慟哭のシヴリングス

ろんれん

文字の大きさ
上 下
18 / 93
姦邪Ⅰ -ルィリア編-

第18話 ルィリア邸の日常

しおりを挟む
 ルィリアが乗り物酔いでダウンしている間、俺達はメイドにルィリア邸の中の案内をしてもらう事になった。
 色々と見て回ったが、とにかく広い。 白を基調とした清潔感のある内装に一つ一つの部屋がやたらデカいし、風呂もキッチンもトイレの個室も大きく、それに伴って廊下もいちいち長い。だから歩いていて移動面はかなり不便だなと感じた。セグウェイでもあれば話は別だが、異世界にそんなものはない。
 デカければいいってものではない事を知った。
 そして、このルィリア邸にある全ての窓が曇りガラスのようになっていた。外の壁もそうだったが、かなりプライバシー保護に力を入れているようで、外からでは中が全く見えないようになっている。

「……そういえば、御二方の事は何とお呼びすればよろしいでしょうか?」

 一通り豪邸の中を案内してもらい、俺達は長い廊下を歩いている最中、ふとメイドはそんな事を聞いてきた。

「名前……」
「……私はフェリノート」
「じゃあ、俺はシンって呼んでくれ」
「かしこまりました。ではシン様、フェリノート様とお呼びさせていただきます。せつはシ……ルィリア様の専属メイドを担っているシャーロットと申します、以後お見知り置きの程を」

 ルィリア専属のメイド改めシャーロットは自分の自己紹介を軽く済ませると、俺達に深々と頭を下げた。
 どうでもいいが、“拙”って一人称……初めて聞いた。

「これから世話になるよ、シャーロット」
「よ……よろしく」
「ええ。よろしくお願いいたします、ふふっ」
「なぁ、早速質問で悪いんだけど、さっきから何でルィリアの事をシオンって呼ぶんだ?」
「それは……言えません。ルィリア様からの許可を得なければ」

 シャーロットは深刻そうな表情を浮かべながらも、申し訳なさそうに告げた。
 ルィリア邸の作りからして何となくわかってはいたが、プライバシーに関する事は外部からも内部からもとことん徹底しているようだ。誰しも、例え親しい仲であったとしても言いたくない秘密はあるものだ。もちろん俺にだってあるし、久遠にもきっとある。

「まぁそりゃそうだな。変な事聞いた」
「いえ、構いません。寧ろお役に立てず申し訳ございません」
「そんな事で謝らないでくれ、寧ろ秘密を知ろうとする俺の方が野暮ってもんだし」
「ふふっ、大人ですね……シン様は」
「っ……どーも」

 俺はシャーロットから目線を逸らして小さく頭を下げた。
 そもそも俺は21歳の頃に自殺した。高卒で社会人になって、3年くらいサラリーマンとして働いていた。だからある程度社会や大人の良い所や悪い所ついては心得ているつもりだ。
 社会に出ると、毎日朝早く起きて出勤して日が暮れるまで仕事して帰ってきて寝るだけの日々が続く。寝る前と起きた時、毎度のように“俺は何で生きてるんだろう、何の為に働いてるんだろう”と悟りを開く。
 ……俺の社会人生は、ほぼ空虚と言って差し支えなかった。

「皆さーん! ご心配おかけしましたー!」

 ふと廊下の向こうからそんな声が聞こえてきた。俺達は声の方に振り返るが、正直誰かなんて見なくてもわかった。

「お体の方は回復なされたんですか、ルィリア様」
「当たり前じゃないですか、ワタクシは天才ですよ?」
「体調に頭脳は関係ないと思うんだが……」
「とにかくっ! これからはこの豪邸の主人であるワタクシが直々に案内しますよーっ、シャーロット、進捗は?」
「はい。一通り案内は終えて、互いの名前を聞いていたところです」
「ふむふむ、案内が終わってるのは流石シャーロット、仕事が早……はぁああっ!? なぁんで主人のワタクシよりも先にこの子の名前聞いてるんですかっ!?」

 ルィリアはギャグ漫画みたいに大袈裟に身体を動かして、全身で怒りを表現しながらシャーロットにブチギレた。
 ……確かに考えてみれば、俺達はまだルィリアに自分の名前を教えてなかった。なんだか不思議と勝手に教えたような気でいた。

「……おや、どうやら拙が先を越してしまったようですね。どうして名前を聞かなかったのですか?」
「ちっ、違いますよ! この子が名乗らなかっただけでっ、ワタクシはちゃんと名乗りましたよっ!」
「だから と聞いているんですが」
「うっ、ぐぬぬ……」
「……まぁ、自分から名乗らなかった俺にも非があるって事でいいじゃないか」

 俺は呆れるようにため息を吐きながら、ルィリアを庇護する。
 実際、向こうは名乗られたのにこちらは名乗らなかったというのは非常識だし。まぁ言い訳をするなら、あの時の俺は何でもかんでも疑っていたし……やっぱ、言い訳なんてするもんじゃないな。

「う、うん……名乗らなかった私にも非が、ある」
「君達ぃ……なんて優しい子達なんでしょうかっ!! もう抱きしめちゃいますっ!」

 ルィリアは心底嬉しそうな顔で両手を広げて、俺達に近づいてきた。

「……」
「……」

 ——俺達は、無言で後退りをした。

「何で逃げるんですかっ!!」
「では改めて拙から説明致します。彼がアニ、彼女がイモです」
「絶対嘘ですよね?!」
「おぉよく分かりましたね。流石天才」
「1000%馬鹿にしてますよねワタクシの事!? はぁ……いいですかシャーロット、ワタクシは君のご主人様なんですよ? やろうと思えば君を解雇する事だって出来るんですから、それを忘れないでもらえますかねぇ?!」
「でも拙が居なくなったら、誰が家事を担うんです? 拙以外絶対引き受けませんよ、こんな無駄に大きな家の家事なんて」
「ぐ、ぐぬぬ……てかとか言わないでくださいっ!」
「では馬鹿みたいに大きい家」
「馬鹿って! それワタクシに一番言っちゃいけない単語ですよそれは!!」
「フフッ……バカ、バーカ」
「むっきーっ!! わからせてやるーーっ!!」
「きゃーっ」

 シャーロットは楽しんでいる子供のような無邪気な笑みを浮かべながら走って逃亡した。ルィリアはバカと言われてカンカンに怒って、逃げるシャーロットを追いかけて走っていってしまった。

「賑やかだな」
「うん……でも、何かイイね」
「ふっ、思った」

 追いかけっこをする大人の女性二人の背中を見つめながら、俺達はその滑稽な光景に思わず笑いを溢しながらそう告げた。

 ——数分後、シャーロットが白目剥いたルィリアを担いで戻って来たとさ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

お尻たたき収容所レポート

鞭尻
大衆娯楽
最低でも月に一度はお尻を叩かれないといけない「お尻たたき収容所」。 「お尻たたきのある生活」を望んで収容生となった紗良は、収容生活をレポートする記者としてお尻たたき願望と不安に揺れ動く日々を送る。 ぎりぎりあるかもしれない(?)日常系スパンキング小説です。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...