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姦邪Ⅰ -ルィリア編-
第18話 ルィリア邸の日常
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ルィリアが乗り物酔いでダウンしている間、俺達はメイドにルィリア邸の中の案内をしてもらう事になった。
色々と見て回ったが、とにかく広い。 白を基調とした清潔感のある内装に一つ一つの部屋がやたらデカいし、風呂もキッチンもトイレの個室も大きく、それに伴って廊下もいちいち長い。だから歩いていて移動面はかなり不便だなと感じた。セグウェイでもあれば話は別だが、異世界にそんなものはない。
デカければいいってものではない事を知った。
そして、このルィリア邸にある全ての窓が曇りガラスのようになっていた。外の壁もそうだったが、かなりプライバシー保護に力を入れているようで、外からでは中が全く見えないようになっている。
「……そういえば、御二方の事は何とお呼びすればよろしいでしょうか?」
一通り豪邸の中を案内してもらい、俺達は長い廊下を歩いている最中、ふとメイドはそんな事を聞いてきた。
「名前……」
「……私はフェリノート」
「じゃあ、俺はシンって呼んでくれ」
「かしこまりました。ではシン様、フェリノート様とお呼びさせていただきます。拙はシ……ルィリア様の専属メイドを担っているシャーロットと申します、以後お見知り置きの程を」
ルィリア専属のメイド改めシャーロットは自分の自己紹介を軽く済ませると、俺達に深々と頭を下げた。
どうでもいいが、“拙”って一人称……初めて聞いた。
「これから世話になるよ、シャーロット」
「よ……よろしく」
「ええ。よろしくお願いいたします、ふふっ」
「なぁ、早速質問で悪いんだけど、さっきから何でルィリアの事をシオンって呼ぶんだ?」
「それは……言えません。ルィリア様からの許可を得なければ」
シャーロットは深刻そうな表情を浮かべながらも、申し訳なさそうに告げた。
ルィリア邸の作りからして何となくわかってはいたが、プライバシーに関する事は外部からも内部からもとことん徹底しているようだ。誰しも、例え親しい仲であったとしても言いたくない秘密はあるものだ。もちろん俺にだってあるし、久遠にもきっとある。
「まぁそりゃそうだな。変な事聞いた」
「いえ、構いません。寧ろお役に立てず申し訳ございません」
「そんな事で謝らないでくれ、寧ろ秘密を知ろうとする俺の方が野暮ってもんだし」
「ふふっ、大人ですね……シン様は」
「っ……どーも」
俺はシャーロットから目線を逸らして小さく頭を下げた。
そもそも俺は21歳の頃に自殺した。高卒で社会人になって、3年くらいサラリーマンとして働いていた。だからある程度社会や大人の良い所や悪い所ついては心得ているつもりだ。
社会に出ると、毎日朝早く起きて出勤して日が暮れるまで仕事して帰ってきて寝るだけの日々が続く。寝る前と起きた時、毎度のように“俺は何で生きてるんだろう、何の為に働いてるんだろう”と悟りを開く。
……俺の社会人生は、ほぼ空虚と言って差し支えなかった。
「皆さーん! ご心配おかけしましたー!」
ふと廊下の向こうからそんな声が聞こえてきた。俺達は声の方に振り返るが、正直誰かなんて見なくてもわかった。
「お体の方は回復なされたんですか、ルィリア様」
「当たり前じゃないですか、ワタクシは天才ですよ?」
「体調に頭脳は関係ないと思うんだが……」
「とにかくっ! これからはこの豪邸の主人であるワタクシが直々に案内しますよーっ、シャーロット、進捗は?」
「はい。一通り案内は終えて、互いの名前を聞いていたところです」
「ふむふむ、案内が終わってるのは流石シャーロット、仕事が早……はぁああっ!? なぁんで主人のワタクシよりも先にこの子の名前聞いてるんですかっ!?」
ルィリアはギャグ漫画みたいに大袈裟に身体を動かして、全身で怒りを表現しながらシャーロットにブチギレた。
……確かに考えてみれば、俺達はまだルィリアに自分の名前を教えてなかった。なんだか不思議と勝手に教えたような気でいた。
「……おや、どうやら拙が先を越してしまったようですね。どうして名前を聞かなかったのですか?」
「ちっ、違いますよ! この子が名乗らなかっただけでっ、ワタクシはちゃんと名乗りましたよっ!」
「だから名前を聞かなかったのですか? と聞いているんですが」
「うっ、ぐぬぬ……」
「……まぁ、自分から名乗らなかった俺にも非があるって事でいいじゃないか」
俺は呆れるようにため息を吐きながら、ルィリアを庇護する。
実際、向こうは名乗られたのにこちらは名乗らなかったというのは非常識だし。まぁ言い訳をするなら、あの時の俺は何でもかんでも疑っていたし……やっぱ、言い訳なんてするもんじゃないな。
「う、うん……名乗らなかった私にも非が、ある」
「君達ぃ……なんて優しい子達なんでしょうかっ!! もう抱きしめちゃいますっ!」
ルィリアは心底嬉しそうな顔で両手を広げて、俺達に近づいてきた。
「……」
「……」
——俺達は、無言で後退りをした。
「何で逃げるんですかっ!!」
「では改めて拙から説明致します。彼がアニ、彼女がイモです」
「絶対嘘ですよね?!」
「おぉよく分かりましたね。流石天才」
「1000%馬鹿にしてますよねワタクシの事!? はぁ……いいですかシャーロット、ワタクシは君のご主人様なんですよ? やろうと思えば君を解雇する事だって出来るんですから、それを忘れないでもらえますかねぇ?!」
「でも拙が居なくなったら、誰が家事を担うんです? 拙以外絶対引き受けませんよ、こんな無駄に大きな家の家事なんて」
「ぐ、ぐぬぬ……てか無駄にとか言わないでくださいっ!」
「では馬鹿みたいに大きい家」
「馬鹿って! それワタクシに一番言っちゃいけない単語ですよそれは!!」
「フフッ……バカ、バーカ」
「むっきーっ!! わからせてやるーーっ!!」
「きゃーっ」
シャーロットは楽しんでいる子供のような無邪気な笑みを浮かべながら走って逃亡した。ルィリアはバカと言われてカンカンに怒って、逃げるシャーロットを追いかけて走っていってしまった。
「賑やかだな」
「うん……でも、何かイイね」
「ふっ、思った」
追いかけっこをする大人の女性二人の背中を見つめながら、俺達はその滑稽な光景に思わず笑いを溢しながらそう告げた。
——数分後、シャーロットが白目剥いたルィリアを担いで戻って来たとさ。
色々と見て回ったが、とにかく広い。 白を基調とした清潔感のある内装に一つ一つの部屋がやたらデカいし、風呂もキッチンもトイレの個室も大きく、それに伴って廊下もいちいち長い。だから歩いていて移動面はかなり不便だなと感じた。セグウェイでもあれば話は別だが、異世界にそんなものはない。
デカければいいってものではない事を知った。
そして、このルィリア邸にある全ての窓が曇りガラスのようになっていた。外の壁もそうだったが、かなりプライバシー保護に力を入れているようで、外からでは中が全く見えないようになっている。
「……そういえば、御二方の事は何とお呼びすればよろしいでしょうか?」
一通り豪邸の中を案内してもらい、俺達は長い廊下を歩いている最中、ふとメイドはそんな事を聞いてきた。
「名前……」
「……私はフェリノート」
「じゃあ、俺はシンって呼んでくれ」
「かしこまりました。ではシン様、フェリノート様とお呼びさせていただきます。拙はシ……ルィリア様の専属メイドを担っているシャーロットと申します、以後お見知り置きの程を」
ルィリア専属のメイド改めシャーロットは自分の自己紹介を軽く済ませると、俺達に深々と頭を下げた。
どうでもいいが、“拙”って一人称……初めて聞いた。
「これから世話になるよ、シャーロット」
「よ……よろしく」
「ええ。よろしくお願いいたします、ふふっ」
「なぁ、早速質問で悪いんだけど、さっきから何でルィリアの事をシオンって呼ぶんだ?」
「それは……言えません。ルィリア様からの許可を得なければ」
シャーロットは深刻そうな表情を浮かべながらも、申し訳なさそうに告げた。
ルィリア邸の作りからして何となくわかってはいたが、プライバシーに関する事は外部からも内部からもとことん徹底しているようだ。誰しも、例え親しい仲であったとしても言いたくない秘密はあるものだ。もちろん俺にだってあるし、久遠にもきっとある。
「まぁそりゃそうだな。変な事聞いた」
「いえ、構いません。寧ろお役に立てず申し訳ございません」
「そんな事で謝らないでくれ、寧ろ秘密を知ろうとする俺の方が野暮ってもんだし」
「ふふっ、大人ですね……シン様は」
「っ……どーも」
俺はシャーロットから目線を逸らして小さく頭を下げた。
そもそも俺は21歳の頃に自殺した。高卒で社会人になって、3年くらいサラリーマンとして働いていた。だからある程度社会や大人の良い所や悪い所ついては心得ているつもりだ。
社会に出ると、毎日朝早く起きて出勤して日が暮れるまで仕事して帰ってきて寝るだけの日々が続く。寝る前と起きた時、毎度のように“俺は何で生きてるんだろう、何の為に働いてるんだろう”と悟りを開く。
……俺の社会人生は、ほぼ空虚と言って差し支えなかった。
「皆さーん! ご心配おかけしましたー!」
ふと廊下の向こうからそんな声が聞こえてきた。俺達は声の方に振り返るが、正直誰かなんて見なくてもわかった。
「お体の方は回復なされたんですか、ルィリア様」
「当たり前じゃないですか、ワタクシは天才ですよ?」
「体調に頭脳は関係ないと思うんだが……」
「とにかくっ! これからはこの豪邸の主人であるワタクシが直々に案内しますよーっ、シャーロット、進捗は?」
「はい。一通り案内は終えて、互いの名前を聞いていたところです」
「ふむふむ、案内が終わってるのは流石シャーロット、仕事が早……はぁああっ!? なぁんで主人のワタクシよりも先にこの子の名前聞いてるんですかっ!?」
ルィリアはギャグ漫画みたいに大袈裟に身体を動かして、全身で怒りを表現しながらシャーロットにブチギレた。
……確かに考えてみれば、俺達はまだルィリアに自分の名前を教えてなかった。なんだか不思議と勝手に教えたような気でいた。
「……おや、どうやら拙が先を越してしまったようですね。どうして名前を聞かなかったのですか?」
「ちっ、違いますよ! この子が名乗らなかっただけでっ、ワタクシはちゃんと名乗りましたよっ!」
「だから名前を聞かなかったのですか? と聞いているんですが」
「うっ、ぐぬぬ……」
「……まぁ、自分から名乗らなかった俺にも非があるって事でいいじゃないか」
俺は呆れるようにため息を吐きながら、ルィリアを庇護する。
実際、向こうは名乗られたのにこちらは名乗らなかったというのは非常識だし。まぁ言い訳をするなら、あの時の俺は何でもかんでも疑っていたし……やっぱ、言い訳なんてするもんじゃないな。
「う、うん……名乗らなかった私にも非が、ある」
「君達ぃ……なんて優しい子達なんでしょうかっ!! もう抱きしめちゃいますっ!」
ルィリアは心底嬉しそうな顔で両手を広げて、俺達に近づいてきた。
「……」
「……」
——俺達は、無言で後退りをした。
「何で逃げるんですかっ!!」
「では改めて拙から説明致します。彼がアニ、彼女がイモです」
「絶対嘘ですよね?!」
「おぉよく分かりましたね。流石天才」
「1000%馬鹿にしてますよねワタクシの事!? はぁ……いいですかシャーロット、ワタクシは君のご主人様なんですよ? やろうと思えば君を解雇する事だって出来るんですから、それを忘れないでもらえますかねぇ?!」
「でも拙が居なくなったら、誰が家事を担うんです? 拙以外絶対引き受けませんよ、こんな無駄に大きな家の家事なんて」
「ぐ、ぐぬぬ……てか無駄にとか言わないでくださいっ!」
「では馬鹿みたいに大きい家」
「馬鹿って! それワタクシに一番言っちゃいけない単語ですよそれは!!」
「フフッ……バカ、バーカ」
「むっきーっ!! わからせてやるーーっ!!」
「きゃーっ」
シャーロットは楽しんでいる子供のような無邪気な笑みを浮かべながら走って逃亡した。ルィリアはバカと言われてカンカンに怒って、逃げるシャーロットを追いかけて走っていってしまった。
「賑やかだな」
「うん……でも、何かイイね」
「ふっ、思った」
追いかけっこをする大人の女性二人の背中を見つめながら、俺達はその滑稽な光景に思わず笑いを溢しながらそう告げた。
——数分後、シャーロットが白目剥いたルィリアを担いで戻って来たとさ。
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