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姦邪Ⅰ -家出編-
第10話 狂った愛の鎮魂歌
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「……あなた達、最近ずっと一緒ね。カップルみたいに手なんて繋いで」
ある夜、シェリルはいつ何時も手を繋いで一緒に居る俺達兄妹を見て、機嫌が悪そうな表情でそう言った。
「零……お兄ちゃんは目が見えない私の介護をしてくれてるの」
「ああ。普段家には俺しか居ないんだから、兄である俺がやるしかないだろ」
「ふーん……その割に、随分仲が良さそうなのだけれど?」
「兄妹なら仲良くたって……いや寧ろ、その方が良いだろ」
「……シン、ちょっと来なさい」
シェリルは低い声でそう告げた。途端、ズシンと重い何かが乗ってきたような感覚に襲われた。
なんとなく、シェリルが俺と久遠が兄妹として仲良くする事に対してあまり良く思っていない事は察していた。だがそれを理由に久遠を避けるのはごめんだ。
「ああ」
「えっ……ちょっと……」
「大丈夫、すぐ帰ってくるからさ」
「……うん」
久遠と会話を交わすと俺は覚悟を決め、言われるがままシェリルの背中を追った。そして、ある個室に案内された。
「それで、何だ」
「……兄妹? フェリノートがあなたの妹? あなたは一体何を言ってるのかしら」
「どういう意味だ」
「どうして私が未だ離婚せず、不倫状態を続けていると思う? あの男は資金のため、あなたは私が居ない間の妹の介護のため。その為だけに私はあんな男と婚約関係を続けているのよ。これがどんな意味を表すかわかる?」
「……知るか」
「さっきから何、その舐めた態度。腹が立つのよっ!!」
シェリルは怒りを露わにして言うと、無防備な俺を蹴り飛ばしてきた。されるがまま俺の身体は吹き飛ばされ、壁に背中を強打した。
「うぐっ……」
「要するに、私があの人と結婚した途端にあなた達はお役御免って事よッ!!」
そう言ってシェリルは、倒れてうずくまる俺に追い打ちをかけるように腹に蹴りを入れてきた。ヒールを履いているからか、つま先が刺さって痛い。
「あがっ……!」
「だからフェリノートと仲良くされると困るのよ……! 離れたくないって駄々捏ねられたら面倒だからさァッ!!」
「ぎっ……」
「貴方もあの男も、私にとっては都合の良い道具でしかないのよ……貴方に至っては私のお陰で生きていられるようなものなのだから、寧ろ道具として使って貰えている事に感謝しなさいッ!!」
そう言ってシェリルが俺の顔を思い切り踏みつけようと足を高く上げた、その時だった。
「ママ……何してるの?」
「っ!?」
扉の向こうから久遠の声が聞こえ、シェリルは慌てて足を下ろした。
「なんか……凄い音が聞こえたよ……?」
「あ、ううん何でもないの! 最近ストレスが溜まって、物に八つ当たりしてるだけだから……気にしなくていいわよ!」
「うん……そんなことより、玄関に男の人が居るの」
「えっ、嘘……わかったわ。すぐに行くから! ……ふん、命拾いしたわね」
倒れる俺に向かって吐き捨てるように言うと、シェリルは慌てて部屋を出て玄関へ向かっていった。
そして入れ替わるように、久遠が部屋の中に入ってきた。
「零にぃちゃんっ!! どこ……どこいるの……!」
「うっ……くぅ……ここだよ」
久遠は地面を這って手探りで俺を探そうとする。俺は立ち上がって、久遠の手をぎゅっと握った。
「あ……零にぃちゃん大丈夫……?」
「ああ……こうなる事はわかってたから」
「だから私の側に居てって言ったのにっ! あの人、私が居ない所で何するかわからないから……!」
久遠はぎゅっと俺を抱きしめて、そう告げた。
“側にいて”というあの言葉は……単にずっと一緒に居たいという意味だけでなく、そうする事でシェリルからの暴力から俺を守れるからだったのか。
「……ありがとな」
俺は嬉しくて笑みを浮かべながら、心の底からの感謝を告げる。
「えへへ……じゃあお礼に、頭撫でてーっ」
「……しょうがないな」
「んーっ……んふふ……いひひっ」
口ではそう言いながらも、内心嬉しかった。
俺は頭を優しく撫でると、久遠は嬉しそうだがちょっと気持ち悪い声を出した。久遠の髪は、シルクのようにしなやかでとても触り心地が良かった。
「えっ……!?」
二人の時間を堪能していると、向こうからシェリルの驚愕する声が響いてきた。
俺達はシェリルが居るであろう玄関の方へ忍び足で向かうと、玄関には何故か佇むシェリルとその向こうには鎧を纏った兵士のような者達が居た。
「……男の人が居るっての、咄嗟のでまかせじゃなかったのか」
「うん……男の人かどうかわからなかったけど、男って言えばあの人の気をそっちに向けられるかなって」
そんな小言を話していると、兵士のような者達は軽く一礼して玄関をゆっくりと閉めた。するとシェリルは力が抜けたようにその場に両膝をついた。
「……?」
「……あ……ああ……」
「何か、あったの……?」
久遠がシェリルに問う。
「——死んだ、って」
「え?」
「アイツが……シンの父親が死んだんだって。ひったくりを捕まえたら逆上されて、それで……うっ、うう……」
「……」
どうやら俺の中に流れる遺伝子の大元であるあの男が……亡くなったらしい。別に実は病気を患っていたという訳でも、日々の残業による過労で倒れた訳でもなく……誰かを助けた結果、殺されたのだ。
ある夜、シェリルはいつ何時も手を繋いで一緒に居る俺達兄妹を見て、機嫌が悪そうな表情でそう言った。
「零……お兄ちゃんは目が見えない私の介護をしてくれてるの」
「ああ。普段家には俺しか居ないんだから、兄である俺がやるしかないだろ」
「ふーん……その割に、随分仲が良さそうなのだけれど?」
「兄妹なら仲良くたって……いや寧ろ、その方が良いだろ」
「……シン、ちょっと来なさい」
シェリルは低い声でそう告げた。途端、ズシンと重い何かが乗ってきたような感覚に襲われた。
なんとなく、シェリルが俺と久遠が兄妹として仲良くする事に対してあまり良く思っていない事は察していた。だがそれを理由に久遠を避けるのはごめんだ。
「ああ」
「えっ……ちょっと……」
「大丈夫、すぐ帰ってくるからさ」
「……うん」
久遠と会話を交わすと俺は覚悟を決め、言われるがままシェリルの背中を追った。そして、ある個室に案内された。
「それで、何だ」
「……兄妹? フェリノートがあなたの妹? あなたは一体何を言ってるのかしら」
「どういう意味だ」
「どうして私が未だ離婚せず、不倫状態を続けていると思う? あの男は資金のため、あなたは私が居ない間の妹の介護のため。その為だけに私はあんな男と婚約関係を続けているのよ。これがどんな意味を表すかわかる?」
「……知るか」
「さっきから何、その舐めた態度。腹が立つのよっ!!」
シェリルは怒りを露わにして言うと、無防備な俺を蹴り飛ばしてきた。されるがまま俺の身体は吹き飛ばされ、壁に背中を強打した。
「うぐっ……」
「要するに、私があの人と結婚した途端にあなた達はお役御免って事よッ!!」
そう言ってシェリルは、倒れてうずくまる俺に追い打ちをかけるように腹に蹴りを入れてきた。ヒールを履いているからか、つま先が刺さって痛い。
「あがっ……!」
「だからフェリノートと仲良くされると困るのよ……! 離れたくないって駄々捏ねられたら面倒だからさァッ!!」
「ぎっ……」
「貴方もあの男も、私にとっては都合の良い道具でしかないのよ……貴方に至っては私のお陰で生きていられるようなものなのだから、寧ろ道具として使って貰えている事に感謝しなさいッ!!」
そう言ってシェリルが俺の顔を思い切り踏みつけようと足を高く上げた、その時だった。
「ママ……何してるの?」
「っ!?」
扉の向こうから久遠の声が聞こえ、シェリルは慌てて足を下ろした。
「なんか……凄い音が聞こえたよ……?」
「あ、ううん何でもないの! 最近ストレスが溜まって、物に八つ当たりしてるだけだから……気にしなくていいわよ!」
「うん……そんなことより、玄関に男の人が居るの」
「えっ、嘘……わかったわ。すぐに行くから! ……ふん、命拾いしたわね」
倒れる俺に向かって吐き捨てるように言うと、シェリルは慌てて部屋を出て玄関へ向かっていった。
そして入れ替わるように、久遠が部屋の中に入ってきた。
「零にぃちゃんっ!! どこ……どこいるの……!」
「うっ……くぅ……ここだよ」
久遠は地面を這って手探りで俺を探そうとする。俺は立ち上がって、久遠の手をぎゅっと握った。
「あ……零にぃちゃん大丈夫……?」
「ああ……こうなる事はわかってたから」
「だから私の側に居てって言ったのにっ! あの人、私が居ない所で何するかわからないから……!」
久遠はぎゅっと俺を抱きしめて、そう告げた。
“側にいて”というあの言葉は……単にずっと一緒に居たいという意味だけでなく、そうする事でシェリルからの暴力から俺を守れるからだったのか。
「……ありがとな」
俺は嬉しくて笑みを浮かべながら、心の底からの感謝を告げる。
「えへへ……じゃあお礼に、頭撫でてーっ」
「……しょうがないな」
「んーっ……んふふ……いひひっ」
口ではそう言いながらも、内心嬉しかった。
俺は頭を優しく撫でると、久遠は嬉しそうだがちょっと気持ち悪い声を出した。久遠の髪は、シルクのようにしなやかでとても触り心地が良かった。
「えっ……!?」
二人の時間を堪能していると、向こうからシェリルの驚愕する声が響いてきた。
俺達はシェリルが居るであろう玄関の方へ忍び足で向かうと、玄関には何故か佇むシェリルとその向こうには鎧を纏った兵士のような者達が居た。
「……男の人が居るっての、咄嗟のでまかせじゃなかったのか」
「うん……男の人かどうかわからなかったけど、男って言えばあの人の気をそっちに向けられるかなって」
そんな小言を話していると、兵士のような者達は軽く一礼して玄関をゆっくりと閉めた。するとシェリルは力が抜けたようにその場に両膝をついた。
「……?」
「……あ……ああ……」
「何か、あったの……?」
久遠がシェリルに問う。
「——死んだ、って」
「え?」
「アイツが……シンの父親が死んだんだって。ひったくりを捕まえたら逆上されて、それで……うっ、うう……」
「……」
どうやら俺の中に流れる遺伝子の大元であるあの男が……亡くなったらしい。別に実は病気を患っていたという訳でも、日々の残業による過労で倒れた訳でもなく……誰かを助けた結果、殺されたのだ。
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