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姦邪Ⅰ -家出編-
第11話 表裏一体の幸
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あれだけあの男を嫌っていたシェリルも、不本意でも一緒に過ごしていた者が亡くなったと知り、辛いのだろうか。
「うっ、うぅ……ふっ、ふふ……はははっ、うひゃははははははははははははははっ!!!」
「っ!?」
シェリルは狂ったように、突然笑い始めた。
「アイツ死んだんだって!! 当然の報いよねぇっ、一人の女を酷い目に遭わせたんだもの!! きっとこれは……心の赴くままに、運命の人と早く結ばれろっていう神様からのメッセージなのよ!!」
「は……?」
その時、外では雷鳴と共に雨が降り始めた。
俺はシェリルの言っている事が全く持って理解出来なかった。
どんなに嫌いな奴だったとしても、どうして人の死を喜べるのだろうか? どうして人の死を、自分の都合の良いように解釈して開き直れるのだろうか?
「はぁ……はぁ……こうしてちゃいられないわ、早く結婚の準備を進めないと……ほらフェリノート、そんな道具から離れて、こっちにいらっしゃい?」
シェリルはこちらに振り返って、目を見開いてニヤニヤと不気味な笑みを浮かべながら久遠に向けて手を差し伸べてきた。
俺は、もはや戦慄した。人の死を喜び、それを神からの恵みだと思い込んでいるような奴に誰がついていこうと思うんだろうか。どうなっているんだ、シェリルの思考回路は。
「っ……」
久遠は何も見えなくてもシェリルの狂気を肌で感じ取ったのか、怯えるように身体を震わせながら俺の背後に隠れた。
「大丈夫よ、こんな生活はもう終わり。これからは愛に満ちた幸せな日々が始まるのよ!! だから、ほら!!」
「くっ……」
シェリルは息を荒くして、見開いた目で久遠を見つめ、ニヤニヤと不気味に笑みを浮かべながらこちらに歩み寄ってくる。それに対し、俺達は少しずつ後退りをする。
「退きなさいシン……フェリノートを私に返して。その娘は私と彼の子供なのよぉっ!! 私と!! 彼の!! 愛の結晶!! 幸せの象徴なのぉっ!!」
シェリルは、久遠を例の運命の人と自分の子供だと強調して俺に怒声を浴びせる。
「っ……」
フェリノートは確かにシェリルの子供だ。今はこんなに狂っていても、シェリルだって例の運命の人と暮らす時はきっと良妻として立ち振る舞い、あの男の時とは違う、偽りの無い本当に幸せな日々を送れるだろう。
だが同時に、俺の妹であった久遠の生まれ変わりでもある。前世で守れなかった妹とせっかく運命的な再会を果たしたのだ、当然離れたくない。
「早く返しなさいシン……!! もう介護の役目は終わり……私達は幸せになるのよ……!」
シェリルはそう言って、久遠を俺から取り返そうと手を伸ばしてきた。
「……ふざけんな」
「はぁ?」
昔どこかで聞いたのだが、どうやら悪い事をしたらその報いをいつか受ける事になるらしい。逆に良い事をすれば、いつか幸運が自分の身に舞い降りるらしい。
「俺は一番シェリルの事を理解してる、良いところも悪いところも。あまり言いたくないけど、あの男が殺されたのも、当然の報いかもしれない」
確かにシェリルは酷い目に遭ってきた。それはこの世で俺が最も知っている。知らない内によくわからない人と結婚させられていて、いつの間にか子供まで孕っているなんて、自分の立場に置き換えて考えたら頭がおかしくなりそうだ。
そんな目に遭わせた元凶であるあの男は、裁きを受けて当然だったのだ。どんなに優しかろうと、罪を犯して人を苦しませたのは事実なのだから。
「そう、貴方が一番理解しているはずよ……私はあの男から相応の仕打ちを受けてきた……だから私は幸せになるべき存在であり、あの男は死んで当然だってねぇっ!! なのに貴方は私から幸せを奪おうとしている!! それは万死に値する行為なのよ!!」
「俺だってさ、生まれてからずっと酷い目に遭ってきたんだ……望んで産んだ訳じゃないと言われ、間違った事は何も言ってないのに殴られ、妹と仲良くしただけで蹴られ……俺は何の為に生まれて、そして生きてるのかわからなくなっていたよ」
「何が言いたいの?」
「俺も相応の仕打ちを受けてる、シェリル……アンタの手によってな。だから俺だって我儘に幸せになる権利はある!」
「貴方の幸せなんて知らないわよ」
「じゃあ俺もアンタの幸せなんて知らねえっ!!」
俺は遂に、そう言い放った。
遠回しにシェリルはかつてのあの男と同じようになっているという皮肉を伝えようとしたのだが……残念ながら伝わらなかったようだ。いわば俺はかつてのシェリルであり、シェリルはかつてのあの男である。
「なっ!?」
「アンタの幸せなんて、俺は認めない……俺の妹は渡さないッ!!」
そう告げると、俺はシェリルに向けて指パッチンをする。すると俺の指先から丸い球のようなものが出てきて、シェリルの顔の近くまで寄ると花火のように爆発した。
「なっ、何っ!?」
「久遠行くぞ!!」
「う、うんっ……!」
こっそり習得していた炎属性魔術にシェリルが驚いている隙に、俺は久遠の手を引っ張って急いで家の外に出ていった。
外は雷が轟く大雨だった。そんな中、俺達は道もわからないのに、シェリルが簡単に見つけられないようなくらいの距離を空ける為にとにかく走った。走った。
——家出をしたこの日から、俺と久遠の物語が始まった。どんな絶望があっても、最期はハッピーエンドで終われると信じて運命と戦い続ける、長い長い……慟哭の物語が。
「うっ、うぅ……ふっ、ふふ……はははっ、うひゃははははははははははははははっ!!!」
「っ!?」
シェリルは狂ったように、突然笑い始めた。
「アイツ死んだんだって!! 当然の報いよねぇっ、一人の女を酷い目に遭わせたんだもの!! きっとこれは……心の赴くままに、運命の人と早く結ばれろっていう神様からのメッセージなのよ!!」
「は……?」
その時、外では雷鳴と共に雨が降り始めた。
俺はシェリルの言っている事が全く持って理解出来なかった。
どんなに嫌いな奴だったとしても、どうして人の死を喜べるのだろうか? どうして人の死を、自分の都合の良いように解釈して開き直れるのだろうか?
「はぁ……はぁ……こうしてちゃいられないわ、早く結婚の準備を進めないと……ほらフェリノート、そんな道具から離れて、こっちにいらっしゃい?」
シェリルはこちらに振り返って、目を見開いてニヤニヤと不気味な笑みを浮かべながら久遠に向けて手を差し伸べてきた。
俺は、もはや戦慄した。人の死を喜び、それを神からの恵みだと思い込んでいるような奴に誰がついていこうと思うんだろうか。どうなっているんだ、シェリルの思考回路は。
「っ……」
久遠は何も見えなくてもシェリルの狂気を肌で感じ取ったのか、怯えるように身体を震わせながら俺の背後に隠れた。
「大丈夫よ、こんな生活はもう終わり。これからは愛に満ちた幸せな日々が始まるのよ!! だから、ほら!!」
「くっ……」
シェリルは息を荒くして、見開いた目で久遠を見つめ、ニヤニヤと不気味に笑みを浮かべながらこちらに歩み寄ってくる。それに対し、俺達は少しずつ後退りをする。
「退きなさいシン……フェリノートを私に返して。その娘は私と彼の子供なのよぉっ!! 私と!! 彼の!! 愛の結晶!! 幸せの象徴なのぉっ!!」
シェリルは、久遠を例の運命の人と自分の子供だと強調して俺に怒声を浴びせる。
「っ……」
フェリノートは確かにシェリルの子供だ。今はこんなに狂っていても、シェリルだって例の運命の人と暮らす時はきっと良妻として立ち振る舞い、あの男の時とは違う、偽りの無い本当に幸せな日々を送れるだろう。
だが同時に、俺の妹であった久遠の生まれ変わりでもある。前世で守れなかった妹とせっかく運命的な再会を果たしたのだ、当然離れたくない。
「早く返しなさいシン……!! もう介護の役目は終わり……私達は幸せになるのよ……!」
シェリルはそう言って、久遠を俺から取り返そうと手を伸ばしてきた。
「……ふざけんな」
「はぁ?」
昔どこかで聞いたのだが、どうやら悪い事をしたらその報いをいつか受ける事になるらしい。逆に良い事をすれば、いつか幸運が自分の身に舞い降りるらしい。
「俺は一番シェリルの事を理解してる、良いところも悪いところも。あまり言いたくないけど、あの男が殺されたのも、当然の報いかもしれない」
確かにシェリルは酷い目に遭ってきた。それはこの世で俺が最も知っている。知らない内によくわからない人と結婚させられていて、いつの間にか子供まで孕っているなんて、自分の立場に置き換えて考えたら頭がおかしくなりそうだ。
そんな目に遭わせた元凶であるあの男は、裁きを受けて当然だったのだ。どんなに優しかろうと、罪を犯して人を苦しませたのは事実なのだから。
「そう、貴方が一番理解しているはずよ……私はあの男から相応の仕打ちを受けてきた……だから私は幸せになるべき存在であり、あの男は死んで当然だってねぇっ!! なのに貴方は私から幸せを奪おうとしている!! それは万死に値する行為なのよ!!」
「俺だってさ、生まれてからずっと酷い目に遭ってきたんだ……望んで産んだ訳じゃないと言われ、間違った事は何も言ってないのに殴られ、妹と仲良くしただけで蹴られ……俺は何の為に生まれて、そして生きてるのかわからなくなっていたよ」
「何が言いたいの?」
「俺も相応の仕打ちを受けてる、シェリル……アンタの手によってな。だから俺だって我儘に幸せになる権利はある!」
「貴方の幸せなんて知らないわよ」
「じゃあ俺もアンタの幸せなんて知らねえっ!!」
俺は遂に、そう言い放った。
遠回しにシェリルはかつてのあの男と同じようになっているという皮肉を伝えようとしたのだが……残念ながら伝わらなかったようだ。いわば俺はかつてのシェリルであり、シェリルはかつてのあの男である。
「なっ!?」
「アンタの幸せなんて、俺は認めない……俺の妹は渡さないッ!!」
そう告げると、俺はシェリルに向けて指パッチンをする。すると俺の指先から丸い球のようなものが出てきて、シェリルの顔の近くまで寄ると花火のように爆発した。
「なっ、何っ!?」
「久遠行くぞ!!」
「う、うんっ……!」
こっそり習得していた炎属性魔術にシェリルが驚いている隙に、俺は久遠の手を引っ張って急いで家の外に出ていった。
外は雷が轟く大雨だった。そんな中、俺達は道もわからないのに、シェリルが簡単に見つけられないようなくらいの距離を空ける為にとにかく走った。走った。
——家出をしたこの日から、俺と久遠の物語が始まった。どんな絶望があっても、最期はハッピーエンドで終われると信じて運命と戦い続ける、長い長い……慟哭の物語が。
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