未定だが、近頃新しい国王様が即位なされる事は知っているだろうか?」
ふと、カナンは話題を切り替えて声色を明るくして俺にそう聞いてきた。
「知らないけど……日にち未定なのか?」
「ああ。それこそ今は例の暗殺者の事件が多発している。今、公の場に国王様が出たら危険だという事で、解決までお預けとなっているんだ」
「だから精鋭部隊を呼んでまで解決に臨んでるわけだ」
「ああ。もしこの事件が解決したら、私と一緒に即位式を見に行かないか?」
「……」
カナンの誘いに、俺はただ黙り込んだ。
“もしこれが終わったら、◯◯に行こう”は完全に死亡フラグでしかない。ましてやこれを了承したら絶対に成立してしまう……この場合、確実に生き残るのは特殊体質である俺だ。
「……もしかして、私と一緒は嫌か?」
「嫌って訳じゃない、単に即位式に興味ないだけだ。誰が即位しようと、俺達の生活が変わる訳じゃないし」
「それは……」
「まぁ俺はこんな考えしてるからさ、俺と一緒に行った所で面白味も感動も無いと思うぞ」
「だって……シンとしか、一緒に行けるような相手なんか居ないんだ」
「断る選択肢は与えてくれないみたいだな……わかった、良いよ」
「本当か!? ……すまない、私の我儘に付き合わせてしまって」
「気にするな。だが周りには気をつけろよ、即位式なんて何しでかすかわからない連中も紛れているだろうし」
「それは案ずるな、私は騎士団総団長だぞ? 並大抵の事では倒れんよ」
カナンは誇らしげなドヤ顔で俺にそう言った。
こういう人物ほど、思いがけない所で死んじゃったりするんだよなぁ……まぁあくまでアニメとかでの話だが。もちろんカナンには死んでほしくないし、生き続けていてほしいが……死亡フラグ立てすぎなんだよなぁ。
「……まぁとりあえず食材は2人だとこれぐらいが限界だろうし、一旦帰ろう」
「ああ、そうだな。シンの言う通りだ」
そう言って俺達は、数kgはありそうな食材達を両手に持ちながらルィリア邸へと帰っていった。
ネルフィラとの尋問じみた会話を終えてまた少し歩いた後、俺は相変わらずずっと手を繋いでいるカナンに向けてそう言った。
「そ、それは……少年が何処かへ行ってしまわないようにだ! ルィリア殿が心配するだろうからな!」
「何処も行かないよ俺は。それに俺の名前はシンだ」
「し、シンか! そうか、覚えておこう!」
カナンは何故か焦っているような口調でそう言って、相変わらず手を繋いだまま歩く。
「いや手を離してくれって」
「あぁすまない! そうだよな……私は子供からしたら怖いだろうしな……」
「別に怖くないぞ?」
「え……本当か!?」
「ああ、総団長としては相応しい姿勢だと思うよ。逆に周りの目を考えて女性らしくしていたら、却って信頼はされないと思うしさ」
「そ……そうか……よかった……そう言って貰えると、気持ちが楽になる」
「もしかして、総団長としての立ち振る舞いのせいで周りから怖い人だと思われて避けられてるとか?」
「なっ、何故わかったのだ!?」
「そういう人よくいるからな。でもいざ話してみれば、意外と普通だったり優しい人だったりする。実際、カナンもそうだ」
「……ありがとう。本当に」
すると、カナンは突然今にも泣きそうな顔で俺に抱きついてきた。
「へ!? ちょ、なんでそうなる!?」
「感謝を伝えるのは当然だ、貴殿が初めて私の事を理解してくれた人なのだから」
「ま、まぁ難しいよな。総団長という肩書きがある以上、自分らしさは捨てなきゃいけないけど、それだと周りから誤解されて避けられるってさ。強い人でなければならないからこそ、誰かに相談する事も出来なかったんだよな」
「うん……うん……」
「……と、とりあえず繁華街まで一緒に行こう! なっ?」
「……うん」
カナンは俺に抱きついたまま、泣き止んだ直後の子供のように頷いた。
この感じを見るにカナンは長い間誤解され続け、更には自分を打ち明けられる人も居なかった為、相当辛かったのだろう。こんな姿を見られては総団長の面子が立たないだろうが、この辺りはルィリア邸の近くという事もあって人通りが少ないのが幸いか。
深呼吸をした後、カナンはゆっくりと立ち上がって自分の涙を拭った。
「すまない、取り乱した……では行こう、シン!」
「ああ」
——カナンの顔は、憑き物が取れたような……爽やかな表情をしていた。
◇
繁華街に来てからの買い物は、驚くほどテンポ良く進んだ。カナンが“これをくれ”と言えば、対面した商人は焦るように急いで品を出すのだ。まるで魔王に生贄を捧げるみたいに。
お陰で、触れてはいけない事だと思われているのか隣にいる俺の事は一切聞かれなかった。
「ふむ、かなり順調だな。だが改めて私が人々から怖がられているという事実を突きつけられるのが酷だな……」
「いいじゃないか。順調な上に割引とかもしてもらったしさ」
「……シンはポジティブなんだな」
「ポジティブっていうか……物事を悪く考えても気分が暗くなるだけだからな」
カナンの言葉に、俺はそう返した。
こんな事を言っているが、実際俺も結構物事を悪く考えてしまいがちだ。だからこの言葉はある意味、俺自身に向けている事にもなる。
わかってはいるんだが……逆に良い風に考え過ぎて、どう捉えても悪いようにしかならなかった時が怖いのだ。だから予め悪いように捉える事で少しでも結果が良く思えるようにしたいのだ。
「そうだシン、具体的な日にちはまだ未定だが、近頃新しい国王様が即位なされる事は知っているだろうか?」
ふと、カナンは話題を切り替えて声色を明るくして俺にそう聞いてきた。
「知らないけど……日にち未定なのか?」
「ああ。それこそ今は例の暗殺者の事件が多発している。今、公の場に国王様が出たら危険だという事で、解決までお預けとなっているんだ」
「だから精鋭部隊を呼んでまで解決に臨んでるわけだ」
「ああ。もしこの事件が解決したら、私と一緒に即位式を見に行かないか?」
「……」
カナンの誘いに、俺はただ黙り込んだ。
“もしこれが終わったら、◯◯に行こう”は完全に死亡フラグでしかない。ましてやこれを了承したら絶対に成立してしまう……この場合、確実に生き残るのは特殊体質である俺だ。
「……もしかして、私と一緒は嫌か?」
「嫌って訳じゃない、単に即位式に興味ないだけだ。誰が即位しようと、俺達の生活が変わる訳じゃないし」
「それは……」
「まぁ俺はこんな考えしてるからさ、俺と一緒に行った所で面白味も感動も無いと思うぞ」
「だって……シンとしか、一緒に行けるような相手なんか居ないんだ」
「断る選択肢は与えてくれないみたいだな……わかった、良いよ」
「本当か!? ……すまない、私の我儘に付き合わせてしまって」
「気にするな。だが周りには気をつけろよ、即位式なんて何しでかすかわからない連中も紛れているだろうし」
「それは案ずるな、私は騎士団総団長だぞ? 並大抵の事では倒れんよ」
カナンは誇らしげなドヤ顔で俺にそう言った。
こういう人物ほど、思いがけない所で死んじゃったりするんだよなぁ……まぁあくまでアニメとかでの話だが。もちろんカナンには死んでほしくないし、生き続けていてほしいが……死亡フラグ立てすぎなんだよなぁ。
「……まぁとりあえず食材は2人だとこれぐらいが限界だろうし、一旦帰ろう」
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そう言って俺達は、数kgはありそうな食材達を両手に持ちながらルィリア邸へと帰っていった。
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